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本編
06 約束
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ジェイスの提案した「家族で食事」をすることで、ルイシャは前にも増して積極的に好き嫌いなく食事をするようになり、食べられる量も増えていった。
また、これまでは自室に食事が運ばれて来ることで朝か夜か知る単調な生活だったが、今は毎朝ジェイスが迎えに来てくれる時間に間に合うように起き、身支度をして待つという規則正しい生活を送るようになった。
この世界では、具合が悪いときはひたすら安静にして過ごすと良いと考えられている。確かに安静と睡眠は体力回復に欠かせないものだが、全く動かないでいると筋力が落ちて動けなくなってしまう。体力が回復してきたのなら、今度はリハビリが必要なのだ。
毎朝ルイシャが食事を一緒に摂ろうと頑張っている姿を、両親は喜びとともに心配もしていた。「無理はしなくていい」「体の具合は大丈夫?」と、一回の食事で何度も確認された。今では、会うたびに血色の良くなっていくルイシャに安心し、この時間がルイシャにとっても良い結果になっていると心から喜んでくれている。
提案したジェイスも内心はとても心配していたと侍女がこっそり教えてくれた。
規則正しい生活を送ることで、確実に体力も付いてきていると自分でも自覚できた。少し前まではベッドから起き上がれなかったのが嘘のようだった。
(まだ移動は車椅子じゃないと疲れちゃうけど……)
部屋の中だけでなく、外も自分の足で歩けるようになるのがルイシャの目標になった。
最近はカインも時間を見つけてはルイシャに会いに来てくれている。学園の忙しい期間は終わったようだ。
先日、久しぶりに会った時──毎日顔を合わせる家族とは違い、カインにはルイシャの変化は劇的だったようで、とても驚いていた。
感激して「ルイシャが歩いてる!」と、ルイシャを抱きしめ、それをジェイスが引き離すといった一幕もあった。
カインに手を握られた事はあったが、抱きしめられたのは初めてだったルイシャは、驚きと気恥ずかしさで顔を真っ赤にさせてしまった。
我に返ったカインも、ルイシャと同様に耳まで真っ赤になっていて、お互い顔を見合わせて笑った(ジェイスは呆れたように二人を見ていた)。
そして今日は、以前カインと交わした“暖かくなったら一緒に庭を散歩する”という約束をついに実現させた。
「風が気持ち良いですね。お花もキレイ」
ポカポカと穏やかな日差しの中、カインが押す車椅子に乗り、色とりどりの花が咲く庭園を眺める。いつも屋敷の中から見る景色とは違い、外の世界を直に感じ胸が高鳴る。
前世では当たり前に感じていた外の世界は、ルイシャにとっては未知の世界だった。暖かな春の陽射しも、ふわりと髪の毛を揺らす心地よい風も、草花や虫たちも、こんなにも生命力を感じる。
(私も、生きているんだ……)
自分もこの世界に生きているという実感とともに涙が溢れてきた。
「どうしたの? どこか具合が悪い?」
ルイシャの頬を流れる涙に気が付いたカインが、心配そうに尋ねる。ルイシャの前に回り、目線に合わせるように腰を折ると、そっと手を握ってくれる。
「いえ、具合が悪いわけじゃなくて……私もここで生きているんだなぁって思ったら、涙が出てきちゃって」
カインが安堵したように表情を和らげた。
「ああ、君は生きている。“生きたい“、”健康になりたい”ってルイシャが頑張ってくれたから、今こうして一緒に過ごすことが出来てる」
ルイシャの頬を濡らす涙を、カインの指先が優しく拭う。
「この前約束したよね。僕は、まだ君が見たことのない世界をもっと見せてあげたいんだ」
そう告げたカインの瞳は、ルイシャに対する愛情で溢れていた。
(カイン様って、こんな風に私の事を見ていたかしら?)
カインのルイシャに対する愛情は、ジェイスと同じような、妹に対するものに近いと感じていた。しかし、今カインから向けられている熱の籠った瞳は、これまでとは違っていた。ルイシャを一人の女の子として見てくれているのだと分かり、とても嬉しい気持ちになる。
「わ、私もカイン様と沢山色々な世界を見てみたいです」
また庭園の散歩もしたい。
ピクニックにも行ってみたい。
街に出て買い物もしてみたい。
(もっと、カイン様と一緒に過ごしたい)
ルイシャは、カインの手をきゅっと握り返し微笑んだ。
また、これまでは自室に食事が運ばれて来ることで朝か夜か知る単調な生活だったが、今は毎朝ジェイスが迎えに来てくれる時間に間に合うように起き、身支度をして待つという規則正しい生活を送るようになった。
この世界では、具合が悪いときはひたすら安静にして過ごすと良いと考えられている。確かに安静と睡眠は体力回復に欠かせないものだが、全く動かないでいると筋力が落ちて動けなくなってしまう。体力が回復してきたのなら、今度はリハビリが必要なのだ。
毎朝ルイシャが食事を一緒に摂ろうと頑張っている姿を、両親は喜びとともに心配もしていた。「無理はしなくていい」「体の具合は大丈夫?」と、一回の食事で何度も確認された。今では、会うたびに血色の良くなっていくルイシャに安心し、この時間がルイシャにとっても良い結果になっていると心から喜んでくれている。
提案したジェイスも内心はとても心配していたと侍女がこっそり教えてくれた。
規則正しい生活を送ることで、確実に体力も付いてきていると自分でも自覚できた。少し前まではベッドから起き上がれなかったのが嘘のようだった。
(まだ移動は車椅子じゃないと疲れちゃうけど……)
部屋の中だけでなく、外も自分の足で歩けるようになるのがルイシャの目標になった。
最近はカインも時間を見つけてはルイシャに会いに来てくれている。学園の忙しい期間は終わったようだ。
先日、久しぶりに会った時──毎日顔を合わせる家族とは違い、カインにはルイシャの変化は劇的だったようで、とても驚いていた。
感激して「ルイシャが歩いてる!」と、ルイシャを抱きしめ、それをジェイスが引き離すといった一幕もあった。
カインに手を握られた事はあったが、抱きしめられたのは初めてだったルイシャは、驚きと気恥ずかしさで顔を真っ赤にさせてしまった。
我に返ったカインも、ルイシャと同様に耳まで真っ赤になっていて、お互い顔を見合わせて笑った(ジェイスは呆れたように二人を見ていた)。
そして今日は、以前カインと交わした“暖かくなったら一緒に庭を散歩する”という約束をついに実現させた。
「風が気持ち良いですね。お花もキレイ」
ポカポカと穏やかな日差しの中、カインが押す車椅子に乗り、色とりどりの花が咲く庭園を眺める。いつも屋敷の中から見る景色とは違い、外の世界を直に感じ胸が高鳴る。
前世では当たり前に感じていた外の世界は、ルイシャにとっては未知の世界だった。暖かな春の陽射しも、ふわりと髪の毛を揺らす心地よい風も、草花や虫たちも、こんなにも生命力を感じる。
(私も、生きているんだ……)
自分もこの世界に生きているという実感とともに涙が溢れてきた。
「どうしたの? どこか具合が悪い?」
ルイシャの頬を流れる涙に気が付いたカインが、心配そうに尋ねる。ルイシャの前に回り、目線に合わせるように腰を折ると、そっと手を握ってくれる。
「いえ、具合が悪いわけじゃなくて……私もここで生きているんだなぁって思ったら、涙が出てきちゃって」
カインが安堵したように表情を和らげた。
「ああ、君は生きている。“生きたい“、”健康になりたい”ってルイシャが頑張ってくれたから、今こうして一緒に過ごすことが出来てる」
ルイシャの頬を濡らす涙を、カインの指先が優しく拭う。
「この前約束したよね。僕は、まだ君が見たことのない世界をもっと見せてあげたいんだ」
そう告げたカインの瞳は、ルイシャに対する愛情で溢れていた。
(カイン様って、こんな風に私の事を見ていたかしら?)
カインのルイシャに対する愛情は、ジェイスと同じような、妹に対するものに近いと感じていた。しかし、今カインから向けられている熱の籠った瞳は、これまでとは違っていた。ルイシャを一人の女の子として見てくれているのだと分かり、とても嬉しい気持ちになる。
「わ、私もカイン様と沢山色々な世界を見てみたいです」
また庭園の散歩もしたい。
ピクニックにも行ってみたい。
街に出て買い物もしてみたい。
(もっと、カイン様と一緒に過ごしたい)
ルイシャは、カインの手をきゅっと握り返し微笑んだ。
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