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10 ヒロインの大反省会 (義姉視点)
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お屋敷に帰ったわたくしが真っ先にしたのは、大広間に奉公人達を集めることでした。
愚かな父とあの女が雇った奉公人は既に解雇しておりましたから、集まったのは全て、モンブラン侯爵家に忠実な者達ばかりでしたわ。
彼ら彼女らには3年間迷惑の掛け通しでした。
中には、あの女によってこの屋敷を辞めさせられた者までおりました。
わたくしは『高等特別裁定所』で、義妹フランボワーズが破滅から逃れたことを伝えました。
彼らは、これがどういう事か判っておりました。
モンブラン侯爵家は『ピンクブロンドの呪い』を処理できず、大きな汚名を背負ったのだと。
広間のあちこちからは、押し殺したすすり泣きの声が漏れてきました。
わたくしは胸がいっぱいになりました。
本当に彼ら彼女らは、当家に誠心誠意仕えてくれているということですもの。
ですが、これではいけないのです。
なぜなら、彼ら彼女らは、執事のセバスチャンを除けば、フランボワーズがどんな人間なのか知らないのですから。
わたくしは、話を続けました。
この結果は、決して悲しむべき事ではないのだと。
フランボワーズというひとりの少女の人生を、破滅させないで済んだということなのだから。
戸惑いの雰囲気が漂う中、わたくしは更に続けました。
フランボワーズという少女の人生が、如何に過酷で常に暴力と残酷さにさらされていたものだったかを。
そんな中にあっても、彼女が決して誇りを喪わず絶望せず懸命に生きてきたかを。
母親に愛されるどころか、母親に容赦なく稼ぎを毟り取られ。
父親はその母親から、さらに金を毟るばかり。
成長して美しくなれば、男達に目をつけられ、何度も襲われ。
それでも必死に自分の誇りを守ってきた人生を。
それだけ精一杯抗い続けても、16歳で娼婦にされる事が決まっており、普通なら絶望と諦めしかなかった人生だったということを。
そこから抜けられる幸運を掴み。
勉学を身につける機会と、彼女のことを信じてくれる心の友を得て。
未来への希望を掴みかけた彼女の前に立ち塞がったのは、義姉であるわたくし。
圧倒的な権力と恵まれた立場を駆使して、彼女を絶望と破滅へ突き落とそうと画策する義姉。
自分で語っておいてなんですけど、わたくしってばなんという非道な悪役! 信じられませんわ!
語るにつれて、彼ら彼女らの反応が戸惑いから驚きへそして……悔恨へと変わっていくのが伝わって来ましたわ。
もちろんわたくしは何度も言いましたわ。
フランボワーズに対する扱いを主導したのはわたくしであり、全てはわたくしの罪であると。
ですが、彼らは自責の念に駆られているようでした。
主であるわたくしの意志に従っただけとはいえ、フランボワーズを破滅させようとする謀略に、彼ら奉公人達も積極的に加担していたのです。
ここにいる誰ひとりとして、フランボワーズと心の交流をせず、一方的にピンクブロンド髪のわがままな女として扱っていたのですもの。
あちこちからうめき声やすすり泣きが漏れ始めました。
いつもは冷静なメイド長さえも、声もなく肩をふるわせておりました。
わたくしは……モンブラン侯爵家は……なんて素晴らしい人々に支えられているのでしょう!
改めてそう思いましたわ。
昔から仕えてくれる料理人がくずおれると、懺悔しました。
自分はフランボワーズお嬢様を憎む余り、質の劣った食材で手数を省いた料理をお出ししていたと。
次に、ルームメイクの奉公人がうめくように懺悔しました。
卑しい生まれだから些細なことは判らぬだろうと、掃除に手を抜いていたと。
そのふたりの懺悔を合図に他の奉公人達も堰が切れたように懺悔し始めました。
流石は優秀な彼らです。
ひとりひとりの行ったことはフランボワーズの体を損なうようなものではありませんでした。
ですが、名門侯爵家の奉公人として完璧に仕える事を誇りにしている彼らにとって、意図的な手抜きや嫌がらせを思い返すことは、どれほどの後悔を呼び起こすことでしょう。
どうして、もうひとりのお嬢様に、奉公人としての真を尽くさなかったのであろうかと。
どうして、目の前にいたフランボワーズを見ず、思い込みだけで判断し続けたのか。
その気持ちは、わたくしの気持ちと同じでした。
わたくしも皆と一緒に泣きました。
ようやく懺悔の声も静まった時、わたくしは彼らに告げました。
フランボワーズはもう二度とこの屋敷には現れないでしょう。
わたくし達は、それだけのことを彼女に対してしてしまったのですから。
ですが、万が一、彼女がここへ来てくれる事があったら。今度こそ後悔しないようにしましょうと。
今度は『呪われたピンクブロンド』ではなく。
わたくしの愛しい妹であり、賢く美しく勇敢で心にあたたかいものを持っている淑女として迎えましょう、と。
愚かな父とあの女が雇った奉公人は既に解雇しておりましたから、集まったのは全て、モンブラン侯爵家に忠実な者達ばかりでしたわ。
彼ら彼女らには3年間迷惑の掛け通しでした。
中には、あの女によってこの屋敷を辞めさせられた者までおりました。
わたくしは『高等特別裁定所』で、義妹フランボワーズが破滅から逃れたことを伝えました。
彼らは、これがどういう事か判っておりました。
モンブラン侯爵家は『ピンクブロンドの呪い』を処理できず、大きな汚名を背負ったのだと。
広間のあちこちからは、押し殺したすすり泣きの声が漏れてきました。
わたくしは胸がいっぱいになりました。
本当に彼ら彼女らは、当家に誠心誠意仕えてくれているということですもの。
ですが、これではいけないのです。
なぜなら、彼ら彼女らは、執事のセバスチャンを除けば、フランボワーズがどんな人間なのか知らないのですから。
わたくしは、話を続けました。
この結果は、決して悲しむべき事ではないのだと。
フランボワーズというひとりの少女の人生を、破滅させないで済んだということなのだから。
戸惑いの雰囲気が漂う中、わたくしは更に続けました。
フランボワーズという少女の人生が、如何に過酷で常に暴力と残酷さにさらされていたものだったかを。
そんな中にあっても、彼女が決して誇りを喪わず絶望せず懸命に生きてきたかを。
母親に愛されるどころか、母親に容赦なく稼ぎを毟り取られ。
父親はその母親から、さらに金を毟るばかり。
成長して美しくなれば、男達に目をつけられ、何度も襲われ。
それでも必死に自分の誇りを守ってきた人生を。
それだけ精一杯抗い続けても、16歳で娼婦にされる事が決まっており、普通なら絶望と諦めしかなかった人生だったということを。
そこから抜けられる幸運を掴み。
勉学を身につける機会と、彼女のことを信じてくれる心の友を得て。
未来への希望を掴みかけた彼女の前に立ち塞がったのは、義姉であるわたくし。
圧倒的な権力と恵まれた立場を駆使して、彼女を絶望と破滅へ突き落とそうと画策する義姉。
自分で語っておいてなんですけど、わたくしってばなんという非道な悪役! 信じられませんわ!
語るにつれて、彼ら彼女らの反応が戸惑いから驚きへそして……悔恨へと変わっていくのが伝わって来ましたわ。
もちろんわたくしは何度も言いましたわ。
フランボワーズに対する扱いを主導したのはわたくしであり、全てはわたくしの罪であると。
ですが、彼らは自責の念に駆られているようでした。
主であるわたくしの意志に従っただけとはいえ、フランボワーズを破滅させようとする謀略に、彼ら奉公人達も積極的に加担していたのです。
ここにいる誰ひとりとして、フランボワーズと心の交流をせず、一方的にピンクブロンド髪のわがままな女として扱っていたのですもの。
あちこちからうめき声やすすり泣きが漏れ始めました。
いつもは冷静なメイド長さえも、声もなく肩をふるわせておりました。
わたくしは……モンブラン侯爵家は……なんて素晴らしい人々に支えられているのでしょう!
改めてそう思いましたわ。
昔から仕えてくれる料理人がくずおれると、懺悔しました。
自分はフランボワーズお嬢様を憎む余り、質の劣った食材で手数を省いた料理をお出ししていたと。
次に、ルームメイクの奉公人がうめくように懺悔しました。
卑しい生まれだから些細なことは判らぬだろうと、掃除に手を抜いていたと。
そのふたりの懺悔を合図に他の奉公人達も堰が切れたように懺悔し始めました。
流石は優秀な彼らです。
ひとりひとりの行ったことはフランボワーズの体を損なうようなものではありませんでした。
ですが、名門侯爵家の奉公人として完璧に仕える事を誇りにしている彼らにとって、意図的な手抜きや嫌がらせを思い返すことは、どれほどの後悔を呼び起こすことでしょう。
どうして、もうひとりのお嬢様に、奉公人としての真を尽くさなかったのであろうかと。
どうして、目の前にいたフランボワーズを見ず、思い込みだけで判断し続けたのか。
その気持ちは、わたくしの気持ちと同じでした。
わたくしも皆と一緒に泣きました。
ようやく懺悔の声も静まった時、わたくしは彼らに告げました。
フランボワーズはもう二度とこの屋敷には現れないでしょう。
わたくし達は、それだけのことを彼女に対してしてしまったのですから。
ですが、万が一、彼女がここへ来てくれる事があったら。今度こそ後悔しないようにしましょうと。
今度は『呪われたピンクブロンド』ではなく。
わたくしの愛しい妹であり、賢く美しく勇敢で心にあたたかいものを持っている淑女として迎えましょう、と。
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