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21 ピンクブロンドは指摘する。

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「誤解ねぇ……そもそも、どうして今夜に限ってアタシをパーティに参加させたのかが解せません。
 アタシ、ああいうところの礼儀作法なんてビタ一知らないんですけど。
 恥をかかすために送り込まれたとしか思えません」
「誤解ですわ。わたくしは反対したのですけど、貴女のお母様があんまり強く言うし、貴女を寮から呼び戻したというので仕方なく」

 なんでも愚かなかあちゃんのせいにすりゃいいってわけね。

「ふぅん。急遽決まったというわけですか……そりゃご親切に」
「そうです。貴女に恥をかかせる形になったのは謝罪します。もっと事前に時間があればこんなことには」
「謝らなくて結構です。予定通りだったんでしょ?」
「ちが――」
「そもそもなぜアタシが参加出来たんですか?
 参加する資格自体がないはずなんですよね。だってアタシは単なる猶子。侯爵家のご令嬢でもなんでもない。
 事前に根回しがなかったら、アタシは会場の入り口で追い返されてるはずなんですよ。
 その根回しを、あのバカなかあちゃんが出来たとは、思えませんね」
「それは、貴女のお母様が、社交界に出ようとしない貴女を心配して、一度くらいはああいう催しに顔出させた方がいいというので。わたくしが手を回したのですわ」

 アタシについて本当に何も知ろうとしなかったんだねこのひと。
 この人の前でも何度も言ったはず。貴族にも社交界にも興味がないって。

「ふぅん。このドレスも仕方なくですか? これってスケスケで趣味が悪いですけど、仕立てはいいですよね。
 それにアタシにぴったりに誂えられてる。高級な店で、半月くらいはかけた品でしょう。
 会計から何から全部握ってるマカロンお嬢様が関わらないと出来ない品ですよね?
 しかも、かあちゃんの話だと昨日できあがって届いたとか。
 アタシみたいな卑しい生まれの娘を参加させるための根回しの時間も考え合わせれば、一ヶ月くらい前からアタシがあのパーティに出席することは来まってたってわけですよね。
 どう考えても急な話じゃないですよね」

 バカなかあちゃんは、ダシに使われたってわけだ。

「アタシにこれを着せて、こいつは娼婦だよってパーティで宣伝させる準備は万端だったってことでしょ?
 そのどこが親切なのかアタシにはさっぱりわかりませんね。
 ああ、薄汚れたアタシを娼館に戻したら、宣伝しておいたから客がいっぱいくる、そういうわけですか。
 股が乾く間もないくらい客をとらせてやるってわけですか。
 なるほどなるほど。そりゃずいぶんな親切ですね。御貴族様は全く親切だ」
「全部誤解ですわ! あのドレスは、殿方がああいうのを好きだから」
「じゃあこういうのを着ている淑女がいっぱいいたはずですね。
 おかしいなぁ。こんなの着てるのアタシ以外誰もいませんでしたけど。
 アタシのこのドレス見て、淑女様方はみんな眉をひそめてましたし、男は鼻の下を伸ばしながらも、卑しい目でみんな見てましたよ。
 なるほど、好きっていうのは、『こいつはヤッてもいい尻軽だ』と思ってもらえるってことですか。
 そもそも貴女は、殿方が好きだからって、こういうふざけたドレスを着るんですか? へぇ見せて下さいよ」

 アタシの斜め後ろで、ニヤニヤ野郎が、くっくっく、と小さく嗤った。

「……ザッハトルテ様が、そういうのをお好きだと言ったことが……わたくしは恥ずかしくて着てさしあげられませんでしたけど」
「自分が着られないシロモノを、アタシになら着せていいと。アタシは娼婦みたいなモンだから恥知らずだと」
「どうしてそんな悪意に満ちた誤解ばかりをするのですか!」
「卑しい生まれなもんで、高邁な考えとか礼儀とか理解不能なんで。
 こういうところをひとつとっても、アタシがこの由緒ある侯爵家の養子になるなんて相応しくないですね。
 あ、でも。確かに効果はありましたよ。あのバカ、アタシを見てデレデレでしたから」

 社交界で、アタシを娼婦として認識させて、かつ、あのバカが婚約破棄宣言をする最後の一押し。
 それがこのドレスを押しつけた目的だったんでしょ。

 アタシはあのバカに、嫌悪以外何にも感じなかったですけどね。

 なんで貴女の婚約者ってだけでたらし込まなきゃいけないんですか?
 あれすか?
 ピンクブロンドの義妹は、義姉の物を何でも欲しがるって法律で決まってるんですか?

 ほしくねーよあんなん。考えなしのナルシー色ボケ男なんか。

「マカロンお嬢様だって、なにひとつ好意なんか感じてなかったから、アタシごと破滅させようとしてたんでしょ?」

 マカロンお嬢様は、もう誤解とは言わなかった。

「どうしてそう考えるのかしら?」
「それはアタシが言わなくても、マカロンお嬢様が一番よく知ってるんじゃないの?」

 グリーグ中等学園に通うようになってから、滅多にこの屋敷へ帰ってこなかったのに。
 なぜか帰ってくる度に、あのバカに遭遇した。
 しかも、あのバカの前で、アタシをことさら邪険に扱う奉公人。
 それ見て都合良く、アタシがしいたげられてると思い込むバカ。
 なにか邪悪な意図を感じるのが当然でしょう?

 上から下までよくよく息が合ってること。

「……」

 部屋に冷え冷えとした沈黙。

「今夜の内に、アタシの弁護士先生がいらっしゃいます」

 マカロンお嬢様が眉を、ぴくり、とあげた。

「アタシが猶子の放棄することに対する補償。
 この侯爵家の財産を不正流用していないことの証明。
 アタシとザッハトルテの婚姻が成立していないことを保障。。
 マカロンお嬢様には、これらを承諾したという書類にサインしていただきます」
「本当に信用してないのね……まるで敵扱いですわね」

 そっちだって、アタシのこと、最初から嫌いだったんでしょ。

 その証拠に、アタシがどんな人間かを一度も調べようとしなかった。
 こうやって二人で話すのさえ、初めてだもんね。

「同感。そちらからも信用された事がないので」
「残念だわ」

 美しく整えられた声。本当に残念そうに聞こえるのが恐ろしい。
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