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本編
18 手紙
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「私は……」
ローズマリーに親の決めた婚約者だと思われていると、ヒューリックは思っていました。なので、小さな頃の約束を覚えてくれていたことや、お忍びで行ったお祭りで渡した指輪を今も大事にしてくれているとは思っていませんでした。実はローズマリーに好かれていたのだと分かり、ヒューリックはとても嬉しい気持ちになりました。
でも、やはり素直になれないため言葉に詰まります。
ローズマリーは顔を真っ赤にさせ、緊張した顔でヒューリックの返事を待っています。
なかなか返事をしない事が、ローズマリーを不安にさせているのは分かっているのですが、よい言葉が出てこないのです。
「ヒューリックさま、手紙は書けましたか?」
ティナリアの問いに、ハッとさっきまで書いていた手紙の存在をヒューリックは思い出しました。
「ああ、さっき書き終わったところだ」
書き終わって、変なところがないか読み返していたらローズマリーが来たので、慌てて本の下に隠したのです。
「ローズ、少しだけ待ってくれないか」
そう言ってヒューリックは、あわてて机に向かうと、本の下に隠した手紙を手に取りました。
「言葉では上手く伝えることが出来ないから……ローズへの想いを手紙にしたんだ。読んで欲しい」
そう言って、ヒューリックはローズマリーに手紙を渡しました。
『ローズマリーへ
いつも君に冷たい態度をとってしまい、すまないと思っている。本当は、君に優しくしたい。一緒に笑い合いたいって思っているんだけど、なかなか素直になれなくて……。
今日の舞踏会のこともだ。
小さな頃に約束したのを覚えてるかい? 「ローズが成人して初めての舞踏会では私がエスコートをしたい」って約束をしたよね。だから、本当は約束通りエスコートしたい。だけど君が溺れたと知らせをもらって、もしも体調が悪くなってしまったらと心配になったんだ。舞踏会はこれから先、何回でもある。無理して今日の舞踏会に君が参加して、もしものことがあったら、私はすごく後悔するよ。だから、エスコートしないって伝えたんだよ。
君のことが大切だから、休んで欲しかったんだ。
ローズのことが好きだ。
婚約者だからじゃなくて、一人の女の子として君のことを愛してる。
どうか、素直になれない私のことを嫌いにならないでくれ。 ヒューリック』
手紙は、何度も何度も書き直した跡がありました。
よく見れば、机の横にあるゴミ箱には、グシャグシャに丸められた紙が、こんもりと入っています。
「ヒューリックさま……っ」
ローズマリーはボロボロと涙を流しながら、ヒューリックの胸に飛び込みます。
「私こそごめんなさい。ヒューリックさまの気持ちに気がつかないで……意地をはって「ルイさんにエスコートして貰う」って言ってしまったの。本当はヒューリックさまにエスコートして貰いたい。今日の舞踏会のこと、本当に本当に楽しみにしていたから」
楽しみにしていたからこそ、エスコートを断られたことが悲しくて、ローズマリーはつい意地をはってしまったのです。
「私、本当に体は何ともないのです。だから、ヒューリックさまにエスコートをして貰いたいです。ダメですか?」
「ローズマリー……」
やはりローズマリーの体調を心配するヒューリックは、困った顔をしています。
「……あの、お医者さんに診てもらって問題なければ、舞踏会に参加しても良いのではないですか?」
このままでは、なかなか話が進まないと思ったルイが提案してみます。お城にはきっと優秀なお医者さんもいるはずです。そのお医者さんが良いと言えば、ヒューリックも納得してくれるでしょう。
「そうか、それが良い。ローズ、医者に診てもらって許可が出れば約束通りエスコートする。もし医者がダメだと言ったら、今日の舞踏会には私も参加しない。次の舞踏会で君をエスコートする。それじゃ、ダメかな」
ヒューリックの提案に、ローズマリーは「分かりましたわ」と頷きました。
ローズマリーに親の決めた婚約者だと思われていると、ヒューリックは思っていました。なので、小さな頃の約束を覚えてくれていたことや、お忍びで行ったお祭りで渡した指輪を今も大事にしてくれているとは思っていませんでした。実はローズマリーに好かれていたのだと分かり、ヒューリックはとても嬉しい気持ちになりました。
でも、やはり素直になれないため言葉に詰まります。
ローズマリーは顔を真っ赤にさせ、緊張した顔でヒューリックの返事を待っています。
なかなか返事をしない事が、ローズマリーを不安にさせているのは分かっているのですが、よい言葉が出てこないのです。
「ヒューリックさま、手紙は書けましたか?」
ティナリアの問いに、ハッとさっきまで書いていた手紙の存在をヒューリックは思い出しました。
「ああ、さっき書き終わったところだ」
書き終わって、変なところがないか読み返していたらローズマリーが来たので、慌てて本の下に隠したのです。
「ローズ、少しだけ待ってくれないか」
そう言ってヒューリックは、あわてて机に向かうと、本の下に隠した手紙を手に取りました。
「言葉では上手く伝えることが出来ないから……ローズへの想いを手紙にしたんだ。読んで欲しい」
そう言って、ヒューリックはローズマリーに手紙を渡しました。
『ローズマリーへ
いつも君に冷たい態度をとってしまい、すまないと思っている。本当は、君に優しくしたい。一緒に笑い合いたいって思っているんだけど、なかなか素直になれなくて……。
今日の舞踏会のこともだ。
小さな頃に約束したのを覚えてるかい? 「ローズが成人して初めての舞踏会では私がエスコートをしたい」って約束をしたよね。だから、本当は約束通りエスコートしたい。だけど君が溺れたと知らせをもらって、もしも体調が悪くなってしまったらと心配になったんだ。舞踏会はこれから先、何回でもある。無理して今日の舞踏会に君が参加して、もしものことがあったら、私はすごく後悔するよ。だから、エスコートしないって伝えたんだよ。
君のことが大切だから、休んで欲しかったんだ。
ローズのことが好きだ。
婚約者だからじゃなくて、一人の女の子として君のことを愛してる。
どうか、素直になれない私のことを嫌いにならないでくれ。 ヒューリック』
手紙は、何度も何度も書き直した跡がありました。
よく見れば、机の横にあるゴミ箱には、グシャグシャに丸められた紙が、こんもりと入っています。
「ヒューリックさま……っ」
ローズマリーはボロボロと涙を流しながら、ヒューリックの胸に飛び込みます。
「私こそごめんなさい。ヒューリックさまの気持ちに気がつかないで……意地をはって「ルイさんにエスコートして貰う」って言ってしまったの。本当はヒューリックさまにエスコートして貰いたい。今日の舞踏会のこと、本当に本当に楽しみにしていたから」
楽しみにしていたからこそ、エスコートを断られたことが悲しくて、ローズマリーはつい意地をはってしまったのです。
「私、本当に体は何ともないのです。だから、ヒューリックさまにエスコートをして貰いたいです。ダメですか?」
「ローズマリー……」
やはりローズマリーの体調を心配するヒューリックは、困った顔をしています。
「……あの、お医者さんに診てもらって問題なければ、舞踏会に参加しても良いのではないですか?」
このままでは、なかなか話が進まないと思ったルイが提案してみます。お城にはきっと優秀なお医者さんもいるはずです。そのお医者さんが良いと言えば、ヒューリックも納得してくれるでしょう。
「そうか、それが良い。ローズ、医者に診てもらって許可が出れば約束通りエスコートする。もし医者がダメだと言ったら、今日の舞踏会には私も参加しない。次の舞踏会で君をエスコートする。それじゃ、ダメかな」
ヒューリックの提案に、ローズマリーは「分かりましたわ」と頷きました。
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