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筒抜けの恋 1
しおりを挟む受けの片想いの相手がアパートの隣に引っ越してきて、でも気持ちを打ち明ける勇気はなくてずっと思いを胸に秘めていたが、その秘めていた思いが全て攻めに筒抜けだった話。
現代 大学生 美形×平凡 ストーカーっぽい 淫語
──────────────
「隣に引っ越してきた佐々木です」
こちらに向けられる綺麗な笑顔を、直人はぽかんと見上げた。
頭が真っ白になって、それからパニックに陥りかける。
(え!? 佐々木!? 佐々木だよね!? なんで佐々木がここに!?)
慌てふためく脳内とは裏腹に、驚きすぎて直人の顔はピクリとも動かなかった。
(え、ちょっと待って、今なんて言った!? 隣に引っ越してきた!? 嘘!? 佐々木が隣の部屋に!?)
動揺してなんの反応も返せずにいる直人を見て、佐々木は困ったように首を傾げる。
「えっと……」
直人は我に返り、慌てて頭を下げた。
「あ、あっ、わざわざ、ありがとうございます! 木村です、これからよろしくお願いします!」
真っ赤になって早口に捲し立てれば、佐々木は穏やかに微笑んだ。
「こちらこそ、よろしくお願いします。これ、よかったら貰ってください」
「ありがとうございます!」
お菓子を受け取り、また深く頭を下げる。
佐々木はにっこり微笑んで、その場から離れていった。
玄関のドアが閉まり、直人は大きく息を吐いた。
ばくばくと、痛いくらいに心臓が高鳴っている。
受け取ったお菓子をじっと見つめた。
もしかしてこれは夢なのではないかと思う。
だって、片想いの相手が隣に引っ越してくるなんて。
佐々木誠は直人と同じ大学に通っている。出会ったのは半年前。階段から足を踏み外して転げ落ちそうになった直人を、彼が受け止めてくれたのだ。
「大丈夫?」と優しく声をかけられて。
蒼白になって何度も謝る直人に、「気にしなくていいよ」と微笑んでくれた。
そして直人は恋に落ちたのだ。
単純だと自分でも思うけれど、でも、落ちてしまったのだ。
打ち明ける勇気などなくて、直人はただ彼を思うだけだった。
大学では殆ど顔を合わせることもなく、見かけても話しかけることもできず、遠くから見つめるだけ。
佐々木はとても人気がある。成績もよくて顔もよくてスタイルもよくて、大勢から好かれている。彼の周りにはいつも人がいて、直人はそれを羨むだけだ。
佐々木は直人のことなど覚えていないだろう。さっきも、直人の顔を見てもなにも言わなかった。同じ大学に通っていることも気づいていないはずだ。直人が一方的に彼を知っていて、好きなだけなのだ。
出会いから、半年。まさか同じアパートで暮らすことになるなんて。
どうして急に引っ越してきたのだろう。古くてセキュリティもしっかりしていない壁も薄い安アパートに。
佐々木は高級マンションで暮らしていると、以前噂で聞いたことがある。なにか事情があり、引っ越さなくてはならなくなったのだろうか。
気にはなるが、引っ込み思案な直人は直接本人に詮索などできない。親しくなりたいなんて、そんな烏滸がましい考えは頭になかった。アパートでたまに顔を合わせて挨拶を交わせれば、直人はそれだけで充分だ。
しかし、先程のやり取りを思い出して落ち込む。
(佐々木の顔見て固まっちゃったからな……。変なやつって思われたかも……)
直人が美少女だったら見つめられても悪い気はしなかっただろうが、生憎直人は絵に描いたような平凡男子だ。
(キモいって思われて、挨拶もしてくれなかったらどうしよう……)
それは悲しすぎる。
せめて嫌われないよう、絶対に自分の気持ちがバレないようにしなくては。
好きな人が壁を挟んだ隣にいるなんて緊張するが、僅かでも彼との交流の機会が増えるのは純粋に嬉しかった。直人にとって交流とは挨拶を交わすだけだが。
(顔を合わせたとき、動揺しないで挨拶できるようにならなくちゃ……!)
同じアパートで暮らしていれば、不意に顔を合わせることもあるだろう。そのとき、平常心でいられるようにならなくてはならない。
そんな決意を胸に、直人は部屋に戻った。
佐々木が引っ越してきてから、何事もなく日々は過ぎていった。
相変わらず学校で顔を合わせることはないが、アパートでは数回挨拶を交わした。緊張して声が裏返ってしまったこともあったが、佐々木は不審がることもなく、普通に隣人として接してくれた。
佐々木に笑顔で挨拶をされれば、それだけで心が浮き立つ。
実は同じ大学に通ってるんだ、なんてそんなことすら直人は言えない。挨拶を交わすだけでいっぱいいっぱいだった。
そんなある日の休日。チャイムが鳴って、直人は玄関へ向かう。
ドアスコープを覗けば、そこにいたのは佐々木だった。
(え!? なんで佐々木が!?)
喜ぶよりもまず不安が過る。
(もしかして俺の気持ちがバレた!? 気持ち悪いから二度と声かけるな近づくなとか、そういうこと言われるの!? それともテレビとか洗濯機の音とかがうるさいとか、そういう苦情かも……)
思い浮かぶのはそんな卑屈な考えばかりだった。
恐ろしかったが、無視するわけにはいかない。
直人は恐る恐るドアを開けた。
「は、はい……」
「こんばんは、木村さん」
「あ、こ、こんばんは……」
にこやかに話しかけられ、直人は戸惑う。自分の想像は外れていたのだろうか。
おどおどする直人に、佐々木はなにかを差し出した。
「これ、煮物なんだけど。作りすぎちゃったから、よかったら食べてくれる?」
「え!?」
直人は佐々木の手にあるタッパーを凝視し、硬直する。
(え、え!? 煮物!? 手作り!? 佐々木の手料理!? それが今、俺の目の前にある!?)
信じられない展開に、直人の脳内はパニックだ。
(え、これって夢!? だってこんな……佐々木の手料理が、俺の手の届く場所に……しかも佐々木本人が……俺に……食べてくれる? って……直接渡してくれて……)
幸せすぎる状況に、直人は反応できない。
赤面して一心にタッパーを凝視する不審な直人を見て、佐々木は顔を曇らせた。
「急にごめん……。いきなり手料理とか、気持ち悪いよね……」
直人は首がもげるほど激しく首を横に振った。
「そんなこと! ない、ですっ」
気持ち悪いなどと思うわけがない。寧ろ喉から手が出るほど欲しい。お金を払ってでも食べたい。
「あの、う、嬉しい、です! 俺、料理、苦手で……だ、だから、すごく助かります!」
必死になりすぎて、自分でもなにを言っているのかわからない。
けれども言いたいことは伝わったようで、佐々木はほっとしたように顔を綻ばせた。
「受け取ってもらえる?」
「もちろん! です……っ」
「よかった」
嬉しそうな彼の笑顔に、直人の心臓は飛び跳ねる。
「あ、ありがとう、ございます!」
「気にしないで。一人じゃ食べきれないから、受け取ってもらえるとほんとに助かるんだ」
にこりと微笑む佐々木から、震える手でタッパーを受け取った。
「それじゃあ」と手を振って佐々木は隣の部屋に戻っていった。
直人はぐっとタッパーを握って室内を移動する。
中はまだ温かい。出来立てなのだろう。
すぐに食べてしまうのはもったいない。けれど出来立てを食べたい。
直人はご飯をレンジで温め、早速いただくことにした。
タッパーを開ければ、ふわりと食欲をそそる匂いが鼻を掠めた。
(佐々木の、手作り、なんだよね……)
それだけで大金を払うほどの価値があるが、それを差し引いてもとても美味しそうだ。
(佐々木が、作った料理……佐々木が……佐々木の手で……)
こんなに興奮しながら食事をするのははじめてだ。
好きな人の手料理とは、こんなにも嬉しいものなのかと直人は感動した。
(ただの隣人の俺に、わざわざありがとう、佐々木……。なんて優しいんだろう。しっかり味わって食べるから!)
たとえ毒が盛られていたとしても、直人は喜んで食べただろう。
「いただきます」
手を合わせてから、パクリと口に含んだ。
煮物の優しい味が、口の中に広がる。しっかりと味が染みて、その味の濃さも直人の好みでとても美味しかった。
(美味しい……! 佐々木の手作りだと思うと更に美味しい! すごいな、佐々木。料理も上手いんだな)
一口一口噛み締め、じっくりと味わう。
(モテるのも当然だよな。カッコよくて優しくて、佐々木みたいな男と結婚できたら最高じゃん。どんな人と結婚するのかな……。俺が女だったら、告白くらいはできたかな。いや、無理か)
今だって、自分から話しかけることすらできないのだ。挨拶はいつも佐々木がしてくれるのに応えるだけだ。
(俺がもうちょっと明るい性格だったら、自分から声とかかけて、同じ大学なんだって言って、あのとき助けてくれてありがとうって改めて伝えて、そしたら、もしかしたら友達くらいにはなれたかもしれないのに……)
同じ大学に通っていて、同じアパートに住んでいて、しかも隣人なのだ。きっかけなんていくらでもあるのに、内向的な直人はそれらを全く活かせない。本人が現状に満足してしまっているから尚更だ。
友達になるなんて、やはり恐れ多い。遠くから見つめて、たまに挨拶を交わすだけで充分だ。
こうして、彼の手料理も食べられたのだから。
佐々木のことを思い、幸せな気持ちに包まれながら直人は残らず平らげた。
後日、直人は洗ったタッパーと共に実家から送られてきた野菜を持って佐々木の部屋を訪ねた。
正直かなり勇気がいったが、タッパーを返さなくてはならないし、お裾分けのお礼もきちんとしたかったので、なけなしの勇気を振り絞ってチャイムを押した。
佐々木はすぐに出てきてくれて、渡した野菜を喜んで受け取ってくれた。
「もしまた作りすぎたら、持っていってもいいかな?」
「え!?」
「やっぱり迷惑?」
「そんな! 全然! 嬉しいです!」
「ほんと? よかった。じゃあまた今度、持っていくね」
笑顔と共に告げられた言葉に、心臓が止まるかと思うほど歓喜した。
けれどそれを必死に押し殺し、「じゃあ……」と言ってその場を離れた。
(う、う、う、嬉しい……佐々木が、あんな風に言ってくれるなんて……! どうしよう、嬉しすぎて全身が震える……!)
ガクガクする足をなんとか動かし、部屋に戻る。
ただの社交辞令だったとしても嬉しかった。もう二度と、お裾分けなんてされることはないのかもしれない。そうだとしても、この幸せな気持ちは変わらない。
その日直人の顔は緩みっぱなしで、ずっと佐々木のことを考えながら過ごした。
同じ大学に通っているが、通学時間が佐々木と被ったことは今までなかった。だからこそ、まだ佐々木は直人が同じ大学に通っていると気づいていない。
直人は大学に向かうため、家を出る。佐々木が今家にいるのか、それとももう出ているのか、直人にはわからない。彼の部屋の前を通り過ぎ、アパートを後にして駅へ向かった。
いつも利用している電車に乗り込む。車内は混んでいた。ぎゅうぎゅう詰めの状態で、こんなことならもう少し遅らせればよかったと早めに出てきたことを後悔した。
前も横も後ろも人に囲まれた状態で、直人はふと違和感を覚えた。
ぴったりと臀部に触れる、恐らく掌の感触。
(いや、まさか、だよな……)
そんなはずがない。自分は女ではない。顔が整っているわけでもない。そんな男の尻を触りたがる男がいるはずがない。
直人は僅かに重心を前にずらし、後ろの人物から体を離そうとした。
しかし直人が身動いでも、掌は張り付いたように少しも離れない。
(う、嘘、うそ、なんで……!?)
直人を女性と勘違いしているのだろうか。それとも直人が大人しそうだからか。誰の尻でもいいから触りたいのか。それとも痴漢というスリルを味わいたいのか。
なんにせよ、冗談ではない。
嫌悪感が沸き上がる。しかし直人は声も上げられない。
ただじっと身を竦めるだけの直人に痴漢は気を大きくしたのか、大胆に手を動かしはじめた。
「ひっ……」
空気が漏れたような掠れた悲鳴は、誰にも気づかれることはなかった。
いやらしい手付きで尻の肉を揉み込まれる。
(うそうそうそ、やだやだ、嫌だ、気持ち悪い、触らないで……!!)
直人は誰かに助けを求めることもできず、されるがまま体を震わせるだけだ。
恐怖と嫌悪感にじわりと涙が浮かぶ。
そのときぐいっと横から腕を引っ張られた。
驚いて顔を上げると、そこには佐々木がいた。
彼は混雑する狭い車内の中を、直人の腕を引いて強引に移動する。
迷惑そうな顔を向けられたが、文句を言われることはなかった。
気づけば直人はすっかり痴漢から離れ、佐々木に震える体を支えられていた。
状況が飲み込めず、直人はぽかんとしていた。
直人が呆けている間に電車は駅に着き、佐々木に促されるまま降りた。
そこで漸く、直人は声を上げた。
「あ、あ、あの……っ」
声をかけるものの言葉が見つからずモゴモゴする直人に、佐々木は苦笑する。
「突然ごめんね、びっくりしたよね」
「えっ、あ、いや……」
「あの、間違ってたらごめん。もしかして、痴漢されてた?」
周りに聞こえないように耳元で尋ねられ、直人は驚き目を見開く。
「ど、ど、どうして……」
「車内でたまたま木村さんを見かけて、声をかけようか迷ってたんだ。そしたら、なんか様子がおかしかったから。泣きそうな顔してて、もしかしたらって思って。それで無理やり引っ張っちゃって。ごめんね」
「そ、そんな……」
再び涙が込み上げてくる。
気づいてくれた喜びと、助けられた安心感がじんわりと胸に広がる。
「あ、ありがとう、俺、俺、びっくりして、怖くて……っ」
「うん」
震える肩を、佐々木が優しく叩く。
「助けてくれて、ありがとう……っ」
「そっか。助けられたのなら、よかった」
佐々木の穏やかな微笑みに、恐怖は薄らいでいった。
それから二人で大学へ向かった。そこで漸く、佐々木は直人が自分と同じ大学に通っていることを知ったのだ。
「知らなかった、僕たち、大学同じだったんだね」
「そ、そうだね」
「すごい偶然。引っ越し先のお隣さんが、同じ大学に通ってたなんて」
にこっと爽やかに微笑まれ、直人の胸がきゅんっと締め付けられる。
「なんか嬉しいね。運命感じちゃう」
冗談めかして言われた言葉に、直人は本気でときめいてしまう。
浮き立つ心を戒め、冷静を装った。
「そ、そ、そうだね……っ」
「これからは『木村』って呼び捨てにしてもいい? 同い年なのに『さん』付けじゃ他人行儀だし」
「も、も、もちろん!」
「僕のことも『佐々木』って気軽に呼んでくれていいからね」
「う、うん!」
既に心の中では「佐々木」呼びしていたが、本人に向かってそう呼んだことはない。
呼び捨てで呼び合うなんて、友達みたいだ。
嬉しくて緩みそうになる口元を必死に引き締める。
それから連絡先を交換することになり、直人は舞い上がりそうになる自分を押さえつけるのが大変だった。
校内で佐々木と別れたあと、トイレに籠って心を落ち着けなければならないほど、嬉しくて転げ回りたい気分だった。
その日の夜、再び佐々木がお裾分けを持ってやって来た。
直人は感動して、何度も礼を言った。本当にまた佐々木の手料理が食べられるなんて思っていなかった。
「ところで、木村は明日何時に家出るの?」
「え? え、えーっと、明日も一限からだから、今日と同じ時間に出るけど……」
「そっか。じゃあ明日は一緒に行こう」
「ええ!?」
「嫌?」
ぶんぶんぶんっと吹っ飛ぶくらいの勢いで首を横に振る。
「嫌なんて、まさか!! 全然、全く、嫌じゃないよ!!」
「ならよかった。これからは、一緒に行こう?」
「え、で、でも……」
「もちろん、時間が合うときだけでいいから。これからは前日に、次の日何時に出るか教えてもらえる?」
「そ、それは、えっと、うん、その、佐々木、が、いいなら、一緒で……」
死ぬほど嬉しいけれど、それをおおっぴらに態度に出すわけにもいかず、直人はしどろもどろに了承する。
(うわ、俺の態度すごいおかしいよ……。どうしよう、佐々木、不愉快になってないかな……。喜び過ぎたらそれもそれで気持ち悪いと思われちゃうし。でも普通の受け答えができないっていうか普通ってどんなのだよわかんないよ)
混乱する直人に、佐々木はにっこり微笑んだ。
「じゃあ、ドアの前で待ち合わせね。また明日」
そう言って、佐々木は自分の部屋へ戻っていった。
(うう……俺絶対挙動不審だったよな……。でも佐々木は、そんな俺にいつも通りの態度で接してくれる……)
いつもおどおどしている直人に、嫌な顔など見せない。
(でもまさか、一緒に行こうなんて、佐々木から誘われるとは思ってなかった……。佐々木と一緒に登校なんて、そんなの嬉しすぎる……。心臓痛い……)
最近喜び過ぎて心臓がおかしくなりそうだ。
ぽわぽわした気持ちで、佐々木から貰ったお裾分けを食べた。
翌日から、時間が合えば佐々木と一緒に登校することになった。
直人にとっては夢のようなひとときだった。一人での通学時間はなんの面白みもなく、寧ろ辛く感じることもあった。だが佐々木と一緒ならば、彼の傍にいられるだけでも幸せなのに、彼に微笑みかけられ、何気ない会話を交わせるその時間はなにものにも代え難い大切な時間だった。直人は緊張して、まともに会話もできていないのだが。一人だとだるくて長く感じる通学も、佐々木となら楽しくてあっという間に過ぎてしまう。
電車が満員のときは、直人は必ずドアを背に立つように佐々木に誘導された。言葉には出さず、自然とそうなるように位置を調整されるのだ。
もしかしたら彼は、直人がまた痴漢されるのを心配して一緒に登校すると言ってくれたのかもしれない。
そんな自惚れた考えを抱いてしまうほど、満員電車の中で佐々木は直人を守るような行動を取るのだ。
今も満員電車の中、直人の正面に立ち、ぴったりと寄り添っている。
電車がカーブに差し掛かり、乗客の体が一斉に傾く。
佐々木は直人に体重をかけないよう、直人が背にしているドアにぐっと両手をついた。
佐々木の腕に囲われているような状況に、直人の顔が紅潮する。佐々木に気づかれてしまうのではないかと心配になるほど、心臓がばくばくと高鳴っていた。
(ううううわ~、佐々木と、こんな、密着しちゃってる、どうしよう、体熱い、胸が痛い、佐々木の匂い、いい匂いが、ダメダメ、そんな匂いを嗅ぐなんて、そんな変態じみたこと、佐々木は善意で、こうして体を張って俺を守ってくれてるのに、匂いを嗅いで興奮してるなんてバレたら変態だと思われる、嫌われる)
直人は必死に息を止めた。
(ああでも、この体勢ってなんか、恋人同士みたいだ。佐々木は彼女と満員電車に乗ったら、やっぱりこうして守ってあげるんだろうな。うう、今だけでも、彼女気分を味わってもいいかな。でも、俺がこんなこと考えてるなんて知ったら、気持ち悪いと思われるんだろうな……)
だから、絶対に彼に気持ちを知られてはいけないのだ。
匂いを嗅ぐのも駄目。うっとり見惚れるのも駄目。
しかし気を抜くと、すぐに視線は佐々木に引き寄せられる。
目の前に佐々木が立っていて、視線を向ければすぐそこに佐々木の顔があって、男らしくて綺麗な首筋が目に入って、開いた襟元から鎖骨が覗いている。
思わず目を奪われ、しかし慌てて顔を伏せた。
体が火照る。下半身が疼く。
ずっと佐々木が好きだった。
でも、こんな気持ちになったのははじめてだった。
彼に触れたい、触れてほしいと、そんな風に望んだことなど今までなかったのに。
直人ははじめてのことに戸惑い、悶々とした気持ちを抱えながら電車に揺られていた。
夜。直人はなかなか寝つけなかった。
佐々木のことが頭から離れず、佐々木のことを考えるとムラムラして、必死に眠ってやり過ごそうとするけれど、眠気はどんどん遠ざかり、体の熱は蓄積していく一方だ。
既に、触ってもいないのにぺニスは緩く勃ち上がってしまっている。こんな状態では眠れない。
直人は仕方なく布団から出て、ベッドに座った。ズボンと下着をずり下げ、性器を露出させる。
(どうしよう、俺、佐々木のこと考えて、こんなことになっちゃってる……)
頭を擡げたぺニスを見て、罪悪感が胸を過る。
それでも萎える様子はなく、直人は下半身へ手を伸ばした。
事務的に擦ってさっさと出してしまおうと考えたのだが、勃起はしたが射精には至らない。中途半端な状態がつづき、直人はもどかしさに泣きそうになる。早く終わらせたいのに、焦ると余計に終わりが遠のく。
(そうだ、佐々木の手だと思えば……)
一刻も早く体に籠る熱を解放したくて、直人はそう考えた。
後ろめたさはある。でも、このままではどうしようもない。
目を閉じれば、すぐに佐々木の顔が思い浮かぶ。
お裾分けの入ったタッパーを受け取るとき、たまに触れる彼の指先の感触を思い出す。男らしい、でも、長くて綺麗な指。
(あっ、佐々木っ、佐々木の、手が、俺のおちんちん、擦って……っ)
直人は一気に興奮し、夢中でぺニスを扱いた。
「っふ、あ……んっ……」
脳内ではしたなく喘ぎながら、唇を噛み締めて必死で声を押し殺す。
(あっあっ、気持ちいいっ、佐々木の手、気持ちいいっ、もっとしてっ、もっと擦ってっ)
鈴口から滲んだ先走りを指に絡め、先端を掌で撫で回す。
(あぁっ、いいっ、それ気持ちいいっ、佐々木っ、もっとくちゅくちゅしてっ、佐々木、佐々木っ)
本当に佐々木に触れられていると錯覚するほど興奮していた。
気づけば見せつけるように脚を開き、淫らに腰を揺らしていた。
していることはいつもの自慰と変わらないのに、今まで感じたことがないほど強い快感だった。
(佐々木、好き、好き、もっと触って、あっ、気持ちいい、もういく、いっちゃう、佐々木の手でいっちゃうっ)
ぺニスを激しく擦り上げ、やがて精を吐き出した。
直人の荒い呼吸が室内を満たす。
視線を向ければ、掌は自身の体液でベットリと汚れていた。
射精の解放感と、佐々木をけがしてしまったような罪悪感に直人は暫く動けなかった。
もう二度と佐々木をおかずにオナニーなどするまいと思っていたのに、一度味わった快感を体は忘れられず、それから頻繁に自慰を行わなければならなくなってしまった。
我慢しようと努力はするけれど、一人で部屋にいると佐々木の笑顔や声がふとした瞬間に蘇り、そうなるともう、熱を発散しなくては治まらなくなるのだ。
そして最近は、ぺニスだけでなくアナルまで弄るようになってしまった。
ぺニスから漏れた蜜を指に纏い、むずむずと疼くアナルに塗りつけ、そのまま指を挿入する。
「んぁっ……」
大きい声が出てしまい、慌てて唇を噛む。
部屋の壁は薄いのだ。隣の部屋まで聞こえてしまうかもしれない。喘ぎ声を佐々木に聞かれたら終わりだ。
だったらこんなことしなければいいとは思う。直人だって本当はしないで済むのならしたくない。
今まではこんなことはなかったのだ。直人は淡白な方で、自慰など滅多にしなかった。その反動なのか、今では毎日のようにこうして自分を慰めなければ落ち着かなくなってしまった。
欲望を吐き出さなければ、翌日もずっとムラムラして佐々木の顔を見るだけで体が疼き、講義にも集中できず、生活に支障をきたしてしまうのだ。
だから必死に声を殺し、性器を擦り、後孔を弄る。
どんどん体が敏感になっていっているような気がした。回数を重ねるほど、快感が増していくのだ。
(あっ、気持ちいっ、佐々木、佐々木、好き、佐々木にお尻弄られるの、気持ちいいっ)
罪悪感に苛まれながらも、直人は心の中で何度も彼を呼び、彼のことを考えながら指を動かす。
(あぁっ、もっと、もっと奥までしてっ、奥まで、あっ、そこ、気持ちいいっ、そこぐりぐりされるの好き、あっ、ダメ、そんなにされたら、気持ちよすぎておかしくなるから、あっ、あっ、そこ、そこ、佐々木のおちんちんでぐりぐりされたい、佐々木、佐々木、好き、好き、大好きっ)
噴き出した精液を、掌で受け止める。
終わったあとは酷く虚しくて、佐々木に対する後ろめたさに消えてしまいたくなる。今すぐ彼のもとへ行って、土下座して謝りたくなる。
勝手に自慰のおかずにされてると知ったら、彼はどう思うだろう。
申し訳なさに泣きたくなりながら、ティッシュに手を伸ばした。
直人はそんな状態だが、佐々木との関係は変わらずつづいていた。時間が合えば一緒に大学へ向かい、たまにお裾分けを貰う。ただの隣人から顔見知りへ、それから友人と呼べるくらいには親しくなれたのかもしれない。佐々木がどう思っているかはわからないけれど。
そんなある日、佐々木に誘われた。
「今日の夜、僕の部屋でご飯食べない? そのあと一緒に飲もうよ」
「え!?」
直人は激しく動揺してしまった。
体は硬直し、頭は真っ白で言葉が出てこない。
直人の反応に、佐々木は表情を曇らせた。
「あ、嫌だったかな?」
直人は目が回るほど首を横に振り回した。眩暈がしてふらついた。
「ご、ごめん、全然、嫌じゃないよっ」
「ほんと? じゃあ来てくれる?」
「で、で、でも、あの、飲むって、俺、あんまり、飲んだことなくて……」
成人しているが、人付き合いの薄い直人は飲み会などに参加することもなく、お酒を飲む機会がほぼなかった。自分がお酒に強いのか弱いのかもわからない。
「そうなんだ。じゃあ軽いのから少しずつ飲んでいこうね」
佐々木はにこりと微笑む。
しかし直人は不安だった。
(大丈夫かな。加減とかわかんない状態で佐々木と飲んだりして……。気づかないうちに酔っ払って、佐々木に絡んだりとかしたら……)
「楽しみだね、木村」
「う、うん」
不安は拭えないが、嬉しそうな佐々木を見るとなんでもかんでも受け入れてしまう。
ゆっくりしたペースで飲めば大丈夫だろう。
直人はそう結論付け、「じゃあまた夜に」と離れていく佐々木に手を振った。
そして夜。直人はお酒のつまみになりそうなものを調べて購入し、それを手土産に佐々木の部屋を訪れた。
はじめて入る佐々木の部屋に異常なほどドキドキしてしまう。
直人と同じワンルームの至って普通の部屋なのに、佐々木がここで生活しているのだと思うと、部屋を見るだけで感動した。
きちんと片付けられた綺麗な部屋だった。
(うう、佐々木の匂いが、佐々木のいい匂いが……どうしよう、こんな部屋で佐々木と一緒に過ごすなんて……心臓おかしくなりそう……)
心臓はずっと、壊れたようにばくばくと脈打っている。すぐにでも止まって死んでしまいそうだ。
胸を押さえる直人に、佐々木が微笑みかけてくる。また心臓が跳ねた。
「ご飯用意するから、座って待ってて」
促され、クッションの上に正座する。
ワンルームなので、見える場所にベッドがあった。
(いつも、あそこで、佐々木が……)
想像してしまいそうになり、直人は慌ててベッドから顔を背けた。
ただのベッドなのに、見てはいけないものを見てしまったような気分だ。
いつも佐々木を頭の中でけがしている自分が、彼の部屋の中を見るだけでも許されないような気がして、直人はじっと視線を落としていた。
そこへ佐々木がやってくる。
「ふふ、木村、なんで正座してるの?」
「え、あ、な、なんとなく……?」
「痺れちゃうよ。もっと楽にして」
「う、うん……」
顔を赤くしながら直人は足を崩した。
並べられる料理はいつも通りどれも美味しそうだ。
準備を終え、佐々木も直人の正面に座る。
「じゃあ食べようか」
「い、いただきます」
「どうぞ」
佐々木の手料理だけでも幸せなのに、佐々木と一緒にご飯を食べられるなんて。
(うう、胸がいっぱいで張り裂けそう……でもすごく美味しそうだし、お腹は空いてるし、ちゃんと食べられそうでよかった……)
折角夕食に誘ってもらったのに、胸がいっぱいで食べられないなんてもったいないし、誘ってくれた佐々木に申し訳ない。
直人は手の込んだ料理を口に運ぶ。
「美味しい……!」
「ほんと? そう言ってもらえて嬉しいな」
佐々木ははにかんだように微笑む。
その表情に胸をきゅうっと締め付けられた。
「いつも美味しいって感想はもらってるけど、こうして目の前で食べて美味しいって言ってもらえると凄く嬉しい。木村の顔を見ると、本当に美味しいんだなって伝わってくるし」
そんなに表情に出てしまっていただろうか。
無自覚だった直人は赤面した。
恥ずかしがる直人に、佐々木は笑みを深めた。
「また一緒に食べてくれる?」
「も、も、もち、もちろん! あの、俺でよければ……っ」
「木村がいいから、誘ってるんだよ」
佐々木の言葉に、笑顔に、頭がくらくらした。
夢心地のまま食事をして、でもご飯は美味しくて、きちんと味わって完食した。
そのあとは直人の手土産をつまみに、お酒を飲みはじめた。
「まずは軽めのね。飲んでみて」
「ん……、甘くて、美味しい」
佐々木がグラスに注いでくれたお酒を、ゆっくりと飲み進める。ジュースのように甘くて、お酒を飲んでいる感覚ではなかった。
だから、名前もわからないお酒を、佐々木に勧められるまま飲みつづけた。
「木村、大丈夫?」
「ん? んー?」
「僕の言ってること、わかる?」
「んんー?」
なにを訊いても反応が鈍い。直人は完全に酔っ払っていた。
佐々木はほくそ笑み、直人の手からグラスを取り上げる。
「あ……なんで……?」
「お酒はもうダメ」
「ダメ……?」
「うん。こっちにおいで、直人」
「んー」
ふにゃふにゃの直人の体を引き寄せる。直人は抵抗せず、佐々木の体に凭れかかった。
直人、と下の名前で呼んでも、酔っている彼は違和感など感じない。
「うーん、心配だなぁ。僕相手ならいいけど、他の人と飲んでるときは気を付けないとダメだよ。こんな風に、気づかない内に強いお酒飲まされて、酔っ払って襲われちゃうからね」
「んー、うん……?」
「危ないから、今後は僕のいないところでは飲まない方がいいね」
「うん……」
どれだけ勝手なことを言っても、よくわかっていない直人は否定しない。わけもわからず頷くだけだ。
「直人、ねぇ、キスしよう?」
「きす……」
「嫌? 僕とキスしたくない?」
直人はぼんやりと佐々木の顔をじっと見つめる。
「佐々木と、キス……?」
「そうだよ」
「…………キス、したい、佐々木と……」
蕩けた瞳でねだる直人に、佐々木はうっとりと目を細めた。
直人はなにも考えられなくなっている状態だが、それでも佐々木とキスをしたいと思っている。それを望んでいる。
佐々木は思わずクスクスと笑みを漏らした。
きっと自分の方が。直人が思うよりも前から、直人よりもずっと強くそれを望んでいた。
漸く手に入る。
「佐々木、キスは……?」
焦れたように直人に呼ばれた。
拗ねたような直人の表情を見ると、自然と視線が甘くなる。
「ごめんね」
するりと直人の頬を撫でた。
「キスしよう」
「ん……」
直人はぎゅっと目を閉じた。
その仕種が可愛くて、押し倒してめちゃくちゃに口内を犯して嬲り尽くしてやりたくなるがぐっとこらえた。
優しく唇を重ね、ちゅっちゅっと音を立てて啄む。柔らかい唇の感触を堪能し、それからそっと舌を伸ばした。直人の唇を舌でなぞる。
「ふぁっ……」
直人の肩がびくんっと跳ねた。けれど直人は拒まず、差し込まれる佐々木の舌を受け入れた。
しがみついてくる直人の体を抱き締めながらキスをする。
彼が怖がらないよう優しく口の中を舐め、そっと舌を絡めた。拙い動きで直人もキスに応えてくる。
唇を離すと、直人の瞳は快感に潤んでいた。
濡れた彼の唇を指で撫でる。
「気持ちよかった?」
「ん……」
直人は真っ赤な顔で素直に頷く。
体勢を変え、力の入らない彼の体を後ろから抱き締めた。直人の背中が佐々木の胸にぺったりと張り付く。
佐々木は背後から手を回し、直人の服を捲り上げた。
「んんっ……」
素肌に手を滑らせれば、直人は体をぷるぷると震わせた。擽ったそうに身を捩るが、佐々木の手を拒んでいる様子はない。
アルコールに火照った直人の体は熱かった。
腹部から胸元へ掌を這わせ、柔らかい乳首に触れる。
「んぁっ……」
「直人、オナニーのとき、乳首は弄らないよね」
「ん、ん、あっ……」
「これから僕がたくさん弄って、乳首だけでイけるようにしてあげるね」
「ふぁ……?」
「いやらしい乳首になるの、楽しみだね?」
「んんっ……」
耳を舐めながら囁けば、直人は意味もわからないまま頷いている。
両方の乳首に指先で刺激を与え、立ち上がった突起を指でそっと摘まんだ。
「んあぁっ」
びくびくする直人の体を優しく拘束し、乳首を弄りつづける。
「直人、僕ね、直人の心の声が聞こえるんだ」
「ふ、え……?」
「直人とはじめて会ったときから、ずーっとだよ。覚えてるよね? 直人が階段から落ちて、僕がそれを受け止めた。あのときからずっと。どれだけ距離が離れてても、どこにいても、直人の心の声が聞こえるんだ」
「ん、あっ、あっ」
とんとんと乳頭を指先で叩きながら、佐々木は語りかける。酔っ払っている上に愛撫された状態で、直人は佐々木の話していることなど理解できていないだろう。
「最初は幻聴だと思ったんだ。だって現実にそんなことあるはずないし。階段から落ちてきた直人に一目惚れして、そうしたら直人の方も僕のことを好きになってくれてたなんてそんな都合のいい展開。だから聞こえてくる直人の声は僕の願望が生み出した幻聴だって思ってた」
「あっ、あっ、あんっ」
徐々に乳首から快感を得ているようで、直人の声はどんどん甘くなっていく。
ぷくりと膨らんだ乳首を、指でくにくにと転がした。
「あぁっ、あっ、あっ」
「でも幻聴はどこにいてもなにをしてても聞こえてきて。直人が大学で僕のことを見かけて喜んでる声が聞こえたとき、捜したら直人は確かに見える範囲にいて、幻聴にしては現状とリンクしすぎてる。だから確かめることにしたんだ」
「ひゃんっ」
乳首を指で挟んで優しく摘まみ上げると、直人は腰をくねらせた。
「直人の部屋にカメラを仕掛けて、直人の行動と聞こえてくる心の声が一致するかどうか検証したんだよ。このアパート、防犯カメラもなにもないし入ろうと思えばいつでも部屋に入れちゃうから危ないよ。危険だから、もっとセキュリティのしっかりしたところに一緒に引っ越そうね」
「はあっ、あっあっあんっ」
「引っ越しのことは直人が素面のときに話そうね。それで、カメラで直人を観察したら、やっぱり聞こえてくる心の声と行動はしっかり一致してた。聞こえてくる声は幻聴なんかじゃないって、やっと確信できたんだ」
「あぁんっ、あっ、ひゃ、ぅんっ」
ぴんっと乳首を指で弾くと、直人の腰がびくっと浮いた。先程から直人はずっと腰をもじもじと揺らしている。
「嬉しかったよ。直人が僕のことを好きって言ってくれてるのが、僕の願望じゃなくて直人の本心だってわかったから」
「んひっ、ひ、ひあっ、あっ、はぁんっ」
ぴんぴんぴんっと高速で乳首を弾けば、そのたびに直人の体がびくんびくんと反応する。
直人は何度も太股を擦り合わせた。ズボンの上からでもわかるほど、直人の股間は膨らんでいた。
「僕はすぐにでも直人に気持ちを伝えて、直人を自分のものにしたかった。でもね、直人の心の声をずっと聞きつづけてきた僕は思ったんだ。僕がいきなり告白しても直人は信じないんじゃないかなって」
「あんっ、あっあっあっ」
「きっと警戒して、僕の気持ちを信じられないんじゃないかって。直人は僕のことを好きでいてくれたけど、恋人になりたいと望んでなかったよね。遠くから見られればそれだけでいいって思ってた。親密になりたいとか、そういうことは一切考えてなかった」
「ふあぁっ、は、あっ……」
乳首から指を離し、今度は乳輪をくるくると撫でる。途端に直人の口から物足りなそうな声が上がった。
「んやあぁっ……」
「だから、いきなり告白するのはやめたんだ。ちゃんと、直人が好きっていう僕の気持ちを信じてほしいし。もっと直人と距離を縮めて、段階を踏んでから告白しようって思って。そしたらちょうど直人の隣の部屋が空いてたから引っ越してきたんだよ」
「あっ、やぁっ、んん……っ」
直人はもどかしげに胸を突き出す。乳首を弄ってほしくてねだっているのだろう。
可愛いおねだりに乳首をめちゃくちゃに舐めしゃぶってやりたくなるけど我慢して乳輪を撫で回す。
「直人の心の声がずっと聞こえてて、僕のこと考えて一喜一憂してる直人が壁一枚挟んだ向こうにいるのかと思うと、興奮して何度も乗り込みそうになったんだよ。でもそんなことしたら全部台無しだから、必死に耐えてたんだ」
「や、やんっ」
「痴漢されたのは許せないけど、あれがいいきっかけになったのは確かだよね。絶対に許せないけど」
「ひあっ」
佐々木は直人の胸から手を離し、下半身へと伸ばした。
ずっと誘うように揺れている腰を撫で、股間の膨らみを掌で包み込む。
「んあっ、あっあっ」
「一緒に電車に乗ってるとき、いつも可愛いこと考えてたよね。ほんと、何度襲ってやろうかと思ったか」
「んゃっ、あっあっ」
「嬉しかったよ、直人が僕のこと考えながらオナニーしてくれるようになって。漸く、僕のことを性的な目で見てくれるようになって」
「ふ、あっ、あぁっ」
直人のぺニスを取り出し、既に先走りを滲ませているそれを直接掌に握り込む。
「何回も心の中で僕の名前呼んで、好き好きって言いながらおちんちんとおまんこ弄ってたよね。カメラ仕掛けといてよかったよ。お陰で直人の可愛いオナニー見られたし。声だけでも充分楽しめたけどね」
「んひっ、ひあぁっ」
ぐりぐりと鈴口を擦りながら、もう片方の手で幹を扱く。
直人はがくがくと腰を揺らした。とぷとぷと蜜が溢れ、佐々木の指を汚す。
「でもほんと、我慢するのが大変だったよ。だってすぐ隣にいるんだよ? あんな風に名前を呼ばれて、ほんとはすぐにでも直人のところに行って押し倒して全身ぺろぺろして犯しまくりたかったけど、そんなことしたら直人はびっくりしちゃうよね。直人は恥ずかしがり屋だし。今までの我慢が無駄になっちゃうから頑張って耐えたんだよ」
「んやあぁっ、らめ、らめっ、きもちいっ、あっ、いっちゃ、いっちゃうぅっ、」
「イきそう?」
「ぅんっ、いくっ、あっあっ」
「誰におちんちん弄られてイくの?」
「あ……ささき、ささきにっ、ささきにされていっちゃう、あっ、あんんっ」
理性は飛んでいるが、ちゃんと佐々木にされているという自覚はあるようだ。
舌足らずな声で繰り返し佐々木の名前を呼ぶ直人が可愛くて、ぺニスを擦る手にも熱が籠る。射精を促すように、くちゅくちゅと敏感な先端を弄り回す。
「んぁっ、すき、すき、ささき、ささきに弄られていっちゃうっ」
「いいよ、僕の手に出して」
「あっあっあっあっ、あ────!」
びくびくと体を痙攣させ、直人は射精した。
吐き出された体液を、掌で受け止める。
直人はぐったりと体から力を抜き、呆けたようにただ荒い呼吸を繰り返す。
やがて、とろりと直人の瞼が落ちていった。
「おやすみ、直人」
佐々木は彼の頭のてっぺんに、ちゅっと口づけを落とす。
「明日が楽しみだね」
あどけない直人の寝顔を見つめ、佐々木はうっとりと微笑んだ。
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