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前編

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「っあ……!?」

 七葵ななきは自分の体の異変を感じ、小さく声を上げた。
 今までズレた事がなかったのに、いつもよりも一週間も早く来てしまったようだ。
 毎月やってくる発情期。
 七葵は優れた家系に産まれた。
 優れた頭脳と容姿を持つ、有名な財閥や政治家など。彼らのような優秀な血筋の人間には発情期というものがあった。大体十六歳から十八歳まで、毎月一週間程度体が発情する。
 一流の医者夫婦から産まれた七葵にも、同じように発情期があった。
 そんな七葵が通うのは特別な全寮制の高校だった。発情期がある者だけが入れる高校で、互いの発情期の時に性欲を発散させる為のパートナーをそこで見つけるのだ。
 ずっと決まったパートナーを持つ者もいれば、決まったパートナーは作らずその時によってパートナーを変える者もいる。もしパートナーが見つからなければ、教師が相手をしてくれる。
 七葵は高校に入学して一年以上が過ぎたが、一度もパートナーを作っていない。教師に頼んだ事もない。
 常に一人で沸き上がる性欲を発散させてきた。
 七葵は平凡だったから。
 頭脳も容姿も、何一つ優れているものなど持っていなかった。何をしても平凡な結果しか得られない。
 そんな七葵に両親は失望した。そして優秀な弟と妹が産まれたら、無関心になった。両親は明らかに弟と妹だけを可愛がり、七葵には見向きもしない。
 両親を見て育った弟と妹は、七葵を見下すようになっていった。
 両親はもう七葵に何も言わないが、弟妹は嘲笑し罵った。

「こんな人がお兄ちゃんだなんて恥ずかしい」
「ホント、こんな人と血が繋がってるなんて恥だよ」
「顔も不細工だし、頭も悪いし、一つもいいとこないもんね」
「それなのに発情期はあるなんて、最悪だよ」
「ホント、ホント。パートナーになる人が可哀想」
「そもそも、パートナーなんか見つからないよ。誰もこんな不細工の相手なんてしたくないもん」
「それもそっか。こんな不細工とセックスなんてできないよね。いくら発情しててもこの顔見たら萎えちゃうよ」

 こんな調子で、高校に入学し寮に入るまで弟妹に誹謗され続けた。
 結果、七葵の自己評価はこれ以上ないほどに落ちた。
 だから発情期が来ても誰かに声をかけたりはしなかった。教師が気遣って声をかけてくれたが断った。
 発情期が来たら一人で部屋に籠り、一人で発散させてきたのだ。
 学校側の発情期時の生徒へのサポートはしっかり整っている。
 発情期が来たと連絡すれば、毎日おにぎりやサンドイッチなどの軽食を部屋まで届けてもらえる。汚しても部屋の掃除はお掃除ロボットがしてくれる。ベッドのシーツも定期的に取り替えてくれる。
 はじめて発情期が来てから一年以上経ち、今まで毎月同じ周期で来ていた。けれど今月は一週間早く来てしまったらしい。校内で突然発情の症状が出て、七葵は焦った。
 幸い授業は終わって後は寮に帰るだけだ。
 しかし、発情する体はすぐに歩く事さえ困難になっていく。
 七葵は人目を避け、誰もいない廊下の隅でへたり込んだ。
 体はどんどん熱くなっていく。触ってもいないぺニスが頭を擡げる。
 校内には発情した時に備えて性行為をするための部屋がいくつも用意されている。空いている部屋を生徒はいつでも使える。
 だが一人でその部屋を使うのは躊躇われた。どうにかして自分の部屋に帰らなければ。
 しかしぺニスがじんじんと疼いて、既に立ち上がる事さえ難しい。

「七葵先輩……?」
「っ……!?」

 名前を呼ばれ、ビクッと肩を竦める。
 恐る恐る振り向けば、後輩の能瀬のせ真仁まひとが心配そうにこちらを見ていた。
 頭脳明晰容姿端麗の彼は絵に描いたような完璧な存在だった。大財閥の家系の子供に相応しい、優秀な人間。
 七葵は慌てて顔を伏せた。彼のように美しく誰よりも優れた人物には、自分の姿を見られる事すら恥ずかしい。よりにもよって、発情中に声をかけられるなんて。発情している自分のみっともない姿など、彼に見せてはいけない。
 本来なら、声をかけられる事すらないはずなのだ。
 けれど、数ヵ月前。七葵は彼と関わりを持ってしまった。
 彼の入学式。二年に進級した七葵は校舎の前で新入生に資料を渡し簡単な案内をする係だった。
 椅子に座り、長机に置かれた資料をやってくる一年生に配っていく。
 この特殊な学校に入学する生徒は多くない。七葵は一人でも問題なく作業をこなしていた。
 最後にやって来たのが真仁だった。
 まず彼の長身に驚いた。外国人モデルかと思うほど背が高く、体格がとても綺麗だった。
 顔を見て更に驚いた。家族もこの学校に通う生徒達も整った容姿をしているが、彼ほど美しい人を見た事はなかった。
 彼が机を挟んだ正面に立ち、目が合った瞬間冷ややかな瞳で睨まれた。
 ひゅっと息を呑み、七葵は慌てて顔を伏せた。
 一気に血の気が引き、呼吸が浅くなる。
 弟妹に言われた七葵を貶す言葉の数々が脳裏を過る。
 七葵のような醜い人間と目が合ったから、不快な気持ちにさせてしまったのだ。
 七葵なんかに見つめられ、気持ち悪いと思ったのだ。
 何て事をしてしまったのだろう。
 顔面蒼白になり、指先が震える。
 早く、資料を渡さなければ。もたもたしていたら、余計に不愉快な思いをさせてしまう。
 早く、早く。焦れば焦るほど、頭が真っ白になって体が動かなくなる。
 呼吸のし方すらわからなくなりそうだ。
 パニックになりかけた七葵の手の甲に、目の前の彼の手が重ねられた。
 ビックリして、声も出なかった。

「すみません、先輩」

 静かな声で彼が言った。声が近い。身を屈めた彼の顔がすぐそこにあるようだ。
 どうして彼が謝るのだろう。悪いのは七葵なのに。

「怖がらせるつもりなんてなかったんです。本当にすみません……」

 彼の声は自責の念に満ちていた。

「俺、昔からどこに行っても目立って……。無遠慮にじろじろ見られる事も多くて……それが嫌で、視線を感じると反射的に相手を睨んでしまうようになってしまって」

 確かに、彼ほどの美貌の持ち主ならばただそこにいるだけで周りの視線を集めてしまうだろう。悪意のない視線でも、あからさまに向けられれば落ち着かないはずだ。
 彼はきっと、今まで苦労をしてきたのだろう。

「そのせいで、先輩を怖がらせてしまってすみません……」
「ぁ……謝らなくて、大丈夫です」
「でも、すごく怯えてます。指先も冷たくなって」

 重ねられた彼の掌が、包み込むように七葵の指先に触れた。
 七葵は俯いたまま、緊張に体を固くする。

「僕の事は、き、気にしなくて、いいので……。放っておいて大丈夫ですから……」
「放っておけません。俺のせいで、こんな事になってるのに」
「ぼ、僕は、本当に、大丈夫です……」
「じゃあ、顔を上げてください」
「っ……それは……」

 七葵はふるふると弱々しく首を横に振る。
 自分なんかの顔を見せたら、彼は気分を悪くするだろう。
 両親に愛されず弟妹から散々貶められ続けてきた七葵は、すっかりそう思い込んでいた。
 両親に見放され弟妹からは罵られ、それが七葵に刷り込まれてしまっている。自分は価値のない人間だと。自分という存在を見ただけで相手は気分を害するのだと。
 頑なに顔を上げない七葵に、彼は勘違いしたようだ。

「もう睨んだりしませんから。絶対先輩を怖がらせるような事はしないです」
「違…………僕の、顔を見たら、嫌な気持ちになるから……」
「どうして?」

 不細工だから。何度も何度も弟妹に言われてきた。

「…………」

 七葵は何も言えず黙り込んでしまう。
 すると彼の密やかな声が耳に届いた。

「先輩、顔を上げてくれないと、このままおでこにキスしちゃいますよ」
「っ!?」

 ギョッとして、思わず顔を上げてしまった。
 眼前に、綺麗で艶のある彼の顔が。
 バッチリと目が合って。
 反射的に顔を伏せようとするが、両手で頬を挟まれ固定される。

「良かった。ちゃんと見れた」

 そう言って、彼は花が綻ぶように微笑んだ。
 こんな笑顔を向けられる事などはじめてで、七葵は自分の顔を見られてしまっている事も忘れ見惚れる。
 なんて綺麗な笑顔なのだろう。

「ふ……。真っ青だったのに、今度は真っ赤になってる」

 笑われて、七葵は我に返った。
 笑われているけれど、悲しい気持ちにはならない。弟妹に向けられる嘲笑とは違う。彼の笑顔は温かい。

「は、離して、ください……っ」

 顔を真っ赤にして訴えるけれど、彼は笑みを深めるだけで離してくれない。

「じゃあ、名前を教えてください」
「えっ……?」
「先輩の名前です」
「…………椎葉しいは、七葵」
「七葵先輩ですね」

 彼は満面の笑みを浮かべながら七葵の名前を口にした。
 こんな風に名前を呼ばれた事などない。
 はじめての事ばかりで頭がくらくらした。

「俺は能瀬真仁です」
「能瀬……真仁、くん……」
「はい。覚えててくださいね」

 にっこり笑って、彼は七葵の頬から手を離した。
 ぼうっと彼に見惚れそうになるが、入学式の時間がもうすぐ迫っている事に気づいて自分の仕事を思い出す。
 資料を渡し、言うべき事を彼に伝えた。

「七葵先輩、また今度、ゆっくり話しましょうね」

 笑顔のまま、彼は校内に入っていった。
 それが真仁との出会いで、それから数ヵ月、彼と顔を合わせる事はなかった。同じ学校に通っていても、学年が違えば会う機会は少ない。
 自分などすぐに忘れられ、きっともう話をする事もなく卒業するのだろうと思っていた。
 それなのに、まさかこんな状況で再会する事になるなんて。
 蹲る七葵の傍らに膝をつき、彼は問いかけてくる。

「もしかして、発情期ですか?」
「っ……」

 頷くしかなかった。体の状態を見れば、発情しているのは明らかだ。

「七葵先輩、パートナーはいないんですよね?」
「ぅ、うん……」

 どうして彼がそんな事を知っているのだろう。疑問に思うが、七葵を見ればすぐにわかる事だと気づいた。自分のような不細工にパートナーができるわけがない。

「いつも、発情期はどうしてるんです? 先生に相手を頼んでるんですか?」
「ひ、一人で…………。自分で、してます……」
「…………そうなんですね。部屋に行きますか?」

 彼の言う部屋というのは、校内にあるセックスをするための部屋の事だろう。
 七葵は首を振って断った。

「いいです……。自分の部屋に、帰ります」
「じゃあ、送りますよ」

 七葵は再び大きく首を横に振る。

「だ、大丈夫です……。僕、一人で帰れるので……」

 だから、もう七葵の事は放っておいてほしい。発情した自分の姿を彼に見られたくない。

「そういうわけにはいきませんよ。七葵先輩、もう歩けないんじゃないですか? だからここでじっとしてたんでしょう?」
「う……」

 その通りだったので、返す言葉がない。

「そんな状態じゃ、一人で帰れませんよ」
「で、でも……能瀬くんに、迷惑をかけるわけには……」

 ただの通りすがりの、何の関係もない彼に、そこまでしてもらう事などできない。
 どうにか断ろうとするが、彼は七葵の腰を抱いて立ち上がらせる。

「ひゃっ……!?」
「遠慮しないでください。俺がちゃんと、七葵先輩を部屋まで送り届けますから」
「ぁっ……待っ……」
「大丈夫です。俺がしっかり支えてますから」

 体を支える彼が歩きだしてしまったら、まともに歩けない七葵はそれに従うしかない。
 七葵は顔を伏せたままで、ずっと真仁と目を合わせなかった。発情してみっともない顔になっているかもしれない。それでなくとも不細工なのに、こんな状態の顔を彼に見せる事などできない。
 玄関まで行き、靴を履き替える。外に出ると、真仁が声をかけてきた。

「七葵先輩、ちょっと失礼しますね」
「え? っ、わっ……!?」

 彼の腕に抱き上げられ、七葵は驚き目を丸くする。

「すみません。こうした方が、速く部屋に行けるので」
「待っ、お、下ろしてっ……! 重いから! 僕、自分で歩きます……!」
「大丈夫ですよ。落としたりしませんから」

 そんな心配をしているわけではない。寧ろ落としてくれた方がいい。
 校内にも外にも、もう生徒は殆ど残ってはいないが、もしこんなところを誰かに見られたら。自分と一緒にいるところを見られてしまったら。真仁が恥ずかしい思いをするのではないか。
 あらぬ誤解を受けてしまったり、変な勘違いをされたらと考えるとゾッとした。彼にとんでもない迷惑をかけてしまう。

「能瀬くん、ぉ、下ろして……お願い……っ」
「少しだけ我慢してください。恥ずかしかったら、俺の体にくっつけて顔隠してください」

 そうじゃないのに、恥ずかしいから嫌がっていると思われているようだ。
 でも、顔を隠していれば万が一誰かに見られても被害は防げる。
 七葵は顔を隠すように真仁の胸に頬を寄せた。けれど決してくっつけないように注意する。できる限り周りから顔が見えないように、七葵はじっと身を縮めていた。
 敷地内にある男子寮に、抱えられたまま入る。幸い人に出くわす事なく、七葵は自分の部屋に帰ってこれた。
 その頃には、七葵の体はすっかり火照り下着はぺニスから漏れた先走りで濡れそぼっていた。

「七葵先輩、我慢できて偉かったですね。もう部屋に入ったから、好きなだけ発情して大丈夫ですからね」

 真仁は部屋の玄関に七葵を下ろし、靴を脱がせてくれる。そして自分も靴を脱ぎ、再び七葵を抱えベッドへ運んだ。
 特殊なこの学校の寮の部屋は、完全防音だ。備え付けのベッドは一人で寝るには大きすぎるほどに大きい。
 馴染んだ自分の部屋のベッドに下ろされ、七葵は気を緩めた。
 じんじんと下腹部が疼く。
 一刻も早く、体を責め苛む熱を鎮めたい。もうその事しか頭になかった。
 急いた手付きで、ズボンと下着を下ろす。ぐちゃぐちゃになるのも気にせず、足から引き抜いた。
 ぶるんっと飛び出したぺニスは、触ってもいないのにぬるぬるだ。刺激を求めてぷるりと震えている。
 はーっはーっと荒い息を吐きながら、七葵はベッドの傍に置いてある箱からローションを取った。中身を手に出して、ぺニスではなく後孔に触れる。
 七葵は発情しても、女性を抱きたいという欲望は湧かない。ぺニスを扱いて射精するよりも、後孔を刺激して快楽を得る方法で性欲を発散させる。
 今までずっと、そうして発情期を過ごしてきた。

「はっんっ……あぁんっ」

 受け入れる事に慣れたアナルは、ローションで濡れた指を容易く飲み込む。
 簡単に解して、すぐに指を抜いた。発情した体は、指では全く満たされない。もっと太くて長いものでなければ。
 七葵が次に手に取ったのは、ディルドだ。太くて長さのある、特大サイズのものだ。
 最初は小さなものを使っていた。
 発情期の体が求めているのは、人の温もりを感じ人と体を繋げる行為だ。だから、ディルドで慰めても発情した体が満足する事はない。
 それがもどかしく、苦しくて、どんどんディルドを大きくしていった。そうしたところで意味はないのだが、そうする事でしか発情した体を抑えられなかった。
 ディルドにローションをかけ、後孔に宛がう。

「んっ、うっ、んぅううう~~っ」

 ゆっくりとディルドを埋め込んでいく。何度も咥え込んだそれを、後孔は柔軟に受け入れた。

「んぉっ……ふっ……あっ、あっ……」

 呼吸を乱し、太いディルドを奥へ押し込めていく。

「すごい……」

 隣から声が聞こえ、七葵はハッと息を呑む。
 顔を向ければ、こちらをガン見する真仁の姿があった。
 彼の存在を完全に忘れていた。自分の部屋に入って、使い慣れたベッドの感触に安心して、すっかり頭から抜け落ちてしまっていた。

「七葵先輩、いつもそうやって一人でしてるんですか? そんなでっかいディルド、ずっぽり入れて……」

 真仁が上擦る声で訊いてくる。
 親切にも部屋まで連れてきてくれた彼に、何てものを見せてしまったのだろう。気持ち悪いと思ったはずだ。普通にぺニスを扱いてオナニーするならまだしも、彼の前でアナルを弄ってディルドを咥え込んでしまうなんて。こんな見苦しい姿を見せられて、真仁はさぞ不快な気持ちになっただろう。
 七葵はおろおろと視線をさ迷わせる。動揺し、布団で体を隠すという考えにも至らない。

「ご、ごめっ……なさ……。ここまで、連れてきてくれて、ありがとうございます……。僕は大丈夫なので……も、もう、行ってください……っ」

 早く、一刻も早くこの場から立ち去ってほしい。

「それはできません」
「っえ……?」

 顔を上げて彼を見れば、ギラギラとした双眸でこちらを見下ろしている。

「七葵先輩がエロくて、俺のちんぽも勃っちゃいました」
「はへっ……?」

 見れば、彼の股間は大きく膨らんでいた。
 どうして。七葵を見て萎える事はあっても、欲情する事などないはずなのに。
 しかし、すぐにその理由に思い当たる。発情はうつるのだ。発情している相手と接触していると、自身も発情してしまうらしい。七葵は経験がないけれど、そういう話を聞いた事がある。
 発情した七葵の傍にいたせいで、真仁も発情してしまったのだろう。

「あ、ご、ごめんっ……早く、パートナーのところに……」
「俺も、パートナーはいません」
「えっ……?」

 七葵は耳を疑った。カッコ良くて完璧な彼にパートナーがいないなんて、そんなわけ。決まったパートナーがいない、という事だろうか。
 目をまんまるにして見つめれば、真仁は小さく笑った。

「そんなに驚かなくても……」
「だ、だって……」
「恥ずかしい話なんですけど、俺のちんぽ、人より大きいんです」
「は、えっ……はっ……?」
「パートナーになってほしいって言われるんですけど、いざその時になって俺のちんぽ見たら、そんなのムリって怖がられて……。俺も発情期は一人でオナニーしてるんです」
「そ、そう、ですか……」

 目を伏せて切なげに苦笑する真仁に、何と言葉をかけていいのかわからない。彼も七葵なんかに慰められたくはないだろう。

「でも、七葵先輩なら……」
「え……? あっ……!?」

 彼の手が、七葵の下肢へと伸ばされる。
 ディルドを埋め込んだアナルのふちを、真仁の指がなぞった。

「ひっ……!?」
「こんな太いディルドを入れられる七葵先輩なら、俺のちんぽも受け入れてくれるんじゃないかって思って」
「え、えっ……?」
「七葵先輩、俺のパートナーになってくれませんか?」

 真仁は熱っぽい瞳で七葵を見つめてくる。
 頭が真っ白になる。
 パートナー? 自分が、こんな美しく完璧な彼の?
 彼の表情があまりにも真剣で、勘違いしそうになる。
 でも、彼が言っているのは、ちゃんとしたパートナーが見つかるまでの繋ぎとして、という事だろう。彼にパートナーが見つかるまで、性欲発散の相手をしてほしいという意味だ。
 七葵に頼んでくるなんて、相当切羽詰まっているのだろう。発情期を一人でやり過ごさなければならない辛さは七葵にもよくわかる。
 発情した体を慰めるのに七葵の体を使ってもらうなんて申し訳ない。けれど、彼は誰でもいいと思えるほどに苦しんでいるのだ。
 自分が役に立てるのなら……。自分の存在が少しでも彼の助けになれるのなら。

「ぼ、僕で、よければ……」
「いいんですか、七葵先輩!?」
「は、は、はい……」

 真仁は瞳を輝かせ、嬉しそうに笑った。

「ありがとうございます!」
「い、いえ……お礼を言われるような事じゃ……」

 彼の笑顔が眩しくて、自分なんかが見てはいけない気がして七葵は視線を落とす。

「嬉しいです。七葵先輩のパートナーになれるなんて……」

 真仁は気を遣ってくれているようだ。七葵相手に社交辞令など必要ないのに。

「断られたらどうしようかと思いました。俺、もう、七葵先輩に入れたくて我慢できそうになくて……」

 言いながら、彼はズボンの前を寛げる。下着をずり下ろし、反り返った性器を取り出した。
 彼の言う通り、それはかなりの大きさだった。太くて長さもあり、どっしりとしている。血管が浮き上がり、先端が張り出して、凶器のようだ。
 確かに、これほど大きいのならば怯えてしまうのも無理はない。
 だが、七葵は蕩けた瞳でそれを見つめる。うっとりと見惚れるように、張り詰めた陰茎に視線を送る。
 舐めてみたい。口に入れて味わいたい。
 そう思ったけれど、彼は七葵にそんな事をされたくはないだろう。
 自分がしたい事を望んではいけない。自分は彼の性欲を処理するだけ。自分の願望を押し付けるような事はしては駄目なのだ。

「良かった。七葵先輩、怖がってないみたいで」

 七葵の表情を見て、真仁はホッとしたようだ。性器を見せたら怖がられて、彼は今まで辛い思いをしてきたのだろう。
 自分が相手では満足してもらえるとは思えないが、少しでも性欲を発散させられたら嬉しい。

「んん……っ」

 七葵は深くまで埋め込んだディルドを抜いた。そしてうつ伏せになり、腰だけを高く上げる。
 これならば彼は七葵の顔を見なくて済む。喘ぎ声も枕を噛めばある程度は抑えられるだろう。

「あの、能瀬くん、いつでも、どうぞ……」
「じゃあ、こっち向いて」

 ベッドに上がった真仁は上に着ていたものを脱ぎ捨て、うつ伏せになった七葵の体をひっくり返した。
 彼と目が合って、七葵は焦る。

「えっ、あ、なんでっ……」
「だって、じっくり七葵さんの顔見ながらしたいし」
「やっ……だめっ、見ちゃ……っ」

 七葵の顔を見ながらなんて、そんな事をしたら萎えてしまう。不快な思いをさせてしまう。
 腕で顔を隠そうとしたら、手首を片手で掴まれ頭上で一纏めにされる。
 どうして、という気持ちで彼を見上げれば、情欲の浮かんだ瞳でこちらを見下ろし舌舐めずりする。

「は、離して、能瀬くん……っ」
「もうパートナーになったんだから、七葵さんも俺の事下の名前で呼んで」
「んぇ……?」
「ほら、真仁って」
「んんぁ……っ」

 綻んだ後孔に、亀頭が押し付けられる。ぐりっと先端がめり込み、七葵は焦り声を上げる。

「あっ、だめ、待って、真仁くん……っ」
「今更待てないよ、七葵さん」
「ひっ、あああぁ……っ」

 ぬぷぷぷぷぷ……っと後孔を肉棒で貫かれる。
 ディルドよりも太く、熱くて、脈打っている。はじめての感覚に、七葵は身を震わせた。
 肉壁を押し広げながら、深くまで埋め込まれる。

「んあっ、はっ、ああぁっ」
「はあっ……すごい……七葵さんの中に、一気に半分も入ったよ」
「はん、ぶん……っ?」

 真仁の言葉に耳を疑う。まだ半分しか入っていないというのか。既に腹の奥まで彼の熱で満たされているような感覚なのに。

「七葵さんの中、熱くて、ぎゅうぎゅう締め付けてきて……ああ、すごく気持ちいい……っ」

 陰茎を肉筒で包み込まれ、真仁は恍惚とした表情で七葵を見つめる。
 人の熱を感じるものに胎内を圧迫されているのだと実感し、七葵は手首を解放されても顔を隠す事も忘れていた。

「はっ、はあっ……入ってる、僕の中、あっあっ、熱いので、いっぱいになって……っ」
「うん。七葵さんの中、俺のちんぽがぐっぽり入ってるよ」
「んあぁっ、待って、あぁっ、それ以上、おくぅっ、入れたことないっ、そんな奥まで、入らな……っ」
「じゃあ、七葵さんのこの奥まで入るのは俺だけなんだね。俺のちんぽの形に馴染ませようね」
「ひあぁ……っ」

 唇の端を吊り上げた真仁は、ずんっと剛直を押し込んだ。
 受け入れた事のない奥まで楔がめり込み、衝撃に七葵は目を見開く。

「ふか、あぁっ、あっ、おなか、いっぱいになってるぅっ、ひっ、あっ、んんんっ」
「はじめてだからビックリしちゃったね。慣れるまで動かないから大丈夫だよ」

 宥めるように優しい声をかけながら、真仁は七葵の制服を脱がせていく。七葵はされるがまま、全裸にされた。

「七葵さんの乳首、ピンク色で小さくてかーわいい」
「ひぅっ……」

 真仁の指が、乳頭をすりすりと撫でる。

「七葵さん、自分で弄ったりしないの?」
「しなっ、しない……あっんっ、くすぐった、あっあっ」
「そっか。じゃあ俺がいっぱい弄ってあげる。開発済みってわかるくらいエッチな乳首にしようね。乳首でイッちゃう可愛い七葵さんを見るのが楽しみだなぁ」

 クリクリと乳首を転がしながら言われても、話が入ってこない。後孔と乳首に意識を取られ、彼の言葉に集中できないのだ。

「なに、あっ、待って、あっあっんんっ」
「ふふっ……七葵さんの中、きゅんきゅんって動いてるよ。はあっ……じっとしてても気持ちいい」
「んぁっ、あっ、んっ」

 勝手に内壁が蠢き、咥え込んだ剛直が擦れて七葵も気持ちよくなってしまう。

「七葵さんも気持ちいいの? 可愛い……」

 どろりとした甘い声が鼓膜を震わせる。
 うっとりと蕩けた真仁の顔が、ゆっくりと近づいてくる。そのまま、唇を重ねられた。
 キスをされているのだと理解するのに時間がかかった。自分がキスをされるなんて思いもしなかったのだ。七葵なんかに好き好んでキスをする人など存在しないだろうから。
 それなのに、真仁は七葵にキスをしてきた。キスなどする必要がないのに。
 どうして、と呆然とする七葵の唇を真仁の舌が割って入ってくる。

「んっ……んんっ……!?」

 口腔内を舌で愛撫され、ぞくぞくと背中が震えた。
 気持ちよくて、疑問など頭から抜け落ちキスを受け入れる。

「七葵さん、キス気持ちいい? 顔がとろーんってなってる」
「んぁっ……きもちい、キス……」
「可愛い……。じゃあ、もっとしようね」
「んんっ」

 深く唇を重ねられ、舌で口の中を蹂躙される。流れ込む唾液を無意識に飲み込み、濃厚な口づけに陶酔する。
 キスに夢中になっていると、両脚を抱えられ強く腰を突き上げられた。

「んぅううう……!?」

 ぐぽぉ……っと亀頭が最奥を貫き、強烈な快感が全身を駆け抜ける。七葵は内腿を痙攣させ、ぺニスから精液を吐き出した。

「んぉっ……ふっ……あっ……」
「ああ……七葵さんの中に、俺のちんぽ全部入ったよ。ほら、わかる?」
「ぉっ、んっ、ふかぃ、おっおっ、おくまで、きてるぅっ」

 目の前がチカチカする。達したのに、快感が終わらない。内奥がじくじくと疼き、腰が動いてしまう。

「腰ヘコヘコしちゃって、やーらしい。ちんぽ奥まで突っ込まれてきもちーの?」
「きもち、いいっ、ひっ、おっ、おくっ、ぬぽぬぽしゅるの、きもちいいぃっ」
「あー、かっわいい。いーっぱい、ぬぽぬぽしてあげようね」
「んおっ、おっ、おっ、きもちぃっ、いくっ、いくっ、んうぅっ、いくの、とまらないぃっ、ああっ、~~~~っ、ずっと、いって、いくぅっ」
「うん。何回でもイッていいからね。ちんぽでもまんこでも、たくさんイッて、七葵さん……っ」
「ひあっ、ああぁっ、しゅごっ、おぉっ、~~~~っ、こんな、きもちいのしらないぃっ、あぁっ、こんなの、はじめてぇっ、あ゛~~~~っ」

 すっかり発情し、僅かに残っていた理性も徐々に失われ、ただ体に蓄積した熱を発散させようと快楽に溺れていく。
 それから二人は欲望のままに体を重ね続けた。





「んひっ!? あっ……あぁっ……」

 いつの間にか意識を失っていた七葵は、目が覚めて強烈な快感に襲われた。
 耳元で真仁の声がする。

「七葵さん、起きたの?」
「んっ、ぉっ、おき、たぁっ、あっあっあっ」

 ベッドの端に腰をかける真仁の上に乗せられ、背面座位の状態で胎内を緩く突き上げられている。意識を失う前と体位が違う。真仁が意識を失くした七葵の体を動かしたのだろう。

「ごめんね。七葵さん疲れて気ぃ失っちゃって、休ませてあげなきゃって思ったんだけど、我慢できなくて」
「ぅんっ、んっあっ、らいじょ、ぶぅっ、んんっ」

 体は疲れても、発情状態の体はずっと快楽を求め続ける。寧ろずっと体を繋げてもらえて有難い。

「ひあっあっ、目が、さめて、自分の中、あぁっ、おちんぽで、いっぱいなの、うれひぃっ、んっんっ、真仁くんのおちんぽぉ、入ってるの、うれしい、からぁっ、あっあっんうぅっ」

 一人で発情期を過ごしている時も、疲労で寝落ちする事がある。その時は目が覚めても当然一人だ。ディルドを入れたまま寝ていた自分が滑稽で、虚しい気持ちになる。
 でも、今は真仁がいる。胎内には彼の陰茎が埋め込まれ、背中には彼の体温を感じる。
 一人ではないという事が、こんなにも嬉しいなんて知らなかった。

「ふふっ……もー、可愛いなぁ、七葵さんは。そんな事言われたら、これから毎日七葵さんのまんこにちんぽ入れたまま寝たくなっちゃうよ」
「──~~~~~~っ」

 熱を帯びた囁きを耳に吹き込まれ、ぞくぞくぞくっと背筋に快感が走った。愉悦に体が震え、あっと思った時にはぺニスから尿が漏れていた。

「あっ、あぁ……っ」

 ちょろちょろとフローリングの床に水溜まりができていくのを、七葵は真っ赤な顔で見下ろす。

「ごめっ、ひっ……ごめ、なひゃっ……んぁっ、やっ……とまらな、あっ、あっ」
「七葵さん、嬉しくておしっこしちゃったの? あー、もう、ホントかわいーんだから」
「んぉっおっ、あっ、うごいちゃ、あぁっ、あっ、あ~~っ」

 真仁は七葵の赤くなった耳をねぶりながら、激しく腰を揺する。
 泣きそうなほどの羞恥心は、与えられる快楽で塗り潰されていった。





 発情期も終盤になると、七葵はもうあまり動けなくなっていた。
 くたりとベッドにうつ伏せになった七葵の背中にぴったりと真仁が体を重ねている。
 この数日間、何度も精液を吐き出した彼の陰茎は萎える事なく、未だ固く張り詰め七葵の胎内を満たしていた。

「ぉっ、おっ、んっ、んぅ~~っ」
「はあっ……気持ちいいね、七葵さん」
「んひっ、きもちいっ、~~~~っ、ひっ、おっ、お~~っ」

 とちゅっとちゅっと緩やかな動きで最奥を抉られる。ピンッと伸ばした爪先を震わせながら、七葵は何度も絶頂を迎えていた。

「きもちいっ、きもちいいぃっ、真仁く、のぉっ、おちんぽっ……あぁっ、きもちいいのっ」
「俺も、七葵さんのおまんこ気持ちいいですよ。もう、ずーっと入れてたいくらい」
「んんっ、うれしっ、真仁くん……っ」
「ホント? じゃあ、発情期が終わっても毎日セックスしましょうね」
「しゅるぅっ、毎日、あっあっあーっ」

 ぐりぐりと最奥を刺激されながら、こくこくと頷く。
 思考はすっかり蕩け、自分でも何を言っているのか理解できていなかった。
 七葵はただ、与えられる快楽を享受し続けるだけだった。




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執着系イケメンのターゲットな僕がなんとか逃げようとするも逃げられない そんなお話です

獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果

ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。 そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。 2023/04/06 後日談追加

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

番に囲われ逃げられない

ネコフク
BL
高校の入学と同時に入寮した部屋へ一歩踏み出したら目の前に笑顔の綺麗な同室人がいてあれよあれよという間にベッドへ押し倒され即挿入!俺Ωなのに同室人で学校の理事長の息子である颯人と一緒にα寮で生活する事に。「ヒートが来たら噛むから」と宣言され有言実行され番に。そんなヤベェ奴に捕まったΩとヤベェαのちょっとしたお話。 結局現状を受け入れている受けとどこまでも囲い込もうとする攻めです。オメガバース。

皇帝陛下の精子検査

雲丹はち
BL
弱冠25歳にして帝国全土の統一を果たした若き皇帝マクシミリアン。 しかし彼は政務に追われ、いまだ妃すら迎えられていなかった。 このままでは世継ぎが産まれるかどうかも分からない。 焦れた官僚たちに迫られ、マクシミリアンは世にも屈辱的な『検査』を受けさせられることに――!?

自分の気持ちを素直に伝えたかったのに相手の心の声を聞いてしまう事になった話

よしゆき
BL
素直になれない受けが自分の気持ちを素直に伝えようとして「心を曝け出す薬」を飲んだら攻めの心の声が聞こえるようになった話。

親友と同時に死んで異世界転生したけど立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話

gina
BL
親友と同時に死んで異世界転生したけど、 立場が違いすぎてお嫁さんにされちゃった話です。 タイトルそのままですみません。

【完結】異世界から来た鬼っ子を育てたら、ガッチリ男前に育って食べられた(性的に)

てんつぶ
BL
ある日、僕の住んでいるユノスの森に子供が一人で泣いていた。 言葉の通じないこのちいさな子と始まった共同生活。力の弱い僕を助けてくれる優しい子供はどんどん大きく育ち――― 大柄な鬼っ子(男前)×育ての親(平凡) 20201216 ランキング1位&応援ありがとうごございました!

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