上 下
11 / 60

11 ピンクブロンドは戦闘開始!

しおりを挟む
「クックック。それにしても眼福だね。髪を染めず、胸も締め付けず、伊達メガネもかけていない君を見るのは」

 なにが眼福よ。アンタ、珍しいのを面白がってるだけでしょ。

「じゃあ交換する? 鏡でいくらでも好きに見られるわよ」
「交換するほどボクの顔が好きってことかな?」
「アンタの顔とも交換したいほど、この顔が嫌いなのよ」
「うーん、でも交換しちゃったら、君の刺激的な格好も見られなくなっちゃうから遠慮するよ」

 馬車が止まった。
 高い塀に囲まれた木立の遙か向こうに、大理石造りの豪邸が見える。

 あそこに、ついさっき18歳になったマカロンお嬢サマがいる。
 愚かな両親とアタシを破滅させる準備万端を整えて待ち構えている。
 勝利を確信してるんでしょうね。

「さて、淑女の中の淑女に勝つ自信のほどは?」
「あると思う?」

 この勝負の勝敗は最初から決まっているのだ。

 向こうはアタシを破滅させられる。
 アタシは、向こうを破滅させることはできない。
 持っているカードが悪すぎる。ブラフもできやしない。
 お貴族様は、お貴族様というだけで平民でしかないアタシに対して圧倒的なのだ。

 今までだって何人、いや何十人ものピンクブロンドの義妹が破滅してきたのだ。
 全員が全員、玉の輿を狙うバカだったはずもないのに、確実に破滅している。
 多分、何人かは罪をでっちあげられ、無理矢理破滅させられたんでしょうね。

 アタシは勝ちなんて望んでいない。
 望みは、ささやかな引き分け。
 でも、それすら、あやうい。
 だから、コイツというジョーカーまで準備した。

 鉄の正門が、耳障りのする音を立てて開く。
 アタシ達を乗せた馬車は、蛇の巣へ滑り込んでいく。

 さぁ退却戦の始まりだ。一歩間違えたら殺される。

「いい? アンタは余計なこと喋らないこと」
「へいへい。仰せのままに。ゆっくり見物させて貰うよ」

 コイツはどうして自分が連れてこられるか知ってるだろう。
 知ってて何も言わないあたりが、食えない。
 だが、そういう性格だからこそ、ホイホイついてきてくれたわけで……。

 ああ、嫌だ嫌だ。

 三年住んでもぜんぜん慣れないお屋敷に御帰還。
 といっても、アタシは二ヶ月いただけで学園の寮に入っちゃったから、この本宅にいた時間は、全部合わせても三ヶ月がいいところ。だから当然かもだけどさ。

 エスコートしようとするニヤニヤ少年の手を振り払って馬車から降りれば、見上げるばかりの正面玄関。人間の住むサイズじゃない。

 豪華な正面玄関ホールに足を踏み入れれば、奉公人達がわらわらと集まってくる。

 かあちゃんや実父であるお貴族様が穴埋めで雇った奴等は、いかにもダメそう。
 騒々しく、服装もだらしない。そのうえ手癖もよろしくない。
 アタシが知ってる範囲だけでも、ちょっとした備品や小金をちょろまかしたりしてる。
 給料安くてもいいなんてのには、裏があるに決まってるでしょうが。

 元々いる人達は、どんな時でも落ち着いたもの。
 流石は名門の侯爵家の一流奉公人。
 でも、その目には、卑しい生まれのアタシをさげすむ光がチラチラしてる。

 普通ならわかんないでしょうけど。
 アタシ、生まれ育ちのせいで、人の顔色うかがって大きくなったからわかっちゃうのよね。

 でも、安心して、汚物なアタシがここへ来るのも今夜限りだから。

「お嬢様。急なお帰りで。付けた者達も見当たらないようですが。何があったので御座いますか?」

 ロマンスグレーの執事セバスチャンが聞いてくる。先祖代々この家の執事だそうだ。
 名前も先祖代々セバスチャンなんだと。
 この男だけは、アタシを卑しんでる様子を一度も見せなかった。
 もちろんお腹の中では卑しみまくっているでしょうけど、見せないだけでも大したもんね。

「オペラ侯爵家のザッハトルテ様との間で重大事が出来しましたので、
 報告のため、急遽、帰ってまいりました。
 この家の重大事でもあるので、お母様とお父様にお話しなければなりません」
「おふたりなら応接室でお待ちです」

 アンポンタン婚約者が、マカロンお嬢サマからアタシに乗り換えたっていう吉報を待ってたんでしょうね。

「誰も入れないように」
「承知しました。そちらのご令息は?」

 ニヤニヤ野郎は前へ進み出て

「バームクーヘン男爵令息のハイドと申します。
 こちらのお嬢様が急遽お帰りの様子だったので、送らせていただきました。
 それに会場で起きた件について第三者の証言も必要かと」

 完璧な平凡さ。
 これなら有象無象の男爵家のパッとしない令息にしか見えないわ。

 アタシはこっそり深呼吸して、ぎゅっと拳を握る。

 さぁ戦闘開始ね!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

完結 冗談で済ますつもりでしょうが、そうはいきません。

音爽(ネソウ)
恋愛
王子の幼馴染はいつもわがまま放題。それを放置する。 結婚式でもやらかして私の挙式はメチャクチャに 「ほんの冗談さ」と王子は軽くあしらうが、そこに一人の男性が現れて……

【完結】この地獄のような楽園に祝福を

おもち。
恋愛
いらないわたしは、決して物語に出てくるようなお姫様にはなれない。 だって知っているから。わたしは生まれるべき存在ではなかったのだと…… 「必ず迎えに来るよ」 そんなわたしに、唯一親切にしてくれた彼が紡いだ……たった一つの幸せな嘘。 でもその幸せな夢さえあれば、どんな辛い事にも耐えられると思ってた。 ねぇ、フィル……わたし貴方に会いたい。 フィル、貴方と共に生きたいの。 ※子どもに手を上げる大人が出てきます。読まれる際はご注意下さい、無理な方はブラウザバックでお願いします。 ※この作品は作者独自の設定が出てきますので何卒ご了承ください。 ※本編+おまけ数話。

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

完結 白皙の神聖巫女は私でしたので、さようなら。今更婚約したいとか知りません。

音爽(ネソウ)
恋愛
もっとも色白で魔力あるものが神聖の巫女であると言われている国があった。 アデリナはそんな理由から巫女候補に祀り上げらて王太子の婚約者として選ばれた。だが、より色白で魔力が高いと噂の女性が現れたことで「彼女こそが巫女に違いない」と王子は婚約をした。ところが神聖巫女を選ぶ儀式祈祷がされた時、白色に光輝いたのはアデリナであった……

私も処刑されたことですし、どうか皆さま地獄へ落ちてくださいね。

火野村志紀
恋愛
あなた方が訪れるその時をお待ちしております。 王宮医官長のエステルは、流行り病の特効薬を第四王子に服用させた。すると王子は高熱で苦しみ出し、エステルを含めた王宮医官たちは罪人として投獄されてしまう。 そしてエステルの婚約者であり大臣の息子のブノワは、エステルを口汚く罵り婚約破棄をすると、王女ナデージュとの婚約を果たす。ブノワにとって、優秀すぎるエステルは以前から邪魔な存在だったのだ。 エステルは貴族や平民からも悪女、魔女と罵られながら処刑された。 それがこの国の終わりの始まりだった。

行き場を失った恋の終わらせ方

当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」  自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。  避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。    しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……  恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。 ※他のサイトにも重複投稿しています。

完結 若い愛人がいる?それは良かったです。

音爽(ネソウ)
恋愛
妻が余命宣告を受けた、愛人を抱える夫は小躍りするのだが……

【完結160万pt】王太子妃に決定している公爵令嬢の婚約者はまだ決まっておりません。王位継承権放棄を狙う王子はついでに側近を叩き直したい

宇水涼麻
恋愛
 ピンク髪ピンク瞳の少女が王城の食堂で叫んだ。 「エーティル様っ! ラオルド様の自由にしてあげてくださいっ!」  呼び止められたエーティルは未来の王太子妃に決定している公爵令嬢である。  王太子と王太子妃となる令嬢の婚約は簡単に解消できるとは思えないが、エーティルはラオルドと婚姻しないことを軽く了承する。  その意味することとは?  慌てて現れたラオルド第一王子との関係は?  なぜこのような状況になったのだろうか?  ご指摘いただき一部変更いたしました。  みなさまのご指摘、誤字脱字修正で読みやすい小説になっていっております。 今後ともよろしくお願いします。 たくさんのお気に入り嬉しいです! 大変励みになります。 ありがとうございます。 おかげさまで160万pt達成! ↓これよりネタバレあらすじ 第一王子の婚約解消を高らかに願い出たピンクさんはムーガの部下であった。 親類から王太子になることを強要され辟易しているが非情になれないラオルドにエーティルとムーガが手を差し伸べて王太子権放棄をするために仕組んだのだ。 ただの作戦だと思っていたムーガであったがいつの間にかラオルドとピンクさんは心を通わせていた。

処理中です...