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03 婚約破棄がやってくる! (俯瞰視点)
しおりを挟むさぁ、ピンクブロンドの返答だ。
耳を澄ましている周囲は、あけすけで媚び媚びの台詞を期待しているっ!
「アタシはああいう服装が好きなの。
今夜、この場にいて、こんな格好をしているのこそが無理矢理なんだけど」
……。
周囲が期待した台詞ではなかったが、そんなのは後で修正すればいい些細な事だ。
そもそも、こんなまともな台詞をピンクブロンドが言う筈がない。
周囲は空耳だと正しく結論づけた。
「かわいそうなフランボワーズ!
ボクは決めたんだ! 君をあの高慢なマカロンから救うって!
平民の血が半分入っているとはいえ君にだってしあわせになる権利があるんだ!」
正義の男の方は珍事に相応しい台詞を垂れ流している!
ピンクブロンドの方もそれに相応しい台詞を言ったのだろう。さっきのは空耳だ。
もし違ったとしても、後で話題のネタになった時には正しくふさわしく訂正されているだろう。
「ボクは君をしあわせにするよ!
だから、ボクはアイツとの結婚を破棄する! うれしいだろ!」
さぁピンクブロンドの返答だ!
今度こそ期待通り定番の返答をしてくれよ!
「……やめたほうがいいんじゃないかな。
貴族同士の婚約を当主でもない人間が勝手に破棄したら、
後で何が起きるか考えるべきよ」
……。
周囲が少しざわめく。
おかしい。
今夜はことのほか空耳が多い。
余りにも耳を澄ませすぎたせいで、かえって幻聴が聞こえてしまうのだろうか?
高貴な人々の婚約の常識を、ピンクブロンドが知るわけがないのだから。
「ボクを心配してくれているんだねフランボワーズ!
確かに、婚姻を勝手に破棄するのは難しい。
でも、ここにいる人達の前で宣言すれば、父上も母上も認めざるをえなくなるんだ!」
正義の男ザッハトルテは、周囲の期待通りのバカトークを続ける。
まさしくバカであるアホである。
だが本人だけは格好いいつもりなのだ。
なるほど。と周囲は納得。
まともで冷ややかさえ聞こえたピンクブロンドの台詞だったが、それは、のぼせ男を婚約破棄宣言へ誘導するためだったのだ。
ピンクブロンドの卑しい女は、中途半端に狡猾だと相場が決まっている。
正義の男は、ピンクブロンドのあらわな肩をぐっと掴み、暑苦しくも情熱的に迫る。
未婚の娘に肉体的に迫るとは、なんというふしだらな振る舞い。
貴族の子弟としてあるまじき行為。
だが、ピンクブロンドの呪いに囚われた哀れなバカは、既に紳士でない。
そして、ピンクブロンドはまぎれもなく娼婦なのだ。
「人前でも人前でなくても、こんなことはやめてよっ」
心底嫌そうな声だが、これこそが娼婦のテクニック。
嫌よ嫌よも好きなうち。
こうやって獲物をますまその気にさせるのだ。
恐るべきピンクブロンド。
「大丈夫だよ。
さぁ、俺達の愛の深さを周りにしらしめてやろうじゃないか」
来る! 来る! 来る!
会場のボルテージが密やかにあがる。
高貴な方々は精一杯耳を澄まし、さりげない風で何も見逃さぬ構えだ!
いよいよ、いよいよだ。婚約破棄宣言が来る!
10年に一度くらいやらかすバカは出るが、立ち会える確率は高くない。
高貴な方々は、この珍事を見物する機会に恵まれた幸運を噛みしめつつ、期待と興奮にふるえている!
ここがピンクブロンドの絶頂。そして転落の始まり。
婚約破棄宣言が行われた瞬間、眉目秀麗で知られた第二王子フェルディナンド殿下がさっそうと現れる手はずになっている。
尻軽なピンクブロンドは、殿下の容貌にたちまちのぼせ上がり、媚び媚びなふるまいをするだろう。
高貴な第二王子は、当然それを黙殺し、卑しい平民同士の婚約を認めてやるのだ。
そして、早く報告したいだろうからと、自分の馬車で二人を屋敷へ送り届けようと提案までしてくれるのだ。
拍手喝采の中で、二人はバカな企てが成功したと思い込み、意気揚々と屋敷へ送り届けられ、マカロン嬢の逆襲で、完膚なきまでに叩きのめされる。
かくして『ピンクブロンド』は破滅する。
そして『ピンクブロンドの呪い』は続く。
呪われしピンクブロンドよ永遠なれ。
これは知性に乏しく欲深く身の程知らずな平民どもに、貴族になりあがろうなどとするなという教訓を与える道徳的なショーなのだ。
貴族は高貴。庶民とは違う存在。
哀れな平民どもに、繰り返し繰り返し教え込んでやらなければならないのだ。
ピンクブロンドは、その生贄なのだ。
さぁさぁさぁ婚約破棄宣言を!
ますます高まる周囲の期待!
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