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第四章
3 依頼
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河川敷で、男はカセットコンロで湯を沸かしていた。
ここ最近は日中と朝晩の気温差が大きく、陽が落ちると随分と肌寒く感じる。
夕飯はカップラーメンと、贅沢にコンビニの唐揚げ、そしてワンカップだ。
先日助けた若い男から貰ったピアスが、思った以上に高く売れたおかげだった。
良いことはするものだ。
おかげでこんな贅沢な夕飯にありつけた。
酒も3日は飲めるだろう。
「あちち……」
カップに注いだ湯が跳ね、指にかかる。
火傷をした指を川の水で冷やそうと立ち上がった時だった。
「オヤジさん」
そう声を掛けられ振り返ると、ひとりの若者が立っていた。
よくよく見れば、あの時助けた若い男だ。
ついこの前の事なのに、なぜか少し印象が変わって見えたが気のせいか。
男は垢にまみれた黒い顔をくしゃりと綻ばせた。
「おお、兄ちゃんか」
「ひとつ、オヤジさんに頼みがあって──」
「頼み? なんだ?」
聞けばとんでもなく簡単な事だった。
それで5万もくれると言う。
それだけあれば充分正月を越せる。
男は喜んで請け負った。
* * *
「しゅにーん!」
夜になり、帰宅すべく庁舎を出ると、翔平が追いかけて来た。
「あの冊子の件! びっくりしましたよ。いつの間にあんなネタ掴んでたんすか!」
「ゆうべ、お前がいびきをかいてる間だよ」
「え、ウソ。俺イビキなんかかきます?」
信じられないとばかりに、翔平は目を剝く。
氷室はじろりと翔平を睨んだ。
「歯ぎしりもしてた。おかげで俺は眠れなかったよ」
「ウッソ~ォ」
「ホントだよ」
「ん~。じゃあ、お詫びにご馳走します!」
そう言いったものの、翔平は急にポケットと言うポケットを叩き始めた。
「あれれ?」
まさかとは思ったが聞いてみる。
「財布がないんじゃないだろうな」
翔平は眉尻を下げると、パンツのポケットを外に引っ張り出してアハハと笑った。
「昨日、主任の家にお泊りした時、部屋に財布忘れちゃったのかも~」
「しょうがない奴だな」
「しょうがないっすね。と言う訳で、今日もお泊りするしかないな」
「は?」
「だって、主任のご飯美味しいんっすもん」
氷室は顔を顰めるも、翔平は一向に意に介していないようである。
「ささ! スーパーに寄って帰りましょ!」
「お前、わざとだろ!」
「まっさかー!」
翔平はご機嫌で氷室の背中を押して歩いた。
そんな2人の様子を、闇に紛れるように遠くから見ている男がいた。
男は距離を取り、丸めた毛布や紙袋を下げ、2人の後をついていく。
地下鉄に乗り、駅からまた暫く歩く。
すると1件のマンションにたどり着き、2人はそこへ吸い込まれていった。
そして直ぐに2階の角部屋の部屋に明かりがともる。
男はそれを確認すると、ポケットからメモを出した。
──このナンバーの車が、そこに有るはずです。それを確認したら、俺に一度連絡をしてもらえますか。
男はそのメモを片手に、周囲に停められている車を一台一台確認した。
すると──。
メモに書かれたのと同じナンバーが直ぐに見つかった。
そこから近くのコンビニへ移動し、公衆電話からピアスをくれた男──佐伯に電話を掛ける。
電話はワンコールで繋がった。
「兄ちゃんかい?」
『見つかりましたか?』
「ああ。あったよ。メモ通りのナンバーだ」
『有難うございます。因みに、車からここまで、移動に何分掛かりましたか?』
「5分ほどだな」
『では、もう一度車に戻って下さい。5分後にその車の中から着信音が聞こえたら、また連絡をして欲しいです』
「分かった」
電話を切ると、男は先程の車に戻った。
すると、さして待つ事もなく、男の言う通り着信音が聞こえてきた。
車の周りをぐるぐるしながら、音の発生場所を探る。
「ここだ……」
音はトランクから聞こえている。
男は再びコンビニへと向かうと、佐伯に電話をかけた。
『どうでしたか?』
「ああ聞こえた。トランクから聞こえたよ」
『それは、どんな曲でしたか?』
「もりのくまさんだ。童謡の」
男がそう言い切ると、電話の向こうで、ぐうっと言う声が聞こえた。
「お、おい、兄ちゃん大丈夫か?」
『大丈夫……です。有難う──。金はオヤジさんの家の──そうだな、どくだみ茶の葉っぱの中に入れておくよ』
「了解、了解」
男はご機嫌で受話器を置いた。
* * *
「本当に有難う。それじゃ」
そう付け加えて、佐伯は通話を切った。
奥歯がギリギリと鳴る。
腹の中で、自分を嵌めた男への復讐心が、沸々とマグマのように湧き立った。
ここ最近は日中と朝晩の気温差が大きく、陽が落ちると随分と肌寒く感じる。
夕飯はカップラーメンと、贅沢にコンビニの唐揚げ、そしてワンカップだ。
先日助けた若い男から貰ったピアスが、思った以上に高く売れたおかげだった。
良いことはするものだ。
おかげでこんな贅沢な夕飯にありつけた。
酒も3日は飲めるだろう。
「あちち……」
カップに注いだ湯が跳ね、指にかかる。
火傷をした指を川の水で冷やそうと立ち上がった時だった。
「オヤジさん」
そう声を掛けられ振り返ると、ひとりの若者が立っていた。
よくよく見れば、あの時助けた若い男だ。
ついこの前の事なのに、なぜか少し印象が変わって見えたが気のせいか。
男は垢にまみれた黒い顔をくしゃりと綻ばせた。
「おお、兄ちゃんか」
「ひとつ、オヤジさんに頼みがあって──」
「頼み? なんだ?」
聞けばとんでもなく簡単な事だった。
それで5万もくれると言う。
それだけあれば充分正月を越せる。
男は喜んで請け負った。
* * *
「しゅにーん!」
夜になり、帰宅すべく庁舎を出ると、翔平が追いかけて来た。
「あの冊子の件! びっくりしましたよ。いつの間にあんなネタ掴んでたんすか!」
「ゆうべ、お前がいびきをかいてる間だよ」
「え、ウソ。俺イビキなんかかきます?」
信じられないとばかりに、翔平は目を剝く。
氷室はじろりと翔平を睨んだ。
「歯ぎしりもしてた。おかげで俺は眠れなかったよ」
「ウッソ~ォ」
「ホントだよ」
「ん~。じゃあ、お詫びにご馳走します!」
そう言いったものの、翔平は急にポケットと言うポケットを叩き始めた。
「あれれ?」
まさかとは思ったが聞いてみる。
「財布がないんじゃないだろうな」
翔平は眉尻を下げると、パンツのポケットを外に引っ張り出してアハハと笑った。
「昨日、主任の家にお泊りした時、部屋に財布忘れちゃったのかも~」
「しょうがない奴だな」
「しょうがないっすね。と言う訳で、今日もお泊りするしかないな」
「は?」
「だって、主任のご飯美味しいんっすもん」
氷室は顔を顰めるも、翔平は一向に意に介していないようである。
「ささ! スーパーに寄って帰りましょ!」
「お前、わざとだろ!」
「まっさかー!」
翔平はご機嫌で氷室の背中を押して歩いた。
そんな2人の様子を、闇に紛れるように遠くから見ている男がいた。
男は距離を取り、丸めた毛布や紙袋を下げ、2人の後をついていく。
地下鉄に乗り、駅からまた暫く歩く。
すると1件のマンションにたどり着き、2人はそこへ吸い込まれていった。
そして直ぐに2階の角部屋の部屋に明かりがともる。
男はそれを確認すると、ポケットからメモを出した。
──このナンバーの車が、そこに有るはずです。それを確認したら、俺に一度連絡をしてもらえますか。
男はそのメモを片手に、周囲に停められている車を一台一台確認した。
すると──。
メモに書かれたのと同じナンバーが直ぐに見つかった。
そこから近くのコンビニへ移動し、公衆電話からピアスをくれた男──佐伯に電話を掛ける。
電話はワンコールで繋がった。
「兄ちゃんかい?」
『見つかりましたか?』
「ああ。あったよ。メモ通りのナンバーだ」
『有難うございます。因みに、車からここまで、移動に何分掛かりましたか?』
「5分ほどだな」
『では、もう一度車に戻って下さい。5分後にその車の中から着信音が聞こえたら、また連絡をして欲しいです』
「分かった」
電話を切ると、男は先程の車に戻った。
すると、さして待つ事もなく、男の言う通り着信音が聞こえてきた。
車の周りをぐるぐるしながら、音の発生場所を探る。
「ここだ……」
音はトランクから聞こえている。
男は再びコンビニへと向かうと、佐伯に電話をかけた。
『どうでしたか?』
「ああ聞こえた。トランクから聞こえたよ」
『それは、どんな曲でしたか?』
「もりのくまさんだ。童謡の」
男がそう言い切ると、電話の向こうで、ぐうっと言う声が聞こえた。
「お、おい、兄ちゃん大丈夫か?」
『大丈夫……です。有難う──。金はオヤジさんの家の──そうだな、どくだみ茶の葉っぱの中に入れておくよ』
「了解、了解」
男はご機嫌で受話器を置いた。
* * *
「本当に有難う。それじゃ」
そう付け加えて、佐伯は通話を切った。
奥歯がギリギリと鳴る。
腹の中で、自分を嵌めた男への復讐心が、沸々とマグマのように湧き立った。
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