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しおりを挟むこの街で、一番大きな建物。それが、領主の暮らす屋敷だった。
その周りを、榊はただ歩いていた。屋敷を探るでもなく、周囲を警戒することもなく、何気ない足取りで、単に通り道を歩いているのだというように。
そのとき。
「おや、神父様ですかな?」
背後から声がかかり、榊はゆっくり振り返った。
そこに立っていたのは、小太りの中年の男だった。派手ではないが、きちんとした身なりの男だ。
「どうも。私はこの街の領主の白露・アクルスという者です」
そう言って、男はにこやかに微笑む。
榊も穏やかな微笑を向けた。
「はじめまして。榊・ハーウェントです」
「この街には、今日いらしたのですか?」
「ええ。先程、着いたばかりです」
「それはお疲れでしょう。是非、うちの屋敷で休んでいってください」
白露の申し出を、榊はやんわりと断った。
「申し訳ありませんが、これから宿を探さなくてはならないので……」
「それなら、うちの屋敷の部屋をお貸ししますよ。もちろん、夕食もご用意させていただきます」
白露は身を乗り出すようにして言った。
このような誘いは珍しくはない。教会のない街では、神父はやたら重宝される。教会との結び付きを求める者が少なくないからだ。
「では、お言葉に甘えてお邪魔させていただいてもよろしいですか?」
榊は少しだけ迷う素振りを見せてから、笑顔で彼の誘いを受け入れた。
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