警視庁鑑識員・竹山誠吉事件簿「凶器消失」

桜坂詠恋

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6.その仏神経質

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「ちょっとゴメンやで」
 竹山は軽く手刀を切って斉藤に中座を詫びると、掃き出し窓の真上に設置されたエアコンに手を翳した。
「動いとる……」
「おーい、誰かこのエアコンのリモコン触ったんけ?」
 濱口が声を張り上げる。
 即座にリビングの中央に配されたコーヒーテーブルを指さし、リモコンはここで、誰も触ってはいないと捜査員が答えた。
「ふぅーむ」
 竹山はテーブルに歩み寄ると唸った。
 なるほど、確かにリモコンはそこにあった。ご丁寧にもテレビやブルーレイプレーヤーのそれと一緒に、大きさ順に並べられている。
 おまけにぴっちりとビニールでパックされており、埃や汚れのひとつもついていなかった。
 玄関の靴と言い、この部屋の住人──即ち今回の仏さんだが、とても拘りの強い人物だったようだ。
「誰も触ってへんちゅーことは」
「まあ、タイマーやろなぁ」
 濱口も頷く。そして、暫し竹山の隣でリモコンを眺めたものの苦笑いを浮かべた。
「ダメや。ちょ、誰かこのエアコンの設定分かるもんおらんけ?」
 濱口は家電音痴だった。
「警部、俺見ますよ」
 くすくすと笑いながら、渡辺が手を伸ばしてくる。そんな渡辺を、濱口は、こいつは機会に強い、俺の携帯の設定も全部こいつがやってくれるんやと嬉しそうに竹山に話した。
「あ、やっぱしウチのと同じやつですわ。今、排気換気のタイマーかかっとりますね」
「排気換気?」
「窓を開けんと、排気と吸気をするんです」
「えぇ? 換気扇じゃダメなんけ?」
「換気扇やと強すぎるんですよ。こう言うアパートとかマンションには換気口がついてますでしょ。あんな感じで」
 そう言って渡辺は壁についた通気口を指さした。
「最近は建物の気密性がいい分、こう言う換気口を設けないと空気の流れが悪くなるんでついとるんですけど、換気扇を回したら、ここから外の空気が吸い込まれてしまって。夏は暑いし、冬は寒いです。やし、ウチもよくエアコンの排気換気機能を使ってますよ」
「ほぉん……。凄いもんやなぁ」
 濱口と渡辺のやり取りを聞きながら、竹山は改めて室内を観察して回った。
 寝室にしても、バスルーム、トイレにしても徹底した掃除と整頓がなされていた。
 寝室には空気清浄機も設置されており、クローゼットを開けてみれば、玄関で見た靴同様、季節ごとに服が分けられ、更に色別に綺麗に並べられている。
「デパートみたいやな」
 関心仕切りの竹山を更に驚かせたのは、クローゼットの中にあった消臭除菌スプレーのストックの数だった。
 更に収納を開けてみると、除菌シート、フロアシート、手袋、アルコールと、被害者が潔癖であることを思わせる品がゴロゴロと出てきた。
「今時なんかな。にしても、凄いもんやな~」
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