悪役令嬢を演じるのは難しい

よしゆき

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 学園内のカフェテリアで優雅にお茶を楽しんでいるエドヴァルドを見つけ、トゥーリは彼に近づいた。悪役令嬢トゥーリは隙あらば彼に近づきアプローチする。だからトゥーリも同じようにするしかない。ゲーム通りきちんとエドヴァルドにも悪印象を与えておかなくては、レヴィとラウラのエンドにも影響を与えかねないのだから。
 エドヴァルドの傍へ行き、にっこりと微笑む。

「ごきげんよう、エドヴァルド殿下」
「やあ、トゥーリ嬢」

 エドヴァルドは爽やかな笑顔で対応する。
 顔には出さないが、しつこくつきまとうトゥーリに内心辟易していることだろう。

「今日も素敵ですわ、エドヴァルド殿下。美しいお顔に見惚れてしまいます」
「はは、ありがとう」

 トゥーリの薄っぺらい褒め言葉を、エドヴァルドは軽く受け流す。
 毎回毎回顔を合わせる度に同じことを言われ、うんざりしているに違いない。
 うざがられているのにそれに気づくことなくうっとうしく絡んでくるイタイ女、とそんな風に思われているのだと思うといやあああぁごめんなさいいいいい!! と叫び出したくなるが我慢した。

「殿下、ご一緒してもよろしいかしら?」

 そう言って、返事も聞かずに椅子を引く。
 座ろうとしたとき、後ろからぐっと手首を掴まれた。
 驚いて振り返り、そこにレヴィの姿があって更に驚く。また彼に手首を掴まれているではないか。
 無表情だが僅かに不機嫌そうなオーラを放つレヴィに見つめられ、トゥーリは再び驚きと感激に動揺してしまう。

「んみゃっ、あっ、あっ、なっ、まっ、まままままたっ、あなたなの……!? もっももももう二度と私に近づかないでと言ったはずよ……っ」

 声は裏返り吃りまくっているが、それでもトゥーリは毅然とした態度を懸命に保とうとした。
 顔は茹で上がったように赤くなり、動悸息切れも酷い。そんなトゥーリをじっと見つめ、レヴィは口を開いた。

「トゥーリ」
「ひゃひぃぃ……!?」
「お前は俺が好きなんだろ」
「っ、っ、っ!? っ!? っ!?」
「だったら他の男に媚び売ってんなよ」
「っっっっっ!?」

 彼の言葉はしっかりと聞き取れたはずなのに、理解するのに随分時間を要した。理解して、すぐに否定しなくてはならないと判断しとにかく声を上げる。

「はっ、はっ、はああああ!?」

 だらだらと汗を流しながら、トゥーリは必死に否定の言葉を放つ。

「わわわわたしがっ、あ、ああっ、あなたのような平民を、しゅきっだなんて、そそそんなことあるわけないでしょう!? なななにをバカなことを!! 勘違いも甚だしい!! よくよくよくそんなふざけたことを言えたわね!! こっここここれだから、卑しく厚かましい平民は嫌なのよ!!」

 思い付くままに声を上げ、ふとポカンとこちらを見るエドヴァルドに気づいた。
 トゥーリは慌てて彼に言った。

「殿下! この男の戯れ言などに耳を貸さないで下さい! 私は決してこんな下賤な者のことなど、すっ、すす、好き、ではありませんから!!」

 ぐっとエドヴァルドの方へと身を乗り出せば、強く手首を掴まれた。

「おい、だから言っただろ。お前は俺が好きなんだから、他の男に構うな」
「はひゅっ……!?」

 レヴィの言葉に心臓を撃ち抜かれ、喉から変な声が漏れた。
 なんだ。なんなのだこの展開は。こんなイベントゲームにはなかった。
 とにかく、トゥーリがレヴィを好きだということは絶対に誰にも知られてはいけない。だがこれ以上レヴィと関わるとバレてしまいかねない。彼に近づくのは危険だ。
 一旦気持ちを落ち着け、深く息を吐き出す。
 それからトゥーリは思い切りレヴィの手を振り払った。

「気安く触らないでと言ったでしょう!? 名前を呼ぶことも、触れることも、近づくことも、あなたには許されないのよ!! もしまた同じ罪を犯せば、あなたをこの学園から追い出してやるわ!!」

 もちろんトゥーリにそんな権利はない。だが、ここまで言えばレヴィも不用意に近づいてくることはないだろう。きっと。
 言うだけ言って、トゥーリはその場から駆け出した。誰かの呼び止める声が聞こえたような気がしたが、聞こえない振りをして走り続けた。




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