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ミルクレープに隠した想い
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アリアには好きな人が居る。
同じスイーツクラブに所属するセドウィル・クライス伯爵令息。
いつもアリアが作るお菓子を美味しそうに食べてくれる人。
女性受けする甘い顔立ちを縁取るチョコレート色の髪に、優しさを滲ませる蜂蜜色の瞳。
クライス伯爵家は事業で成功を納め、資産は公爵家に匹敵すると言われている。王家の覚えもめでたく、王太子や王女殿下とも親しい間柄だ。
人当たりが良く、穏やかな彼は男女問わず多くの人に囲まれていた。
現在、まだ婚約者のいないセドウィルを狙っている令嬢も数多い。
アリアは、セドウィルの事が好きだが、その想いを伝える気はなかった。
アリアは一応子爵位を賜る家門だが、貴族とは名ばかりの貧乏貴族だ。少し裕福な平民の方が資産を持っているだろう。
学園にも奨学金制度で通っている。
セドウィルとは立場が違いすぎるため、この淡い恋心を持つことも烏滸がましいことだった。
(でも、心で想うのは自由だから)
セドウィルへの恋心に気が付いた当初は、そう思っていた。何気ない彼との関わりにドキドキしながら、その気持ちを楽しんでいた時期もある。しかし、少しずつ恋心が折り重なって大きくなるに連れて、アリアは苦しくなっていった。
(これ以上、気持ちが大きくなる前に諦めないと……)
この気持ちが大きくなって苦しむのは、アリア自身なのだ。そろそろ気持ちにけじめをつける時期がきたのだ。
今日のスイーツクラブは【ミルクレープ】を作ることになった。
アリアはセドウィルを想いながら、ハート型に型抜きしたフルーツを生クリームと生地の間に挟み重ねていく。少しずつ大きくなっていた恋心を隠すように。
けじめをつけるためにセドウィルに想いを告げる気はない。これはアリアの心の問題なのだ。
(……言い訳ね。本当は告白なんてする勇気もないくせに)
もとより恋心が成就するなんて思っていない。セドウィルにとってアリアは、同じクラブに所属する影の薄い女に過ぎない。クラブの所属人数が少ないから、話す機会があるだけの関係だ。
だけど、それだけの関係でも、告白することでそれが崩れるのが怖かった。
だから、ハート型のフルーツに自分の気持ちを込めて隠すことにした。
(このミルクレープをセドウィル様に美味しく食べて貰えれば、私は十分よ)
そう自分に言い聞かせた。
アリアは出来上がったミルクレープを切り分けて皿に盛り付けルと、セドウィルの前にそっと置いた。
「ありがとう」
セドウィルに、にこりと穏やかに微笑まれ、アリアの鼓動がトクンと跳ねる。
アリアの想いを込めたミルクレープを、セドウィルが、ぱくりと食べる。
「やっぱり、アリアが作るスイーツは美味しいね。いくらでも食べられそうだよ」
セドウィルの蜂蜜色の瞳が本当に嬉しそうに輝いている。
その瞳に映るアリアの頬は桃色に染まっていた。
恋する女の表情と、トクントクンと跳ねる鼓動の感覚。
(駄目だわ、やっぱりこの気持ちを諦めることは出来ない……)
もうとっくに切り捨てる事が出来ないくらい、セドウィルへの想いが大きくなっていた事に、アリアは自覚せざる得なかった。
同じスイーツクラブに所属するセドウィル・クライス伯爵令息。
いつもアリアが作るお菓子を美味しそうに食べてくれる人。
女性受けする甘い顔立ちを縁取るチョコレート色の髪に、優しさを滲ませる蜂蜜色の瞳。
クライス伯爵家は事業で成功を納め、資産は公爵家に匹敵すると言われている。王家の覚えもめでたく、王太子や王女殿下とも親しい間柄だ。
人当たりが良く、穏やかな彼は男女問わず多くの人に囲まれていた。
現在、まだ婚約者のいないセドウィルを狙っている令嬢も数多い。
アリアは、セドウィルの事が好きだが、その想いを伝える気はなかった。
アリアは一応子爵位を賜る家門だが、貴族とは名ばかりの貧乏貴族だ。少し裕福な平民の方が資産を持っているだろう。
学園にも奨学金制度で通っている。
セドウィルとは立場が違いすぎるため、この淡い恋心を持つことも烏滸がましいことだった。
(でも、心で想うのは自由だから)
セドウィルへの恋心に気が付いた当初は、そう思っていた。何気ない彼との関わりにドキドキしながら、その気持ちを楽しんでいた時期もある。しかし、少しずつ恋心が折り重なって大きくなるに連れて、アリアは苦しくなっていった。
(これ以上、気持ちが大きくなる前に諦めないと……)
この気持ちが大きくなって苦しむのは、アリア自身なのだ。そろそろ気持ちにけじめをつける時期がきたのだ。
今日のスイーツクラブは【ミルクレープ】を作ることになった。
アリアはセドウィルを想いながら、ハート型に型抜きしたフルーツを生クリームと生地の間に挟み重ねていく。少しずつ大きくなっていた恋心を隠すように。
けじめをつけるためにセドウィルに想いを告げる気はない。これはアリアの心の問題なのだ。
(……言い訳ね。本当は告白なんてする勇気もないくせに)
もとより恋心が成就するなんて思っていない。セドウィルにとってアリアは、同じクラブに所属する影の薄い女に過ぎない。クラブの所属人数が少ないから、話す機会があるだけの関係だ。
だけど、それだけの関係でも、告白することでそれが崩れるのが怖かった。
だから、ハート型のフルーツに自分の気持ちを込めて隠すことにした。
(このミルクレープをセドウィル様に美味しく食べて貰えれば、私は十分よ)
そう自分に言い聞かせた。
アリアは出来上がったミルクレープを切り分けて皿に盛り付けルと、セドウィルの前にそっと置いた。
「ありがとう」
セドウィルに、にこりと穏やかに微笑まれ、アリアの鼓動がトクンと跳ねる。
アリアの想いを込めたミルクレープを、セドウィルが、ぱくりと食べる。
「やっぱり、アリアが作るスイーツは美味しいね。いくらでも食べられそうだよ」
セドウィルの蜂蜜色の瞳が本当に嬉しそうに輝いている。
その瞳に映るアリアの頬は桃色に染まっていた。
恋する女の表情と、トクントクンと跳ねる鼓動の感覚。
(駄目だわ、やっぱりこの気持ちを諦めることは出来ない……)
もうとっくに切り捨てる事が出来ないくらい、セドウィルへの想いが大きくなっていた事に、アリアは自覚せざる得なかった。
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