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05 ピンクブロンドは第一の罠から逃走する。

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 目の前で、見事なピンクブロンドの髪が揺れている。

 アタシだ。
 馬車の真っ暗な窓に映ったアタシ。

 キラキラ輝くピンクブロンドの髪は、くるくるとカールして、愛くるしくも忌々しい。
 ぱっちりとした青い瞳、愛らしい唇、かわいらしい小動物系のルックスは色ボケどもの保護欲を大いにそそる。
 しかもこの女、ちっこいボディのくせに、胸は無駄なくらいムチムチときてる!
 そいつが、砂糖菓子みたいなピンクのスケスケドレスに包まれてるんだから、下半身が服着て歩いてるような殿方にとってさぞ美味しそうに見えるんでしょうね。
 いかにも『アタシを食べてぇ』って感じだ。

 ああ、恥ずかしい。恥ずかしすぎる!

 早く髪を真っ黒に染めたいっ。
 ポニーテールでいい加減に結いたい!
 この胸の贅肉にタオルをきつく巻き付けたい!
 この品の悪いドレス着替えて、着古した学生服に戻りたいっ。
 ダサイ伊達メガネかけたいっ。

「クックック。面白かったね。
 君に殴られたザッハトルテの白目剥いた顔!
 思い出すだけで笑いがこみあげてくるよ! くっくぷぷぷぷ」

 アタシは対面に座る少年を睨み付けた。

「アンタにとってはね。さぞや珍奇な見世物だったでしょうよ。
 当事者のアタシにゃぜんぜんおもしろくないわよ」

 少年はニヤニヤ笑いをやめない。
 偉そうに脚なんか組んじゃって、なにもかもカンに触る。

 このクラスメートとは関わりたくなかった。

 ごく平凡な容姿、平均的な背格好。
 僅かにカールがかかった黒い髪も特徴というほどではない。
 下級貴族と平民の子息が通う学園に違和感なく溶け込んでいた。

 誰もがこの見た目にだまされてる。

 目つきが他の学生達と違うのだ。
 ひとりだけ檻の外から中を見ているような眼差し。

 娼館街や貧民窟に視察と称してやって来ていた貴族どもの目つきにそっくりだ。
 好奇心と無責任さの傲慢さの絶妙なブレンド。
 珍奇な動物の生態を見ているような眼差し。


「ククッ。あんまりに予想外の展開だったんで、
 追いかけてくるヤツもいないようだね」

 馬車は凄い速さで夜を駆けていく。
 速さは重要。
 報せが届くより早く屋敷へ帰らなきゃならない。

 事前の打ち合わせどおり。
 会場を出たアタシは、すぐ後から出てきたコイツの馬車に乗せてもらったのだ。

「それにしても、いかにも殴り慣れてる感じだったね」

 手に嫌な感触が残っている。

「……人を殴ったのは3年ぶりよ」

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