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【完結】本来の姿に戻った侯爵令嬢は、約束の応えを返す
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その後、ダニエルは王位継承権を第五位まで落とされ、彼が王位に就く可能性は限りなくゼロとなった。王の資質がないと判断されただけで、これといった悪事を働いていたわけではないので、この処遇が妥当だろう。
あのままダニエルがフレアを冤罪で話を進め、処罰を与える発言をしていたら、継承権剥奪までされていた可能性はあるが。
数日後。
マリアン伯爵家の庭で、フレアとシェリーはゆっくりと午後の時間を過ごしていた。
フレアとシェリーは幼馴染みで、姉妹のように仲が良かった。今回、シェリーはダニエルの査定に協力してくれていた。寧ろ、査定の話を聞き付けたシェリーは、「楽しそう!私に出来ることはある?」と率先して手伝いを申し出てきたのだ。
「それにしても、彼がシェリーを外交に連れていこうとした時はどうしようかと思いましたわ」
話の流れ的にシェリーが付いて行こうとしたとなっていたが、実際はダニエルが無理矢理シェリーを連れていこうとしていたのだ。
「大切なシェリーが、うっかり他国の秘密を知ってしまって面倒事に巻き込まれでもしたらと思うと……あの時は本当に、王子に腹が立ちましたわ」
「断るのがとてもとても大変だったんですよねぇ。遠回しに行きたくないって言っても「遠慮しなくても大丈夫だ」だし。はっきりと伝えても「俺が一緒だから問題ない」って聞いてくれないし」
王に途中経過を報告するときに、シェリーを外交に連れて行こうとしている事を伝えて、どうにか回避することが出来た。
「シャトーライン家の役割に貴女を巻き込んでしまって申し訳ないと思いましたが、協力して貰えて助かりましたわ」
「私は楽しくダニエル様のナルシストぶりを近くで観察出来たから良いの。まあ、時々笑いが込み上げてきそうになるのは困ったけど」
シェリーが、夜会で口元がひきつっていたのは、笑いを堪えていたからだった。
「それに、私とフレアの仲じゃない。お義姉様」
「お、お義姉様はまだ気が早いのではなくって?」
シェリーの言葉に、フレアは顔を赤らめる。
「そんな事ないわ。あ、ほら。お兄様が来たわ。ふふふっ、邪魔者は退散しなくちゃね」
シェリーは口元に手を当てニマニマと楽しそうに笑いながら、侍女と一緒にそそくさと去って行った。「待って」という隙もない素早さだった。
そしてシェリーと入れ代わりに、フレアに近付いて来る者がいた。
「フレア」
「クラウド様」
シェリーの兄で、マリアン伯爵家次期当主のクラウド・マリアンが、椅子に座るフレアの前に膝を着いた。
「無事にシャトーラインの任務が終わったんだね。お疲れ様」
「あ、ありがとう、ございます」
クラウドに手を優しく握られ、フレアはもじもじと挙動不審になる。普段は淑女の鑑のように、何事にも動じないフレアだが、昔からクラウドの前だけでは、冷静ではいられなかった。
そんなフレアの様子を、愛しそうに見つめながら、クラウドが尋ねる。
「僕との約束、覚えてる?」
一年前、ダニエルの査定を王家から依頼されたとき、フレアとクラウドは約束を交わした。
『シャトーラインの任務が終わったら、僕と結婚して欲しい。任務が終わったら、その返事を聞かせてくれないか』
フレアは、かぁっと頬を更に赤く染めながら頷く。
忘れるはずがない。
「今、返事を聞かせて貰っても良い?」
せっかちでごめんねとクラウドは微笑んでいるが、握られた手は少し震えていて、緊張しているのが伝わってきた。
(そんなの、返事ははじめから決まっているわ)
仮とはいえダニエルの婚約者となっていた一年間、クラウドと二人きりで会うことが出来なかった。任務のためだから仕方のない事だと、頭では理解していても、心の中ではずっとクラウドの事を想っていた。
「はい。私をクラウド様の妻にして下さい」
「ありがとう、フレア。嬉しいよ」
クラウドが蕩けるような笑みで、フレアを優しく抱き締めた。
「やりましたね、お兄様!うふふっ、これで、フレアは私のお義姉様ね!嬉しいわ。おめでとう二人とも!!」
去ったはずのシェリーが、生け垣の裏から現れ、満面の笑みでフレアとクラウドを祝福した。
あのままダニエルがフレアを冤罪で話を進め、処罰を与える発言をしていたら、継承権剥奪までされていた可能性はあるが。
数日後。
マリアン伯爵家の庭で、フレアとシェリーはゆっくりと午後の時間を過ごしていた。
フレアとシェリーは幼馴染みで、姉妹のように仲が良かった。今回、シェリーはダニエルの査定に協力してくれていた。寧ろ、査定の話を聞き付けたシェリーは、「楽しそう!私に出来ることはある?」と率先して手伝いを申し出てきたのだ。
「それにしても、彼がシェリーを外交に連れていこうとした時はどうしようかと思いましたわ」
話の流れ的にシェリーが付いて行こうとしたとなっていたが、実際はダニエルが無理矢理シェリーを連れていこうとしていたのだ。
「大切なシェリーが、うっかり他国の秘密を知ってしまって面倒事に巻き込まれでもしたらと思うと……あの時は本当に、王子に腹が立ちましたわ」
「断るのがとてもとても大変だったんですよねぇ。遠回しに行きたくないって言っても「遠慮しなくても大丈夫だ」だし。はっきりと伝えても「俺が一緒だから問題ない」って聞いてくれないし」
王に途中経過を報告するときに、シェリーを外交に連れて行こうとしている事を伝えて、どうにか回避することが出来た。
「シャトーライン家の役割に貴女を巻き込んでしまって申し訳ないと思いましたが、協力して貰えて助かりましたわ」
「私は楽しくダニエル様のナルシストぶりを近くで観察出来たから良いの。まあ、時々笑いが込み上げてきそうになるのは困ったけど」
シェリーが、夜会で口元がひきつっていたのは、笑いを堪えていたからだった。
「それに、私とフレアの仲じゃない。お義姉様」
「お、お義姉様はまだ気が早いのではなくって?」
シェリーの言葉に、フレアは顔を赤らめる。
「そんな事ないわ。あ、ほら。お兄様が来たわ。ふふふっ、邪魔者は退散しなくちゃね」
シェリーは口元に手を当てニマニマと楽しそうに笑いながら、侍女と一緒にそそくさと去って行った。「待って」という隙もない素早さだった。
そしてシェリーと入れ代わりに、フレアに近付いて来る者がいた。
「フレア」
「クラウド様」
シェリーの兄で、マリアン伯爵家次期当主のクラウド・マリアンが、椅子に座るフレアの前に膝を着いた。
「無事にシャトーラインの任務が終わったんだね。お疲れ様」
「あ、ありがとう、ございます」
クラウドに手を優しく握られ、フレアはもじもじと挙動不審になる。普段は淑女の鑑のように、何事にも動じないフレアだが、昔からクラウドの前だけでは、冷静ではいられなかった。
そんなフレアの様子を、愛しそうに見つめながら、クラウドが尋ねる。
「僕との約束、覚えてる?」
一年前、ダニエルの査定を王家から依頼されたとき、フレアとクラウドは約束を交わした。
『シャトーラインの任務が終わったら、僕と結婚して欲しい。任務が終わったら、その返事を聞かせてくれないか』
フレアは、かぁっと頬を更に赤く染めながら頷く。
忘れるはずがない。
「今、返事を聞かせて貰っても良い?」
せっかちでごめんねとクラウドは微笑んでいるが、握られた手は少し震えていて、緊張しているのが伝わってきた。
(そんなの、返事ははじめから決まっているわ)
仮とはいえダニエルの婚約者となっていた一年間、クラウドと二人きりで会うことが出来なかった。任務のためだから仕方のない事だと、頭では理解していても、心の中ではずっとクラウドの事を想っていた。
「はい。私をクラウド様の妻にして下さい」
「ありがとう、フレア。嬉しいよ」
クラウドが蕩けるような笑みで、フレアを優しく抱き締めた。
「やりましたね、お兄様!うふふっ、これで、フレアは私のお義姉様ね!嬉しいわ。おめでとう二人とも!!」
去ったはずのシェリーが、生け垣の裏から現れ、満面の笑みでフレアとクラウドを祝福した。
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