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しおりを挟むヨエルと子供達と一緒の日々は穏やかに賑やかに過ぎていった。
ヒルダとサムリは十四歳になり、その間にもう一人家族が増え、二人の弟にあたるライネは五歳だ。ライネも外見に魔物の要素はなく、完全に人間の子供にしか見えなかった。
ヒルダとサムリは現在学校に通っている。手続きや面談などは、もちろんヨエルが一人で行った。魔物であるムウにはできる事がなかった。
ムウ達家族が暮らす家も、ムウが魔物だから王都から遠く離れた人目につかない森の中にある。家から王都までは、ヨエルの作った転移魔方陣を使えば一瞬で移動する事ができる。
けれど、色々と不便な事も多いだろう。
ムウは一人でここに残り、子供達はヨエルと王都で暮らした方がいいんじゃないかと提案したら、ヨエルにも子供達にも猛反対された。
しかし、ムウのせいで子供達は友達を家に呼ぶこともできない。ムウが魔物である事で、子供達にはかなりの不便を強いているはずだ。
それなのに、ヒルダもサムリも文句一つ言わない。
二人はとても頭がいい。ムウの存在が他の人間には知られてはいけないのだときちんと理解している。そして魔物のムウに、母親として懐いてくれている。
正直、自我が芽生えてムウが魔物だと理解したら子供達がどうなってしまうのか不安だった。魔物の子供である事に絶望したり、魔物であるムウを嫌悪したりするのではないかと。
でも実際はそんな事はなく、ヒルダもサムリも普通に自分達の現状を受け入れ、変わらずムウを母親として接してくれた。
ムウは魔物だけれど、人間と子供と、こうして普通の家族のように過ごしている。
たまにすごく不思議に感じる。
ずっと一人で生きていくのだと思っていたから。まさか人間との間に子供を作って、家族になるなんて夢にも思っていなかったから。
ムウにとってヨエルと子供達は命よりも大切なものになっていた。
そんな存在ができた事が、ムウにはこの上ない幸せだ。
その幸せをムウは今日も噛み締めていた。
ヨエルは仕事に、ヒルダとサムリは学校へ行く三人を見送り、末っ子のライネの面倒を見ながら家事をこなす。
今日は天気がいいので洗濯物がよく乾きそうだ。そんな事を考えながら、庭で洗濯物を干す。
鼻歌を歌い、すっかり慣れた作業を繰り返していたムウだが、ふと違和感に気づいて手を止める。
「…………ライネ?」
ライネの姿が見えない。先程までムウの近くに座っていたのに。
ムウが庭に出ると、いつもライネは一緒に来たがった。だからライネも一緒に庭に連れて出ていた。いつも大人しくムウの作業を見守ってくれていたのに。
勝手にいなくなる事はないと油断してしまった。目を離してはいけなかったのに。
とにかく早く見つけなければ。
一人で部屋に戻っているのかと思ったけれど、家の中にライネの姿は見つけられなかった。
ムウは急いで外へ出た。家の周りはヨエルの結界が張ってあるから安心だけれど、結界の外へ出てしまったら魔物に襲われる危険があるのだ。
「っ、ライネっ、ライネ!! どこだ!? 返事をしてくれ!!」
ムウは必死に叫び、森の中を走り回る。
見つけられなかったらどうしよう。魔物に襲われていたらどうしよう。ここは森の中で、どんな危険が潜んでいるかもわからない。
ムウが一人で捜すより、ヨエルを呼んで魔法で捜してもらうべきじゃないのか。でも、どうやってヨエルを呼びに行くのだ。魔物のムウが、人間の暮らす場所へなんて行けない。
どうしよう。どうしよう。
パニックになりかけ、必死に心を落ち着けようとする。
「ライネー!!」
「…………ママ?」
呼び掛けに応えるようにライネの声が聞こえた。
「ライネ!? どこだ!?」
「こっち」
声の聞こえてきた方へ、がむしゃらに足を進める。
そうすれば、ライネはそこにいた。ぺたんと地面に座り、元気な姿でムウを見る。
「ママ」
「ライネ……っ」
ムウは駆け寄り、ライネを胸に抱き締めた。息子の温もりと鼓動と匂いを感じ、無事に見つけられた安心感から涙が込み上げる。
「良かった、ライネ……!」
「ママ、これ」
ムウの心配など知らず、ライネはずいっと手を差し出してきた。息子の小さな手には綺麗な花が握られている。
「花……? コレを摘みに来たのか……?」
「ママにあげる」
「っ……」
どうやらムウにあげる花を探してここまで来たようだ。
ムウはくしゃりと顔を歪めた。泣き出してしまいそうなのをグッと堪える。
嬉しさと何とも言えない様々な感情が込み上げて、それでもどうにか笑顔を浮かべ震える手でその花を受け取った。
「っ、ありがとな……っ、ライネ……っ」
「ん」
ライネの頷く顔は無表情だが得意気だ。
「よし、じゃあ帰ろう」
ライネを抱き上げようとした時、ガサリと草を踏む音が聞こえた。ハッとして顔を向ければ、そこには銃を持った人間の男がいた。彼はムウの姿を見て「ヒッ」と短い悲鳴を上げる。
「魔物っ…………と、人間の、子供……!?」
マズイ、と考えるよりも先に体が動いた。ライネを腕に抱き、その場から走り出す。とにかく一刻も早くここから離れなくては、とそれしか頭になかった。
「ま、待て、魔物……!!」
男がムウの背中に銃を向ける。逃げる事しか頭にないムウは気づいていなかった。
腕に抱かれたライネがひょっこり顔を出し、ムウの肩越しに男を見た。銃を向ける男に向かって手を伸ばし、魔法を発動する。
ムウは知らないが、ライネは既に高等魔法を使えた。誰に習わずとも魔法の使い方を覚えそれを使いこなす、生粋の天才だった。
放たれた魔法は、男の記憶をごっそりと削り取った。
約三十年分の記憶を一気に失い、男は放心状態になる。
もう男が追いかけてくる事はないだろう。
しかしその事実を知らないムウは森の中を駆け抜け家の中に飛び込んだ。
ライネを抱き締めたまま、床にへたり込む。
浅い呼吸を繰り返しながら、回らない頭で考える。
人間に見られてしまった。魔物である自分が、人間にしか見えない子供と一緒にいるところを。
きっとあの男は、魔物が人間の子供をさらってきたと思うだろう。男が王都に戻ってその事を報告すれば、大規模な魔物狩りがはじまるはずだ。
この家の存在が知られてしまったら。ヨエルが魔物と一緒に暮らしていると露見すれば、きっと処罰される。そして、子供達が魔物と人間の間に産まれた子だという事もバレてしまったら──。
最悪の事態を想像し、ムウは蒼白になった。ライネを抱く腕が震える。
どうすればいいのか、ムウはわからない。逃げた方がいいのか。でも、どこに逃げるのだ。森の中には魔物もいる。結界の張られたこの家にいた方が安全なのか。
とにかくライネだけでも守らなくては……と思うのに、気が動転して考えがまとまらない。
今にも人間達がこの家に押し寄せて来るのではないかと恐怖し、怯えた。
その時、ドアの開く音が聞こえムウはビクッと肩を震わせる。
ライネをきつく胸に抱き顔を向ければ、そこにいたのはヨエルだった。
彼はムウを見て穏やかにいつもと変わらぬ笑顔を浮かべる。
「ただいま、ムウ、ライネ」
「っ、っ、よ、ヨエル……?」
「ええ、そうですよ」
「なん、なんで……まだ、仕事の時間じゃ……っ」
近づいてくるヨエルを、信じられない気持ちで見上げる。彼が帰ってきてくれたという安心感で涙が出そうになった。
「そうなんですけどね。ちょっとトラブルがあって、今日の仕事がなくなってしまって……仕方なく早退してきたんです」
ヨエルはやれやれ……というように肩を竦める。
だがそれは嘘だった。
ムウがどうしようと混乱していた時、ライネは魔法を使って先程の出来事を全てヨエルと兄姉達に伝えていた。自分の目で見た映像を彼らの脳に直接送ったのだ。
末っ子からの報告を受けて、ヨエルは仕事を中断し一目散に家に帰ってきたのだ。
それを知らないムウは、震える声でヨエルにあったことを説明する。
既に知っている事は口にせず、ヨエルは黙ってそれを聞いていた。
「そうですか……。人間に見られてしまったんですね」
「ど、どう、どうしよう、どうすればいいっ……? きっとオレ達のこと捜しに来る……! も、もし見つかったら……こ、子供達はっ……子供達だけでも、どこかに逃がして……っ」
「落ち着いてください。とりあえず、私はその男性を捜してきます。まだその辺にいるでしょうし、王都に報告に行ってしまう前に止めて手を打ちますから」
「ごめ、ごめん、ヨエルっ……オレのせいで、こんな……子供達もっ……ここにいられなくなったら、オレのせいだ……!」
ムウは自分を責めずにはいられなかった。自分がライネから目を離さなければこんなことにはならなかったと、自責の念に駆られる。
ヨエルは身を屈め、ムウの額に口付けた。
「ムウ、ムウ、落ち着いて、大丈夫ですから、ね?」
ヨエルはムウを安心させるように優しく語りかける。
「あなたのせいじゃないですよ。だからそんなに自分を責めないでください」
「で、でも……っ」
「大丈夫。あなたが心配するような事なんてないですよ。ムウも子供達も大丈夫ですから。私を信じてください」
ヨエルの穏やかな声に、真摯な眼差しに、少しずつ心が落ち着いてくる。
「わ、悪い……オレ、動揺して……。こんな時だからこそ、しっかりしなきゃなんねーのに……」
「ふふ……。いいんですよ。私はムウに頼られると嬉しいですから」
ヨエルの笑顔につられるように、ムウも小さく笑みを浮かべた。
ヨエルはムウの頬を撫で、それからムウに抱かれたライネの頭を撫でた。
ライネは勝手にムウの傍を離れ結界の外へ出てしまい、そのせいでこうしてムウに酷く心配をかけてしまった事をきちんと理解していて心から反省している。それをわかっていたので、ヨエルはライネを叱るような事はしなかった。
「では、行ってくるのでムウはライネと待っていてくださいね」
ムウとライネに見送られ家を出たヨエルは、森の中へ入っていく。男のいる場所はライネから伝えられた映像でなんとなくわかっている。遠くへは行っていないはずだ。
その場所へ行くと、男はその場にへたり込んでキョロキョロと辺りを見回していた。
ライネの魔法でごっそりと記憶を失い、意識が幼児の頃に戻ってしまい、まさしく幼児退行の状態になっている。
恐らく野生動物を狩る為に銃を持って森に入ったのだろう。そして彼にとっては運の悪い事に、ムウとライネの姿を見てしまった。今日、森に入る事がなければ。ムウとライネを見つけなければ。ムウに銃を向けなければ。記憶を失う事はなかったのに。
そうは思うが、ヨエルは男に同情などしない。ヨエルにとって一番大事なのはムウだ。ムウと家族が守られるなら、他の人間や魔物がどうなろうと気にしない。
ヨエルは王都へ男を連れていった。
どうやら森で魔物に遭遇しそのショックで精神に異常をきたしたようだと報告し、男を然るべき場所へ預けた。
少し時間はかかったが無事に問題は解決し、早く帰ってムウを安心させてあげなくてはと、ヨエルが自宅へ向かう途中。
「パパ!」
「ヒルダ、サムリ」
我が子の声に呼び止められ、ヨエルは足を止める。
「どうしたんです? まだ学校のはずでしょう?」
「適当に理由つけて早退してきたのよ」
「ママが心配だもん。あんな事があって、きっとすっごく不安がってるでしょ?」
ヒルダとサムリの言葉に、苦笑を浮かべた。
ヒルダもサムリもライネも、父親の血を濃く受け継ぎすぎたのか母親であるムウを溺愛している。そしてヨエルと同じように、家族以外はどうでもいいと思っている。もしもの時、家族以外は簡単に切り捨てられる。
だが、ムウは違う。彼は人間よりも人間らしい良心を持ち合わせている。
事実を話せば、あの人間の男にも同情し胸を痛めるだろう。自分がライネから目を離さなければあの男が記憶を失う事はなかった、と。
だから、ヒルダとサムリと共に家に帰った後、ムウには真実を伝えなかった。ムウが逃げた後、男は魔物に遭遇しそのショックで記憶障害を起こしたようだと説明した。そのせいで、ムウとライネの事も記憶から抜け落ちてしまった。だから、心配する事は何もないのだと。
ヨエルの話を聞き終えたムウは、僅かに肩から力を抜いた。
「そ、そう、か……」
「ええ。だから、安心してください」
「ん。…………ところで、ヒルダとサムリはどうしたんだ? 学校は?」
ムウはヨエルと一緒に帰ってきた子供達に顔を向ける。
「なんか、下級生が魔法で失敗したんだって」
「そーそー。詳しいこと教えてもらえなかったからよくわかんないけど、先生達はその処理をしなきゃいけないとかで、授業が続けられなくなっちゃったのよ。それで、生徒は帰されちゃったの」
サムリとヒルダは息をするように嘘をつく。
帰ってくる道中にムウに何があったのかはヨエルから聞いた、という事にした。
疑う理由のないムウはそれをあっさり信じた。
「そうだったのか」
「私達の事より、ママは大丈夫?」
「相手の男、銃を持ってたんでしょ? 母さんもライネも、ケガしてない?」
「ああ、うん。ライネもオレも大丈夫だ」
そうだ。銃を持った相手と対峙したのだ。
思い出してゾッとする。もしあの男性がパニックを起こし銃を乱発していたら──。今思えば、とんでもなく危険な状況だったのだ。
下手をすればライネまで巻き込まれていた。
ムウが魔物だから。ムウのせいでライネを危険に晒してしまった。
魔物は人間に受け入れられない。それが常識だ。
ならばやはり、人間と魔物が一緒にいるなんて間違っているのではないか。今のこの状況はよくないのではないか。
「なぁ、ヨエル……」
「どうしました、ムウ?」
「オレ……やっぱり……」
「ダメですよ」
まだ何も言ってないのに、ヨエルにきっぱりと却下された。
ムウの雰囲気から、何を言おうとしているのか察したのだろう。
「前にも散々言いましたが、あなたと離れるなんて絶対に嫌です。許しません。どうしてもと言うなら監禁するだけですよ」
「う……」
ヨエルの目は本気だ。脅しではない。力を持たないムウは簡単に彼に監禁されてしまうだろう。
ムウとヨエルの会話を聞いて、子供達も口を挟んでくる。
「え、ママまた『自分は一人でいた方がいいー』とか、そんなこと考えてるの?」
「いや、だってな……」
「だってじゃないよ、母さん。それはダメだって言ってるのに、どうしてわかってくれないの」
「そんな、オレを駄々っ子みたいに言うなよ……」
皆は反対するけれど、ヨエルや子供達は王都の方がずっと暮らしやすいだろうし、何より安全だ。魔物のムウがいるせいで皆が王都で暮らせないのなら、ムウだけが離れて暮らせばすむ問題なのだ。
「もしもの時、オレと一緒にいるせいでお前達に何かあったら……」
「もー、ママってば見かけによらずほんっと心配性なんだから」
「っていうか、母さんを一人にする方がよっぽど心配だよ」
「な、なんでだよ! ガキじゃないんだから一人でも平気だ。そもそも、ヨエルと会う前は一人だったんだし……」
ヨエルを筆頭に、この家族はムウに対して過保護すぎる気がする。
ライネも、離れたくないと言うようにムウの足にぎゅっとしがみついてきた。
もちろん、嬉しい。ムウだって、離れたいなんて思ってない。
今回はたまたま無事で済んだけれど、また同じような事があったら次はどうなるかなんてわからない。大切な家族を危険な目に遭わせたくはないのだ。
「とにかく、ムウが私達家族と離れて一人で暮らすなんてあり得ません」
ヨエルはきっぱりと言い切った。ムウが何を言おうと揺るがぬ意思を感じる。
「でもよ……」
「私達の家族は、私が必ず守ります。何があっても、絶対に」
「ヨエル……」
「ムウは私の言葉が信じられませんか?」
「そんなことっ……」
出会った時は彼の言葉など何一つ信じられなかった。でも、今は違う。ムウは誰よりも、心の底から彼を信じている。
「心配しないでよ、ママ。私達、まだ子供だけど結構強いんだから」
「そうだよ。僕達家族が力を合わせれば、何があっても大丈夫」
「ヒルダ、サムリ……」
足にしがみつくライネも、彼らと同意だと言うようにコクコクと頷いた。
「ライネ……」
ライネの頭を撫で、ムウも一つ頷いた。
「そうだよな……」
「そうよ」
「そうそう」
ヒルダとサムリも力強く頷く。
ヒルダもサムリもライネも、既に相当な魔力を持ちそれを扱う事ができる。もし武装した人間が押し寄せてきても返り討ちにできるだろう。子供達の言葉は決して誇張ではないのだが、ムウはその事実を知らなかった。それでも、後ろ向きだった気持ちがヨエルと子供達の言葉で前向きになれた。
「ありがとうな、皆。魔物のオレを、受け入れてくれて」
「そんなの当たり前でしょ。あたし達のママなんだから」
「そうだよ。僕達、家族でしょう」
ヒルダとサムリの言葉に、しがみついてくるライネの温もりに、緊張と恐怖で強張っていたムウの胸は温かく解された。
それからは、いつも通り家族団欒の穏やかな時間を過ごした。
夜になり子供達が眠り、ムウとヨエルも夫婦の寝室へ移動する。
ベッドに横になれば、ヨエルに名前を呼ばれた。 横向きに寝たヨエルが、真剣な目でこちらを見つめている。
ムウも神妙な面持ちで、彼と向かい合うように横臥した。
「どうした……?」
静かに問いかければ、ヨエルが手を伸ばし頬を撫でてくる。ムウは飼い慣らされた猫のように大人しくそれを受け入れた。
ムウをじっと見つめながらヨエルは口を開く。
「ムウ……私はあなたがいないと生きていけません」
「…………」
「でも、あなたは違うんですか?」
表情にも声音にも表れてはいないけれど、悲しんでいるような、ムウを責めているような、そんな空気を感じた。
「………………そんなわけ、ない……」
ヨエルの瞳を見つめ返しながら、ムウは言った。
「オレだって……ヨエルがいなきゃ……子供達と一緒じゃなきゃ、もう生きてけねーよ……っ」
自分一人が家族から離れれば、そうすれば穏やかに安全に暮らしていける。そう思うけれど、きっとムウはもう一人では生きていけない。一人になれば、寂しくて悲しくて家族が恋しくて、まともな生活も送れなくなってしまうだろう。
ヨエルと出会うまでは、ずっと一人で生きていくのだと思っていた。誰にも受け入れられない自分は一人で生きていくしかないのだと思っていた。実際、ヨエルと出会わなければムウは今も一人だっただろう。
でも、今更一人には戻れない。
離れて暮らした方がいいなんて言っておいて、本当は心から離れたくないと望んでいる。
ヨエルと子供達との生活はあまりにも幸せで、もう手離す事なんてできない。
それがムウの本心だった。
それを聞いて、ヨエルは心底嬉しそうに破願する。
「良かった……。嬉しいです、ムウも私と同じ気持ちで」
すりすりと頬を撫でられて、ムウは目を細めた。
「おい、撫ですぎ……んっ」
文句を言おうとした唇はキスで塞がれる。
優しく唇を重ねられ、ムウの瞳はすぐにとろりと溶けた。
唇を食まれ、舐められ、甘くじゃれるような口づけに物足りなくなったのはムウの方だった。もっと深いキスを求め、口を開いて舌を伸ばす。
「んぁ……ヨエルぅ、んっ、もっと……んんぅっ」
彼の舌を舐めてねだれば、すぐに口づけは深く濃厚なものへと変化した。入ってきたヨエルの舌が、くちゅくちゅと音を立てて口腔内を舐め回す。溢れる唾液を啜られ、舌を吸い上げられ、甘く激しいキスにムウはうっとりと酔いしれる。
体が火照り、下半身がむずむずと疼いた。
身を寄せれば互いの下肢が擦れ合う。ヨエルの固く膨らんだ陰茎が下腹部に当たり、ムウはぞくりと背中を震わせた。腰を揺らし、自分の股間にその膨らみを擦り付けてしまう。
「んっんっ、はぁっ、ヨエルぅ、んぁっ、ヨエルの、ちんぽ、舐めたい……っ」
淫らなおねだりに、ヨエルは情欲に濡れた瞳を細める。
「もちろんいいですよ。いやらしくて可愛い私の奥さん……」
「んっ……」
だらしなく伸ばした舌を、彼は指で撫でた。ヨエルの指にちゅうっと吸い付いてから、ムウは唇を離し移動する。
仰向けになったヨエルの下半身に身を寄せ、ズボンと下着をずらした。
固く張り詰めた陰茎を目にして、ムウは興奮に涎を飲み込む。
「はっ、はあっ、んっ……」
荒い息を吐き、伸ばした舌でそれに触れる。
裏筋を根元から先端まで、丁寧に味わうようにねぶる。舐めているだけで気持ちが昂り、ムウの膣もペニスも濡れていった。
「っふ……一生懸命舐めて、可愛いですね。ムウの舌、熱くてぬるぬるで、とても気持ちいいです……」
僅かに上擦るヨエルの声音に、ムウは喜びにぞくぞくと震えた。
もっと気持ちよくなってほしい。もっと彼を感じたい。そんな思いから、ムウは大きく開いた口の中に陰茎を迎え入れる。
最初は先端を口に含むだけで精一杯だった。でも何度も繰り返す内に、口の奥深くまで咥え込む事ができるようになっていった。
「ん゛っ、んうっ、んっ、ふぅっんんっ」
舌で裏筋を擦りながら、じゅぷじゅぷと出し入れする。ごりごりと雁の部分で上顎が擦れてムウも気持ちよかった。
先端からじわりと滲んだ体液をちゅぱちゅぱと啜る。舌で味わいながら、夢中でしゃぶる。
「あぁ……気持ちいいですよ、ムウ……。口いっぱいに私のものを含んで……なんて可愛いんでしょう……っ」
興奮に潤んだヨエルの瞳がムウをじっと見つめている。
可愛くはないと思うが、ヨエルが興奮してくれるのは嬉しい。
「んはっ、んっ、んんっ……」
隅々まで舐め回し、また口に含んで口内で扱く。根元を手で擦り、口を窄めて陰茎に吸い付く。
「あっ……はあっ……ムウ……っ」
熱っぽくムウの名を呼びながら、ヨエルが頭を撫でてくる。少し乱暴なその手付きが彼の興奮を表していて、ムウの官能を刺激した。
「ん゛ん゛っ、っ、んぅ゛~~っ」
「はっ、ぁっ、そんなに、美味しそうにしゃぶられたら、もう……っ」
射精が近いのを感じ、ムウは一層激しく陰茎を刺激した。じゅぽっじゅぽっと下品な音を立て、口全体を使って擦り上げる。奥に亀頭を迎え入れ、喉を締めて射精を促した。
「っ、っ、出る……っ」
ムウの頭を掴むように、ぐっとヨエルの手に力が入った。同時に、雄蘂から精液が吐き出される。
「ぅん゛っ、~~~~っ、ん゛っ」
びゅるるっと放出される粘液を、喉を鳴らして飲み込んでいく。
美味しいとは思わないのに飲みたいと思ってしまうから不思議だ。
ぢゅうぅっと吸い付いて残滓まで飲み干し、そうして漸く口を離す。
ほう……と息をつくムウの頬をヨエルが撫でた。
「ありがとうございます、ムウ。気持ちよかったです」
「うん……」
「こっちに来て」
「ん……」
ヨエルに腕を引かれ、彼の上に乗り上げた。
至近距離で見つめ合う形になる。
醜い魔物のムウを、ヨエルはいつも愛おしげに見つめてくる。
ムウをこんな目で見てくれる人は彼しかいない。
堪らなく彼が愛おしくなり、すり……と身をすり寄せる。
「好きだ、ヨエル……」
「私もです。大好きですよ、ムウ」
唇が近づき、キスを交わす。
口内をねっとりと舐め回しながら、ヨエルはムウの胸に触れた。
「っ、んぅっ、んっ、はっ、んんっ」
パジャマの上から両方の乳首を探り当てられ、カリカリと爪で引っ掛かれる。ぷくんと尖った乳首を小刻みに弾かれる快感に、ムウは腰を揺らした。
「くぅっんっ、ぁんっうんんっ……」
舌を絡め合うキスをしながら、ヨエルはムウの乳首を弄り続ける。布が敏感な突起に擦れる感触が焦れったくも気持ちいい。
やがて布越しの刺激では物足りなくなり、ムウは自分でパジャマを捲り上げ胸を晒す。
「ヨエルぅ……乳首、吸って……」
我慢できずにねだり、彼の口元に乳首を持っていった。
「はあっ…………本当に、可愛いです。ムウ……私の奥さん……。いっぱい吸ってあげますからね」
感極まったようにうっとりと頬を染め、ヨエルはムウの胸にしゃぶりつく。
「んぁあっ、あっあんっ」
ぢゅうっと強めに吸い付かれ、ムウは甘いよがり声を上げた。
じゅわっと股間が濡れるのを感じる。
「あ゛っ、きもちぃっ、ちくびっ、あっあっあっんーっ」
吸われるだけでなく柔らかく甘噛みされ、快感に腰がびくびくと震えた。
艶かしく動く腰をヨエルの手が這う。撫でるような手付きでムウのズボンと下着を下ろした。
「んあっあっ、ヨエルぅ……っ」
ヨエルの手で臀部をむにむにと揉まれ、それだけでムウの秘所から新たな蜜がとろりと溢れる。
ムウは無意識に脚を開き、その奥への愛撫を求めた。
乳首を舐めしゃぶりながら、ヨエルはムウの脚の間へと指を滑らせる。
「ひあぁっ……」
既にとろとろに濡れそぼっていた蜜口に、指がぬるっと入ってくる。
「あっひっ、んんっ、きもち、いっ、あっあぁっ」
ゆっくりと差し込まれた指が、くちゅくちゅと内壁を擦る。その動きに合わせて、はしたなく腰が揺れた。
「あんっんっ、ヨエル、ぅんっんっ、あぁっ」
縋るようにヨエルの頭を抱き締める。
乳首も膣孔も気持ちよくて、蜜が次から次へと溢れ出す。触れられていないペニスも勃起して、先端から体液を漏らしていた。
「んゃっあっ、いくっ、もう、あっ、いくぅっ……」
ぶるぶるっと腰を震わせ、ムウは達した。
きゅんきゅんと収縮する膣内を、ヨエルは擦り続ける。
「ひっ、やぁあ゛っ、いってる、うぅっ、~~~~っ、いくっ、また、あっあ゛ーっ」
膣孔からは愛液がとめどなく溢れ、ペニスからも精液が飛散する。
「やっ、やぁっあっ、ヨエルのっ、ちんぽで、いきたい……っ、ひんぁっ、ヨエル、ヨエルのちんぽほしいっ、指じゃなくて、ヨエルのちんぽでこすってぇっ、んっあっあ゛っ、奥まで、いっぱいにして、ヨエルぅっ」
「ああもうっ……あなたは本っ当に、私を煽るのがお上手ですね」
「別に、煽るとか、そんなつもりじゃ……」
「わかってますよ。だからこそ、余計に興奮するんです」
「んあ゛っ……」
やや性急に指を抜かれ、その刺激に膣孔がびくっびくっと反応する。
「ふぁっあっ、ヨエルぅ……っ」
上半身を起こし、ベッドに座る体勢になったヨエルにしがみつく。
「ほしいっ、ヨエルの、いっぱいっ……」
「ええ、いいですよ。ムウの好きなだけ差し上げます」
ムウはヨエルの腰を跨ぐように膝立ちになる。蜜口に、そそり立つ彼の肉棒が触れた。
ムウは腰を下ろし、それをゆっくりと自分の中へ埋め込んでいく。
「ひはぁっあっあっ、入って、んひっ、なか、こすれて、あっあっ、いくっ、ぃっ、~~~~っ」
ごりゅごりゅと硬い楔に胎内を擦られ、入れている途中でムウは絶頂に達する。ぎゅうっと中を締め付けながら、ペニスからも精液を吐き出し、強い快楽にガクガクと身を震わせた。
「あっあっひっ、ぉっ、~~~~っ、お゛ぉ゛っ」
立てていた膝から力が抜け、自重で陰茎が奥へと沈んでいく。
内壁を擦られ、最奥を亀頭に潰されて、ムウは絶頂からおりてこられなくなる。
「いっ、ぐうっ、んひっ、いくっ、おっおっ、いくっ、んうっう゛~~っ」
「っ、中の締め付け、すごいっ……痙攣して……はっ、イくの止まらなくなっちゃったんですね……っ」
「くひっ、うぅっ、また、あっあっあーっ」
「んっ……大丈夫ですか、ムウ……一回、抜きましょうか……?」
ヨエルはムウの腰を掴む。ムウはその彼の手を止めた。
「んやぁっ、ぬくのっ、やあぁっ」
「ムウ……」
「あ゛っんっ、はなれるの、やらぁっ、あひっ、このまま、ヨエルと、ぉっおっ、くっついてたいっ、んっあ゛っ、あ~~っ」
「っ、本当に、可愛い人ですね、あなたは……っ」
「お゛っ、おっきく、なっ、あっ、ひぃっ」
「私も、離れたくなんてありません……。ずーっと、永遠に、こうして、あなたの、傍に……っ」
「ひう゛っうぅっ、おくっ、おくまでっ、いっぱい、ひっあっあああ゛っ」
「愛してます、ムウ……ずっと、一緒に……っ」
「んひっぃああっ、あっ、いるっ、ずっと、いっしょ、ぉ゛っ、~~~~っ、ひぁっあ゛っ」
きつく抱き締められ、胎内の最奥まで彼の熱で埋め尽くされ、ムウは多幸感に包まれる。
強烈な快感におかされながら、この幸せがこの先もずっと続く事を願った。
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甘々ハピエン。
異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話
深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?
【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった
cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。
一途なシオンと、皇帝のお話。
※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。
BLゲームのモブに転生したので壁になろうと思います
雪
BL
前世の記憶を持ったまま異世界に転生!
しかも転生先が前世で死ぬ直前に買ったBLゲームの世界で....!?
モブだったので安心して壁になろうとしたのだが....?
ゆっくり更新です。
【完結】僕の異世界転生先は卵で生まれて捨てられた竜でした
エウラ
BL
どうしてこうなったのか。
僕は今、卵の中。ここに生まれる前の記憶がある。
なんとなく異世界転生したんだと思うけど、捨てられたっぽい?
孵る前に死んじゃうよ!と思ったら誰かに助けられたみたい。
僕、頑張って大きくなって恩返しするからね!
天然記念物的な竜に転生した僕が、助けて育ててくれたエルフなお兄さんと旅をしながらのんびり過ごす話になる予定。
突発的に書き出したので先は分かりませんが短い予定です。
不定期投稿です。
本編完結で、番外編を更新予定です。不定期です。
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
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