3 / 3
オマケ
しおりを挟む
「で?」
放課後の科学準備室で、倉木は眉間に数本の海溝を作っていた。
イライラと爪先を上下させ、目の前の都筑を睨みつけている。
「わざわざ勝利宣言をする為に俺を呼んだワケ」
「別にそう言う訳じゃないけど」
倉木とは対照的に、都筑は相変わらず余裕の表情である。それが余計に倉木の癇に障った。
「でも、結局そう言う事でしょ」
「そう言う事になるかな。あ、何にも無いけど、良かったらクエン酸でも飲む?」
「何サービス満点になってんだよ」
「いらないの」
都筑がビーカーに水を注ぎ、砂糖とクエン酸を混ぜて差し出すと、倉木はそれを引ったくり、ぐびぐびと喉を鳴らしながら一気に煽った。
「美味い。じゃなかった、甘いよ先生。俺がそんな勝利宣言如きで諦めるとでも思ってんの」
「しつこいんだなあ。爽やか青年はハッタリ?」
「しつこいよ、俺は。10も上のオッサンより、17歳のピチピチ男子の方いいって事、桜井が分るまで追いかけるからな」
「オッサン……?」
都筑の頬がぴくりと痙攣するのを、倉木は見逃さなかった。意地悪く笑って舌を出すと、びしりと都筑の顔を指差した。
「その目尻の皺はパックじゃ取れねえぞ」
しかし、都筑も負けてはいない。横目でじろりと倉木を見ると、フンと鼻で笑った。
「蒙古斑もパックじゃ取れないよな」
「だっ……誰が蒙古斑だ」
「さあ?今、尻を覆ってるヤツ?」
都筑に指摘され、慌てて尻から手をどけると、倉木はギリギリと歯噛みした。
「さて。そろそろ帰ろうかな」
準備室の真ん中で突っ立っている倉木を無視して、都筑は鼻歌混じりに帰り支度を始めた。白衣を脱いでロッカーに収めると、机の上の教科書を揃えてブックスタンドへ戻す。
そして、野良犬でも追い払うように、掌を上下させた。
「シッシッ。キミも帰んなさい、倉木君」
「ついてく」
「は?」
心底嫌そうな表情の都筑のネクタイを引っつかむと、倉木はずいっと日焼けした顔を近づけた。
「桜井に会うんだろ」
「そうですよ」
「俺も行くぞ」
「馬に蹴られたいの、キミ」
「何とでも言え。アンタみたいなロリコン教師と桜井を2人に出来るか」
「ロリコン……?」
その言葉に、都筑も顔を近づけた。
暫く2人の男は額をくっつけあった状態で睨み合う格好となっていたが、都筑が倉木の胸を押して突き放すと、にやりと不敵な笑いを浮かべた。。
「ああそう。じゃあ、トコトン追ってもらおうかな」
「な……なんだよ……」
「知らなかった」
鈴音はバイト先に現れた倉木を見ると、足元から頭のてっぺんへと視線を移し、口を覆った。
「倉木君て、そう言うの趣味だったの……」
その隣でコーヒーを啜りながら、都筑はにこにこと楽しそうに鈴音の様子を眺め、優雅に髪をかき上げると、目の前で屈辱に震えている倉木を見遣った。
「良かったよ。ここまで追ってくれる人間がいて。監視役が張り付いてくれれば俺も安心だし。それにほら。10も上のオッサンじゃあ──」
言って、倉木の服に手を伸ばす。
「流石にメイド服は洒落にならないでしょ」
倉木はメイド服を着せられていた。
長身のためにスカートはミニ丈。
サイズに無理があったせいで、ニーソックスではなく、極普通のスクールソックス。靴も男物の革靴だ。
おまけに、頭の上には、冗談のような大きなリボンまでつけられている。
だが、最悪なのはそれだけではない。
当然と言えば当然だが、背中のファスナーは途中までしか上がらなかった。
いくら若いとは言え、視覚的に許されない域に達している。
「都筑……」
切れ長の目に涙を浮かべた倉木は、フリルの付いた袖から伸びる腕を振り上げた。
しかし──。
「違うだろ」
そう言って、都筑はあっさりとその手をはじくと、向かってきたメイド姿の倉木のアタマを掴んでねじ伏せ、結果的に土下座をする格好となった倉木の頭に足を乗せると、悪魔の笑みを浮かべた。
「ご主人様だ」
放課後の科学準備室で、倉木は眉間に数本の海溝を作っていた。
イライラと爪先を上下させ、目の前の都筑を睨みつけている。
「わざわざ勝利宣言をする為に俺を呼んだワケ」
「別にそう言う訳じゃないけど」
倉木とは対照的に、都筑は相変わらず余裕の表情である。それが余計に倉木の癇に障った。
「でも、結局そう言う事でしょ」
「そう言う事になるかな。あ、何にも無いけど、良かったらクエン酸でも飲む?」
「何サービス満点になってんだよ」
「いらないの」
都筑がビーカーに水を注ぎ、砂糖とクエン酸を混ぜて差し出すと、倉木はそれを引ったくり、ぐびぐびと喉を鳴らしながら一気に煽った。
「美味い。じゃなかった、甘いよ先生。俺がそんな勝利宣言如きで諦めるとでも思ってんの」
「しつこいんだなあ。爽やか青年はハッタリ?」
「しつこいよ、俺は。10も上のオッサンより、17歳のピチピチ男子の方いいって事、桜井が分るまで追いかけるからな」
「オッサン……?」
都筑の頬がぴくりと痙攣するのを、倉木は見逃さなかった。意地悪く笑って舌を出すと、びしりと都筑の顔を指差した。
「その目尻の皺はパックじゃ取れねえぞ」
しかし、都筑も負けてはいない。横目でじろりと倉木を見ると、フンと鼻で笑った。
「蒙古斑もパックじゃ取れないよな」
「だっ……誰が蒙古斑だ」
「さあ?今、尻を覆ってるヤツ?」
都筑に指摘され、慌てて尻から手をどけると、倉木はギリギリと歯噛みした。
「さて。そろそろ帰ろうかな」
準備室の真ん中で突っ立っている倉木を無視して、都筑は鼻歌混じりに帰り支度を始めた。白衣を脱いでロッカーに収めると、机の上の教科書を揃えてブックスタンドへ戻す。
そして、野良犬でも追い払うように、掌を上下させた。
「シッシッ。キミも帰んなさい、倉木君」
「ついてく」
「は?」
心底嫌そうな表情の都筑のネクタイを引っつかむと、倉木はずいっと日焼けした顔を近づけた。
「桜井に会うんだろ」
「そうですよ」
「俺も行くぞ」
「馬に蹴られたいの、キミ」
「何とでも言え。アンタみたいなロリコン教師と桜井を2人に出来るか」
「ロリコン……?」
その言葉に、都筑も顔を近づけた。
暫く2人の男は額をくっつけあった状態で睨み合う格好となっていたが、都筑が倉木の胸を押して突き放すと、にやりと不敵な笑いを浮かべた。。
「ああそう。じゃあ、トコトン追ってもらおうかな」
「な……なんだよ……」
「知らなかった」
鈴音はバイト先に現れた倉木を見ると、足元から頭のてっぺんへと視線を移し、口を覆った。
「倉木君て、そう言うの趣味だったの……」
その隣でコーヒーを啜りながら、都筑はにこにこと楽しそうに鈴音の様子を眺め、優雅に髪をかき上げると、目の前で屈辱に震えている倉木を見遣った。
「良かったよ。ここまで追ってくれる人間がいて。監視役が張り付いてくれれば俺も安心だし。それにほら。10も上のオッサンじゃあ──」
言って、倉木の服に手を伸ばす。
「流石にメイド服は洒落にならないでしょ」
倉木はメイド服を着せられていた。
長身のためにスカートはミニ丈。
サイズに無理があったせいで、ニーソックスではなく、極普通のスクールソックス。靴も男物の革靴だ。
おまけに、頭の上には、冗談のような大きなリボンまでつけられている。
だが、最悪なのはそれだけではない。
当然と言えば当然だが、背中のファスナーは途中までしか上がらなかった。
いくら若いとは言え、視覚的に許されない域に達している。
「都筑……」
切れ長の目に涙を浮かべた倉木は、フリルの付いた袖から伸びる腕を振り上げた。
しかし──。
「違うだろ」
そう言って、都筑はあっさりとその手をはじくと、向かってきたメイド姿の倉木のアタマを掴んでねじ伏せ、結果的に土下座をする格好となった倉木の頭に足を乗せると、悪魔の笑みを浮かべた。
「ご主人様だ」
0
お気に入りに追加
7
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
隠れ御曹司の愛に絡めとられて
海棠桔梗
恋愛
目が覚めたら、名前が何だったかさっぱり覚えていない男とベッドを共にしていた――
彼氏に浮気されて更になぜか自分の方が振られて「もう男なんていらない!」って思ってた矢先、強引に参加させられた合コンで出会った、やたら綺麗な顔の男。
古い雑居ビルの一室に住んでるくせに、持ってる腕時計は超高級品。
仕事は飲食店勤務――って、もしかしてホスト!?
チャラい男はお断り!
けれども彼の作る料理はどれも絶品で……
超大手商社 秘書課勤務
野村 亜矢(のむら あや)
29歳
特技:迷子
×
飲食店勤務(ホスト?)
名も知らぬ男
24歳
特技:家事?
「方向音痴・家事音痴の女」は「チャラいけれど家事は完璧な男」の愛に絡め取られて
もう逃げられない――
見えないライン
相沢蒼依
恋愛
いつもの日常、いつもの生活。
一応学園ライフを満喫していた私の前にNHK(何か本格的にキモイ)とこっそりあだ名をつけた教師、三木と接点を持ってしまう。
最初はイヤイヤ接していたのに……
変な先生だって思ったのに、いつの間にか――
一夜限りのお相手は
栗原さとみ
恋愛
私は大学3年の倉持ひより。サークルにも属さず、いたって地味にキャンパスライフを送っている。大学の図書館で一人読書をしたり、好きな写真のスタジオでバイトをして過ごす毎日だ。ある日、アニメサークルに入っている友達の亜美に頼みごとを懇願されて、私はそれを引き受けてしまう。その事がきっかけで思いがけない人と思わぬ展開に……。『その人』は、私が尊敬する写真家で憧れの人だった。R5.1月
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる