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19 ピンクブロンドは拒絶する。

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 マカロンお嬢様がおもむろに口を開いた。

「何か色々と手違いがあって、貴女には迷惑をかけたようですわね。
 それに、貴女に関して色々と誤解していたようですわ」

 アタシをどんな人間か知ろうともしなかったんでしょうから、当然でしょうね。

「貴女をモンブラン侯爵家の正式な養女にしましょう。猶子でなく養子に」

 この人にとって、アタシみたいな血筋の卑しいクズを養女にするのは、あり得ないくらい大した慈悲なんでしょうね。
 でも、アタシにとっては、必要のない慈悲。

「娼館出の平民ごときを養女にしたらモンブラン侯爵家の汚点でしょ」
「今までそういう例は幾つもあります。何も問題はありません」
「両親があそこまで多大な迷惑を御当家にかけてしまったのですから、そんな話はお受けできません」

 アタシは表面上はしおらしく応じた。

 受けられるわけないでしょ。アンタのことなんかビタ一信用出来ないんだから。
 ついさっきまで、バカな婚約者を押しつけてアタシのことまで破滅させようと画策していた相手をどう信用しろと?

「それはあくまであの女とあの男が画策していたこと。
 娘の貴女には関係がないことです」
「アタシはそんな風に割り切れません。これ以上迷惑をかけるわけにはいかないんで、この家から出て行かせていただこうと思います」
「その必要はありません。たったひとりの妹ですもの」

 ああ。気持ち悪い。
 この気持ち悪さをアタシは知ってる。

 そうだ。娼館街にいた時、ほんの時たまやってくるお貴族様の妻女に似ている。
 いかにも自分たちはいいことをしている、という顔をして、こちらに恵んで来る人々。
 ここに棲んでいる人達の事情も知らないくせに、魂を救いに来ました、みたいな顔をする人達。

 あいつらの気持ち悪さにそっくりだ。

「アタシにはモンブラン侯爵家の血は一滴も流れてません。ですから血を分けた妹ではないでしょう」
「父は同じではありませんか」

 能力も人格も低劣な絶滅推奨種の血がね。

「ご厚意は大変ありがたいのですが、やはりお受けするわけにはいきません」

 アタシが、アタシらが欲しかったのは、恵みじゃない。
 あそこから這い上がるためのハシゴと、そこから落ちそうになったら支えてくれる手だった。

「わたくしは当主ですから、このモンブラン侯爵家の内輪の事については誰も異議は言わせませんわ」
「アタシは猶子なので、外の人間です」

 ぶっちゃけ赤の他人。
 いくら向こうが当主でも命令する権利はない。
 侯爵家の当主様でも、無関係な平民を無理矢理養子には出来ない。

 猶子でよかった。養子にされてたら断れなかった。

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