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本編
17 落とし物
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本当はヒューリックにエスコートされたかったローズマリーですが、「ルイさんにエスコートして貰う!!」と宣言して出てきた手前、今さら後には引けなくなっていました。
そんなローズマリーにルイは話しかけます。
「ちょっと用事を思い出したので出てきます。舞踏会までには戻って来るので……ヒューリックさまと、もう一度きちんと話をしてみてくださいますか?」
さっきのローズマリーは、ヒューリックに対して感情的になっていたので、落ち着いて話をしてほしいと思ったのです。きちんとローズマリーの気持ちを伝えれば、どうして舞踏会でヒューリックにエスコートして貰いたかったのか伝わるはずです。
「分かりましたわ。舞踏会の前にもう一度ヒューリックさまと話をしてみます。今行くと、また感情的になってしまいそうだから……もし、それでもエスコートを断られたら、ルイさんにエスコートして貰っても良いですか?」
ルイは「分かりました」と答えました。
本当は婚約者がエスコートしないのなら、これまでのようにローズマリーの親や兄弟がエスコートをするのが正解でしょう。むしろルイがエスコートすることで、色々と問題が発生する可能性が大きいと思います。だけど、ルイが承諾したのには理由がありました。
(きちんとヒューリックさまと話をして、気持ちを伝えればエスコートは断られないって思う。それに、ローズマリーさんが落としたものを見つけられれば……)
そう、ルイはこれからローズマリーが落としたものを探しに行こうとしていたのです。
*****
時間は過ぎ、舞踏会の開始まであと少しとなりました。
ローズマリーはルイとの約束通り、ヒューリックの部屋を訪れました。
ヒューリックは机に向かって何かを書いているようでしたが、ローズマリーが訪れたのが分かると、サッと本の下に紙を隠してしまいました。
「ローズ。どうしたんだ。屋敷に戻らなかったのか」
やはりヒューリックの声は冷たく、ローズマリーは悲しくなりました。
「あの……ヒューリックさまと少しお話がしたくて、来たのです」
それでも、自分の気持ちをきちんと伝えるとルイと約束をしました。ローズマリーだってヒューリックにエスコートをして貰いたいし、ダンスも一緒に踊りたいのです。
「わかった。入って」
ヒューリックはローズマリーの真剣な顔と声に圧倒されたのか、椅子から立ち上がると応接用のソファに腰かけるように勧めました。
その時タイミング悪く、キレイなドレスを着たティナリアが部屋を訪れました。
ティナリアはヒューリックが書くローズマリーへの手紙の進み具合を聞きに来ただけなのですが、ローズマリーは勘違いしてしまったようです。
「もしかして……ティナリアさんをエスコートするのですか?」
ローズマリーは震える声でヒューリックに尋ねました。
「え? ──違うっ」
勘違いに焦ったヒューリックは慌てて否定しますが、ローズマリーは聞こえていないみたいで、ポロポロと涙をこぼします。
「やっぱりヒューリックさまは、わたしとの約束なんて覚えていないのですわね」
ローズマリーは小さく呟くと、部屋から出ていこうとしました。
「待ってローズマリーさん。ヒューリックさまときちんと話をするって言いましたよね」
ローズマリーを止めたのは、ちょうど戻ってきたルイでした。
「ルイさん……」
「ローズマリーさんが海で落とした物は、これですか?」
ルイが差し出した手のひらには、小さなオモチャの指輪がありました。
「これは……小さな頃にお祭りでローズにあげた指輪?」
声を発したのはヒューリックでした。
「そう、です。でも、どうしてルイさんがこれを?」
ローズマリーは指輪を受け取ると、大事そうに両手で包み込みました。
この指輪は数日前、少し目を離した隙に光り物が大好きな小鳥に持っていかれたのです。ローズマリーは、必死に追いかけましたが、小鳥は咥えていた指輪を海に落としてしまいました。
溺れたことのあるローズマリーは海に近づけず、仕方なく屋敷に戻りましたが、どうしてもヒューリックとの思い出の指輪を諦めきれませんでした。怖い心と戦いながら海に近付いてーー波に拐われてしまったのです。
「大切な物を落としたと思ったので、探してきました」
過去の恐怖に勝つほど、ローズマリーはヒューリックとの思い出を大切にしています。それはつまり、ヒューリックの事が大好きだと言うことです。その想いをきちんとヒューリックに伝えるべきだと、ルイの目は言っていました。
「ありがとうございます、ルイさん」
ルイの視線に後押しされたように、ローズマリーはヒューリックに向き合います。
「ヒューリックさま……初めてお会いしたときから、あなたのことが好きです。一緒に過ごすうちに、もっともっと大好きになっていきました。だから、成人して初めての舞踏会は……今日は、ヒューリックさまにエスコートして貰いたいのです。どうしてもダメですか?」
もしこれで断られたらと思うと、緊張でドキドキしながら、ローズマリーはヒューリックへ自分の気持ちを伝えました。
そんなローズマリーにルイは話しかけます。
「ちょっと用事を思い出したので出てきます。舞踏会までには戻って来るので……ヒューリックさまと、もう一度きちんと話をしてみてくださいますか?」
さっきのローズマリーは、ヒューリックに対して感情的になっていたので、落ち着いて話をしてほしいと思ったのです。きちんとローズマリーの気持ちを伝えれば、どうして舞踏会でヒューリックにエスコートして貰いたかったのか伝わるはずです。
「分かりましたわ。舞踏会の前にもう一度ヒューリックさまと話をしてみます。今行くと、また感情的になってしまいそうだから……もし、それでもエスコートを断られたら、ルイさんにエスコートして貰っても良いですか?」
ルイは「分かりました」と答えました。
本当は婚約者がエスコートしないのなら、これまでのようにローズマリーの親や兄弟がエスコートをするのが正解でしょう。むしろルイがエスコートすることで、色々と問題が発生する可能性が大きいと思います。だけど、ルイが承諾したのには理由がありました。
(きちんとヒューリックさまと話をして、気持ちを伝えればエスコートは断られないって思う。それに、ローズマリーさんが落としたものを見つけられれば……)
そう、ルイはこれからローズマリーが落としたものを探しに行こうとしていたのです。
*****
時間は過ぎ、舞踏会の開始まであと少しとなりました。
ローズマリーはルイとの約束通り、ヒューリックの部屋を訪れました。
ヒューリックは机に向かって何かを書いているようでしたが、ローズマリーが訪れたのが分かると、サッと本の下に紙を隠してしまいました。
「ローズ。どうしたんだ。屋敷に戻らなかったのか」
やはりヒューリックの声は冷たく、ローズマリーは悲しくなりました。
「あの……ヒューリックさまと少しお話がしたくて、来たのです」
それでも、自分の気持ちをきちんと伝えるとルイと約束をしました。ローズマリーだってヒューリックにエスコートをして貰いたいし、ダンスも一緒に踊りたいのです。
「わかった。入って」
ヒューリックはローズマリーの真剣な顔と声に圧倒されたのか、椅子から立ち上がると応接用のソファに腰かけるように勧めました。
その時タイミング悪く、キレイなドレスを着たティナリアが部屋を訪れました。
ティナリアはヒューリックが書くローズマリーへの手紙の進み具合を聞きに来ただけなのですが、ローズマリーは勘違いしてしまったようです。
「もしかして……ティナリアさんをエスコートするのですか?」
ローズマリーは震える声でヒューリックに尋ねました。
「え? ──違うっ」
勘違いに焦ったヒューリックは慌てて否定しますが、ローズマリーは聞こえていないみたいで、ポロポロと涙をこぼします。
「やっぱりヒューリックさまは、わたしとの約束なんて覚えていないのですわね」
ローズマリーは小さく呟くと、部屋から出ていこうとしました。
「待ってローズマリーさん。ヒューリックさまときちんと話をするって言いましたよね」
ローズマリーを止めたのは、ちょうど戻ってきたルイでした。
「ルイさん……」
「ローズマリーさんが海で落とした物は、これですか?」
ルイが差し出した手のひらには、小さなオモチャの指輪がありました。
「これは……小さな頃にお祭りでローズにあげた指輪?」
声を発したのはヒューリックでした。
「そう、です。でも、どうしてルイさんがこれを?」
ローズマリーは指輪を受け取ると、大事そうに両手で包み込みました。
この指輪は数日前、少し目を離した隙に光り物が大好きな小鳥に持っていかれたのです。ローズマリーは、必死に追いかけましたが、小鳥は咥えていた指輪を海に落としてしまいました。
溺れたことのあるローズマリーは海に近づけず、仕方なく屋敷に戻りましたが、どうしてもヒューリックとの思い出の指輪を諦めきれませんでした。怖い心と戦いながら海に近付いてーー波に拐われてしまったのです。
「大切な物を落としたと思ったので、探してきました」
過去の恐怖に勝つほど、ローズマリーはヒューリックとの思い出を大切にしています。それはつまり、ヒューリックの事が大好きだと言うことです。その想いをきちんとヒューリックに伝えるべきだと、ルイの目は言っていました。
「ありがとうございます、ルイさん」
ルイの視線に後押しされたように、ローズマリーはヒューリックに向き合います。
「ヒューリックさま……初めてお会いしたときから、あなたのことが好きです。一緒に過ごすうちに、もっともっと大好きになっていきました。だから、成人して初めての舞踏会は……今日は、ヒューリックさまにエスコートして貰いたいのです。どうしてもダメですか?」
もしこれで断られたらと思うと、緊張でドキドキしながら、ローズマリーはヒューリックへ自分の気持ちを伝えました。
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