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3: 雨の日は・・・
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「有難うございます!」
菊川は立ち上がり、深々と頭を下げた。
『いや、菊川さんの熱意と誠実さが伝わったしね。それに、適度に力が抜けていて、鼻息が荒くないとでもいうのかな? とても好感が持てたよ。これからも君のような人と付き合っていきたいね。次は直接お会いして契約書を交わしましょう』
「承知致しました! 宜しくお願い致します!」
『では、また』
無事リモート会議が終了し、菊川はどさりと椅子に腰を落とした。
全身の力が抜けた。まさか、本当に契約まで持ち込めるとは思わなかった。
「良かったですねぇ」
「希与さん!」
希与は外に有ったメニューボードを店内に入れているところだった。
「あれ? 片付け……?」
「はい。昨日入れておくのを忘れちゃったんです」
「じゃあ、ひょっとして今日定休日?」
それなのに、自分のために店を開けてくれたということだろうか。
菊川はますます申し訳なくなった。
「いえ、この店に決まった定休日はないんです」
「そう……なの?」
実際、気まぐれに開店する店や、満足のいくスープが出来なければ開店しないという店もある。そうおかしなことでもないのかもしれない。
しかし、不思議そうな顔をしている菊川に、コーヒーカップを指し示すと言った。
「これ、お店の名前です」
白いカップには、黒の書体で『Ensoleille』と書かれている。
「アンソレイユ。フランス語で陽だまりって意味なんですって」
陽だまり。それと決まった定休日がないのとどう関係があるのだろう。定休日がはっきりしなければ常連客も困るはずである。菊川はこの店に益々興味がわいた。
「このお店は元々私の祖父が始めたお店でした。コーヒーが好きで、美味しいコーヒーを淹れたくて。淹れたコーヒーを人に飲んでほしくて」
「うん」
「でも、祖父は頭痛持ちだったんです。今でいう、低気圧頭痛」
なんと、そういうことか。菊川は合点がいった。
つまりこの店は、晴れている時だけ営業するのだ。
「それで『Ensoleille』なんだ。陽だまりが出来る、そんな日にしかお店が開かないから……」
希与はにっこりと笑うと頷いた。
「それともうひとつ。雨と雷が苦手な私のために、祖父は雨が降ると店を閉めて傍にいてくれました」
「そうなんだ」
希与の祖父のそんな優しさが、そのままこの店を温かく見せているのだろう。
菊川は改めて、店内を見遣った。
そんな菊川を、希与は小首をかしげ見つめた。まるで、懐かしい人に会ったかのように。
菊川は立ち上がり、深々と頭を下げた。
『いや、菊川さんの熱意と誠実さが伝わったしね。それに、適度に力が抜けていて、鼻息が荒くないとでもいうのかな? とても好感が持てたよ。これからも君のような人と付き合っていきたいね。次は直接お会いして契約書を交わしましょう』
「承知致しました! 宜しくお願い致します!」
『では、また』
無事リモート会議が終了し、菊川はどさりと椅子に腰を落とした。
全身の力が抜けた。まさか、本当に契約まで持ち込めるとは思わなかった。
「良かったですねぇ」
「希与さん!」
希与は外に有ったメニューボードを店内に入れているところだった。
「あれ? 片付け……?」
「はい。昨日入れておくのを忘れちゃったんです」
「じゃあ、ひょっとして今日定休日?」
それなのに、自分のために店を開けてくれたということだろうか。
菊川はますます申し訳なくなった。
「いえ、この店に決まった定休日はないんです」
「そう……なの?」
実際、気まぐれに開店する店や、満足のいくスープが出来なければ開店しないという店もある。そうおかしなことでもないのかもしれない。
しかし、不思議そうな顔をしている菊川に、コーヒーカップを指し示すと言った。
「これ、お店の名前です」
白いカップには、黒の書体で『Ensoleille』と書かれている。
「アンソレイユ。フランス語で陽だまりって意味なんですって」
陽だまり。それと決まった定休日がないのとどう関係があるのだろう。定休日がはっきりしなければ常連客も困るはずである。菊川はこの店に益々興味がわいた。
「このお店は元々私の祖父が始めたお店でした。コーヒーが好きで、美味しいコーヒーを淹れたくて。淹れたコーヒーを人に飲んでほしくて」
「うん」
「でも、祖父は頭痛持ちだったんです。今でいう、低気圧頭痛」
なんと、そういうことか。菊川は合点がいった。
つまりこの店は、晴れている時だけ営業するのだ。
「それで『Ensoleille』なんだ。陽だまりが出来る、そんな日にしかお店が開かないから……」
希与はにっこりと笑うと頷いた。
「それともうひとつ。雨と雷が苦手な私のために、祖父は雨が降ると店を閉めて傍にいてくれました」
「そうなんだ」
希与の祖父のそんな優しさが、そのままこの店を温かく見せているのだろう。
菊川は改めて、店内を見遣った。
そんな菊川を、希与は小首をかしげ見つめた。まるで、懐かしい人に会ったかのように。
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