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しおりを挟むそれから、再びトビアスの妻としての生活がはじまった。
トビアスはカティを大切にしてくれる。まさにカティが幼い頃に夢見ていた、理想的な旦那様そのものだ。
夜は同じベッドで眠るが、やはりカティは彼に抱かれることを拒んだ。トビアスはそれを責めずに受け入れてくれている。カティが傍にいてくれるだけで充分だと微笑んでくれる。
大切にされていると実感できるのに、それを素直に受け止められない。
ずっと好きで、浮気されても気持ちは変わらず、彼を愛しているのは確かなのに。心から愛する人が愛していると言ってくれているのに。こんなにも大切にされているのに。
その事実に喜ぶこともできず、いつ彼が心変わりするのかと、そればかりを考えている。
体を許さなければ、きっとその内我慢できなくなって娼館に行くはずだ。早くそうなってほしいとすら思ってしまう。この先ずっと怯えて過ごすくらいなら、早くカティへの愛が冷めてしまえばいいと。そうすれば傷は浅くて済む。ほらやっぱり、と笑って用意していた離婚届を彼に渡して、そしてカティはまたあの老夫婦のところへ戻るのだ。
欲しいものを目の前に差し出されているのに、カティはそれに手を伸ばすことができない。手を伸ばした瞬間、取り上げられる恐怖に竦んで動けない。
愛する人が浮気することを待ってしまっている。
自分はおかしくなってしまったのだろうかと、カティは思った。
だってこんな考え、まともではない。
もっと早く、カティが彼に愛されることを諦めるよりも前に彼から愛の言葉を聞くことができていたら。
そうしたら、きっと素直に信じられた。心から喜べた。愛する人に愛される喜びを純粋に感じられたのだろう。
いつトビアスが娼館へ行くのか。夜中にこっそりベッドを抜け出すのではないか。仕事だと家を出て、女性と逢い引きしているのではないか。
そんなことを考えて毎日気を張り詰めているカティは精神的に疲労していった。
夜もあまり眠れず、ふらついたカティは足を滑らせ階段から転げ落ちそのまま意識を失った。
目を覚ましたカティは、視界に入る見慣れぬ景色に戸惑う。独特の匂いに清潔なベッドに真っ白なシーツ。自分が病院のベッドに寝かされているのだと、それほど時間はかからずに気づくことができた。
けれど。
「カティ! よかった、目が覚めたんだね!」
そう言って笑顔で涙ぐむ男性を見て困惑した。
「トビアス、様……ですか……?」
「そうだよ。……どうしたんだ、カティ?」
首を傾げるトビアスは、カティの知るトビアスとは少し違って見えた。
「あの……私、どうして病院に……?」
「覚えていないのか? 君は階段から落ちて意識を失ったんだよ」
「えっ……? うちの階段ですか?」
「そう。俺達の屋敷で」
「俺達の……?」
「…………」
「…………」
カティとトビアスは言葉を失くし暫し見つめ合った。
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