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しおりを挟むあれから半月が過ぎた。
途中までだが魔王討伐の旅に同行するなんてとんでもない経験をしたにも関わらず、蒼の生活に劇的な変化はなく、今も普通に会社に行って働いて、家と職場を行き来するだけの日々を過ごしていた。
変わったことと言えば、趣味と言っても過言ではなかった自慰をしなくなったことだ。
コレクションのように集めた卑猥な玩具の数々は、全て処分した。持っていても、もう使う気にはならないだろうと思った。玩具で慰めても、きっと満たされることはない。ぽっかりと開いてしまった穴が塞がることはない。
それに、今までのことが嘘のように全くそういう気分にならないのだ。ムラムラもしないので、性欲を発散させる必要がない。
働いて、食べて寝る。それだけの毎日だった。
食欲もあまりなく、寝付きも悪く、疲れは溜まっていく一方のはずなのに、それを辛いとも感じない。
空虚な日々。
淡々と働いて、事務的に食べ物を口に詰め込んで、浅い眠りを繰り返す。
きっと忘れられたら楽になれるのだろう。
テオドールとの出会いも、彼と一緒に過ごした時間も、なにもかもを。
でも、忘れたいとは思わなかった。
忘れたくない。
彼の顔も声も体温も、全部。
忘れてしまう方が怖かった。
望んでいなくても、記憶はいずれ霞んでいくのだろう。
写真もなにもないのだ。蒼の記憶にしか、彼はいない。
いつか彼の顔さえ思い出せなくなってしまうのかと思うと、怖くて堪らなかった。
だから、彼の夢を見ると嬉しかった。
顔も声も、しっかりと夢の中で再現できていた。このまま夢を見続けられたら、忘れずにいられるのだろうか。
でもきっと、どんどん朧気になっていくのだろう。
記憶にとどめておくことなどできない。
夢ですら会えなくなる。
蒼がテオドールの存在自体を忘れることはないだろう。
でも、自分の中の彼はどんどん薄れていく。
新しい記憶が上書きされ、彼と過ごした過去は色褪せ穴だらけになっていくのだろう。
蒼は必死に思い出に縋りつき、何度も何度もテオドールを思い出した。
彼の夢を見ては、もう夢から覚めなければいいのにと願う。
ベッドの上で微睡みながら、テオドールのことだけを考える。
すると、目の前にテオドールが現れた。
よかった、今日も彼の夢を見られるのだ。
蒼は彼に手を伸ばした。
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