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9 リリアの決意

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 懐かしい小さな頃の夢を見ていたリリアは、朝日のまぶしさで目を覚ましました。
 寝る前はなかったふわふわな毛布が掛かっています。きっと、オオカミさんが掛けてくれたのでしょう。
 焚き火の方を見ると、これまた昨夜はなかったカゴが置かれています。
 木の穴から出たリリアは、カゴの上に置かれた紙に気がつきました。
 二つに折られた紙を開くと、『森は危険だから、早く出たほうが良い。この毛布も返さなくていいから』と書かれていました。それから付け足したように小さな字で『良かったら食べて』とも。
 カゴのフタを開けて見ると、野菜とお肉の挟まった大きなサンドイッチが一つ入っていました。
「わぁ、美味しそう」
 リリアは、中の具が飛び出さないように、慎重にサンドイッチを取り出します。
「いただきます──美味しい!」
 木の実や果物でお腹を満たしていましたが、それだけでは、やはり足らなかったようです。お腹が空いていたので、あっという間に食べてしまいました。
 今まで食べた中で一番美味しいサンドイッチでした。
「オオカミさんのお手紙、名前書いてくれてなかったわ……本人に教えて欲しかったんだけどなぁ」
 実はリリアはオオカミさんの名前を知っていました。だけど、本人が教えてくれるまで「オオカミさん」と呼ぶ予定です。なので、名前を教えてくれなかったことに、残念な気持ちになりました。

 小さな頃、リリアを助けてくれたのが狼の獣人であることは、お父さんやお母さんの話で知ることができました。リリアは、もう一度オオカミさんに会いたい、会ってお礼を言いたいと思っていました。
 だけど、森の近くで遊ぶのも禁止になってしまったので、会うことができません。
 何年経っても、オオカミさんに会いたいという気持ちは色褪せることはありませんでした。
 オオカミさんのことを考えると、胸がドキドキするのです。
 これが、恋だと気がついたのは最近になってからのことでした。

 町で、オオカミさんと同じ耳と尻尾の獣人を見かけました。でも、リリアを助けてくれたオオカミさんよりも年上で、お父さんやお母さんと同じ年代に見えます。
 リリアは勇気をだして、その獣人に話しかけてみました。
 色々と話を聞くと、どうやらオオカミさんのお父さんだったようです。そして、オオカミさんの名前が「ディック」だと知りました。
 ディックが人間不振で森の奥深くで暮らしていることを聞いて、リリアは会いに行く決意をしました。
 お父さんやお母さんは、やっぱり森の中に行くことを反対しましたが、たくさん説得して、三日間だけという期限つきで許して貰えました。

 ディックは、リリアに早く森から出た方が良いと勧めていますが、あと一日残っています。
「オオカミさん、昨日と同じ場所にいるかしら? 今日は、直接お話できると良いな……」
 昨日も今日も、朝起きると優しさの痕跡だけ残して、ディックの姿はありませんでした。リリアは一回眠ると、なかなか起きないタイプなので、夜中にディックが近くで焚き火の番をしてくれていたことを知らないのです。
 昨日はディックを探しまわって、やっと眠っているディックを見つけました。声をかけようとしましたが、気持ち良さそうに眠っていたので、起こすのは可哀想だと思いました。それに、前日にとても驚かせてしまったみたいなので、また驚かせてしまったら悪いと思いました。
 なので、手紙を書いたのです。

 だけど、あと一日しか残りがないので、リリアは、ディックに会えたら、今日は声をかけようと心に決めました。
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