14 / 60
14 ピンクブロンドとヒロイン
しおりを挟む
現れたのは、執事と屈強な奉公人四人を従えたマカロンお嬢様。
女当主である証らしき黒系統のドレスを着て、一部の隙もないお姿。
きっちり結い上げられた豪華な金髪。
知性にあふれた青い瞳。
ちいさく形の良い上品な唇。
名人が作り上げた彫刻みたいに、すらりとして品のいい体型。
豪華なドレスに負けていない気品と美しさ。
尊さすら感じちゃうわ。
流石は淑女の中の淑女。アタシの敵。
これぞお嬢様。
「なんでお前がここに入ってくるのよ! 部屋にひっこんでなさい!
しかも、なにそのドレス!? えらそうで生意気よ!
まだ、そんなの隠してたのね! その場で素っ裸になって、ワタシに渡しなさいよ!」
マカロンお嬢様は、哀れみを込めた目でかあちゃんを見た。
「なっ!? なにその生意気な目は!
もうアンタはこの家のお嬢さんでもなんでもないって、まだ判ってないようね!」
ヒステリックな声を全く無視して、マカロンお嬢様は部屋を見回した。
「御義母様、お父様、既に貴女方のお望みの通りになっていますわ。
わたくし、マカロン・モンブランと、ザッハトルテ・オペラの婚約解消は三日前に成立しておりますもの」
「み、三日前!? そんなことを勝手に!」
おっさんが喚いたが、マカロンお嬢様は平然としている。
おだやかな微笑みを浮かべてアタシを見ると。
「そして同時に、我が妹であるフランボワーズとザッハトルテの婚姻が正式に認められましたわ」
なるほど。婚約じゃなくて婚姻ね。
つまり、さっき殴って来たバカは、アタシの旦那だったらしい。
アタシは、マカロンお嬢様を見返してやった。
「それなら先程、お断りしてきましたが」
「……お断り? それはどういう意味ですか」
「先程、パーティ会場で、そんな戯言を聞かされましたが、
マカロンお嬢様の婚約者である方との不義などまっぴら御免。
やめるように頼んだのですが、こちらの言葉に全く耳を貸さず公衆の面前で弄んで来ようとなさるので、その場で自衛のため断固として拒否して来ました」
気配を消していたニヤニヤ少年が、慇懃に続けた。
「お嬢様の仰る通りです。
申し遅れましたバームクーヘン男爵令息のハイドと申します。
お嬢様は、ザッハトルテの狼藉に懸命に耐えておりましたが、
ついに貞操の危機を感じ、自衛のため、見事なパンチを繰り出し、
ザッハトルテなる破廉恥男をノックダウンさせております。
その一部始終は、私を初めとするパーティ参加者一同が目撃しております」
コイツを同行したのは、このためもあったのだ。
マカロンお嬢様の前で証言して貰うため。
いくら男爵令息といえども貴族は貴族、侯爵家当主といえどもアタシごときの言葉と違って無視できない。
マカロンお嬢様は、平然と。
「行き違いがあったようですね。
彼は既に私の婚約者ではありません。
既に貴女の配偶者です。これは決定事項ですわ」
これが第二の罠。
万が一、パーティ会場で婚約破棄宣言が実行されなくても、ここでアタシは詰むってわけね。
この言い分が通されると、アタシは廃嫡されるバカとくっつけられちゃう。
唯一の取り柄である貴族ですらなくなったあの男と無理矢理くっつけられたら、その先の地獄は目に見えている。
マカロンお嬢様は断固としてアタシを、元婚約者ごと破滅させるつもりなんだ。
女当主である証らしき黒系統のドレスを着て、一部の隙もないお姿。
きっちり結い上げられた豪華な金髪。
知性にあふれた青い瞳。
ちいさく形の良い上品な唇。
名人が作り上げた彫刻みたいに、すらりとして品のいい体型。
豪華なドレスに負けていない気品と美しさ。
尊さすら感じちゃうわ。
流石は淑女の中の淑女。アタシの敵。
これぞお嬢様。
「なんでお前がここに入ってくるのよ! 部屋にひっこんでなさい!
しかも、なにそのドレス!? えらそうで生意気よ!
まだ、そんなの隠してたのね! その場で素っ裸になって、ワタシに渡しなさいよ!」
マカロンお嬢様は、哀れみを込めた目でかあちゃんを見た。
「なっ!? なにその生意気な目は!
もうアンタはこの家のお嬢さんでもなんでもないって、まだ判ってないようね!」
ヒステリックな声を全く無視して、マカロンお嬢様は部屋を見回した。
「御義母様、お父様、既に貴女方のお望みの通りになっていますわ。
わたくし、マカロン・モンブランと、ザッハトルテ・オペラの婚約解消は三日前に成立しておりますもの」
「み、三日前!? そんなことを勝手に!」
おっさんが喚いたが、マカロンお嬢様は平然としている。
おだやかな微笑みを浮かべてアタシを見ると。
「そして同時に、我が妹であるフランボワーズとザッハトルテの婚姻が正式に認められましたわ」
なるほど。婚約じゃなくて婚姻ね。
つまり、さっき殴って来たバカは、アタシの旦那だったらしい。
アタシは、マカロンお嬢様を見返してやった。
「それなら先程、お断りしてきましたが」
「……お断り? それはどういう意味ですか」
「先程、パーティ会場で、そんな戯言を聞かされましたが、
マカロンお嬢様の婚約者である方との不義などまっぴら御免。
やめるように頼んだのですが、こちらの言葉に全く耳を貸さず公衆の面前で弄んで来ようとなさるので、その場で自衛のため断固として拒否して来ました」
気配を消していたニヤニヤ少年が、慇懃に続けた。
「お嬢様の仰る通りです。
申し遅れましたバームクーヘン男爵令息のハイドと申します。
お嬢様は、ザッハトルテの狼藉に懸命に耐えておりましたが、
ついに貞操の危機を感じ、自衛のため、見事なパンチを繰り出し、
ザッハトルテなる破廉恥男をノックダウンさせております。
その一部始終は、私を初めとするパーティ参加者一同が目撃しております」
コイツを同行したのは、このためもあったのだ。
マカロンお嬢様の前で証言して貰うため。
いくら男爵令息といえども貴族は貴族、侯爵家当主といえどもアタシごときの言葉と違って無視できない。
マカロンお嬢様は、平然と。
「行き違いがあったようですね。
彼は既に私の婚約者ではありません。
既に貴女の配偶者です。これは決定事項ですわ」
これが第二の罠。
万が一、パーティ会場で婚約破棄宣言が実行されなくても、ここでアタシは詰むってわけね。
この言い分が通されると、アタシは廃嫡されるバカとくっつけられちゃう。
唯一の取り柄である貴族ですらなくなったあの男と無理矢理くっつけられたら、その先の地獄は目に見えている。
マカロンお嬢様は断固としてアタシを、元婚約者ごと破滅させるつもりなんだ。
1
お気に入りに追加
52
あなたにおすすめの小説
どうやら断罪対象はわたくしのようです 〜わたくしを下級貴族と勘違いされているようですが、お覚悟はよろしくて?〜
水都 ミナト
恋愛
「ヴァネッサ・ユータカリア! お前をこの学園から追放する! そして数々の罪を償うため、牢に入ってもらう!」
わたくしが通うヒンスリー王国の王立学園の創立パーティにて、第一王子のオーマン様が高らかに宣言されました。
ヴァネッサとは、どうやらわたくしのことのようです。
なんということでしょう。
このおバカな王子様はわたくしが誰なのかご存知ないのですね。
せっかくなので何の証拠も確証もない彼のお話を聞いてみようと思います。
◇8000字程度の短編です
◇小説家になろうでも公開予定です
そんなにその方が気になるなら、どうぞずっと一緒にいて下さい。私は二度とあなたとは関わりませんので……。
しげむろ ゆうき
恋愛
男爵令嬢と仲良くする婚約者に、何度注意しても聞いてくれない
そして、ある日、婚約者のある言葉を聞き、私はつい言ってしまうのだった
全五話
※ホラー無し
【完結】いてもいなくてもいい妻のようですので 妻の座を返上いたします!
ユユ
恋愛
夫とは卒業と同時に婚姻、
1年以内に妊娠そして出産。
跡継ぎを産んで女主人以上の
役割を果たしていたし、
円満だと思っていた。
夫の本音を聞くまでは。
そして息子が他人に思えた。
いてもいなくてもいい存在?萎んだ花?
分かりました。どうぞ若い妻をお迎えください。
* 作り話です
* 完結保証付き
* 暇つぶしにどうぞ
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。
梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。
あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。
その時までは。
どうか、幸せになってね。
愛しい人。
さようなら。
【完結】要らないと言っていたのに今更好きだったなんて言うんですか?
星野真弓
恋愛
十五歳で第一王子のフロイデンと婚約した公爵令嬢のイルメラは、彼のためなら何でもするつもりで生活して来た。
だが三年が経った今では冷たい態度ばかり取るフロイデンに対する恋心はほとんど冷めてしまっていた。
そんなある日、フロイデンが「イルメラなんて要らない」と男友達と話しているところを目撃してしまい、彼女の中に残っていた恋心は消え失せ、とっとと別れることに決める。
しかし、どういうわけかフロイデンは慌てた様子で引き留め始めて――
悪役令嬢が残した破滅の種
八代奏多
恋愛
妹を虐げていると噂されていた公爵令嬢のクラウディア。
そんな彼女が婚約破棄され国外追放になった。
その事実に彼女を疎ましく思っていた周囲の人々は喜んだ。
しかし、その日を境に色々なことが上手く回らなくなる。
断罪した者は次々にこう口にした。
「どうか戻ってきてください」
しかし、クラウディアは既に隣国に心地よい居場所を得ていて、戻る気は全く無かった。
何も知らずに私欲のまま断罪した者達が、破滅へと向かうお話し。
※小説家になろう様でも連載中です。
9/27 HOTランキング1位、日間小説ランキング3位に掲載されました。ありがとうございます。
「婚約を破棄したい」と私に何度も言うのなら、皆にも知ってもらいましょう
天宮有
恋愛
「お前との婚約を破棄したい」それが伯爵令嬢ルナの婚約者モグルド王子の口癖だ。
侯爵令嬢ヒリスが好きなモグルドは、ルナを蔑み暴言を吐いていた。
その暴言によって、モグルドはルナとの婚約を破棄することとなる。
ヒリスを新しい婚約者にした後にモグルドはルナの力を知るも、全てが遅かった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる