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本編
01 食事の試練
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次にルイシャが目を覚ましたのは二日後だった。熱は下がったが、元々の体力がないため起き上がることも、人の手を借りないと出来ないくらいに弱っていた。
体が鉛のように重く、少し動いただけでクラクラと眩暈はするし、ドキドキと嫌な動悸もする。
(確かにこのままじゃ、近い将来死んでしまうのも納得できるわ……)
ゲームのルイシャがどんな風に亡くなったのかは、ヒロインとルイシャの婚約者との会話で少しだけ触れられていた。確か、風邪を拗らせてと話していたはずだ。おそらく肺炎にでもなったのだろう。
いや、肺炎までならなくてもルイシャの体力だったら死んでいるかもしれないと本気で思った。
(数年後と言わずに、今でも死んでしまいそうだもの)
「お嬢様、食事をお持ちしましたが、食べられそうですか?」
医師の診察を受けたあと、侍女が食事の乗ったカートを持って来て尋ねる。
「……食べるわ」
食欲はない。
しかし、食べなければ体力が付かない。重怠い体を侍女に支えて貰いながら、起き上がる。ベッドから降りる気力はないため、いつも通りこのまま食事を摂ることにした。
「……」
目の前に置かれたのは野菜ベースのスープとオレンジジュース。
スプーンでスープを一口掬い口へ運ぶ。野菜嫌いのルイシャはいつも一口食べ、それ以上は食べなかった。野菜だけではない。肉も魚も苦手だった。この野菜スープも料理長が何とかルイシャに食べて貰おうと野菜を磨り潰し、クリームソースで味を整えてくれているから、ほんの少量でも食べれている。
しかし、もう一度言おう。
食べなければ体力が付かない。
(これは、死なないために必要な食事よ)
そう思いながら、出されたスープを無理矢理食べた。
何度か吐き出しそうになりながらも、ゆっくりと時間をかけて、スープを完食した。カチャンッと小さな音を立ててスプーンを皿に置き、侍女の方を見る。
完食したのは、ルイシャが覚えている限り初めてだった。
「お、お嬢様が、スープを全部お食べに……」
側で控えていた侍女が嬉しそうに、瞳を潤ませている。
「これからは、頑張って食べるわ。だって元気になりたいもの」
ルイシャがこのような前向きな発言をすることはなかったため、侍女が「ルイシャ様っ」と感動に打ち震えるような声と表情で力強く頷いている。
「では、こちらの薬湯も……」
オレンジジュースを手に取る前に、侍女がカートの上から液体の入った小さな器を持ってきた。淀んだ水の中に生える苔を煮詰めたような、なんとも形容しがたい色をしたドロドロの薬湯の登場だ。
(うっ)
ルイシャは、この薬湯が本当に苦手だった。いつも飲みたくないと駄々をこね、侍女との押し問答の結果、渋々口にするが吐き出してしまっていた。それも、舌先で少し舐める程度の量だ。
(これもちゃんと飲まないと……ダメ……よね?)
見た目も去ることながら、臭いもなかなかのものだ。健康になるために、飲まなければいけないのは分かる。死なないために必要なものだ。しかし、見た目と臭いがその意思を尻込みさせてしまった。
「お嬢様」
スープを完食したルイシャへ、期待するような視線が侍女から送られてくる。
「の……飲む……わ」
ルイシャは意を決して薬湯の入った器を手に取った。
(一気に……一気に飲むのよルイシャ。そんなに量は多くないわ。飲んだらすぐにジュースを飲めば、大丈夫……大丈夫よね?)
しばらく薬湯と持ったまま、飲みたくない意思と格闘していたが、ルイシャは侍女が見守るなか、器に口を付け──一気に飲み干した。
「──うっ。ジュースを……」
ドロドロとした気持ちが悪い喉ごしと、鼻をつく激臭により吐き気を催すが、なんとか我慢する。ここで吐いたら、せっかく頑張って食べたスープと薬湯が無意味になってしまう。
侍女に渡されたジュースを飲んでも、気持ち悪さは残ったが、幾分マシになった。
「ああ、お嬢様が薬湯も全部お飲みになるなんて……」
またしても侍女に感動されたルイシャは、食事を摂るだけで、一日分の体力を消耗したように疲れ果てていた。
ぐったりとフカフカのベッドに身を沈めて瞼を閉じた。
(これを三食……続けられるかしら……いいえ、続けなければ、いけないのよ! それに、お肉もお魚も食べられるようにならないと……)
生き残るためには、自分が努力しないといけないのだ。
薬湯の効果か、体の内側からポカポカと温かくなってきたルイシャは、そのまま眠ってしまった。
体が鉛のように重く、少し動いただけでクラクラと眩暈はするし、ドキドキと嫌な動悸もする。
(確かにこのままじゃ、近い将来死んでしまうのも納得できるわ……)
ゲームのルイシャがどんな風に亡くなったのかは、ヒロインとルイシャの婚約者との会話で少しだけ触れられていた。確か、風邪を拗らせてと話していたはずだ。おそらく肺炎にでもなったのだろう。
いや、肺炎までならなくてもルイシャの体力だったら死んでいるかもしれないと本気で思った。
(数年後と言わずに、今でも死んでしまいそうだもの)
「お嬢様、食事をお持ちしましたが、食べられそうですか?」
医師の診察を受けたあと、侍女が食事の乗ったカートを持って来て尋ねる。
「……食べるわ」
食欲はない。
しかし、食べなければ体力が付かない。重怠い体を侍女に支えて貰いながら、起き上がる。ベッドから降りる気力はないため、いつも通りこのまま食事を摂ることにした。
「……」
目の前に置かれたのは野菜ベースのスープとオレンジジュース。
スプーンでスープを一口掬い口へ運ぶ。野菜嫌いのルイシャはいつも一口食べ、それ以上は食べなかった。野菜だけではない。肉も魚も苦手だった。この野菜スープも料理長が何とかルイシャに食べて貰おうと野菜を磨り潰し、クリームソースで味を整えてくれているから、ほんの少量でも食べれている。
しかし、もう一度言おう。
食べなければ体力が付かない。
(これは、死なないために必要な食事よ)
そう思いながら、出されたスープを無理矢理食べた。
何度か吐き出しそうになりながらも、ゆっくりと時間をかけて、スープを完食した。カチャンッと小さな音を立ててスプーンを皿に置き、侍女の方を見る。
完食したのは、ルイシャが覚えている限り初めてだった。
「お、お嬢様が、スープを全部お食べに……」
側で控えていた侍女が嬉しそうに、瞳を潤ませている。
「これからは、頑張って食べるわ。だって元気になりたいもの」
ルイシャがこのような前向きな発言をすることはなかったため、侍女が「ルイシャ様っ」と感動に打ち震えるような声と表情で力強く頷いている。
「では、こちらの薬湯も……」
オレンジジュースを手に取る前に、侍女がカートの上から液体の入った小さな器を持ってきた。淀んだ水の中に生える苔を煮詰めたような、なんとも形容しがたい色をしたドロドロの薬湯の登場だ。
(うっ)
ルイシャは、この薬湯が本当に苦手だった。いつも飲みたくないと駄々をこね、侍女との押し問答の結果、渋々口にするが吐き出してしまっていた。それも、舌先で少し舐める程度の量だ。
(これもちゃんと飲まないと……ダメ……よね?)
見た目も去ることながら、臭いもなかなかのものだ。健康になるために、飲まなければいけないのは分かる。死なないために必要なものだ。しかし、見た目と臭いがその意思を尻込みさせてしまった。
「お嬢様」
スープを完食したルイシャへ、期待するような視線が侍女から送られてくる。
「の……飲む……わ」
ルイシャは意を決して薬湯の入った器を手に取った。
(一気に……一気に飲むのよルイシャ。そんなに量は多くないわ。飲んだらすぐにジュースを飲めば、大丈夫……大丈夫よね?)
しばらく薬湯と持ったまま、飲みたくない意思と格闘していたが、ルイシャは侍女が見守るなか、器に口を付け──一気に飲み干した。
「──うっ。ジュースを……」
ドロドロとした気持ちが悪い喉ごしと、鼻をつく激臭により吐き気を催すが、なんとか我慢する。ここで吐いたら、せっかく頑張って食べたスープと薬湯が無意味になってしまう。
侍女に渡されたジュースを飲んでも、気持ち悪さは残ったが、幾分マシになった。
「ああ、お嬢様が薬湯も全部お飲みになるなんて……」
またしても侍女に感動されたルイシャは、食事を摂るだけで、一日分の体力を消耗したように疲れ果てていた。
ぐったりとフカフカのベッドに身を沈めて瞼を閉じた。
(これを三食……続けられるかしら……いいえ、続けなければ、いけないのよ! それに、お肉もお魚も食べられるようにならないと……)
生き残るためには、自分が努力しないといけないのだ。
薬湯の効果か、体の内側からポカポカと温かくなってきたルイシャは、そのまま眠ってしまった。
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