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17 ピンクブロンドは第三の罠を回避する。
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「なに言ってるのよ! あんたアタシをバカだと思ってでたらめばかり!」
またアタシを平手打ちにしようとしたけど、もう娘としての義理は果たした。
足払いをかけて床に転がしてやった。
「ぎゃっ」
その惨めな姿を見て、胸の奥がチクリとしたけど、アタシは無理矢理抑えた。
ことさら冷静に告げる。
「当主でもない後見人が、一族でもない人間のために侯爵家の資産を使って高価な品を購入したわけよ。
後見人の裁量できる範囲を明らかに超えてるわ。不正流用と見なされて当然じゃない。
いい? かあちゃんは、侯爵夫人として認められてなんかいないのよ。
このおっさんは、単なる後見人で、それの内縁の妻に過ぎないんだから。
つまりね、かあちゃんもアタシも、単なる居候にすぎないのよ」
だから何度も何度も言ったのに。
なるべく余計なお金は使わないように、勝手に奉公人をクビにしないように、マカロンお嬢様はいじめないように。本宅になんて乗り込まないように、部屋を奪うなんてもってのほかって。
いじめととられかねないことはしないように。
「わ、ワタシが単なる居候……で、でもアナタはちゃんと養子になってるはずよ!
この女に手続きをさせたわ! 書類だって見たわ!」
「養子じゃないわ。猶子」
床に座り込んだままのかあちゃんは、ぽかん、と口を開けた。
「……同じようなものじゃないの?」
「ぜんぜん違うわ
正式な養子なら、アタシにもこの侯爵家に対する権利が発生するけど。
猶子だと、一時的に養われているだけ。しかも、当主が好きな時に追い出せる存在。
だからアタシはこの侯爵家の人間じゃないのよ。
かあちゃんにいたっては、その程度の法律的な裏付けもないんだから。
だから居候」
かあちゃんは口をぱくぱくさせて、何か言おうとしていたが何も言えないようだった。
「アタシとかあちゃんが離れに住まわされていたのは当然ってことよ。
当然のことだから、アタシは自分の待遇に文句を言ったことないでしょ?」
つけくわえれば、アタシの扱いに全く心がこもっていない奉公人達にも文句言ったことないわ。
だって、アタシはこの家の寄生虫だと思われてたんだから。
それでも。
男女のあやしげな声が聞こえない場所で、襲われる心配もなく眠れるってだけでアタシには天国に近い場所だった。
そして、かあちゃんとおっさんの愚行を見なくて済む分、学園の寮のほうは天国そのものだった。
「ちなみに、アタシは、学費以外一銭も出して貰ってないわ。
この家にいる時、食事は出して貰ったけど、特別なメニューなんて要求してないし。
服は全部マカロンお嬢様や奉公人の古着を自分で仕立て直して着てたし。
学費に関しては、きっちり書類を作ってもらったから不正じゃないし。
かあちゃんが送ってきた宝石やドレスは、学園の寮の倉庫に手もつけず保管してあるわ」
なぜかこのピンクのフリフリドレスは、マカロンお嬢様が正式に贈ってくれたけどね。
なぜか、ね。
「マカロンお嬢様。
アタシに関していえば、この家の資産を不正に流用してるとは言えませんよね?」
マカロンお嬢様は、珍しい物でも見ている目でアタシを見ていたが。
「……言うのは難しいですね」
ニヤニヤ少年が口を開いた。
「へぇ。難しいけど言えるんだ。
それってどんな条文なの?
法律にはかなり興味があるんで後学のため聞きたいなぁ。
それともこれから作っちゃうのかな?」
マカロン嬢は、仕方ない、という様子で言い直した。
「……言えません」
またアタシを平手打ちにしようとしたけど、もう娘としての義理は果たした。
足払いをかけて床に転がしてやった。
「ぎゃっ」
その惨めな姿を見て、胸の奥がチクリとしたけど、アタシは無理矢理抑えた。
ことさら冷静に告げる。
「当主でもない後見人が、一族でもない人間のために侯爵家の資産を使って高価な品を購入したわけよ。
後見人の裁量できる範囲を明らかに超えてるわ。不正流用と見なされて当然じゃない。
いい? かあちゃんは、侯爵夫人として認められてなんかいないのよ。
このおっさんは、単なる後見人で、それの内縁の妻に過ぎないんだから。
つまりね、かあちゃんもアタシも、単なる居候にすぎないのよ」
だから何度も何度も言ったのに。
なるべく余計なお金は使わないように、勝手に奉公人をクビにしないように、マカロンお嬢様はいじめないように。本宅になんて乗り込まないように、部屋を奪うなんてもってのほかって。
いじめととられかねないことはしないように。
「わ、ワタシが単なる居候……で、でもアナタはちゃんと養子になってるはずよ!
この女に手続きをさせたわ! 書類だって見たわ!」
「養子じゃないわ。猶子」
床に座り込んだままのかあちゃんは、ぽかん、と口を開けた。
「……同じようなものじゃないの?」
「ぜんぜん違うわ
正式な養子なら、アタシにもこの侯爵家に対する権利が発生するけど。
猶子だと、一時的に養われているだけ。しかも、当主が好きな時に追い出せる存在。
だからアタシはこの侯爵家の人間じゃないのよ。
かあちゃんにいたっては、その程度の法律的な裏付けもないんだから。
だから居候」
かあちゃんは口をぱくぱくさせて、何か言おうとしていたが何も言えないようだった。
「アタシとかあちゃんが離れに住まわされていたのは当然ってことよ。
当然のことだから、アタシは自分の待遇に文句を言ったことないでしょ?」
つけくわえれば、アタシの扱いに全く心がこもっていない奉公人達にも文句言ったことないわ。
だって、アタシはこの家の寄生虫だと思われてたんだから。
それでも。
男女のあやしげな声が聞こえない場所で、襲われる心配もなく眠れるってだけでアタシには天国に近い場所だった。
そして、かあちゃんとおっさんの愚行を見なくて済む分、学園の寮のほうは天国そのものだった。
「ちなみに、アタシは、学費以外一銭も出して貰ってないわ。
この家にいる時、食事は出して貰ったけど、特別なメニューなんて要求してないし。
服は全部マカロンお嬢様や奉公人の古着を自分で仕立て直して着てたし。
学費に関しては、きっちり書類を作ってもらったから不正じゃないし。
かあちゃんが送ってきた宝石やドレスは、学園の寮の倉庫に手もつけず保管してあるわ」
なぜかこのピンクのフリフリドレスは、マカロンお嬢様が正式に贈ってくれたけどね。
なぜか、ね。
「マカロンお嬢様。
アタシに関していえば、この家の資産を不正に流用してるとは言えませんよね?」
マカロンお嬢様は、珍しい物でも見ている目でアタシを見ていたが。
「……言うのは難しいですね」
ニヤニヤ少年が口を開いた。
「へぇ。難しいけど言えるんだ。
それってどんな条文なの?
法律にはかなり興味があるんで後学のため聞きたいなぁ。
それともこれから作っちゃうのかな?」
マカロン嬢は、仕方ない、という様子で言い直した。
「……言えません」
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