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翌日、ダンジョンへ入ったエレミアは、リオンと冒険者一行の強さにただ驚くことになった。
彼らは着いて早々最下層と呼ばれる地下九十一階へと転移装置を使って降り、慣れた様子で戦闘を始めた。
「好きに攻撃して良い」と言われて戸惑うエレミアの護衛としてついてくれたのは、最高ランクの冒険者の一人、回復役の女性だった。
ジェーンと名乗り、今まさに戦闘しているロイという名の戦士と結婚していると言い、子供が一人いて今は両親が見てくれているらしい。
「結婚して子供が出来てから、泊まり込みの依頼は滅多に受けられなくなっちゃってね、ほら、やっぱ子供心配じゃん?だから日帰りできる護衛とか、次期元首サマがダンジョンでストレス発散したい時に便乗して、戦利品もらったりとかで稼いでてね~!あ、もちろん国からの正式な依頼とか来ちゃったらね~、報酬次第で泊まりの依頼も受けるけどね。他国にも出向くよ~!でもエレミアちゃんの国はダンジョンないし、冒険者があの国行ってもなんていうか、ものすごく余所者感半端なくてさ~!仕事もないし、観光がてら一回行ったらもういいかなって感じで。…あっ!悪く思わないでね!エレミアちゃんの出身国だからって、エレミアちゃんを悪く言ってるわけじゃなくて、えーっとぉ…」
「あの、大丈夫ですわ。わかっておりますし、皆様とてもお強くて立派な冒険者でいらっしゃいますもの」
「あっそう言ってくれると助かる~!」
怒濤の勢いで話をしながらも、戦闘しているメンバーの回復はしっかりしつつ、強化魔法まで使っている。
エレミアもまた、リオンを始めメンバーが戦っている後方から、徐々に魔法の威力を上げて、どの程度敵に通用するかを確認作業中である。
横から立て板に水の如く話しかけられ、なかなか集中する事が難しい。
最高ランクの冒険者って、すごいのね。
尊敬する。
そんな中に混じっているリオンとは一体何者なのか。
最高ランク冒険者はこの回復役の女性を含めて五人。
聖王国の聖騎士団は、数十人単位で戦闘し、交代要員も大量に引き連れてダンジョンの最深部の維持管理をしているというのに。
リオンを加えて六人で最深部へと到達しようというのだった。
しかも日帰りで。
エレミアはおまけのようなものなので、人数には含んでいない。
「皆様は、勇者の血を引いていらっしゃったり…?」
「え、いやぁ、うちの旦那は勇者の末裔らしいよ。帝国出身なんだけどね。お祖父さんは皇族の一人だったとかなんとか」
「ああ、どうりでとてもお強いと思いました」
「でっしょ~?私もね~、聖女様の末裔なんだ~」
「えっ」
「といっても、遠い遠いご先祖様に、王族のご落胤がいたとかなんとか。今では末端の貴族なんだけど~!貴族っていっても下手したら平民より貧乏なんじゃ?って感じでさ、だから冒険者なんてやってるんだけどね!」
「そ、そうなんですね…」
「オレグは魔導王国出身だし、イワンは皇国出身でさ、ビリーは私と同じ聖王国出身だけどみんなてんでバラバラなの。でもかつての魔王討伐の時の勇者パーティーの末裔っていうのは共通してるんだ。不思議でしょ~?」
「よくそんな方々と出会って、パーティーを組めましたね?」
「元々は皆、別のパーティーだったんだ。それをさ、次期元首サマが「一緒にダンジョン潜らないか、稼がせてやる」って声かけてくれて~」
「彼が?」
「そーそー。彼曰く、うちらは冒険者として抜きんでた能力を持っているのに、今のパーティーじゃその能力を発揮できずに力の持ち腐れだぞ、機会損失だ、とかなんとか言っちゃってさ。最初はうさんくさー!って思ったんだけど~、まぁほら、冒険者も毎日やってるわけじゃないじゃん?試しに、って参加してみたら、今のメンバーがいて、ホント皆なんか、他の連中と違ったんだよね~。うーん、光るモノがあったっていうの?自分で言うのも恥ずかしいけどね!」
「彼の見る目があったんですね」
「そうそう、おまけに本人めちゃ強じゃん?何だよ~勇者の生まれ変わりか、魔王の生まれ変わりかよー!って」
「え、そういうの、わかるんですか?」
「いや全然わかんないけど。けどうちら今最高ランクじゃん?最高ランクって、すごいってことじゃん?そんなすごいうちらを見出してくれた同じくらい強い次期元首サマだって、タダ者じゃないと思うんだよね~」
「な、なるほど、確かにそうですね~」
「でしょ~?不思議なんだけどさ、次期元首サマと一緒に行動してるとなんつーの、ものすごい優秀な指揮官に指揮されてる感あるっていうかぁ」
「あぁ、わかります~」
「お、マジで~!?話わかるぅ~!」
思わずつられて語尾が伸びてしまったが、なるほど彼らの戦いはリオンを中心に回っていた。
普段は戦士ロイがリーダーらしいのだが、明らかにリオンを立てて指示を聞いており、そして上手く回っていた。
リオンはいつの間にこれだけの強さを手に入れていたのだろう。
我が公爵家の人間は、初代の力のおかげか、皆魔力量は豊富であり剣も魔法も得意である。女性はあまり積極的に剣の稽古はしないけれども、運動神経は良く、困ることはない。男性陣は鍛えれば鍛えるだけ強くなれるので、歴代の直系男子で努力した者は、出身によらず己の実力のみで他国の騎士団長や将軍になることすら可能だった。次兄レヴィも、将来の聖騎士団長であると目されており、実力は聖騎士団一である。
リオンは人間であり、公爵家の血が入っているとはいえ、勇者の血筋であるとか、そんな由来はないはずだ。
たまたま公爵家の血が濃く出たのだろうか。
ともに活動している勇者パーティーの末裔だという、彼らのように。
実力も勇者達の末裔と変わりないように見えるのが、恐ろしいところだ。
おかげで商業国家のダンジョンは、リオンと最高ランクの冒険者を中心として維持管理がなされている為、冒険者達にとって、「冒険者」という職業が憧れのものであるという。
いいことだと思う。
「それにしてもエレミアちゃんってホント美人すぎない?エレミアちゃんが今まで見た人間の中で一番美人だと思う。あ、次期元首サマも美人だけど~、でもなんていうか次期元首サマは美人っていうか強すぎて格好いいって言わなきゃいけない気になるよね。だから除外。でもエレミアちゃんと同じく人外って感じがする~!親戚なんだっけ?」
「血は少し遠いですけれど」
「あー美人の家系かー!うっらやましぃ~!」
「憧れの冒険者」のイメージが崩れそうな喋り具合に、エレミアは苦笑混じりになる。
「おそらく、勇者の末裔と呼ばれる皆様にも、我が家の血は入っているんじゃないかと思います」
「えっ?そーなの?」
「はい。我が家は初代の時からずっと、各国の王族や上位貴族と血縁関係がありますので」
「ま、マジかー!知らなかったぁー!えっじゃぁ何で私、美人じゃないのかな?あっでも可愛いとは言われるよ!ねっ」
「あ、はい」
「血が遠いからかなぁ。あーでもちょっと希望が見えてきたかな。子供がほら、もしかしたら奇跡が起こって美人になるかもしれないじゃんね?」
「そうですね」
おそらく今最高ランクとして活躍している彼らが、「勇者の末裔」としての血と能力を色濃く継いでいる人達であるから、いつかは公爵家の血を濃く反映する者が生まれてもおかしくはないかもしれない。
そんな話をしながらも順調に攻略は進んで行く。
信じられないかもしれないが、最深部を目指しているパーティーなのだった。
移動や休憩の時にはリオンがやって来て、気遣ってくれる。
メンバー達も皆親切で、今日参加出来て本当に良かったと思った。
エレミアの魔法の威力は、おそらくチートと言われる類のものではないかと思う。
冒険者は経験を積み、レベルを上げて行く。
魔法の威力も初心者魔道士であれば、たいしたことはない。仮に最上級魔法を知っていたとしても、魔力が足りず、経験が足りずに発動することすら不可能だ。
だがエレミアは最初から最上級魔法を唱えることができた。
もちろん慣れるまでは威力を最小限に抑え、攻撃範囲も狭く設定して誤爆を防ぐことに尽力したが、魔法の詠唱から発動までを何度も繰り返すうちに、コツがわかってきたのだった。
最深部である百階に到達する頃には、知っている魔法は過不足なく唱えることが出来るようになっていた。おそらく初代の加護を持つ、虹色の瞳持ちだからこそだろうと思われたが、誰もツッコミを入れてくることはなかった。
次期元首の連れ、ということで気にしないでいてくれるのかもしれない。
リオンの強さは最高ランクの冒険者と遜色ないもので、最深部に到達してなお余裕があるのが恐ろしい。
「今日は楽しかったよ~!ありがと~次期元首サマー!エレミアちゃんもありがとねー!」
戦利品の山を魔道具のバッグに片づけ、見かけは軽装に見える冒険者達の表情は明るかった。最深部のボスまで倒し、分配しても数か月は暮らしていける程の稼ぎになったと大喜びである。
「こちらこそ、一緒に連れて行って下さってありがとうございました」
「エレミアちゃんったら最初はめっちゃ遠慮してたでしょー?最後らへんはぶっぱできて良かったねー!」
「ぶっぱ…?あ、ええ、ぶっ放しできて、楽しかったです」
「ふふーん!こっちこそたくさん稼がせてくれてありがとね!皆も大満足ー!」
「ありがとうございました」
「お疲れ。明日からはまた護衛を頼む」
リオンの言葉に皆は元気良く頷いていた。
「了解ー!明日は旦那とー、オレグが行くからよろしくね!」
「ああ」
転移装置前で別れ、リオンと二人で元首邸へと戻る。
今日の護衛役であったイワンとビリーも今日は終了ということで別れた。
「疲れてないか?一日移動しっぱなしの戦いっぱなしだったろう。辛そうな様子がなかったからいつものように進んでしまったが…」
「大丈夫。魔法をたくさん使って精神的には疲れているけれど、体力的には回復しながら移動していたから平気」
「ああ…無理しなくて良かったのに」
「いいえ、とても楽しくて充実した一日だった。本当にありがとうリオン兄様!」
笑顔を向ければ、苦笑された。
「そうか。ならいいが。明日も少し出かけようと思うんだが、平気かな?」
「もちろん。リオン兄様が強くて本当に驚いたわ。どうして隠していたの?」
「隠していたつもりはないが…見せる機会がなかったから、かな。でもエレミアがこの国に来るなら、またダンジョンに行こう」
「とても魅力的なお誘いね」
「それは良かった」
「じゃあ、今日はこれで帰るわね。本当にありがとう。リオン兄様がいたからダンジョンも楽しく過ごすことができたわ」
「嬉しいことを言ってくれるね。また明日」
「ええ、また明日」
元首邸に設置されている転移装置で自宅へと戻るエレミアの足取りは軽かった。
彼らは着いて早々最下層と呼ばれる地下九十一階へと転移装置を使って降り、慣れた様子で戦闘を始めた。
「好きに攻撃して良い」と言われて戸惑うエレミアの護衛としてついてくれたのは、最高ランクの冒険者の一人、回復役の女性だった。
ジェーンと名乗り、今まさに戦闘しているロイという名の戦士と結婚していると言い、子供が一人いて今は両親が見てくれているらしい。
「結婚して子供が出来てから、泊まり込みの依頼は滅多に受けられなくなっちゃってね、ほら、やっぱ子供心配じゃん?だから日帰りできる護衛とか、次期元首サマがダンジョンでストレス発散したい時に便乗して、戦利品もらったりとかで稼いでてね~!あ、もちろん国からの正式な依頼とか来ちゃったらね~、報酬次第で泊まりの依頼も受けるけどね。他国にも出向くよ~!でもエレミアちゃんの国はダンジョンないし、冒険者があの国行ってもなんていうか、ものすごく余所者感半端なくてさ~!仕事もないし、観光がてら一回行ったらもういいかなって感じで。…あっ!悪く思わないでね!エレミアちゃんの出身国だからって、エレミアちゃんを悪く言ってるわけじゃなくて、えーっとぉ…」
「あの、大丈夫ですわ。わかっておりますし、皆様とてもお強くて立派な冒険者でいらっしゃいますもの」
「あっそう言ってくれると助かる~!」
怒濤の勢いで話をしながらも、戦闘しているメンバーの回復はしっかりしつつ、強化魔法まで使っている。
エレミアもまた、リオンを始めメンバーが戦っている後方から、徐々に魔法の威力を上げて、どの程度敵に通用するかを確認作業中である。
横から立て板に水の如く話しかけられ、なかなか集中する事が難しい。
最高ランクの冒険者って、すごいのね。
尊敬する。
そんな中に混じっているリオンとは一体何者なのか。
最高ランク冒険者はこの回復役の女性を含めて五人。
聖王国の聖騎士団は、数十人単位で戦闘し、交代要員も大量に引き連れてダンジョンの最深部の維持管理をしているというのに。
リオンを加えて六人で最深部へと到達しようというのだった。
しかも日帰りで。
エレミアはおまけのようなものなので、人数には含んでいない。
「皆様は、勇者の血を引いていらっしゃったり…?」
「え、いやぁ、うちの旦那は勇者の末裔らしいよ。帝国出身なんだけどね。お祖父さんは皇族の一人だったとかなんとか」
「ああ、どうりでとてもお強いと思いました」
「でっしょ~?私もね~、聖女様の末裔なんだ~」
「えっ」
「といっても、遠い遠いご先祖様に、王族のご落胤がいたとかなんとか。今では末端の貴族なんだけど~!貴族っていっても下手したら平民より貧乏なんじゃ?って感じでさ、だから冒険者なんてやってるんだけどね!」
「そ、そうなんですね…」
「オレグは魔導王国出身だし、イワンは皇国出身でさ、ビリーは私と同じ聖王国出身だけどみんなてんでバラバラなの。でもかつての魔王討伐の時の勇者パーティーの末裔っていうのは共通してるんだ。不思議でしょ~?」
「よくそんな方々と出会って、パーティーを組めましたね?」
「元々は皆、別のパーティーだったんだ。それをさ、次期元首サマが「一緒にダンジョン潜らないか、稼がせてやる」って声かけてくれて~」
「彼が?」
「そーそー。彼曰く、うちらは冒険者として抜きんでた能力を持っているのに、今のパーティーじゃその能力を発揮できずに力の持ち腐れだぞ、機会損失だ、とかなんとか言っちゃってさ。最初はうさんくさー!って思ったんだけど~、まぁほら、冒険者も毎日やってるわけじゃないじゃん?試しに、って参加してみたら、今のメンバーがいて、ホント皆なんか、他の連中と違ったんだよね~。うーん、光るモノがあったっていうの?自分で言うのも恥ずかしいけどね!」
「彼の見る目があったんですね」
「そうそう、おまけに本人めちゃ強じゃん?何だよ~勇者の生まれ変わりか、魔王の生まれ変わりかよー!って」
「え、そういうの、わかるんですか?」
「いや全然わかんないけど。けどうちら今最高ランクじゃん?最高ランクって、すごいってことじゃん?そんなすごいうちらを見出してくれた同じくらい強い次期元首サマだって、タダ者じゃないと思うんだよね~」
「な、なるほど、確かにそうですね~」
「でしょ~?不思議なんだけどさ、次期元首サマと一緒に行動してるとなんつーの、ものすごい優秀な指揮官に指揮されてる感あるっていうかぁ」
「あぁ、わかります~」
「お、マジで~!?話わかるぅ~!」
思わずつられて語尾が伸びてしまったが、なるほど彼らの戦いはリオンを中心に回っていた。
普段は戦士ロイがリーダーらしいのだが、明らかにリオンを立てて指示を聞いており、そして上手く回っていた。
リオンはいつの間にこれだけの強さを手に入れていたのだろう。
我が公爵家の人間は、初代の力のおかげか、皆魔力量は豊富であり剣も魔法も得意である。女性はあまり積極的に剣の稽古はしないけれども、運動神経は良く、困ることはない。男性陣は鍛えれば鍛えるだけ強くなれるので、歴代の直系男子で努力した者は、出身によらず己の実力のみで他国の騎士団長や将軍になることすら可能だった。次兄レヴィも、将来の聖騎士団長であると目されており、実力は聖騎士団一である。
リオンは人間であり、公爵家の血が入っているとはいえ、勇者の血筋であるとか、そんな由来はないはずだ。
たまたま公爵家の血が濃く出たのだろうか。
ともに活動している勇者パーティーの末裔だという、彼らのように。
実力も勇者達の末裔と変わりないように見えるのが、恐ろしいところだ。
おかげで商業国家のダンジョンは、リオンと最高ランクの冒険者を中心として維持管理がなされている為、冒険者達にとって、「冒険者」という職業が憧れのものであるという。
いいことだと思う。
「それにしてもエレミアちゃんってホント美人すぎない?エレミアちゃんが今まで見た人間の中で一番美人だと思う。あ、次期元首サマも美人だけど~、でもなんていうか次期元首サマは美人っていうか強すぎて格好いいって言わなきゃいけない気になるよね。だから除外。でもエレミアちゃんと同じく人外って感じがする~!親戚なんだっけ?」
「血は少し遠いですけれど」
「あー美人の家系かー!うっらやましぃ~!」
「憧れの冒険者」のイメージが崩れそうな喋り具合に、エレミアは苦笑混じりになる。
「おそらく、勇者の末裔と呼ばれる皆様にも、我が家の血は入っているんじゃないかと思います」
「えっ?そーなの?」
「はい。我が家は初代の時からずっと、各国の王族や上位貴族と血縁関係がありますので」
「ま、マジかー!知らなかったぁー!えっじゃぁ何で私、美人じゃないのかな?あっでも可愛いとは言われるよ!ねっ」
「あ、はい」
「血が遠いからかなぁ。あーでもちょっと希望が見えてきたかな。子供がほら、もしかしたら奇跡が起こって美人になるかもしれないじゃんね?」
「そうですね」
おそらく今最高ランクとして活躍している彼らが、「勇者の末裔」としての血と能力を色濃く継いでいる人達であるから、いつかは公爵家の血を濃く反映する者が生まれてもおかしくはないかもしれない。
そんな話をしながらも順調に攻略は進んで行く。
信じられないかもしれないが、最深部を目指しているパーティーなのだった。
移動や休憩の時にはリオンがやって来て、気遣ってくれる。
メンバー達も皆親切で、今日参加出来て本当に良かったと思った。
エレミアの魔法の威力は、おそらくチートと言われる類のものではないかと思う。
冒険者は経験を積み、レベルを上げて行く。
魔法の威力も初心者魔道士であれば、たいしたことはない。仮に最上級魔法を知っていたとしても、魔力が足りず、経験が足りずに発動することすら不可能だ。
だがエレミアは最初から最上級魔法を唱えることができた。
もちろん慣れるまでは威力を最小限に抑え、攻撃範囲も狭く設定して誤爆を防ぐことに尽力したが、魔法の詠唱から発動までを何度も繰り返すうちに、コツがわかってきたのだった。
最深部である百階に到達する頃には、知っている魔法は過不足なく唱えることが出来るようになっていた。おそらく初代の加護を持つ、虹色の瞳持ちだからこそだろうと思われたが、誰もツッコミを入れてくることはなかった。
次期元首の連れ、ということで気にしないでいてくれるのかもしれない。
リオンの強さは最高ランクの冒険者と遜色ないもので、最深部に到達してなお余裕があるのが恐ろしい。
「今日は楽しかったよ~!ありがと~次期元首サマー!エレミアちゃんもありがとねー!」
戦利品の山を魔道具のバッグに片づけ、見かけは軽装に見える冒険者達の表情は明るかった。最深部のボスまで倒し、分配しても数か月は暮らしていける程の稼ぎになったと大喜びである。
「こちらこそ、一緒に連れて行って下さってありがとうございました」
「エレミアちゃんったら最初はめっちゃ遠慮してたでしょー?最後らへんはぶっぱできて良かったねー!」
「ぶっぱ…?あ、ええ、ぶっ放しできて、楽しかったです」
「ふふーん!こっちこそたくさん稼がせてくれてありがとね!皆も大満足ー!」
「ありがとうございました」
「お疲れ。明日からはまた護衛を頼む」
リオンの言葉に皆は元気良く頷いていた。
「了解ー!明日は旦那とー、オレグが行くからよろしくね!」
「ああ」
転移装置前で別れ、リオンと二人で元首邸へと戻る。
今日の護衛役であったイワンとビリーも今日は終了ということで別れた。
「疲れてないか?一日移動しっぱなしの戦いっぱなしだったろう。辛そうな様子がなかったからいつものように進んでしまったが…」
「大丈夫。魔法をたくさん使って精神的には疲れているけれど、体力的には回復しながら移動していたから平気」
「ああ…無理しなくて良かったのに」
「いいえ、とても楽しくて充実した一日だった。本当にありがとうリオン兄様!」
笑顔を向ければ、苦笑された。
「そうか。ならいいが。明日も少し出かけようと思うんだが、平気かな?」
「もちろん。リオン兄様が強くて本当に驚いたわ。どうして隠していたの?」
「隠していたつもりはないが…見せる機会がなかったから、かな。でもエレミアがこの国に来るなら、またダンジョンに行こう」
「とても魅力的なお誘いね」
「それは良かった」
「じゃあ、今日はこれで帰るわね。本当にありがとう。リオン兄様がいたからダンジョンも楽しく過ごすことができたわ」
「嬉しいことを言ってくれるね。また明日」
「ええ、また明日」
元首邸に設置されている転移装置で自宅へと戻るエレミアの足取りは軽かった。
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