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36 ピンクブロンドは見せつけられる。

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 戸惑っているうちに、応接室から連れ出されてしまった。
 マカロンお嬢様は、廊下で待っていたメイド長に。

「これからお風呂をいただきますわ。
 髪染めも種類があるだけ。
 この前贈られてきた試供品一式も用意しておいて」
「はい、すぐにも」
「それとアレも」
「心得ております。今日の予定はどうなさいます?」
「全部、延期にするようセバスチャンに伝えて」
「かしこまりました」

 メイド長が立ち去ると、静かだった館内が一斉に動き出す気配。

「どうしてお風呂なんか!? 昼だしっ!
 だって、髪を染めて化粧をするだけって!」
「汗を流して肌を綺麗にした方が、
 化粧品のノリもいいし、髪もしっとりして良く染まるんですのよ」
「だとしても、あ、アタシは離れの水場で」

 学園の寮に入るまでの期間も、たまに帰ってきた時も。
 アタシは、夜中、離れの隅にある水場でこっそり体を洗っていた。
 水しか出なかったから冬はすごく辛かったし、夏は虫が容赦なく入ってきたけど、
 裸になる時間は短いほど安心出来たし、夜のほうが――

「肌をしっとりさせるにはお湯をでないといけませんのよ。
 お風呂に入って貰わないと、お試しになりませんの。
 それに、女性の客人がいらした時には、おもてなしのため用意させますのよ。
 ですから、今からわざわざ用意しているわけではありませんの。
 入らなければ無駄になってしまうだけですもの」

 無駄になる、と言われると、貧乏性のアタシは断れない。
 そのままの流れで、本館の風呂場へ連れ込まれてしまった。

「わぁ……」

 思わず、子供のような感嘆の声をあげてしまう。
 アタシの声が、わんわんと響く。

 真っ白い大理石で出来た巨大な湯船。
 満々とたたえられたお湯からは、静かに湯気があがっている。

 学園の寮のお風呂場も広いと思っていたけど。
 ここに比べると、お屋敷と物置小屋ほどの差がある。

 お嬢様は、こんなに広い場所で、ひとりでお風呂に入るのか――

 マカロンお嬢様が、服を脱ぎ始めた。

「ええっ。な、なにをっっ!?
 あ、アタシ外に出るからっ!」
「なぜですの? これから貴女に化粧をするんですもの。
 お風呂でいろいろしたら濡れてしまいますでしょう。
 だったら、わたくしも一緒に脱いでしまったほうが合理的というものですわ」

 既に、化粧品らしき箱や瓶がカートに並べられて準備されている。

「でもっ、な、なにも女侯爵がアタシみたいな平民に自分で!?
 い、いつもはその、お貴族様のおうちでは、そういう仕事の人がやるんだよね!?
 あ、アタシだってそれくらい知ってるんだからっ!」
「ええ。確かに侍女の中には、わたくしの入浴係もいましてよ。
 ですけど、かわいい妹に初めてお化粧をする役を、他のかたになんか譲れませんわ」

 羞恥で頭が真っ白になった。
 言っていることは判るけど、でもっ。

 アタシだって娼館でいっぱい裸を見ている。
 でも、裸を見られたことはなかった。慎重に避けていた。
 あんな場所で裸になっていたら、いつ襲われるか判らないから。

 アタシはいつも、娼婦達の残り湯にこっそり入って、
 なるべく時間を掛けずに済ませていた。

 身を隠す場所もないこんな広いところで、
 裸を人に見られながらお風呂に入るなんて気が遠くなる。

 思わぬ事態の進行にパニックになって立ち尽くしていると。
 マカロンお嬢様は、すでに全裸。何も隠そうとしていない。
 大胆すぎるよ! いくら同性だからって!

 真っ白な世界で、豊かな金髪と、蒼い目と白い肌。
 アタシみたいに無駄に大きくなくて、ツンと上を向いた乳房。
 すらっとしているのに、きゅっとしまった腰。
 手入れされて綺麗な脚の付け根。やわらかそうな太もも。
 足の指の先まで形がいい。
 まっすぐ育っていて、どこも歪んでない。

 まぶしいほどきれい。

 どうしてあのバカな婚約者は、こんなにもきれいでやさしい人を振って、下らないアタシを選ぼうとしたんだろう。

「あら? まだ脱いでいませんの?」
「だ、だって。はっ恥ずかしくてっ、そのあのこういうのっ全然慣れてなくて」

 アタシなにを言ってるんだろう。
 こんなのに慣れてる人なんているわけない。

「もしかして裸を見られるのは、わたくしが初めてですの?」

 アタシはただコクコクとうなずいた。
 襲われて服を引き裂かれて下着をずりおろされたことはあったけど。
 自分から人前で服を脱ぐなんて!

「まぁっ! うれしいですわ!
 じゃあ。わたくしが脱がしてさしあげますわ」
「え、あっっ」

 制服のネクタイがほどかれる。
 着古した制服が手早く脱がされてゆく。

「なんでこんなに手慣れて……」
「我が家では化粧品だけではなくて服飾も手がけてますの。
 だから、わたくし着付けをすることも多いんですのよ」

 スカートが足元に落ちて、上着まで脱がされて。
 アタシはシュミーズ姿にされてしまった。

「こ、これ以上は自分でするからっ」

 アタシは反射的に胸を腕の前で組みしゃがみ込んで体を隠してしまった。
 このシュミーズは古着屋で買ったもので、あちこち繕ったもの。
 ショーツは、このお屋敷の人の古着を修繕したものだ。
 そのうえ胸は使い古したタオルで固くきつく縛っている。

 何もかも違いすぎる。
 この人が、アタシを妹だなんて思うはずがない。
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