上 下
13 / 60

13 ピンクブロンドの思う結婚

しおりを挟む
「それに、大事なことなのでもう一度言いますけど、
 公衆の面前で婚約者の妹ということになっている存在に言いよって、しかも体を触ってくるとか、人間として終わってます」
「相手は公爵令息ですよ!」
「それが何か? 婚約者の妹ということになっている存在に堂々と言いよってくる破廉恥男です」
「アッアンタ判ってないでしょ!
 昔から男あしらいが下手くそで愛想のない子だったけど、まさかこんなチャンスまでぶちこわしにするなんて! あーもう信じられないっ!
 貴族様がたの前で暴力なんてふるったら、パーティに二度と呼ばれませんよ!
 貴女だって玉の輿にのりたいんでしょう!? その機会をみすみす! 下手すれば未来永劫!
 胸だろうが股ぐらだろうが触らせておけばいいのよっ! 
 なんだったら物陰に誘ってやらせたっていいのよっ! 減るもんじゃ無いんだから!」

 実の娘に言う台詞かよ。
 このお屋敷から追い出されて長い間娼婦だったからしょーがないけど。
 乳どころかもっと色々アレコレされるのが普通だったもんね。

 そのお金でアタシを養ってくれたとかなら感謝もするけど、
 隣でハクハクしてるおっさんに貢いでたのよね……。

 アタシは物心ついた時からずっと、娼館の客の財布から抜いたり、娼婦達の世話をしたり手紙の代筆したりで喰ってたんだ。
 しかもそんなアタシから、かあちゃん平然と金をむしり取ってた。
『娘なんだから母親を助けるのが当然よ』とかほざいてね。

 血が繋がってるだけの相手に対する適切な(以下略)

「何度も何度も言ってますけど。
 そもそもお貴族様のお仲間の輪になんかになりたくないんで、玉の輿自体お断りです」
「うそおっしゃい!
 貴族様の奥方や愛人になれば、どんな贅沢だってし放題なのよ!」

 そんなわけないでしょ。
 どんな家にも収入と支出のバランスというがあってね……。

 でも、この人にとって結婚ってのはそういうものなんでしょう。

『金払いのいい客を、ずっと捕まえておく』=結婚。

 そうとでも思わないと、あそこではやっていけない。

 実際、娼婦だって結婚する。
 アタシも16歳になった時、最初のお客をとる時は、結婚させられる予定だった。

 正式の結婚じゃないわよ。『薔薇の脚亭』での恒例行事。

 娼婦デビューの日。
 娼婦になる子は、全身を隅から隅までピカピカに磨き上げられ、豪華なウェディングドレスを着せられて。
 その子の『はじめて』を買った客に提供されるという行事があったのよ。

 それがアタシ達の結婚。残酷なごっこ遊び。惨めな初夜。一日限りのなんちゃって花嫁。

 ごくごくたまに、それで惚れられて、本当に結婚出来た女がいるとかいないとか。
 恐らくいないんでしょうね。だって、詳しく聞くと、又聞きばっかりだったもの。
 そんな夢でもみないと心が潰れてしまうのが、アタシの生まれ育った場所。

 かあちゃんの心は、とっくの昔に、どこかが潰れてしまったんだろう。


「それに、お前はこの人の血を! 由緒正しい貴族の血を引いてるんだから、本来ならこのお屋敷のお嬢様なんだから! 悔しいはずよ! 憎いはずよ! あの頭が少々足りない男をたらしこめば全てが手に入ったのに!」

 そりゃアンタはね。悔しいでしょうよ憎いでしょう恨むでしょうよ。

 このお屋敷にメイドとして奉公している時に、このおっさんのお手つきになって。
 んで、アタシを孕んだら、マカロンお嬢様の母親に泥棒猫めと無一文で叩き出されて。
 生きるため&このおっさんに貢ぐために娼婦になって。

 でも、それはアンタの気持ちでしょうがっ。

 もう日付も変わってるから遠慮することもないや。

「前から思ってたけど、お母様、いいや面倒くさいかあちゃん。頭にウジ湧いてるんじゃね?」
「なっっ」
「アタシに玉の輿なんかくるわきゃないでしょこのコンコンチキが!
 寄って来るヤツは、体目当ての勘違い野郎ばっかり!
 ピンクブロンドは股がゆるいと思い込んでるアホバカアホ!
 しかも、アタシは碌な礼儀作法も身につけちゃいない。かてーしーだかかーてすーだかも出来ないんだから!
 あんな場じゃ珍獣よ珍獣! 珍獣のピンクブロンドよ!
 そういうのがいいと思うバカもいるでしょうけど、そんなバカとどうかなったら不幸一直線じゃない!」
「バカでもいいじゃないお貴族様なら! お金持ちなんだから!」

 あー。この人終わってるわ。
 一番よく知ってる貴族が、隣でオロオロしてるおっさんじゃ仕方ないけど。

 その時、応接室の扉がゆっくりと開いた。

「誰が入っていいと言った! 下がりなさい!」

 かあちゃんがヒステリックにわめいた。
 恐らく、アタシと同じように、誰も入って来るなと言っておいたのだろう。

 でも、アタシは全く驚かなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

元カレの今カノは聖女様

abang
恋愛
「イブリア……私と別れて欲しい」 公爵令嬢 イブリア・バロウズは聖女と王太子の愛を妨げる悪女で社交界の嫌われ者。 婚約者である王太子 ルシアン・ランベールの関心は、品行方正、心優しく美人で慈悲深い聖女、セリエ・ジェスランに奪われ王太子ルシアンはついにイブリアに別れを切り出す。 極め付けには、王妃から嫉妬に狂うただの公爵令嬢よりも、聖女が婚約者に適任だと「ルシアンと別れて頂戴」と多額の手切れ金。 社交会では嫉妬に狂った憐れな令嬢に"仕立てあげられ"周りの人間はどんどんと距離を取っていくばかり。 けれども当の本人は… 「悲しいけれど、過ぎればもう過去のことよ」 と、噂とは違いあっさりとした様子のイブリア。 それどころか自由を謳歌する彼女はとても楽しげな様子。 そんなイブリアの態度がルシアンは何故か気に入らない様子で… 更には婚約破棄されたイブリアの婚約者の座を狙う王太子の側近達。 「私をあんなにも嫌っていた、聖女様の取り巻き達が一体私に何の用事があって絡むの!?嫌がらせかしら……!」

どうやら断罪対象はわたくしのようです 〜わたくしを下級貴族と勘違いされているようですが、お覚悟はよろしくて?〜

水都 ミナト
恋愛
「ヴァネッサ・ユータカリア! お前をこの学園から追放する! そして数々の罪を償うため、牢に入ってもらう!」  わたくしが通うヒンスリー王国の王立学園の創立パーティにて、第一王子のオーマン様が高らかに宣言されました。  ヴァネッサとは、どうやらわたくしのことのようです。  なんということでしょう。  このおバカな王子様はわたくしが誰なのかご存知ないのですね。  せっかくなので何の証拠も確証もない彼のお話を聞いてみようと思います。 ◇8000字程度の短編です ◇小説家になろうでも公開予定です

新婚初夜で「おまえを愛することはない」と言い放たれた結果

アキヨシ
恋愛
タイトル通りテンプレの「おまえを愛することはない」と言われた花嫁が、言い返して大人しくしていなかったら……という発想の元書きました。 全編会話のみで構成しております。読み難かったらごめんなさい。 ※設定はゆるいです。暖かい目でお読みくださいませ。 ※R15は微妙なラインですが念のため。 ※【小説家になろう】様にも投稿しています。

御機嫌ようそしてさようなら  ~王太子妃の選んだ最悪の結末

Hinaki
恋愛
令嬢の名はエリザベス。 生まれた瞬間より両親達が創る公爵邸と言う名の箱庭の中で生きていた。 全てがその箱庭の中でなされ、そして彼女は箱庭より外へは出される事はなかった。 ただ一つ月に一度彼女を訪ねる5歳年上の少年を除いては……。 時は流れエリザベスが15歳の乙女へと成長し未来の王太子妃として半年後の結婚を控えたある日に彼女を包み込んでいた世界は崩壊していく。 ゆるふわ設定の短編です。 完結済みなので予約投稿しています。

完結 嫌われ夫人は愛想を尽かす

音爽(ネソウ)
恋愛
請われての結婚だった、でもそれは上辺だけ。

石女を理由に離縁されましたが、実家に出戻って幸せになりました

お好み焼き
恋愛
ゼネラル侯爵家に嫁いで三年、私は子が出来ないことを理由に冷遇されていて、とうとう離縁されてしまいました。なのにその後、ゼネラル家に嫁として戻って来いと手紙と書類が届きました。息子は種無しだったと、だから石女として私に叩き付けた離縁状は無効だと。 その他にも色々ありましたが、今となっては心は落ち着いています。私には優しい弟がいて、頼れるお祖父様がいて、可愛い妹もいるのですから。

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

私が死ねば楽になれるのでしょう?~愛妻家の後悔~

希猫 ゆうみ
恋愛
伯爵令嬢オリヴィアは伯爵令息ダーフィトと婚約中。 しかし結婚準備中オリヴィアは熱病に罹り冷酷にも婚約破棄されてしまう。 それを知った幼馴染の伯爵令息リカードがオリヴィアへの愛を伝えるが…  【 ⚠ 】 ・前半は夫婦の闘病記です。合わない方は自衛のほどお願いいたします。 ・架空の猛毒です。作中の症状は抗生物質の発明以前に猛威を奮った複数の症例を参考にしています。尚、R15はこの為です。

処理中です...