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セックスしないと出られない部屋
しおりを挟むセックスしないと出られない部屋に閉じ込められた友達二人の話。
───────────────
気づけば広くもない部屋の一室に閉じ込められていた。
窓はなく、唯一の出入り口であるドアは固く閉ざされていた。体当たりしても、蹴り上げても、開くことも壊れることもなかった。
壁に張られた紙には、こう書かれていた。
『セックスしないと出られない部屋』
部屋の真ん中に置かれたキングサイズのベッドが生々しい。
途方に暮れ、尚樹は隣に立つ哲平に顔を向けた。
「どうしよっか……」
同じように困り果てた顔で、哲平は深い溜め息を零した。
「とりあえず、一旦休んで様子見るか」
「うん……」
二人は力ない足取りでベッドに向かった。
閉じ込められてから何時間経ったのか、隠された出口や脱出の手がかりを部屋中探し回り、ドアを壊せないか試したり、ずっと動き回ってもうくたくただった。
小さな冷蔵庫が置いてあり、その中には水の入ったペットボトルが詰められていた。こんな部屋の中にあるものを口にするのは怖かったが、水分をとらないわけにはいかないので飲んだ。
ベッドに並んで腰掛け、尚樹は水を飲みながら、隣にそっと視線を向ける。
哲平とは中学からの付き合いだ。この春、同じ大学に行くことも決まっている。
端正な顔立ちに、スポーツで鍛えられた逞しい体つき。そんな哲平は中学の頃から大層モテていたが、硬派で、浮いた話など聞いたことがない。多分、恋人はいないはずだ。尚樹に隠して恋人を作ることはないだろう。
尚樹はペットボトルを強く握り締めた。
俯き、視線を下に落とす。
哲平に気づかれないよう、何度か深呼吸を繰り返した。
そして、顔を上げる。緊張しているのが伝わらないように、頬を緩め、なんでもないことのように軽い口調で哲平に言った。
「試しにさ、一回、セックスしてみる?」
僅かに声が震えてしまったが、きっと気づかれなかっただろう。
尚樹の言葉に、哲平は、思い切り顔を顰めた。
「はあ? するわけねーだろ」
心臓を抉られるような、激しい痛みに襲われる。
けれど尚樹はそれをおくびにも出さず、殊更大きな声で笑った。
「あっはは、だよなー」
必死に涙をこらえた。ここで泣いてしまえば、尚樹の気持ちがバレてしまう。だから決して涙は見せなかった。
「変な冗談やめろよ」
「ごめんごめん」
哲平に小突かれて、尚樹は声を立てて笑った。笑うしかなかった。
平然と眠りにつく哲平の背中を、尚樹は暗い瞳で見つめていた。
ひとまず眠って、目が覚めたらまた脱出の方法を考えようということになった。ベッドは一つしかないので、当然、一つのベッドを二人で使うことになる。
「じゃあ、おやすみ」と言って、哲平は背を向け、すぐに寝息をたてはじめた。
大きなベッドは男二人で寝ても充分に余裕がある。二人の間は手を伸ばさなければ届かないほどに距離がある。
それでも、尚樹は哲平のようにあっさりと眠ることなどできない。
哲平が好きだから。
出会ったときから、ずっとずっと彼に片想いをしている。
彼は知らないのだ。
『試しにさ、一回、セックスしてみる?』
尚樹がどれだけの勇気を振り絞ってあの言葉を言ったのか。
彼とここに閉じ込められて、尚樹は密かに喜んでいた。もしかしたら、彼に抱いてもらえるかもしれない。一度だけでもいい。哲平に気持ちがなくても。たった一度きりでも抱いてもらえたら、なんて夢を見ていた。
そんなことはあり得ないのだ。
『はあ? するわけねーだろ』
あのときの、哲平の表情が、声が、脳裏にこびりついて離れない。
物凄く嫌そうな顔で、きっぱりと拒絶された。
哲平はたった一度でさえ、尚樹とセックスはしたくないのだ。
当たり前だ。同性の友達とセックスしたいなんて思わない。彼の反応が普通なのだ。
もしかしたら、一週間くらい経っても出られなければ、仕方なく、嫌々抱いてくれるかもしれないけれど。
拒絶されたあとでは、もう、少しも喜べない。
きっと友達としても付き合っていけなくなる。
だったらいっそ、関係を壊してしまおうか。
だってもう、今までのように彼の前で自然に笑える自信がない。
彼の拒絶は、それほどまでにショックだった。
友達でもいられなくなるなら。
もう二度と顔も見たくないと思われるくらい、彼に嫌われてしまいたい。
そうすれば、これ以上傷つくこともなくなる。
きっとこの先、彼には恋人ができて、いずれ結婚するのだろう。
嫌われて、友達でなくなれば、それを笑顔で祝福する必要もなくなる。
この部屋には、色んな物が用意されていた。コンドームにローション、バイブやローター、媚薬と書かれたピンク色の液体の入った小瓶。ロープや手錠やアイマスク。そして睡眠薬。
まるで、尚樹の行動を後押ししているかのようだ。
サイドテーブルに置かれた睡眠薬に手を伸ばす。
哲平は熟睡しているようで、起きる様子はない。けれど、さすがに手錠を嵌めようとすれば目を覚ますだろう。抵抗されれば、尚樹にそれを押さえつける力はない。だから、薬を使って眠らせる必要がある。
冷蔵庫に入っている、哲平の飲みかけのペットボトルを取り出した。その中に、砕いた睡眠薬を入れて溶かした。そして冷蔵庫に戻す。
尚樹はベッドに横たわり、殆ど眠れないまま時間が過ぎるのを待った。
いつの間にか浅い眠りに就いていた。目を覚ますと哲平は既に起きていて、笑顔で「おはよう」と声をかけてきた。
「おはよう……」
辛うじて返事はできたが、笑顔を返せていたかはわからない。
哲平が冷蔵庫から水を取り出し、ごくごくと喉を鳴らしながら飲むのを横目で確認する。彼は薬を混入されているなんて疑いもしないで、全て飲み干した。
それから、また二人で室内を動き回る。ドアはやはり開くことはなく、他に出られそうな場所もない。それでも脱出できる通路を探し続けた。それしかすることがないから。
暫くして。
「なんか、スゲー眠くなってきた」
そう言って、哲平はあくびを噛み殺す。
尚樹は平静を装い、彼をベッドへ促した。
「眠いんなら寝れば? なんか見つけたら起こすし」
「いや、でもな……」
「こんな状況だし、寝れるときにちゃんと寝といた方がいいって」
「おっかしいな……ぐっすり寝たと思ったんだけど」
首を傾げながらも、睡魔には抗えないのか、哲平はふらふらとベッドに近づく。倒れ込むようにベッドに横たわり、そのまま眠りについた。
静まり返った室内で、空調の音がやけに大きく耳に届く。
ゆっくりと足を進め、ベッドの傍らで立ち止まった。
哲平の顔を覗き込む。彼は完全に眠っていた。睡眠薬が効いているのだろう。
心臓は痛いくらいにバクバクと脈打っているが、尚樹は迷いのない手付きで行動を起こした。
哲平を仰向けにベッドの真ん中に寝かせ、ファーのついた手錠を使って両手首を頭上でベッドに拘束する。そして彼にアイマスクをつけた。
途中で目を覚ましたとき、彼に顔を見られたくない。セックスの最中の尚樹の顔など、彼の記憶に残したくない。
哲平のズボンと下着をずらし、陰茎を取り出す。
修学旅行などで一緒に風呂に入ったことはあったが、極力見ないようにしてきた。見たら変な気分になってしまうだろうから。
はじめてまともに目に映し、尚樹はごくりと唾を飲み込む。
手で握り、上下に擦った。反応しなければ媚薬を飲ませようと考えていたが、肉棒は徐々に固く張り詰めていく。
尚樹はズボンと下着を脱ぎ捨て、ローションをたっぷりと手に出してアナルに塗りつけた。
自分で後ろを解しながら、彼の男根に舌を這わせる。
睡眠薬の効果がどれだけ続くかわからない。早く準備を終わらせる必要があった。
哲平の屹立を口に含んでじゅぽじゅぽと扱き、後孔に指を出し入れする。弄るのははじめてではないが、今は自慰のために弄っているわけではない。大量にローションを使って、迅速に後孔を広げていった。
哲平の乱れた息遣いが僅かに聞こえてくる。彼の男根は反り返り、先走りを漏らしていた。
感じてくれているのだと思うと、こんな状況なのに嬉しくなる。
めいいっぱい咥えた男根を、ゆっくりと口から出していった。びくびくと脈打つそれに、コンドームを取り出し装着する。
アナルから指を引き抜き、尚樹は哲平の腰を跨いだ。
アイマスクで隠れた彼の顔を見下ろすと、色んな感情が込み上げてきて泣きそうになる。
けれど尚樹は迷わなかった。
片手で後孔を広げ、もう片方の手で哲平の陰茎を固定する。先端を蕾にぴったりと宛がい、慎重に腰を下ろしていった。
「んんぅんんんうぅっ」
固く太い楔に胎内を押し広げられていく感覚に、尚樹は目を見開いた。
「はっ、ひっ、ひうぅっ」
息を荒げながら、確実に肉棒を埋め込んでいく。
腹の中を圧迫される苦しさと、腸壁を擦られる快感が混ざり合い、呼吸が浅くなる。
「っく、う……っ」
哲平の口から呻き声が漏れる。額には汗が浮かんでいた。
もう目を覚ましてしまうかもしれない。
彼が目を覚まし、なにをされているのか理解した瞬間、二人の関係は終わるのだ。
今さら後悔はしないけれど、悲しくて、でもそれを耐えて懸命に腰を動かした。
ベッドの軋む音と、ぐちゅぐちゅと卑猥な粘着音が広くもない部屋に響いている。生々しい性交の音は聞こえるのに、なんだか現実感がなかった。
確かに体を繋げているのに、彼をとても遠く感じる。
そして、遂にそのときがきた。
「はっ……あ……!?」
哲平の体が強張る。
彼は腕を動かそうとして、拘束されていることに気づいた。
アイマスクで視界は塞がれ、すぐには状況が理解できなかっただろう。けれど下半身の違和感にハッと息を呑む。そして怒声を上げた。
「なっ、誰だっ、なにしてやがる!」
「んあぁっ」
哲平が身を捩ったことで中が抉られ、尚樹の口から悲鳴が漏れた。
「ひぁっ、動かない、でっ……」
「あ? その、声……尚樹か……!?」
「ん、俺、だよ……」
「どうなってんだよ、これ……どういう状況だ? なにがあった? まさかここに俺らを閉じ込めた犯人に強要されたのか? 脅されて、こんなこと……」
「違うよ……」
「……は? どういうことだ?」
「俺が、俺の意思で哲平に睡眠薬飲ませて……っは……拘束して、哲平のちんこ、んっ、ケツの穴に突っ込んだんだよ」
「っは、あ……? なに言って……。っつーかとりあえず手首の、手錠か? 外せよ」
「駄目だ。このまま、最後まで、するから……っ」
「っう、あっ、おい、尚樹……!?」
尚樹は止まっていた腰を再び動かした。
セックスの基準はどうなっているのだろう。一応もうセックスしているのだし、ここでやめても部屋から出られるのだろうか。それとも、挿入する側が射精を果たすまでがセックスなのだろうか。
わからなかったが、哲平に射精してもらった方が確実だろう。そう考えて、尚樹は彼の陰茎を肉筒で扱き続けた。
「んあっ、んっ、んんんっ」
硬い楔で前立腺が擦られ、上げそうになる嬌声を口を塞いで耐えた。思い切り腕に噛みつき、声を押し殺す。
目を覚まし、尚樹を相手にセックスしているとわかったら哲平の陰茎は萎えてしまうのではないかという不安があった。そのときは無理やり媚薬を飲ませてでも行為を続行しようと思っていたが、胎内に埋め込まれた彼の欲望は変わらず熱を保っている。
そのことに、ほんの少しだけ心が救われた。
「くっ、はあっ……やめろ、尚樹……っ」
哲平は制止の声を上げるが、相手が尚樹だからか体を動かして激しく抵抗することはなかった。体を動かせば、尚樹の直腸を刺激する結果にしかならないから。
「尚樹……!」
「も、少し、我慢してっ……ちゃんと、最後まで、しないと……っ」
「ふざけんな! やめろ、尚樹、こんなこと……っ」
哲平はギリッと歯を食い縛る。
彼の怒りが伝わってきて、胸が潰れるように痛んだ。
彼との付き合いは長いが、こんなに怒りをあらわにするのをはじめて見た。
それほどまでに、この行為は彼にとって許せないことなのだ。
体は快感を得ているのかもしれないが、彼の表情は、声は、やはり尚樹を拒絶していた。
涙が込み上げて、耐えきれずにぽろりと零れた。唇を噛み締めて、漏れそうになる嗚咽をこらえる。
彼は尚樹を軽蔑し、嫌悪するだろう。
そのためにこんなことをしているだ。彼に、嫌われるために。
それでも、実際に彼から忌避されるのを想像すれば涙が止まらなかった。後悔だけはしないけれど、心臓を抉られるような痛みに顔を歪める。
哲平の視界を塞いでいてよかった。こんな顔、見られたくない。
涙を流しながらも、腰を上下に振って彼の欲望を刺激し続けた。
「っく、うぅ……っ」
哲平が低く呻き、体を硬直させた。
胎内で肉棒がびくびくと跳ねるのを感じる。
哲平の体から、力が抜けた。
終わったのだ。
尚樹は深く息を吐き、陰茎を引き抜く。
服の袖で涙を拭い、手錠の鍵を手に取った。
「今、手錠外すから……」
解放すれば、殴られるかもしれない。
殴られ詰られ、軽蔑の眼差しを向けられるのだろう。
でも、それでいいのだ。
かちりと音を立てて手錠は外れた。
腕が自由になり、哲平はアイマスクを毟り取る。
上半身を起こし、彼は尚樹を睨み付けた。
激しい怒りを宿す双眸に射竦められる。
詰りは甘んじて受けるつもりだが、今はそれよりも、まずここから出るのが先決だ。
しかし口を開く前に、強い力で哲平に押し倒された。
「ぅわっ、ちょ、待っ……」
体を押さえつける力は強く、抵抗してもびくともしない。
「て、哲平っ……たぶん、もう、出れると思うから……とりあえず、ここから出よう……?」
「まだ、出れないだろ」
抑揚のない、哲平の低い声音に怯える。彼の静かな怒りが怖かった。
「で、でも……」
「今のはセックスじゃねーだろ」
「え……?」
「同意じゃないんだから、レイプだろ」
「っ……」
尚樹は息を呑む。
その通りだ。尚樹は彼をレイプしたのだ。
覚悟を決めて、自分の意思で実行に移した。
それなのに、彼の言葉が、深く重くのし掛かる。
青ざめる尚樹を、哲平は鋭い眼差しで見下ろしていた。
ごめん、なんて謝ることはできない。謝って済む問題でもないし、そもそも尚樹に許されるつもりがない。許しを得たいわけではない。
言葉が出なくて、ただ唇を震わせた。
哲平が繰り返す。
「今のはセックスじゃない」
ゆっくりと、哲平の顔が近づいてくる。
突き刺さるような彼の視線。目を逸らせなくて、呼吸も止めて見つめ返す。
「これからするのが、セックスだ」
言われたことの意味を理解する間もなく唇が重なった。
尚樹はなにが起きたのかすぐにはわからなかった。
哲平の唇の感触がしっかりと伝わってきて、漸く、キスをされているのだと気づく。
夢にまで見ていた哲平とのキスだが、尚樹はただ困惑した。どうして、なんで、と同じ言葉を頭の中で繰り返す。
硬直する尚樹の唇を割り、哲平の舌が侵入してくる。ぬるりとした粘膜に口内を舐められ、びくりと体が震えた。
「ふうぅっ、んんっ……」
動揺する尚樹の舌に熱い舌が絡まり、口の中をぐちゃぐちゃに掻き回される。
混乱する尚樹はされるがまま貪られた。
赤く腫れるほど唇を吸われ、口の周りは唾液でべとべとだ。
尚樹は必死に酸素を取り込みながら、震える声を絞り出す。
「なん、で……キス、俺に……」
「セックスする前にするもんだろ」
哲平は当然のことのようにそう言った。
彼がなにを言っているのかわからない。
「せ、っくす、する、前……?」
「順番的に普通はそうだろ。キスしてからセックスだ」
ぐるぐると、彼の言葉が頭の中で反芻される。
必死に言葉の意味を飲み込みながら、掠れた声で言った。
「でも、哲平は……俺とは、セックス、しないって……言った……」
するわけがないと、拒絶したのは彼の方だ。
「当たり前だろ」
そう、彼は吐き捨てるように言う。
ほらやっぱり。尚樹とはセックスしないのではないか。
勝手に瞳が潤んでしまう。
唾液に濡れた尚樹の唇を指でなぞりながら、哲平は続けて言った。
「まだ告白もしてねーのに、いきなりセックスなんてできるかよ」
「…………え?」
「大体、こんな、誰に見られてるかもわかんない場所でしたくねーよ。セックスしてるときのお前の顔、誰にも見せたくねーし、声だって聞かせたくねー」
「っは……え……?」
「でも、もういい。手遅れだしな。こうなったら、俺とお前のセックス見せつけてやる」
哲平は乱暴な手付きで装着したままだったコンドームを自身の性器から外した。口を縛って投げ捨てる。
尚樹はそれを呆然と見ているだけだった。
「なんで他のやつに見せて、俺が目隠しされなきゃなんねーんだよ」
「ぅあっ……!?」
ぐいっと両脚を開かれ、抱え上げられる。
哲平のものを受け入れ、綻んだままの後孔を露にされ、尚樹の顔にカッと血が上った。
身を捩ろうとすれば、そこに、硬い肉塊をごりっと押し付けられた。
尚樹が制止の声を上げる前に、亀頭が捩じ込まれる。
「っは、あっ、あっ……!?」
腰を押さえつけられ、どちゅんっと一気に奥を貫かれた。
「ひあああぁ────っ!!」
「っく、きっつ……っ」
目の前がチカチカする。
胎内に剛直がいっぱいに埋め込まれている感覚に、背筋がぶるぶる震えた。
哲平は尚樹の腰を掴み、律動をはじめる。
ぱちゅんっぱちゅんっと肉壁を擦りながら、奥を突き上げる。
「んあっあっんっ、んんっ……」
あられもない嬌声を上げそうになり、慌てて口を塞ぐ。
それを咎めるように、前立腺をごりごりと抉られた。
目も眩むような快感に、口を塞ぐ余裕などなくなる。
「んああぁっ、てっぺ、そこっ、ぐりぐり、らめぇっ、声、出ちゃうかりゃっ」
「出せよ、聞かせろ」
ギラギラと、情欲の孕んだ哲平の瞳に見下ろされ、ぞくぞくと肌が粟立った。
亀頭は前立腺を押し潰しながら奥に進み、また最奥を突き上げる。
「んひっ、ひっあっあっあっ」
「お前のエロい声、俺にちゃんと聞かせろ」
「ひやあぁっあっ、やらっ、声、らめっ、てっぺぇっ」
「ああ? 俺には聞かせられないって言うのかよ」
「あうっ、うっ、あっ、らって、こんな、あっ、みっともなぃ、俺、んんぁっ、男の、喘ぎ声、なんて、あひっ、ひぅっ、んっ、気持ち悪い、って、思われるの、や、やあぁっ」
いやいやとかぶりを振れば、哲平が僅かに口角を上げた。
彼の笑顔に、強張っていた体から力が抜ける。
「んなこと、思うわけねーだろ」
「ひあっあっあっ」
「聞かせろよ。そんで、感じすぎてぐちゃぐちゃになった顔見せろ」
「あぁっあっあんっ、んああぁっ」
激しく直腸を擦り上げられ、尚樹は涙を流してよがり声を上げた。
はしたない声を哲平に聞かれている。
涎と涙でどろどろの下品な顔を見られている。
恥ずかしい。でも、快楽に侵されて、もうなにも考えられなくなっていく。
ごりゅっと奥を抉りながら、哲平が口付けてくる。
尚樹の思考は蕩け、夢中になって舌を伸ばした。舌を絡め合い、流れ込んでくる唾液を啜り、彼の唇を味わう。
不意に、哲平の手が尚樹のペニスに触れた。
尚樹はびくっとして唇を離す。
「あぁっ、てっぺ、しょこ、んあっあっ、触るの、だめっ」
「さっき、お前出してないだろ?」
「んやっあっ、ごしごし、しないれっ、あっあっ」
「出せよ、いくときの顔見せろ」
「んひぃっ、先、あんっ、くちゅくちゅ、らめっ、きもちぃっ、あぁっ、いいっ、てっぺい、気持ちいいっ」
先端をくりくりと撫でられ、腰が浮く。
びくびくと体を揺らし快楽に溺れる尚樹の顔を、哲平は片時も目を離さずに見ていた。
熱を孕んだ彼の視線にすら感じてしまい、尚樹のペニスからどっと蜜が漏れる。
「あっあっあっ、いくっ、いく、出るっ」
「いけよ、尚樹」
「いくぅっ、っ、っ~~~~!」
びゅくっと精液が噴き出し、二人の体に飛び散った。
射精の余韻にぶるりと震える尚樹の涙を、哲平が優しく舐めとる。
「っは……いい子だ。ちゃんと出せたな」
「んんっ、哲平……」
「じゃあ、次は中でな」
「んひぁっあぁっあっあんっあっあっあっ」
ぐぽっぐぽっと、容赦ない突き上げがはじまる。
腸壁を激しく擦られ、最奥を貫かれ、尚樹は快感に喘ぐことしかできなかった。
ぐずぐずに蕩け、絡み付く肉襞の中を、剛直が何度も行き来する。
「ひあぁうっ、あんっあっあっ」
「尚樹、目ぇ閉じんな、俺を見てろ」
「あぅんっんあっ、てっぺ、てっぺぇっ」
「そうだ。誰とセックスしてんのか、ちゃんと見てろよ」
尚樹の潤んだ視界に、余裕のない哲平の顔が映っていた。
汗を滲ませ、息を荒げ、頬を紅潮させ、欲情した顔で尚樹を抱いている。
その事実に、ぞくりと愉悦が全身を駆け抜けた。
セックスしているのだ、と強く自覚する。
確かに、先ほどの尚樹の行為はセックスではなかったのだと思い知らされる。
「はあぁんっ、あっあんっ、俺、俺ぇ、てっぺぇとせっくすしてるっ」
「そうだ」
「ひぁっ、いいっ、てっぺぇと、せっくす、きもちいぃっ」
「ああ、俺も、スゲーいい」
「んひぅっぅんんっ、きもちいっ、てっぺぇ、てっぺーっ」
「尚樹とセックスすんの、スゲー気持ちいい」
哲平の言葉に、心も体も激しく歓喜する。
肉筒がぎゅうっと締まり、剛直にしゃぶりついた。
きつい締め付けに哲平は歯を食い縛り、抽挿を止め、奥を貫いた状態でぐるりと腰を回した。
最奥をぐりぐりと掻き回され、痺れるような快感が全身を走り抜ける。
「ひああぁっ、あぁっあっあっ、おく、おくぅっ、そんな、しゃれたら、んひっ、ひあっあっ、おかひくなるぅっ」
「おかしくなっちまえ」
「ひぃんっんあっ、あっ、~~~~!」
ぐちゅぐちゅと奥を抉られ、尚樹は体を痙攣させながら絶頂を迎えた。
開きっぱなしの尚樹の唇を、哲平が褒めるように舐める。
「ふあぁっ、ああっ、てっぺぇ」
「ちゃんと中でもいけたな」
彼の優しい声音に、尚樹の顔はとろんと蕩けた。
「てっぺぇ、もっとしてっ、てっぺいも、気持ちよくなってっ」
縋りつけば、柔らかく抱き締められる。
「可愛いな、尚樹。一緒に気持ちよくなろうな」
キスをして、哲平は再び抽挿をはじめた。
結合部も胎内もローションでぐちゃぐちゃだ。卑猥な粘着音と肉のぶつかる音が絶えず部屋に響き、性交の激しさを物語っている。
「はひっ、んんっ、あっあんっ、てっぺ、てっぺぇっ」
「っはあ、尚樹……っ」
「あぁっ、いくっ、俺、また、いくぅっ」
「ああ、俺も、出すぞ、尚樹の中に、出すからなっ」
「出してっ、中、あんっ、俺の中にっ」
きつく抱き締め合った。
ごちゅっごちゅっと、一層突き上げが激しくなる。
「んひっ、ひっ、ひあぁああっ」
一際強く奥を貫かれ、尚樹は絶頂を迎えた。
同時に、哲平も中で果てた。
どぷどぷっと、彼の体液が注がれるのを感じる。
強く抱き締められ、彼の体温に包まれて、尚樹の口から気持ちが溢れた。
「哲平、好き……」
それに応えるように、更に抱き締める腕に力がこもった。
「俺だって、好きだ」
「哲平……」
「だから、ちゃんと告白して、恋人になってデートして、そんで、はじめてはもっと優しく抱きたかった……のに、くそっ……頭に血が上った……」
彼の言葉に涙が込み上げ、腕を伸ばしてしがみつく。
「ごめ、ごめん……っ」
セックスしてみる? なんてズルい言い方をするべきじゃなかった。
尚樹は臆病で、怖くて、好きだと素直に告白できなかった。
馬鹿だ。レイプするくらいなら、告白してしまえばよかったのに。
「好き、好き、哲平が、好き……」
「俺も好きだ、尚樹」
優しく頬を撫でられ、見つめ合って、キスをする。
啄むような柔らかい口づけは、角度を変え、徐々に深くなっていく。
「ふぅっ、んっ、んんっ……!?」
ゆるりと腰を回され、尚樹は焦って顔を背ける。
「て、哲平……?」
ここを出る条件は既に果たしたはずだ。多分、恐らく、もう出られる。すぐにでも身支度を整えて、こんなところから出ていくべきだ。
それなのに、哲平は自身を尚樹の中に埋めたまま、それを抜こうとしない。しかも、中で男根が再び体積を増している。
「あの、哲平……?」
恐る恐る彼の顔を覗き込めば、意地悪そうに唇の端をつり上げる哲平と目が合った。
嫌な予感がして、でも彼のそんな見慣れない笑顔にときめいてしまう自分もいる。
「言っとくけど、俺はまだ怒ってるからな」
「それは……うん。俺が、それだけのことをしちゃったのが原因だし……うん。でもあの、怒るのは、ここを出てからでも……」
「ダメだ」
体を起こそうとするが、容易く押し倒され身動きがとれなくなる。
「眠ってる間に好き勝手されて、俺は尚樹のはじめてを見逃す羽目になったんだぞ? ここに閉じ込めた犯人には見られたかもしれねーのに」
随分根に持っているようだ。
恨みがましい視線を向けられ、尚樹はなにも言い返せない。
「こうなったらめっちゃイチャついてヤりまくってるとこ、とことん見せつけてから出てってやる」
「ええっ……!?」
「覚悟しろよ」
獰猛な双眸に見つめられ、恐怖か期待にか、体がぞくんっと震えた。
晴れて恋人にはなれたけれど、ここから出られたのはそれから数時間後のことだった。
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読んでくださってありがとうございます。
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