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しおりを挟むそれから数日が過ぎた。あれ以来、壱岐とは話していない。大学内で彼の姿を見る事もなかった。
気を抜くとすぐに壱岐の事が頭を過る。だから蓮斗は意識的に彼の存在を脳内から追いやりながら、カフェでのバイトに集中していた。
蓮斗に迫ってきたあの日から、吉田は店に姿を現していない。蓮斗がいない時に来ている可能性もあるが、あんな事があった後で平然と来店するとも思えない。もし来たら、来た時にどうするか考えよう。
そうして蓮斗は目の前の仕事だけに集中する。
新たに客がやって来て、そちらへ視線を向ける。
金髪のスラリとした長身の男性だ。サングラスとマスクをしている。
蓮斗がバイト中、彼はいつも姿を見せた。常にサングラスとマスクをしているので、もう見慣れたものだ。
注文をとりに行けば、小さな声でホットコーヒーを頼まれた。注文はいつもバラバラだ。食事を頼む事もあれば、飲み物だけの事もある。
彼の素性は何も知らない。彼は雑談は一切しないタイプで、必要最低限の言葉しか交わさない。
マスクは外してもサングラスはずっとつけたままなので、素顔を見た事もない。
スマートな体型と顔を隠していても溢れ出るイケメンオーラから、バイト仲間は芸能人なんじゃないかと噂していた。俳優の誰かに雰囲気が似てるだとか、モデルのあの人なんじゃないかとか、女性陣は楽しそうにしょっちゅう言い合っている。
それから何事もなく時間は過ぎていった。無事にバイトを終え、蓮斗は店を出る。
いつもの帰り道を一人で歩く。吉田の事があってから、人気のないこの道が何となく不気味に見えた。
しかし、男である自分が怯えて道を変えるのも嫌なので、変わらずこの道を使っている。
平凡な貧乏男子大学生である自分が、何度も襲われてたまるか。
そんな思いで歩いていた蓮斗だが、急に後ろから腕を掴まれ、口元を手で塞がれた。
「っ……!?」
「暴れるなよ」
低い男の声が蓮斗に命令する。
まさか吉田かと思ったが、体を反転させられ視界に入った人物は吉田よりも背の高く体格のいい男だ。金髪に、サングラスにマスク。芸能人じゃないかと噂されているバイト先の客だ。蓮斗のバイトが終わった時間には、彼はまだ店にいた。蓮斗が店を出た後に、彼も出てきたのだろう。
どうして彼が。何の為にこんな事を。
わけがわからないまま、その場に押し倒された。
「んっ……んんっ……!!」
口を塞がれていて声が出せない。
男の片手が器用に蓮斗の衣服を乱していく。
何もわからない。どうして自分がこんな目に遭っているのか。
わかるのは、自力で逃げなきゃいけないという事だ。もう壱岐は現れない。あんな都合のいい偶然が二度も起きる筈がない。
吉田の時はパニックになって、恐怖でまともに抵抗もできなかった。
でも、今は違う。嬉しくはないがあの時の経験が糧となり、恐怖で動けないという事態にはなっていない。
だから蓮斗はめちゃくちゃに暴れた。死に物狂いで手足を動かした。
「んんん~~!!」
口を塞がれたままくぐもった声を上げ、必死に抵抗した。
すると、蓮斗の手が男の顔からサングラスとマスクを剥ぎ取った。わざとそうしたわけではなく、暴れているうちに指が引っ掛かって取れたのだ。
そして、隠されていた顔が露になり、それを目にした蓮斗は衝撃に固まった。
正体がバレた彼は、観念したように蓮斗から手を離した。
「は……えっ…………い……壱、岐……?」
「…………」
「な、なん……で……」
信じられない思いで彼を見つめる。
壱岐は申し訳なさそうに目を伏せた。
「悪い……。怖がらせるような、事をして……」
「…………」
「説明させてほしい。だから、うちに来てくれないか……?」
そう言われて、蓮斗は彼に従った。
あんな事をしてきた相手の家に行くなんておかしいのかもしれない。相手が壱岐でなければ、蓮斗は断っただろう。彼だからこそ、蓮斗は信じた。彼が大した理由もなくあんな真似をするはずがない。きっと深い事情があったのだ。そうとしか思えなかった。
壱岐と二人で彼の家に行く。前回は玄関までしか入らなかったが、今回はリビングへと足を踏み入れた。
高級そうなソファに、高級そうなローテーブルが置いてある。
金髪なのはウィッグだったようで、壱岐はそれを外して棚に置きキッチンに向かう。
適当に座ってくれと言われ、高級そうなふかふかのカーペットの上に体育座りした。
飲み物を持って戻ってきた壱岐はソファではなく床に座る蓮斗を見て特に気にする事もなく、隣に腰を下ろした。
蓮斗は黙って彼の言葉を待った。少しの沈黙ののち、壱岐は静かに口を開く。
「いきなりこんな事を言っても、油井を困らせるだけだとは思うが……」
「な、何……?」
「実は俺達は、前世で恋人同士だったんだ」
「えっ!?」
思わず部屋に響き渡るほどの大声を出してしまった。
壱岐は苦笑を浮かべる。
「油井が驚くのも無理はない。前世なんて、普通は信じられないよな」
「えっ、あ、う、うん……」
曖昧に頷くけれど、彼の思う驚きの理由と蓮斗が驚いた理由は違うものだ。
「信じられないかもしれないが、聞いてくれ」
「うん……」
「前世で俺は騎士で、そして油井はメイドだった」
彼の語る二人の馴れ初めは、蓮斗が思い出した前世の記憶と合致していた。
やはりあれは妄想などではなく、確かにあった前世の出来事だったのだ。壱岐の話を聞いて確信する。
「俺達は身分の違いから、堂々と会う事もできなかった。俺は周りの目など気にせず会いたいと伝えたが、油井はメイドでしかない自分が親しくしているところを見られたら俺に迷惑がかかるかもしれない、と言って断った」
そうだ。彼は王女の婚約者に選ばれるのではと噂されていた。だからメイドの自分と一緒にいるところを人に見られたら、咎められるのではないかと心配だった。自分だけでなく、彼まで叱責を受けるのではないかと。
「俺は大丈夫だと言ったけれど、油井は決して頷いてくれなかった。油井を安心さてやれない自分が情けなく、どうする事もできない身分の差というものが歯痒かった」
当時の事を思い出しているのか、壱岐の表情は暗い。
「恋人なのに人目を避けて、短い時間しか会う事ができなかった。それでも、幸せだった。心の底から油井を愛していたから。俺は君と一生を添い遂げるつもりでいた」
迷いのない言葉で伝えられ、蓮斗の心臓は歓喜に震えた。嬉しくて堪らない。蓮斗だって、彼とずっと一緒にいたかった。それを心から望んでいた。
「でも、それは叶わなかった。油井は殺されたんだ。……食事に、毒をもられて」
沈痛な面持ちで告げられ、蓮斗はやっぱりそうだったのかと冷静に受け止める。しかし蓮斗とは違い、壱岐は怒りと悲しみがない交ぜになったような苦しげな表情を浮かべていた。
自分が死んだ後の事は、わからない。だから、蓮斗が死に、彼がどんな思いでいたのかもわからない。けれど壱岐の表情を見る限り、想像もできないほどの苦しみを与えてしまったのだと気づいた。
「壱岐……」
どんな言葉をかければいいのかわからず、名前を呼ぶ事しかできない。慰めの言葉など意味があるのか。死んでしまった事を謝ればいいのか。何を言っても今更なのではないか。
元気づけたいのに何も言えず落ち込む蓮斗に気づき、壱岐は笑みを浮かべた。
「大丈夫だ、そんな顔をするな」
「でも……」
「いいんだ。こうしてまた、生きている君に会えたんだ」
彼の手が、存在を確かめるように蓮斗の頬を撫でる。彼に触れられ、蓮斗の顔が火照った。またこんな風に触ってもらえるなんて思っていなかった。嬉しくて、頭がふわふわする。
「油井を見つけたのは、高校一年の時だった」
「っえ……!?」
告げられた新事実に、再び驚きの声が漏れる。
目を丸くする蓮斗を見つめ、壱岐は話を続けた。
「駅のホームで油井を一目見た瞬間、前世の事を思い出した。前世で恋人だった、心から愛する人に生まれ変わってまた出会えた。奇跡だと思ったよ」
「そんな、前から……?」
「ああ。本当ならすぐにでも抱き締めて気持ちを伝えたかったが、油井は前世を覚えていない。前世の事を伝えても信じてもらえないだろうし、不審者扱いされてしまうだけだと思った。高校は別々で、乗る電車も違う。油井にとって俺は全く知らない赤の他人だ。だから、声もかけられなかった」
壱岐はそう言うが、もしその時に声をかけられていたら。彼を見た瞬間、蓮斗も前世を思い出したのではないか。
しかし、蓮斗が彼の立場でも同じように声はかけられなかっただろう。現に、同じ大学に通っているのに蓮斗は自分から彼に関わろうとはしなかったのだから。
「不自然に思われないように油井に近づくには、同じ学校に通うのが一番だと考えた。油井の高校に転校できたらよかったんだが、さすがに親を説得する理由が思い付かなくて。だから、大学を同じにする事にしたんだ」
「え……?」
「油井の受験する大学を調べて、俺もそこを選んだ」
壱岐は平然とした顔で話しているが、結構とんでもない事を言われているのではないだろうか。調べると言っても、学校も違う相手の進路が簡単にわかるものだろうか。直接聞く以外に、どんな方法で調べたというのだろう。
蓮斗の頭は疑問でいっぱいなのに、壱岐はさらりと流して話を先に進めてしまう。
「無事に同じ大学に入学はできたが、やはりどう声をかければいいのかわからなかった。何かきっかけがないと、急に声をかけても不審に思われるだろうから。だから、俺はずっと声をかけるチャンスを窺ってたんだ」
「ずっと……?」
全然気づかなかった。高校の時に同じ駅を利用していた事も全く知らなかったし、最近になるまで壱岐の存在すら認識していなかったくらいだ。何だか申し訳ない。
「そのために油井のバイト先にも、客として通った」
「な、何で変装? してたんだ?」
ウィッグにサングラスにマスクまでして隠す必要があったのだろうか。
「もし油井が俺の事を知っていたら、同じ大学に通ってるヤツがバイト中にいつも現れるなんて怪しいと思うんじゃないかと。油井に気味悪がられたくなかったんだ」
壱岐は不安に思い、かなり慎重に行動していたようだ。そこまでしなくてもいいのに。
「きっかけがなくて声もかけられなくて、油井が誰かに取られるんじゃないかと気が気じゃなかった。せっかく生まれ変わってまた君を見つけられたのに、他の誰かに奪われるなんて冗談じゃない。自分の見ていないところで油井が誰かと親密になってしまうのが怖くて、俺はいつも油井の動向に目を向けていた。大学でも、バイト中も、外でも」
静かに語られる彼の言葉は、蓮斗の想像も及ばないとんでもないものだった。理解するので精一杯で、ただ聞く事しかできない。
「俺はいつも、バイトが終わった油井の後をつけていた。だからあの日、あの常連客に襲われていた時も少し離れた場所にいたんだ。すぐに助けに入ろうとして、でもその前に、変装をといた。これが油井と親しくなるきっかけになるかもしれないと考えたから。だから、助けに入るのが少し遅れてしまった。油井は怖い思いをしていたのに……悪かった」
「えっ、い、いや、別に、全然……っ」
苦しみに満ちた顔で深く頭を下げられて、蓮斗は慌てて気にしていないと彼を宥める。結果として吉田に何かされる前に助けてはもらえたのだから、彼を責める気などない。
壱岐は表情を和らげる。
「優しいな、油井は……」
「そんな事は……。それより、続きを聞かせてほしい」
「ああ、うん。俺の思惑通り、それが油井と知り合うきっかけになった。それはいいんだが、その事で俺の心配は大きくなった。油井はとても魅力的だ」
「え……?」
「誰もが目を奪われるほど可愛くて、油井を一目見れば、皆油井に夢中になってしまう。あの、常連客の男のように」
「…………」
どう考えてもそれは言い過ぎだ。両親だって、そこまで蓮斗を可愛いなんて思っていないだろう。吉田が特殊なだけで、蓮斗はどこにでもいる特徴もない平凡な人間だ。
しかし壱岐はそうは思っていないようだ。
「だから、あのまま色んな人間が大勢来るあの店で働き続けるのは危険だ。あの店じゃなくても、油井が接客業をするのは危なすぎる。いつまた油井に心を奪われたヤツに襲われるかわかったものではないからな。だから、油井をここへ連れてきて提案したんだ」
「あー……あの、ここでバイトしないかって話……」
「ああ。それが一番安全だ。誰にも油井を見られる事なく、安心して働ける場所だ。油井にとっても、俺にとっても。だが、あんな事があった後だっていうのに、油井は全然危機感を抱いていなかった。バイトも辞めず、何の警戒もしないで同じ道を使って……」
蓮斗からすると壱岐が心配し過ぎとしか思えないのだが、彼からするとそうではないらしい。
「油井にもっと警戒心を持ってほしくて……。いつ狙われてもおかしくないんだという事を教えて、ちゃんと危機感を抱いてほしかったんだ……だから」
「そ、それで、さっきあんな事を……?」
「ああ。もちろん、ちょっと脅かすだけのつもりだった。少しだけ怖がらせて、すぐに解放する気でいたんだ」
「そういう理由だったのか……」
蓮斗は納得し、頷く。
壱岐に対して怒りはなく、彼に失望するような事もない。
ただ驚いたのは、彼がそこまで蓮斗を思って色々と行動していた事だ。そこまで強く自分を思っていてくれたなんて、前世で恋人同士だった時だって知らなかった。
恋人同士だったけれど、何となく自分の方が彼に夢中で、自分の方が彼の事を好きなんだろうと思っていた。もちろん彼も自分を好いていてくれただろうが、こちらの方がずっとずっと強く彼の事を好きだと思っていた。
けれど、それはもしかしたら自分の思い違いなのかもしれない。
「壱岐、一つ訊いてもいいかな……?」
「なんだ?」
「その……前世での事なんだけど……。俺が死んだ後、壱岐はどうしたんだ……?」
それはずっと気になっていたけれど、聞くのが怖い事でもあった。
彼が自分以外の誰かと結婚し、家庭を築いたのか。
もちろん、彼にいつまでも自分の事を引きずって生き続けてほしいだなんて望んではいない。それでもやっぱり、彼の口から聞くのは勇気がいった。
壱岐は当然の事のように言う。
「もちろん、すぐに君を殺した犯人を捜し出した」
「…………あ、ああ……犯人……」
思っていたのと違う答えが返ってきて、一瞬言葉を失う。
「っていうか、見つかったのか、犯人」
「ああ。見つけた。毒を盛ったのは別の人物だが、君を殺そうと企んだのは王女だ」
「王女、様……?」
それを聞いてピンときた。王女は壱岐に好意を寄せていた。蓮斗と壱岐がこっそり会っているのを見つけたのかわからないが、王女は蓮斗と壱岐が恋仲であることを知ったのだ。それで蓮斗を邪魔に思い、毒を使って殺したという事だろう。
でも、犯人が王女なら罪に問われる事はないはずだ。もし罰せられるとすれば、主犯の王女ではなく王女に命じられて毒を盛った人物だけだろう。
「それから、俺は王女と毒を盛った人物、君の毒殺に関わった人間を全員殺した」
「…………えっ?」
「油井は毒で、苦しみ悶えて死んだ。その君の苦しみ以上の責め苦を味わってもらわなけば気が済まなかったからな」
壱岐は平然とした顔で残酷な事を口にする。全く後悔などなさそうだ。
「で、で、でも、そんな事したら、壱岐が処刑とか、されたんじゃ……」
「別に構わない。油井のいない世界で一人生きていくつもりはなかったからな。君がいないのなら、生きている意味などない」
まっすぐに蓮斗を見つめ、彼はきっぱりと言い切る。
重い。けど嬉しい。嬉しい。けど重すぎないか。
自分がそこまで愛されているなんて思っていなかった蓮斗は、どう反応すればいいのかわからない。
戸惑いはあるけれど、彼に対する気持ちが冷めるとか、そういう事はない。彼を好きだという思いは何も変わらない。
たとえ彼が自分を殺した人間を残酷な方法で手にかけたのだとしても。蓮斗の情報を知らない内に手に入れ、後をつけるなどのストーカー紛いの行為をされていたのだとしても。
それでも蓮斗は彼がどうしようもなく好きなのだ。
「油井……」
蓮斗に熱っぽい視線を向けながら、壱岐が手を伸ばしてくる。
そっと頬に触れ、すりすりと撫でられる。
「もう二度と、会えないと思っていた……。なのに、こうしてまた君に会えた……。こうしてまた触れる事ができるなんて、夢みたいだ……」
頬を上気させ、うっとりと囁く壱岐。
蓮斗も同じ気持ちだ。こんな奇跡が起こるなんて。壱岐とは結ばれない運命なのだと諦めていたのに。
「ダメだ……もう我慢できない……っ」
「わあっ……!?」
息を荒げた壱岐にいきなり押し倒された。
「い、壱岐……っ?」
「ずっと触れたかった……油井、油井……っ」
興奮した様子の壱岐に体をまさぐられる。
「わっ、ちょ、ま、待って、壱岐……!」
「待てない。俺がどれだけ我慢していたと思ってる」
「ほ、ホントに、一回ストップ!」
「嫌だ」
「待ってっ、ちょ、待ってってば! 前世で恋人だった時、俺は女だったんだろっ……?」
「ん? ああ、そうだ」
「わかってると思うけど、今の俺は男なんだぞ……?
顔もフツーだし、体は当たり前だけど完全に男だし……」
「性別なんて関係ない。男でも女でも、君が君であるならそれでいい」
「ひゃあっ」
ずぼっと彼の手が服の裾から差し込まれる。
「ちょ、ちょ、待っ、んんっ」
男でもいいと言ってくれたのは嬉しい。彼にこうして求められるのも。
でもここはリビングの床で……。いや、場所なんてそれこそどうでもいいのではないか。蓮斗だって、ずっと身も心も彼と結ばれたいと願っていたのだ。だったら別にどこだって……。
「あっ、ちょまっ、待って、待って……!」
身を委ねようとしだけれど、大事な事に気づいてまた制止の声を上げる。
よく考えたら、バイトで汗をかいたのだ。さっき壱岐に襲われた時にも暴れまくって更に汗をかいた。抱いてもらうなら、先にシャワーを浴びたい。ピカピカに磨いて綺麗な状態で抱いてほしい。
「んっ、あっ、壱岐、待ってって、あっだめっ」
「……そうだな」
壱岐はピタリと動きを止めた。
「すまない。こんな場所で、嫌だよな。ベッドに行こう」
「え、違っ、そうじゃ……」
場所はどうでもいいからとにかくシャワーを浴びたいのだが、壱岐は蓮斗を抱き上げ寝室に向かってしまう。
ベッドに下ろされ、蓮斗は慌てた。
「壱岐、待って、俺……っ」
「もう待てない。今すぐ油井がほしい」
「んんぅっ」
瞳に熱を帯び覆い被さってきた壱岐にキスで唇を塞がれた。深く唇を重ねられ、舌を差し込まれる。
前世では、軽いキスとハグしかできなかった。唇を触れ合わせるだけの口づけしか知らない蓮斗は動揺し、されるがままになってしまう。
「んぁっ……んっ、んっ」
「はっ……熱くて、甘いんだな……君の口の中は……」
「んんっ……ふっ……ぅんっんっ」
口腔内を味わい尽くそうとするかのように壱岐の舌が動き回る。ぴちゃぴちゃと音を立てて余すところなくねぶられる。口の中を舐められる快楽に蓮斗の体から力が抜けていった。
「はぁっ、んっんっ……」
「舌を出して」
「ん……」
思考は蕩け、無意識に壱岐の言葉に従う。そっと舌を差し出せば、彼はうっとりと目を細めた。
「可愛い……」
じん……と鼓膜が痺れるほど甘い声で囁いて、彼は蓮斗の舌にしゃぶりつく。
ちゅぱちゅぱと舌を吸われ、快感に背筋が震えた。
「んっ……んっ、ぁ、んぅっ」
くぐもった声を漏らし、彼との濃厚なキスに耽溺する。
やがて唇が離される頃には、蓮斗の口元はべとべとに汚れていた。
乱れた息を整えている間に、壱岐に服を脱がされる。
「ぁ、ま、待って……だめ……」
キスに夢中になって忘れていた、シャワーを浴びたいという気持ちを思い出す。しかし壱岐はやはり止まってくれない。
はあはあと熱い吐息を漏らし、壱岐は露になった蓮斗の体を見下ろす。胸もない貧相な体に興奮してくれるのは嬉しいが、シャワーを浴びさせてほしい。
「油井……ずっと、君の体を見たかった……触れたかった……」
「ひゃっ……」
彼の手に肌をするりと撫でられ、擽ったさに肩が跳ねる。
感触を楽しむように壱岐の掌が肌の上を這う。
「温かい……」
彼は心臓の上に手を置き、独り言のように呟く。
「壱岐……んっ……」
再びキスをされた。蓮斗の存在を確かめるように、深く口づけ肌をまさぐる。
彼の掌が蓮斗の薄い胸を揉む。女のような柔らかさのない体を申し訳なく思うが、壱岐はそんな事など全く気にしていないかのように夢中になっていた。
「ふぁっ、んっ……ぁんっ」
胸の突起を指で撫でられ、そのままコロコロと転がすように刺激される。むずむずするような感覚に、蓮斗は身を捩った。
乳首はどんどん芯を持ち、固く凝っていく。
キスをやめた壱岐は、胸元へと顔を近づける。指の刺激で尖った乳首をぺろりと舐められた。
「あっ、やっ、舐めるの、だめっ」
シャワーを浴びていないのに、と焦る蓮斗を無視して、壱岐ははむはむと乳首を食む。頬を紅潮させ、息を乱し、音を立てて乳首をしゃぶり続ける。指も使い、両方の乳首を弄り回した。
ぞくぞくと震えるような快感に襲われ、彼を止めたいのに体が動かない。
「だめ……ってばぁ、あっ、んっ、壱岐ぃ……っ」
駄目だと何度声を上げても彼がやめてくれない。ねぶり、吸い上げ、甘噛みし、散々愛撫された乳首はぷっくりと腫れたように赤く染まっていた。彼の唾液でぬるぬるになったそれを見て、蓮斗は激しい羞恥に身を縮めた。
壱岐は陶酔した双眸でこちらを見つめている。
「見ちゃ、や……恥ずかし……」
震える声で懇願すれば、壱岐は興奮したように再び蓮斗に唇と手で触れてくる。
「油井……油井……」
何度も名前を呼びながら、蓮斗の肌をねぶり、撫で回す。
「俺のものだ。俺だけの。もう絶対、離れたくない。君の全てを、俺のものに……」
譫言のように囁き、壱岐は下半身へと手を伸ばす。
「あっ、やめ……っ」
慌てて止めようとするけれど、あっさりとズボンと下着を剥ぎ取られてしまう。
駄目だと言いながらも彼の愛撫にしっかりと感じ、蓮斗のぺニスは勃ち上がっていた。それを彼に見られて、恥ずかしさに全身が赤く染まる。
「やだ、み、見ないで、壱岐……っ」
「もっともっと見たい。油井の全部を、俺だけに見せてくれ」
ふーっふーっと荒い息を吐き、壱岐は蓮斗の下肢へと顔を近づける。
「待っ、それはホントにダメっ……!!」
大きな声を上げるが、彼の耳には届いていないのか当然のように無視された。
躊躇いもなく壱岐は蓮斗のぺニスを口に咥える。
「ひあっ、んっ、やめっ、離して、あぁっ」
ねっとりと舌が絡み付き、強い快感に全身が震える。彼の口の中は熱くてぬるぬるで、ぺニスは蕩けるような快楽に包まれた。
「んぁっ、あっ、壱岐、はなし、んっんっ、だめ……って、あっ、んあぁっ」
気持ちよすぎて体に力が入らず、彼を引き離す事ができない。体に力が入っても、壱岐の力には敵わないと思うので結局引き離す事などできなかったかもしれないが。
ぢゅぷぢゅぷと卑猥な音を立ててしゃぶられる。先走りの溢れる先端をぬるぬると舌が這い、強烈な快感に腰が揺れた。
「んひっ、あっ、だめっ、出る、もう出るぅっ」
あっという間に射精感が込み上げてくる。出そうなのだと訴えても、壱岐は口を離そうとしない。このまま射精するわけにはいかないと必死に耐えるけれど、長くは続かなかった。
「いく、いくっ、だめ、もっ、あっ、あっ、あっ、~~~~~~っ」
ぢゅうぅっと強く吸い上げられ、蓮斗は呆気なく射精した。吐き出された体液を、彼は躊躇いなく嚥下する。
「あ、やだ、飲んじゃ、だめ……っ」
「はあっ……美味しい……もっと油井を味わいたい……」
「ひあぁ……っ」
達したばかりのぺニスを舐め回される。
「んっ、ひっあぁっ、もう、やめっ、あっあっあっ」
蓮斗は目を見開き背中を仰け反らせる。悲鳴のような声を上げ、彼に与えられる刺激に身悶えた。
根元から先端まで丁寧にねぶられ、口に含まれぢゅるぢゅると吸われる。
「んひぃっ、やっ、やあぁっ、壱岐ぃ、もう、やめ、あっんっんうぅああっ」
蓮斗は内腿をぶるぶると痙攣させ、二度目の絶頂を迎えた。そして壱岐は息をするように自然に精液を喉へ流し込む。
「んあっ、あっ……もうやっ、もうはなひて、壱岐、おねがぃ……っ」
懇願は聞き入れられず、壱岐は蓮斗の下肢から離れてくれない。
いつの間に取り出したのか、彼はローションのボトルを持っていた。中身を手に出し、ぬめった指で後孔に触れてくる。
「ひっ、や、うそっ、だめ、だめぇっ……」
蕾にぬるぬると粘液を塗り付け、指を中へと挿入する。探るように指を動かしながら、壱岐はまたぺニスにしゃぶりついてくる。
「んゃああっ、やっ、そんな、あっあっあーっ」
外側と内側、両方からの刺激に蓮斗は翻弄され、ただ嬌声を上げる事しかできなかった。
ぬちゃぬちゃと指で中を掻き回される感覚と、ぺニスを舐めしゃぶられる快感に身をくねらせ悶える。
いつしかぺニスと後孔、両方で快感を感じるようになっていた。そうなると耐え難いほどの快楽に襲われる事となった。
「ひうぅっ、待っあっ、いくっ、うぅっ、~~~~っ、あぁっ、いってる、からっ、も、はなし、んあぁっ、なか、こすっちゃぁあっ、あっあっ、やめっ、も、なめないれっ、あっあっあっあ~~っ」
蓮斗は繰り返し絶頂へと上り詰めた。いってもいっても壱岐は愛撫をやめてくれなくて、終わらない快感の波に溺れ続ける。
三本の指でぢゅぽぢゅぽと内壁を擦りながら、壱岐は飽きる事なくぺニスに吸い付く。
「んひぃいっ、あっ、むりぃっ、もうやらぁっ、あっあっんんぅっ、でない、もうでないからぁっ、ひっあっ、おねが、ぁああっ、もうはなひてぇっ」
縋るように泣きつけば、壱岐は漸く口を離してくれた。
何度も達し精液を出し尽くしたぺニスは、ふにゃりと力なく垂れた。壱岐はそれを名残惜しそうに見ながら、後孔から指を抜く。
「もっと舐めていたいんだが……」
「だめっ、もうだめ……っ」
「ダメか?」
「だめ、ぜったい……っ」
「そうか。残念だ。なら今日はもうやめておこう」
「今日は」という言葉が引っ掛かったけれど、もうくたくたで追究する気力は残っていなかった。終わってくれたのなら、もうそれでいい。
目を閉じ、シーツにぐったりと横たわって息を整える。呼吸が落ち着いてきたところで、両脚を抱えられた。
「っえ……?」
ビックリして目を開ければ、脚の間に壱岐がいる。そして取り出された彼の陰茎が視界に入った。
「ひ……っ」
張り詰めそそり立つそれの大きさに、鋭く息を呑む。
「油井……っ」
熱を孕んだ双眸がまっすぐに蓮斗をとらえる。
太い亀頭が綻んだ蕾に押し付けられ、止める間もなく貫かれた。
「ひいぃ……っ」
ずんっと捩じ込まれた肉棒で胎内を押し広げられ、その衝撃に目を見開く。
「ひっ……ひうっ、うっ……」
「油井……ああ、やっと君と一つになれた……」
壱岐は恍惚とした表情で熱い息を吐く。
腹の中を圧迫される感覚に怯え、体が無意識に上へと逃げようと動く。けれどがっちりと腰を掴まれ、更に深く陰茎を押し込まれた。
「んぁああっ」
ぐりゅぐりゅと肉壁を擦られ、蓮斗の口から甲高い声が上がった。
指でも散々弄られ、すっかり快感を覚えた前立腺を雁の部分で押し潰される。抉るように擦られ、強い快楽にビクビクと体が震えた。
「ひっあっ、やっ、そこっ、んひっ、ひっ、いっぱい、ぐりぐりしないれっ、あっあっんん~~っ」
「気持ちいいのか? きつく中を締め付けて……」
「やあぁっ、あっ、~~っ、ひっ、んぅうっ」
重点的に前立腺を刺激され、蓮斗は再び強烈な快感に攻め立てられる。
「あっあっあっ、らめぇっ、そこ、そんな擦っちゃ、あぁっ、いくっ、んうぅっ、あっ、あーっ」
「油井、油井、好きだ、愛してる……っ」
壱岐は貪るように蓮斗の胎内を穿った。深く唇を重ね、掌を合わせ指を絡めて両手を握り、激しく腰を突き上げる。
「んんっ、ひっ、ぅんんっ、~~~~っ、ぁっ、うっ、んっ、ん~~っ」
「油井……っ」
蓮斗は絶頂を繰り返し、そのたびに胎内に埋め込まれた彼の陰茎をきつく締め付ける。やがてたえきれなくなったように、壱岐も蓮斗の中で果てた。
腹の奥に体液を吐き出されるのを感じながら、蓮斗は全身の力を抜く。
やっと終わったのだと安心する蓮斗だが、胎内に残る彼のそれが再び体積を増していってる事に気づいた。
「え……なんで、また、おっきく……っ?」
「油井……まだ足りない……もっと君が欲しい……」
「ええっ!?」
熱に浮かされたような目でこちらを見つめる壱岐。
「んぁっ、待っ、あっ、動いちゃ、んっ、ひあぁっ」
制止の声を上げようとするけれど、壱岐は動き出してしまう。抵抗する事もできず、中を擦り上げられる快感に飲み込まれていった。
「ぉっ、んっ、んっ、~~~~っ、ひっ、うぅっ」
何時間経過したのか、時間の感覚もわからなくなるほど壱岐に抱かれ続けた。
シーツは蓮斗の漏らした尿と潮でぐっしょりと濡れてしまっている。溢れるくらいに注がれた彼の精液が、陰茎の動きに合わせて後孔からぶぴゅっぶぴゅっと噴き出す。
蓮斗はもうまともな言葉も紡げず、ただシーツにうつ伏せになりビクビクと体を痙攣させていた。
「ふっ、んっ、ぉっおっ、ん~~~~っ」
「またイッたのか? もうすっかり後ろだけでイけるようになったな」
蓮斗の背中にぴったりと体を重ね覆い被さる壱岐は嬉しそうに言う。
「俺のものをしっかり根元まで受け入れられるようにもなったし……。ほら、油井の中が俺の形に馴染んで……君が俺のものになったようで、すごく嬉しいよ」
「ひぐっ、うっ、~~っ、あっ、ひっ、っ、~~~~っ、あっあっ」
ぬぽぬぽと緩い動きで最奥を抉られ、目も眩むような快楽に爪先がシーツを掻く。
「愛してるよ、油井。もう絶対離さない。今度こそ、一生君の傍にいる。ずっと一緒にいような」
「あひっ、ひっ、うぅ……っ」
蓮斗の手に彼の手が重ねられ強く握られる。彼に囲われ、捕らわれ、もう逃げられない。蓮斗はそんな感覚に陥った。
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