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11 ピンクブロンドは戦闘開始!
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「クックック。それにしても眼福だね。髪を染めず、胸も締め付けず、伊達メガネもかけていない君を見るのは」
なにが眼福よ。アンタ、珍しいのを面白がってるだけでしょ。
「じゃあ交換する? 鏡でいくらでも好きに見られるわよ」
「交換するほどボクの顔が好きってことかな?」
「アンタの顔とも交換したいほど、この顔が嫌いなのよ」
「うーん、でも交換しちゃったら、君の刺激的な格好も見られなくなっちゃうから遠慮するよ」
馬車が止まった。
高い塀に囲まれた木立の遙か向こうに、大理石造りの豪邸が見える。
あそこに、ついさっき18歳になったマカロンお嬢サマがいる。
愚かな両親とアタシを破滅させる準備万端を整えて待ち構えている。
勝利を確信してるんでしょうね。
「さて、淑女の中の淑女に勝つ自信のほどは?」
「あると思う?」
この勝負の勝敗は最初から決まっているのだ。
向こうはアタシを破滅させられる。
アタシは、向こうを破滅させることはできない。
持っているカードが悪すぎる。ブラフもできやしない。
お貴族様は、お貴族様というだけで平民でしかないアタシに対して圧倒的なのだ。
今までだって何人、いや何十人ものピンクブロンドの義妹が破滅してきたのだ。
全員が全員、玉の輿を狙うバカだったはずもないのに、確実に破滅している。
多分、何人かは罪をでっちあげられ、無理矢理破滅させられたんでしょうね。
アタシは勝ちなんて望んでいない。
望みは、ささやかな引き分け。
でも、それすら、あやうい。
だから、コイツというジョーカーまで準備した。
鉄の正門が、耳障りのする音を立てて開く。
アタシ達を乗せた馬車は、蛇の巣へ滑り込んでいく。
さぁ退却戦の始まりだ。一歩間違えたら殺される。
「いい? アンタは余計なこと喋らないこと」
「へいへい。仰せのままに。ゆっくり見物させて貰うよ」
コイツはどうして自分が連れてこられるか知ってるだろう。
知ってて何も言わないあたりが、食えない。
だが、そういう性格だからこそ、ホイホイついてきてくれたわけで……。
ああ、嫌だ嫌だ。
三年住んでもぜんぜん慣れないお屋敷に御帰還。
といっても、アタシは二ヶ月いただけで学園の寮に入っちゃったから、この本宅にいた時間は、全部合わせても三ヶ月がいいところ。だから当然かもだけどさ。
エスコートしようとするニヤニヤ少年の手を振り払って馬車から降りれば、見上げるばかりの正面玄関。人間の住むサイズじゃない。
豪華な正面玄関ホールに足を踏み入れれば、奉公人達がわらわらと集まってくる。
かあちゃんや実父であるお貴族様が穴埋めで雇った奴等は、いかにもダメそう。
騒々しく、服装もだらしない。そのうえ手癖もよろしくない。
アタシが知ってる範囲だけでも、ちょっとした備品や小金をちょろまかしたりしてる。
給料安くてもいいなんてのには、裏があるに決まってるでしょうが。
元々いる人達は、どんな時でも落ち着いたもの。
流石は名門の侯爵家の一流奉公人。
でも、その目には、卑しい生まれのアタシをさげすむ光がチラチラしてる。
普通ならわかんないでしょうけど。
アタシ、生まれ育ちのせいで、人の顔色うかがって大きくなったからわかっちゃうのよね。
でも、安心して、汚物なアタシがここへ来るのも今夜限りだから。
「お嬢様。急なお帰りで。付けた者達も見当たらないようですが。何があったので御座いますか?」
ロマンスグレーの執事セバスチャンが聞いてくる。先祖代々この家の執事だそうだ。
名前も先祖代々セバスチャンなんだと。
この男だけは、アタシを卑しんでる様子を一度も見せなかった。
もちろんお腹の中では卑しみまくっているでしょうけど、見せないだけでも大したもんね。
「オペラ侯爵家のザッハトルテ様との間で重大事が出来しましたので、
報告のため、急遽、帰ってまいりました。
この家の重大事でもあるので、お母様とお父様にお話しなければなりません」
「おふたりなら応接室でお待ちです」
アンポンタン婚約者が、マカロンお嬢サマからアタシに乗り換えたっていう吉報を待ってたんでしょうね。
「誰も入れないように」
「承知しました。そちらのご令息は?」
ニヤニヤ野郎は前へ進み出て
「バームクーヘン男爵令息のハイドと申します。
こちらのお嬢様が急遽お帰りの様子だったので、送らせていただきました。
それに会場で起きた件について第三者の証言も必要かと」
完璧な平凡さ。
これなら有象無象の男爵家のパッとしない令息にしか見えないわ。
アタシはこっそり深呼吸して、ぎゅっと拳を握る。
さぁ戦闘開始ね!
なにが眼福よ。アンタ、珍しいのを面白がってるだけでしょ。
「じゃあ交換する? 鏡でいくらでも好きに見られるわよ」
「交換するほどボクの顔が好きってことかな?」
「アンタの顔とも交換したいほど、この顔が嫌いなのよ」
「うーん、でも交換しちゃったら、君の刺激的な格好も見られなくなっちゃうから遠慮するよ」
馬車が止まった。
高い塀に囲まれた木立の遙か向こうに、大理石造りの豪邸が見える。
あそこに、ついさっき18歳になったマカロンお嬢サマがいる。
愚かな両親とアタシを破滅させる準備万端を整えて待ち構えている。
勝利を確信してるんでしょうね。
「さて、淑女の中の淑女に勝つ自信のほどは?」
「あると思う?」
この勝負の勝敗は最初から決まっているのだ。
向こうはアタシを破滅させられる。
アタシは、向こうを破滅させることはできない。
持っているカードが悪すぎる。ブラフもできやしない。
お貴族様は、お貴族様というだけで平民でしかないアタシに対して圧倒的なのだ。
今までだって何人、いや何十人ものピンクブロンドの義妹が破滅してきたのだ。
全員が全員、玉の輿を狙うバカだったはずもないのに、確実に破滅している。
多分、何人かは罪をでっちあげられ、無理矢理破滅させられたんでしょうね。
アタシは勝ちなんて望んでいない。
望みは、ささやかな引き分け。
でも、それすら、あやうい。
だから、コイツというジョーカーまで準備した。
鉄の正門が、耳障りのする音を立てて開く。
アタシ達を乗せた馬車は、蛇の巣へ滑り込んでいく。
さぁ退却戦の始まりだ。一歩間違えたら殺される。
「いい? アンタは余計なこと喋らないこと」
「へいへい。仰せのままに。ゆっくり見物させて貰うよ」
コイツはどうして自分が連れてこられるか知ってるだろう。
知ってて何も言わないあたりが、食えない。
だが、そういう性格だからこそ、ホイホイついてきてくれたわけで……。
ああ、嫌だ嫌だ。
三年住んでもぜんぜん慣れないお屋敷に御帰還。
といっても、アタシは二ヶ月いただけで学園の寮に入っちゃったから、この本宅にいた時間は、全部合わせても三ヶ月がいいところ。だから当然かもだけどさ。
エスコートしようとするニヤニヤ少年の手を振り払って馬車から降りれば、見上げるばかりの正面玄関。人間の住むサイズじゃない。
豪華な正面玄関ホールに足を踏み入れれば、奉公人達がわらわらと集まってくる。
かあちゃんや実父であるお貴族様が穴埋めで雇った奴等は、いかにもダメそう。
騒々しく、服装もだらしない。そのうえ手癖もよろしくない。
アタシが知ってる範囲だけでも、ちょっとした備品や小金をちょろまかしたりしてる。
給料安くてもいいなんてのには、裏があるに決まってるでしょうが。
元々いる人達は、どんな時でも落ち着いたもの。
流石は名門の侯爵家の一流奉公人。
でも、その目には、卑しい生まれのアタシをさげすむ光がチラチラしてる。
普通ならわかんないでしょうけど。
アタシ、生まれ育ちのせいで、人の顔色うかがって大きくなったからわかっちゃうのよね。
でも、安心して、汚物なアタシがここへ来るのも今夜限りだから。
「お嬢様。急なお帰りで。付けた者達も見当たらないようですが。何があったので御座いますか?」
ロマンスグレーの執事セバスチャンが聞いてくる。先祖代々この家の執事だそうだ。
名前も先祖代々セバスチャンなんだと。
この男だけは、アタシを卑しんでる様子を一度も見せなかった。
もちろんお腹の中では卑しみまくっているでしょうけど、見せないだけでも大したもんね。
「オペラ侯爵家のザッハトルテ様との間で重大事が出来しましたので、
報告のため、急遽、帰ってまいりました。
この家の重大事でもあるので、お母様とお父様にお話しなければなりません」
「おふたりなら応接室でお待ちです」
アンポンタン婚約者が、マカロンお嬢サマからアタシに乗り換えたっていう吉報を待ってたんでしょうね。
「誰も入れないように」
「承知しました。そちらのご令息は?」
ニヤニヤ野郎は前へ進み出て
「バームクーヘン男爵令息のハイドと申します。
こちらのお嬢様が急遽お帰りの様子だったので、送らせていただきました。
それに会場で起きた件について第三者の証言も必要かと」
完璧な平凡さ。
これなら有象無象の男爵家のパッとしない令息にしか見えないわ。
アタシはこっそり深呼吸して、ぎゅっと拳を握る。
さぁ戦闘開始ね!
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