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本編
16 素直になれない
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一方のティナリアは、ヒューリックと一緒にいました。
ルイがローズマリーに引っ張られて行ったときに、追いかけようか迷いましたが、ヒューリックのローズマリーに対する態度が気になったのです。
「あの、ヒューリックさまは、どうしてローズマリーさんに冷たい言い方をするの?……ですか?」
やはり敬語は慣れなくて、ヒューリックに「ルイくんと話す時と同じような話し方で大丈夫だよ」と言われました。
ここでルイでしたら、頑張って敬語で話したでしょうが、ティナリアはヒューリックの言葉に甘えることにしました。敬語を気にしていては、話が進まないと思ったのです。
「ヒューリックさまはローズマリーさんのことを心配しているみたいに見えたけど、本人に冷たいのはどうして?」
やはり普段通りの言葉の方が、伝えたいことをそのまま伝えられます。
「やっぱり、冷たいように見えたか……はあっ」
ティナリアの言葉にヒューリックは、両手で顔を覆うと重たいため息を吐きました。
「冷たくしたいわけじゃないんだけどな」
弱々しいヒューリックの呟きに、ティナリアは首を傾げます。
「優しくしたいってことですか?」
「そうだよ。私は彼女のことが好きなんだ」
親同士の決めた婚約だったけれど、ローズマリーの明るくて少し意地っ張りなところがヒューリックは好きだった。
「じゃあ、優しくしたらいいのに」
ティナリアの至極まっとうな言葉に、ヒューリックは「そうなんだけど」と口ごもります。
「どうしてもローズを前にすると、素直になれなくって、気持ちとは逆にツンツンした冷たい態度と言葉になっちゃうんだよ」
感情のままに言葉にするティナリアにはその気持ちは全く分からないのですが、複雑な男心というものでしょうか。
「今日はローズが成人して初めての舞踏会だから、私だってエスコートしたかったよ。昔、彼女と約束したんだ。だけど、溺れたって聞いてさ、体調を崩したら大変じゃないか。だからエスコートしないって言ったんだ」
ヒューリックはローズマリーと小さな頃に交わした約束を忘れてはいませんでした。だけど、エスコートよりもローズマリーの体調を気遣っての言葉だったのです。
「なのに、ローズはルイくんにエスコートして貰うって出ていっちゃうし……きっとローズは昔の約束なんて覚えてないんだろうね。私以外にエスコートして貰うなんて」
ここにルイが居れば「それは違う」と訂正できたでしょうが、ここにルイはいません。ヒューリックとローズマリーの心は盛大にすれ違っていました。
「ルイくんは大人しそうだけど、しっかりしてて頼りがいがありそうな男の子だし……」
ヒューリックは床にしゃがみこみ、イジイジとネガティブモードになっています。
「そうでしょ、ルイはとっても優しいし、かっこいいんだよ。いつも私のやりたい事に嫌そうにしながらでも、絶対付き合ってくれるんだ」
ルイが誉められティナリアは、ぱあっと嬉しそうな笑顔で何度も頷きます。
「君、私を慰める気ある?」
ヒューリックが悲しげにティナリアを見上げます。
「はぁっ、君くらい素直な言葉で話せたら良いのにな」
ヒューリックは再び重たいため息を吐きました。
「素直な言葉かぁ……別に言葉にしなくても良いんじゃないの?」
「言葉にしなくて良い?」
ヒューリックは不思議そうに首を傾げます。では、どうやって素直な気持ちを伝えればいいんだ? という顔です。
「思っていることを、そのまま紙に書いたら良いんじゃないかな?」
「手紙を書くってこと?」
「そう、手紙!」
言葉で伝えられないなら文字にすれば良いのです。
小さな頃に『人魚姫の物語』を読んで、声がでないなら人間の文字を覚えれば良いんじゃないの?と考えた思考を当てはめて、ティナリアはヒューリックに言いました。
ルイがローズマリーに引っ張られて行ったときに、追いかけようか迷いましたが、ヒューリックのローズマリーに対する態度が気になったのです。
「あの、ヒューリックさまは、どうしてローズマリーさんに冷たい言い方をするの?……ですか?」
やはり敬語は慣れなくて、ヒューリックに「ルイくんと話す時と同じような話し方で大丈夫だよ」と言われました。
ここでルイでしたら、頑張って敬語で話したでしょうが、ティナリアはヒューリックの言葉に甘えることにしました。敬語を気にしていては、話が進まないと思ったのです。
「ヒューリックさまはローズマリーさんのことを心配しているみたいに見えたけど、本人に冷たいのはどうして?」
やはり普段通りの言葉の方が、伝えたいことをそのまま伝えられます。
「やっぱり、冷たいように見えたか……はあっ」
ティナリアの言葉にヒューリックは、両手で顔を覆うと重たいため息を吐きました。
「冷たくしたいわけじゃないんだけどな」
弱々しいヒューリックの呟きに、ティナリアは首を傾げます。
「優しくしたいってことですか?」
「そうだよ。私は彼女のことが好きなんだ」
親同士の決めた婚約だったけれど、ローズマリーの明るくて少し意地っ張りなところがヒューリックは好きだった。
「じゃあ、優しくしたらいいのに」
ティナリアの至極まっとうな言葉に、ヒューリックは「そうなんだけど」と口ごもります。
「どうしてもローズを前にすると、素直になれなくって、気持ちとは逆にツンツンした冷たい態度と言葉になっちゃうんだよ」
感情のままに言葉にするティナリアにはその気持ちは全く分からないのですが、複雑な男心というものでしょうか。
「今日はローズが成人して初めての舞踏会だから、私だってエスコートしたかったよ。昔、彼女と約束したんだ。だけど、溺れたって聞いてさ、体調を崩したら大変じゃないか。だからエスコートしないって言ったんだ」
ヒューリックはローズマリーと小さな頃に交わした約束を忘れてはいませんでした。だけど、エスコートよりもローズマリーの体調を気遣っての言葉だったのです。
「なのに、ローズはルイくんにエスコートして貰うって出ていっちゃうし……きっとローズは昔の約束なんて覚えてないんだろうね。私以外にエスコートして貰うなんて」
ここにルイが居れば「それは違う」と訂正できたでしょうが、ここにルイはいません。ヒューリックとローズマリーの心は盛大にすれ違っていました。
「ルイくんは大人しそうだけど、しっかりしてて頼りがいがありそうな男の子だし……」
ヒューリックは床にしゃがみこみ、イジイジとネガティブモードになっています。
「そうでしょ、ルイはとっても優しいし、かっこいいんだよ。いつも私のやりたい事に嫌そうにしながらでも、絶対付き合ってくれるんだ」
ルイが誉められティナリアは、ぱあっと嬉しそうな笑顔で何度も頷きます。
「君、私を慰める気ある?」
ヒューリックが悲しげにティナリアを見上げます。
「はぁっ、君くらい素直な言葉で話せたら良いのにな」
ヒューリックは再び重たいため息を吐きました。
「素直な言葉かぁ……別に言葉にしなくても良いんじゃないの?」
「言葉にしなくて良い?」
ヒューリックは不思議そうに首を傾げます。では、どうやって素直な気持ちを伝えればいいんだ? という顔です。
「思っていることを、そのまま紙に書いたら良いんじゃないかな?」
「手紙を書くってこと?」
「そう、手紙!」
言葉で伝えられないなら文字にすれば良いのです。
小さな頃に『人魚姫の物語』を読んで、声がでないなら人間の文字を覚えれば良いんじゃないの?と考えた思考を当てはめて、ティナリアはヒューリックに言いました。
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