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46 ピンクブロンドと聞きたくもない昔話

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「あ。引いた?」
「引くわ! 降りる!」
「まぁまぁ落ち着いてよ。
 ホラ吹かれるのがイヤなら、本当にすればいいだけだし。
 せっかくだから、ここで今からしてみる?」

 ニヤニヤ笑いを貼り付けた顔が、ぐっと寄ってくる。
 アタシは溜息をついた。

「アンタ、そういうのしないでしょう」
「あれ? あれれ?
 もしかしてボクって信頼されてる?」
「してないわよ。
 でも、アンタはしないって判るわよ」

 コイツはイヤなヤツだ。
 いつも高みの見物で、ニヤニヤしてる。

 だけど、性的にイヤらしい視線で見られたことはない。

「いやー判る? 愛を感じちゃうなぁ」
「判るだけよ!」

 ニヤニヤ少年は、珍しくアタシから視線をそらして窓から外を見た。

「ちっちゃいころからボクはすっごく女に興味があってね。
 だってさ、歴史とか読んでるとさ、女で身を滅ぼした英雄とか多いじゃん。
 実際、父親は女が大好きで、とっかえひっかえだし。
 でもさ、周りの女に人たち見てても、なんで身を滅ぼすほどのめりこむのがわかんなかったんだよね」

 懐かしそうに語るコトかよ。

「だからさ、ある日、おつきの侍女に、裸になって全部見せてよって頼んだんだ。
 いやがったけど、ほら、ボクって我が儘でロクでもないから権力ちらつかせたわけ。侍女じゃ坊ちゃんの命令には逆らえない。
 わくわくしたなぁ。これで世界の素敵な秘密があかされるんだって。
 ボクも女に溺れちゃうんだろうってさ」
「その口ぶりからすると、期待外れだったみたいね」

 ニヤニヤ少年は、ひどくつまらなそうに。

「まぁ、ね。
 全部脱いでもらって、色々なポーズしてもらって、隅から隅まで見たけど。
 見ただけじゃなくて、触ったりなめたり吸ったり広げたりもしたんだけど。
 ああ、こんなものかって。
 これで殺し合ったり、滅びたり、ドタバタするってわかんないなぁって。
 構造自体はさ、犬や猫と大してかわんないしね」

 こいつは、もしかしたら好奇心の化け物なのかも。

「……その侍女の人はどうしたのよ」
「ボクが『なんだこんなもんか』って言っちゃったら、呆然として、泣きだしたなぁ。
 それからすぐ辞めちゃった。
 でも、ボクに世界の秘密を教えてくれたわけじゃん。
 父親に『ボクをとってもよく世話してくれたからいっぱい報いて』ってねだってさ。たっぷり払ってもらったよ」

 ふぅ、と溜息をつく横顔は、珍しくサマになってたけど。
 話してることはサイテー。

「次に、もしかしてボクは男に素敵な秘密を感じるのかなって。
 今度はおつきの男でやってみたけど。やっぱりピンと来なかったよ」

 うわ……。
 その人がどうなったか聞くのは我慢した。
 どうせ碌な結果ではないだろう。

「まぁそんなわけで。
 君に対して欲望とかないんだよね。
 そんなボクから見ても、君の見てくれは、きれいだと思うけど」

 コイツにはハナから異物感を感じてたけど。
 ホント、異物だわ。

「……聞きたくもない話を聞かされたわ」

 ニヤニヤ少年は肩をすくめた。
 そして視線をアタシに戻し、

「で、どう? 付き合う?」
「そんなキモい昔語りされたら、
 付き合う気があったとしても、その気が蒸発するわよ」
「だよねー。でもあくまでフリだからさ」
「フリでもいやなこった」

 ヤツは大して残念そうでもない顔で、

「そっかー。残念だなぁ。
 君が単に計算高いだけのピンクブロンドなら、
 断らなかったんだろうなぁ」

 そして珍しく、実に楽しそうに笑って言った。

「ま。そんな君じゃあ面白くもなんともないか」

 アタシは睨んでやった。

「アンタを面白がらせるために生きてるわけじゃないわよ」
「クックック。
 君がどう思おうと、あと4年は同じ学び舎に通うことになるんだけどね」

 そうなのだ。
 アタシとアンナがグリーグ高等学園に進学するのと同じく、コイツも進学するのだ。

「どうせ、これからの4年間。
 君はいろんなことにまきこまれるだろうからさ。
 面白いものが見られそうだよ」
「イヤな予言ね」

 ニヤニヤ少年は、イラッとする笑みを浮かべて、

「予言じゃないよ。決まってることだよ。
 だって君は、『珍しく生き残ってるピンクブロンド』なんだから」
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