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09 ピンクブロンドとヒロイン
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アタシとマカロンお嬢様は、異母姉妹。
侯爵家の婿に入った男が、奥さんの目を盗んで侍女に仕込んだ子種がアタシ。
そして男が正妻に仕込んだ子種がマカロンお嬢様。
だからマカロン義姉さまぁ、とか御義姉様と呼ぶべきなのかもしれない。
今となっては恥ずかしい話だけど。
ずっとずっと昔、夢なんてものを見ていいと思っていたバカな頃。
アタシは、おねえちゃんが欲しいって思ってた。
娼館が建ち並ぶ間をくねくねと走る『ガタピシ小路』の底から青空を見上げては。
きっと、きっと、どこかに。
アタシの、アタシだけのおねえちゃんがいて、やさしくしてくれて、なんでも話を聞いてくれて。
だいじょうぶだよ。って言ってくれて。
アタシが、男にオモチャにされるために生まれたんじゃないって言ってくれる。
そんなピカピカでキラキラなおねえちゃんがいないかなって。
そんな風な夢を見たわ。
でも、マカロンお嬢様は姉じゃない。
もちろんおねえちゃんなんかであるはずがない。
アタシより圧倒的に強力な相手。
アタシを破滅させようとしてくる相手。
そんな存在を姉なんて呼べない。
向こうも同じ、アタシを妹だなんて思っていない。
婚約を潰す道具、潰したあとで処分する道具としか思っていない。
あの人はお貴族サマで、『ピンクブロンドの呪い』を信じてる。
アタシの事はそういう目でしか見ていない。
「でも、君がマカロン嬢をいじめてるって話もあるよ。本宅から追い出して離れへ追いやったとか色々」
「はぁ……そうね」
そっちは、あの屋敷の奉公人どもが蒔いている。
「しかも君達母娘の我が儘で辞めさせられたことになっている奉公人達がね」
アタシは彼らの誰も辞めさせていない。
愚かな両親には、そういうコトはすんなって、何度も何度も釘を刺した。
でも、バカにつける薬はなかった。
バカが好き放題わがままを通せる環境ならばなおさらだ。
かあちゃんは、ちょっとしたことで奉公人達を次々と辞めさせた。
侯爵夫人を敬ってないとか、目つきが悪いとか、そんなことで。
バカかと。
あの奉公人達は、かあちゃんの前で、わざと気に障る行為をしたのだ。
その証拠に、辞めさせられた奉公人達は、誰一人生活に困っていない。
普通、当主や当主夫人の不興を買って辞めさせられたら、次の奉公先探しに苦労するものだ。
なのに、みんな即日再就職している。
しかも、マカロンお嬢様の知り合いのお屋敷ばかりにだ。
辞めさせられた奴等は、アタシ達母娘の悪口をせっせとばらまいてるらしい。
アタシは何もしていないのに、ワガママで恩知らずなピンクブロンドってことにされちゃってる。
さっきのパーティ会場でもさんざん陰口叩かれた。
高貴な方々は、聞こえるように陰口言うのお上手。
せめて、部屋を奪ったくらいは事実無根で通したかったんだけどね……。
昨日、強引にお屋敷へ呼び戻されてビックリ。
アタシの部屋は本宅に、マカロンお嬢様の部屋が離れにチェンジされていた。
ああ、ついにやっちまったよ!
なぁにが『もう遠慮しなくていいのよ、アンタこそがこのお屋敷のお嬢さんなんだから』だ。
あの人からザッハトルテを奪って、アタシの婚約者に出来そうだから、勝ったつもりだったんでしょうけど。
ヤバイから! もうほとんど詰まされてるから!
あの瞬間、アタシは、かあちゃんを見捨てる決断をした。
遅すぎる決断だったし、すでにどうにもならないことは判ってたけど。
そもそもかあちゃんは侯爵夫人にすらなってない。
だけどそれは、言いたくても言えなかった。
本当のことを知ったら、思慮の浅いバカどもが、何かしでかすに決まってるんだから。
「何か事が起こって、あの屋敷のことを調べられたら、君達母娘の悪行が暴露されるってわけだ。
屋敷にほとんど帰らない君が、どうやっていじめてるのか謎だけどね」
「アタシだって知りたいわよ。でも、それが事実」
そう。
事実なのだ。事実でなくても事実になるのだ。
呪われたピンクブロンドのアタシは、異母姉であるマカロン嬢を虐げているロクでなしの義妹。
卑しい母娘が結託して、マカロン嬢から何もかも奪い取ろうとする。
宝石もドレスも部屋も婚約者もお屋敷も!
それが貴族という名の蛇どもが信じることにする事実だ。
それこそが『ピンクブロンドの呪い』なのだ。
侯爵家の婿に入った男が、奥さんの目を盗んで侍女に仕込んだ子種がアタシ。
そして男が正妻に仕込んだ子種がマカロンお嬢様。
だからマカロン義姉さまぁ、とか御義姉様と呼ぶべきなのかもしれない。
今となっては恥ずかしい話だけど。
ずっとずっと昔、夢なんてものを見ていいと思っていたバカな頃。
アタシは、おねえちゃんが欲しいって思ってた。
娼館が建ち並ぶ間をくねくねと走る『ガタピシ小路』の底から青空を見上げては。
きっと、きっと、どこかに。
アタシの、アタシだけのおねえちゃんがいて、やさしくしてくれて、なんでも話を聞いてくれて。
だいじょうぶだよ。って言ってくれて。
アタシが、男にオモチャにされるために生まれたんじゃないって言ってくれる。
そんなピカピカでキラキラなおねえちゃんがいないかなって。
そんな風な夢を見たわ。
でも、マカロンお嬢様は姉じゃない。
もちろんおねえちゃんなんかであるはずがない。
アタシより圧倒的に強力な相手。
アタシを破滅させようとしてくる相手。
そんな存在を姉なんて呼べない。
向こうも同じ、アタシを妹だなんて思っていない。
婚約を潰す道具、潰したあとで処分する道具としか思っていない。
あの人はお貴族サマで、『ピンクブロンドの呪い』を信じてる。
アタシの事はそういう目でしか見ていない。
「でも、君がマカロン嬢をいじめてるって話もあるよ。本宅から追い出して離れへ追いやったとか色々」
「はぁ……そうね」
そっちは、あの屋敷の奉公人どもが蒔いている。
「しかも君達母娘の我が儘で辞めさせられたことになっている奉公人達がね」
アタシは彼らの誰も辞めさせていない。
愚かな両親には、そういうコトはすんなって、何度も何度も釘を刺した。
でも、バカにつける薬はなかった。
バカが好き放題わがままを通せる環境ならばなおさらだ。
かあちゃんは、ちょっとしたことで奉公人達を次々と辞めさせた。
侯爵夫人を敬ってないとか、目つきが悪いとか、そんなことで。
バカかと。
あの奉公人達は、かあちゃんの前で、わざと気に障る行為をしたのだ。
その証拠に、辞めさせられた奉公人達は、誰一人生活に困っていない。
普通、当主や当主夫人の不興を買って辞めさせられたら、次の奉公先探しに苦労するものだ。
なのに、みんな即日再就職している。
しかも、マカロンお嬢様の知り合いのお屋敷ばかりにだ。
辞めさせられた奴等は、アタシ達母娘の悪口をせっせとばらまいてるらしい。
アタシは何もしていないのに、ワガママで恩知らずなピンクブロンドってことにされちゃってる。
さっきのパーティ会場でもさんざん陰口叩かれた。
高貴な方々は、聞こえるように陰口言うのお上手。
せめて、部屋を奪ったくらいは事実無根で通したかったんだけどね……。
昨日、強引にお屋敷へ呼び戻されてビックリ。
アタシの部屋は本宅に、マカロンお嬢様の部屋が離れにチェンジされていた。
ああ、ついにやっちまったよ!
なぁにが『もう遠慮しなくていいのよ、アンタこそがこのお屋敷のお嬢さんなんだから』だ。
あの人からザッハトルテを奪って、アタシの婚約者に出来そうだから、勝ったつもりだったんでしょうけど。
ヤバイから! もうほとんど詰まされてるから!
あの瞬間、アタシは、かあちゃんを見捨てる決断をした。
遅すぎる決断だったし、すでにどうにもならないことは判ってたけど。
そもそもかあちゃんは侯爵夫人にすらなってない。
だけどそれは、言いたくても言えなかった。
本当のことを知ったら、思慮の浅いバカどもが、何かしでかすに決まってるんだから。
「何か事が起こって、あの屋敷のことを調べられたら、君達母娘の悪行が暴露されるってわけだ。
屋敷にほとんど帰らない君が、どうやっていじめてるのか謎だけどね」
「アタシだって知りたいわよ。でも、それが事実」
そう。
事実なのだ。事実でなくても事実になるのだ。
呪われたピンクブロンドのアタシは、異母姉であるマカロン嬢を虐げているロクでなしの義妹。
卑しい母娘が結託して、マカロン嬢から何もかも奪い取ろうとする。
宝石もドレスも部屋も婚約者もお屋敷も!
それが貴族という名の蛇どもが信じることにする事実だ。
それこそが『ピンクブロンドの呪い』なのだ。
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