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07 ピンクブロンドとニヤニヤ少年

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「それにしても弱かったなぁ。君のパンチ一発で尻餅ついてんの。
 なにあの軟弱っぷり。あれが侯爵家の令息とか終わってる」
「鼻と口の間は弱いのよ。体験してみる?」

 ニヤニヤ少年はわざとらしく肩をすくめた。

「おおこわ。遠慮するよ」

 いちいち芝居がかってる。いい気がしない。
 こいつにとっては、全部ひとごとだから当然だけど。

 アタシとこいつはクラスメートだ。

 3年前。
 アタシは平民や下級貴族が通うグリーグ中等学園に入学して、そこで出会った。

 忌々しいピンクブロンドの髪のせいで、寮で同室になったアンナ以外は友達らしい友達も出来なかったけど、それでよかった。
 将来確実に来る破滅に備えなるためには遊んでるヒマなんてなかったのだ。
 授業、予習復習、それと学費を少しでも稼ぐために、学園の中で小間使いとしてお茶くみとして掃除婦として走り回って手一杯。

 バカ親どもからの送金はあったけど、これは使うと後が怖いお金だから手をつけられない。

 そんなアタシはクラスの中では浮いてたけど、コイツはさりげなく溶け込んでいた。

 でも、混ざってはいなかった。砂の中の針のように異物だった。
 クラスでちょっとした諍いが起こると、いつも一歩引いて観察していた。
 見守るんじゃない、それよりも冷たく他人事。観察だ。
 コイツの唇にはいつも、誰も気づかないくらい僅かだけど、皮肉めいた笑みが浮かんでいた。
 面白がっていた。

 だから、いよいよあの人が18歳になる一週間前、思い切って話しかけたのだ。
『おもしろいもんが見せられると思うから、ちょっと協力してくれない?』って。
 そしたらコイツは、無遠慮にアタシの頭からつま先までジロジロとたっぷり観察した。
 いやらしい目ではなくて、アリの行列でも見るような目でだ。
『ふぅん。破滅するところでも見せてくれんの? ありきたりでつまんないね』
 アタシは、自信ありげに返してやった。
『そんなありきたりより、史上初めて破滅から逃げおおせるピンクブロンドを見せてあげるわ』
 コイツは、アタシの顔を初めてちゃんと見ると、
『いいよ。退屈してたから』と答えて、ニヤニヤと笑ったのだ。

 アタシの勘は間違ってなかった、と思う。
 コイツは、どういうツテでか、あの会場にも潜り込めたし、速い馬車も用意してくれた。

 でも、それでも、気にくわない。



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