影となりて玉を追う

晴なつ暎ふゆ

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 光と影があった。
 光は、毒から逃れることにした。
 影は、毒を飲み込むことにした。
 二つを別つは、セカイであった。



 ***



 月のない夜である。
「月がないって言うのに、此処は随分明るいなぁ」
 ぽつりと夜風に流されていく声があった。
 コンクリートで出来た廃ビルの上の男が零した声である。赤色の頭髪に、赤の猫目。フードの付いた黒の外套を身に纏った男であった。あぐらをかいて気怠げな様子で街を見下ろして、はあ、と溜め息を吐く。
「影を恐れた奴等が住む場所だ。当然だろ」
 赤髪の男の隣に立つ、蒼髪の男が告げた。
 彼もまた特徴的な格好をしている。同じような黒の外套から出た四肢は、包帯が所狭しと巻かれている。赤髪の男よりも鋭い瞳が街を見据えている。更に常人と違う所は、二丁の白鞘を両の腰にそれぞれ差していることだ。
 男達の目線の先には、煌々とした明かりを放つ街がある。色とりどりに光る街を見ながら、赤髪の男は、げえ、と舌を出した。
「だからってこんなに眩しくしなくても」
「光に囲まれた方が安心するんだろ」
「ねぇ~、蒼ってばなんでさっきから投げやりなの?」
 蒼と呼ばれた蒼髪の男は、冷ややかな目で赤髪の男を一瞥する。
「お前がさっきから同じ事ばっかり言うからだ」
「お前じゃありません~、紅ですぅ」
「お前なんかお前で十分だろ」
「はぁ。チームワークって言葉知ってるぅ?」
 覗き込むように顔を向けてきた紅を無視して、蒼はくるりと踵を返す。馬鹿話には付き合い切れない、と言いたげな背中である。その背中を追いかけるように、紅も立ち上がる。裾の長い外套に隠れていた地面が露わになると、そこから長い白鞘が現れた。
「ホント、蒼って付き合い悪いよねぇ」
 のんびりと白鞘を持ち上げた紅は、肩をわざとらしく竦めて、蒼の背中を追った。
 まだ肌寒い風の吹く、三月になったばかりの新月の夜であった。


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