7 / 43
第6話
しおりを挟む
仮病含め四日が経過すると、登校するよう祖母に促された。
いっそのこと治らなければよかったと思いながら、祖母に追い出されるようにして家を出た。
いつも一緒に登校していた翔真はいない。
二人で歩いた道を今日は一人で歩いた。
教室に入ると皆いつも通りで、静まり返っていなかった。葬式の雰囲気だったらどうしようと考えていたが、杞憂だった。
翔真が怪我をしたことを、皆知らないのだろうか。
コートを畳んでロッカーに入れ、机に鞄を置き俯いたまま席についた。
前には麗奈と流星が着席しており、一華を凝視していた。
気まずい沈黙が三人の間に流れていると、他クラスの女子が麗奈を呼んだ。
一華をちらちらと見ながら呼ばれた方へと足を動かし、教室から出て行った。
二人になると流星は口を開いた。
「今日、翔真のお見舞いに行く?」
きっと流星は翔真の状態を知っているのだろう。
何も知らない一華は、どうすべきか悩んでいた。
一華の心情が分からないでもない流星は少し悩み、なるべく責めていないような言葉遣いを選ぶ。
「昨日の夜には目が覚めたみたいだよ。今日は麗奈が見舞いに行く気満々だったから、一華ちゃんさえ良ければ一緒にどうかな。難しかったら、また今度行こう」
落ち着いた声で優しい言葉をかけてくれる流星に、涙が出そうだった。
翔真の目が覚めたと聞いて、漸く張りつめていた緊張が緩んだ。
「麗奈はホームルームが終わってすぐに行きたいみたい。一華ちゃんが今日行けるなら、俺と二人でゆっくり行こうか」
何も聞いてこない流星は、翔真と違った優しさがあった。
その優しさに甘えるように一華は小さく頷いた。
一華の頭が動いたのを確認し、麗奈にメールをする。
聞きたいことは色々あったが、二人の命があって何よりだ。それが流星と麗奈が抱いた感想だった。
朝のホームルームが始まるニ分前に麗奈は席に戻った。
頭を垂れて小さくなっている一華が目に入ると、胸が痛かったが、かける言葉はなく迷った末に教壇に立った担任の方を向いた。
流星はきっと、上手に声をかけたのだろう。自分は何を言えばいいのか、言葉を考えたが正解が見当たらず、もどかしかった。
夕方のホームルームが終わるまで、二人は一華と話すことができなかった。
放課後になると麗奈は走って教室を出て行った。
クラスメイトをかき分けて一人駆ける麗奈の後ろ姿は、一華に寂しさを与えた。
翔真に会いに駆ける麗奈と、翔真に会いたくない自分は対照的だった。
翔真の事故に自分が無関係ならば、麗奈のように一目散に病院へ駆けて行くだろう。
「一華ちゃん、準備できた?」
鞄を用意し、下校する準備ができている流星は、鞄を机に乗せている一華に声をかけた。
見舞いに行く準備はできているが、心の準備はまだできていなかった。
まだ行きたくない。そんなことは言えないので、黙り込む。
そんな一華を察し、席を立とうとしない流星。
このままずっと迷惑をかけるわけにもいかず、きりきりと痛む胃と心に鞭を打って立ち上がった。
鞄を持ち準備ができていることをアピールすると、流星も席を立ち、無言のまま学校から立ち去った。
朝のホームルームにて、話の流れで担任が翔真の入院について話していた。
入院していることだけ触れていたので、どんな状態なのかは分からない。
酷い怪我ではないといいが、流星と麗奈は何も言わなかった。
「翔真の怪我大したことなかったよ」や「ちょっと骨折しただけだったよ」とは言われなかった。一華を安心させる言葉を言えないということは、つまり、状態は良くないということだ。
朝からずっと俯いたままでいる一華の背中を軽く叩き、流星は口を開いたが、「大丈夫だよ」とは簡単に言えなかった。
「大町病院に入院してるから、あそこのバス停からバスに乗って行こう」
遠くに見えるバス停を指すが、大町病院と聞いて一華は喉を鳴らした。
この辺りで一番大きなその病院は救急外来があり、夜間でも患者を受け入れている。重症を負った患者が搬送される先は、大体が大町病院だった。
そんな病院に入院していて、一華を安心させる一言が言えない。見舞いに行った際、どんな悪い結果を聞かされるのだろう。
負の方へと考え始めると、隣で流星が何かを言っても一華には聞こえていなかった。
いっそのこと治らなければよかったと思いながら、祖母に追い出されるようにして家を出た。
いつも一緒に登校していた翔真はいない。
二人で歩いた道を今日は一人で歩いた。
教室に入ると皆いつも通りで、静まり返っていなかった。葬式の雰囲気だったらどうしようと考えていたが、杞憂だった。
翔真が怪我をしたことを、皆知らないのだろうか。
コートを畳んでロッカーに入れ、机に鞄を置き俯いたまま席についた。
前には麗奈と流星が着席しており、一華を凝視していた。
気まずい沈黙が三人の間に流れていると、他クラスの女子が麗奈を呼んだ。
一華をちらちらと見ながら呼ばれた方へと足を動かし、教室から出て行った。
二人になると流星は口を開いた。
「今日、翔真のお見舞いに行く?」
きっと流星は翔真の状態を知っているのだろう。
何も知らない一華は、どうすべきか悩んでいた。
一華の心情が分からないでもない流星は少し悩み、なるべく責めていないような言葉遣いを選ぶ。
「昨日の夜には目が覚めたみたいだよ。今日は麗奈が見舞いに行く気満々だったから、一華ちゃんさえ良ければ一緒にどうかな。難しかったら、また今度行こう」
落ち着いた声で優しい言葉をかけてくれる流星に、涙が出そうだった。
翔真の目が覚めたと聞いて、漸く張りつめていた緊張が緩んだ。
「麗奈はホームルームが終わってすぐに行きたいみたい。一華ちゃんが今日行けるなら、俺と二人でゆっくり行こうか」
何も聞いてこない流星は、翔真と違った優しさがあった。
その優しさに甘えるように一華は小さく頷いた。
一華の頭が動いたのを確認し、麗奈にメールをする。
聞きたいことは色々あったが、二人の命があって何よりだ。それが流星と麗奈が抱いた感想だった。
朝のホームルームが始まるニ分前に麗奈は席に戻った。
頭を垂れて小さくなっている一華が目に入ると、胸が痛かったが、かける言葉はなく迷った末に教壇に立った担任の方を向いた。
流星はきっと、上手に声をかけたのだろう。自分は何を言えばいいのか、言葉を考えたが正解が見当たらず、もどかしかった。
夕方のホームルームが終わるまで、二人は一華と話すことができなかった。
放課後になると麗奈は走って教室を出て行った。
クラスメイトをかき分けて一人駆ける麗奈の後ろ姿は、一華に寂しさを与えた。
翔真に会いに駆ける麗奈と、翔真に会いたくない自分は対照的だった。
翔真の事故に自分が無関係ならば、麗奈のように一目散に病院へ駆けて行くだろう。
「一華ちゃん、準備できた?」
鞄を用意し、下校する準備ができている流星は、鞄を机に乗せている一華に声をかけた。
見舞いに行く準備はできているが、心の準備はまだできていなかった。
まだ行きたくない。そんなことは言えないので、黙り込む。
そんな一華を察し、席を立とうとしない流星。
このままずっと迷惑をかけるわけにもいかず、きりきりと痛む胃と心に鞭を打って立ち上がった。
鞄を持ち準備ができていることをアピールすると、流星も席を立ち、無言のまま学校から立ち去った。
朝のホームルームにて、話の流れで担任が翔真の入院について話していた。
入院していることだけ触れていたので、どんな状態なのかは分からない。
酷い怪我ではないといいが、流星と麗奈は何も言わなかった。
「翔真の怪我大したことなかったよ」や「ちょっと骨折しただけだったよ」とは言われなかった。一華を安心させる言葉を言えないということは、つまり、状態は良くないということだ。
朝からずっと俯いたままでいる一華の背中を軽く叩き、流星は口を開いたが、「大丈夫だよ」とは簡単に言えなかった。
「大町病院に入院してるから、あそこのバス停からバスに乗って行こう」
遠くに見えるバス停を指すが、大町病院と聞いて一華は喉を鳴らした。
この辺りで一番大きなその病院は救急外来があり、夜間でも患者を受け入れている。重症を負った患者が搬送される先は、大体が大町病院だった。
そんな病院に入院していて、一華を安心させる一言が言えない。見舞いに行った際、どんな悪い結果を聞かされるのだろう。
負の方へと考え始めると、隣で流星が何かを言っても一華には聞こえていなかった。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
夫の不貞現場を目撃してしまいました
秋月乃衣
恋愛
伯爵夫人ミレーユは、夫との間に子供が授からないまま、閨を共にしなくなって一年。
何故か夫から閨を拒否されてしまっているが、理由が分からない。
そんな時に夜会中の庭園で、夫と未亡人のマデリーンが、情事に耽っている場面を目撃してしまう。
なろう様でも掲載しております。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
五年目の浮気、七年目の破局。その後のわたし。
あとさん♪
恋愛
大恋愛での結婚後、まるまる七年経った某日。
夫は愛人を連れて帰宅した。(その愛人は妊娠中)
笑顔で愛人をわたしに紹介する夫。
え。この人、こんな人だったの(愕然)
やだやだ、気持ち悪い。離婚一択!
※全15話。完結保証。
※『愚かな夫とそれを見限る妻』というコンセプトで書いた第四弾。
今回の夫婦は子無し。騎士爵(ほぼ平民)。
第一弾『妻の死を人伝てに聞きました。』
第二弾『そういうとこだぞ』
第三弾『妻の死で思い知らされました。』
それぞれ因果関係のない独立したお話です。合わせてお楽しみくださると一興かと。
※この話は小説家になろうにも投稿しています。
※2024.03.28 15話冒頭部分を加筆修正しました。
妻と夫と元妻と
キムラましゅろう
恋愛
復縁を迫る元妻との戦いって……それって妻(わたし)の役割では?
わたし、アシュリ=スタングレイの夫は王宮魔術師だ。
数多くの魔術師の御多分に漏れず、夫のシグルドも魔術バカの変人である。
しかも二十一歳という若さで既にバツイチの身。
そんな事故物件のような夫にいつの間にか絆され絡めとられて結婚していたわたし。
まぁわたしの方にもそれなりに事情がある。
なので夫がバツイチでもとくに気にする事もなく、わたしの事が好き過ぎる夫とそれなりに穏やかで幸せな生活を営んでいた。
そんな中で、国王肝入りで魔術研究チームが組まれる事になったのだとか。そしてその編成されたチームメイトの中に、夫の別れた元妻がいて………
相も変わらずご都合主義、ノーリアリティなお話です。
不治の誤字脱字病患者の作品です。
作中に誤字脱字が有ったら「こうかな?」と脳内変換を余儀なくさせられる恐れが多々ある事をご了承下さいませ。
性描写はありませんがそれを連想させるワードが出てくる恐れがありますので、破廉恥がお嫌いな方はご自衛下さい。
小説家になろうさんでも投稿します。
冤罪から逃れるために全てを捨てた。
四折 柊
恋愛
王太子の婚約者だったオリビアは冤罪をかけられ捕縛されそうになり全てを捨てて家族と逃げた。そして以前留学していた国の恩師を頼り、新しい名前と身分を手に入れ幸せに過ごす。1年が過ぎ今が幸せだからこそ思い出してしまう。捨ててきた国や自分を陥れた人達が今どうしているのかを。(視点が何度も変わります)
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる