勘違いしちゃってお付き合いはじめることになりました

よしゆき

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 晴臣と恋人になってから更に数週間が過ぎた。今も彼は友也と付き合っている。
 変わらず毎日一緒に登下校し、休み時間も昼休みも彼は友也の傍にいる。そして、二人きりになったらキスをするのだ。
 昼休み、食事が終わればキスをして、授業が終わればどちらかの家に行ってキスをする。キスばっかりしている。
 そんな毎日に、爛れているのではないかと友也は思った。
 彼といるとすぐにキスをしたくなってしまう。彼と抱き締め合ったり手を繋ぎ合ってキスをすると、とても癒されるというか。心が満たされるというか。気持ちが高揚して、転げ回りたいような、そんな感情になる。
 とにかく、毎日、いつでもどこでも彼とキスをしたくて堪らない。
 そんなふしだらな気持ちでいるのは良くないのではないか。不健全すぎる。
 晴臣だって、嫌になってしまうかもしれない。コイツ毎日毎日キスしたがってウザイ。とか思われてしまうかもしれない。
 だから、放課後に彼に「今日もウチ来るだろ」と言われて友也はそれを「今日は、桧山くんと外を出歩きたい」と断った。

「外? 行きたいとこあんのか?」

 訊かれて、自分で誘ったくせにどこも行きたい所など思い付かなかった。超がつくほど出不精な友也は、家にいるのが何よりも好きなのだ。友達と遊びに行く事もほぼないので、晴臣と外で一緒に過ごすのに適した場所が全くわからなった。

「そ、その……ブラブラ歩いたり、したいなって……」
「そっか。じゃ、適当にブラブラするか」

 晴臣はあっさり承諾してくれた。

「い、いいの……?」
「そりゃ……。つまり、放課後、デート……って事だろ……? いいに決まってるじゃねーか……」

 ぼそぼそと真っ赤な顔で言ってくる彼に、きゅんきゅんして今すぐにキスしたくなったがグッとこらえた。

「そ、そう、だね……。で、で、デート……だね」

「デート」という言葉に友也も照れてもじもじする。
 これで、友也のはじめてのキスもはじめてのデートの相手も晴臣という事になるのだ。
 そう思うと胸がむずむずした。
 学校を出て、二人並んで外を歩く。宛もなくブラブラと足を進めた。
 デートだと意識すると緊張してしまう。友也は気を紛らわせる為に忙しなく視線を動かした。
 ふと目に入ったのはゲームセンターだった。ゲームが好きな友也だが、ゲームセンターには入った事がない。

「桧山くん、そこ、入ってみてもいい?」

 店を指して尋ねれば、晴臣は頷いてくれた。彼と一緒に店内へ足を踏み入れる。

「宮瀬はよく来るのか、こういうとこ?」
「ううん、はじめてだよ」

 晴臣も滅多に来ないようで、友也と同じように物珍しそうに店内を見回している。
 色んなゲームで溢れているのは興味深いが、騒がしくて気後れしてしまう。絶対一人では入れなかっただろうな、と友也は思った。

「すごい、色々あるんだね」

 何台もあるUFOキャッチャーの中に並べられている景品を、感心しながら見る。

「あ、アレ可愛いね」

 ガラスの向こうのぬいぐるみの一つを指して、友也は言った。それはただ何気なく言っただけで、特に深い意味もなかった。

「欲しいのか、アレ」
「えっ……?」
「俺が取ってやる」
「えっ、えっ……?」

 止める間もなく、晴臣はUFOキャッチャーをはじめてしまった。別に欲しかったわけではないのだが、もうそうは言えない雰囲気だった。

「ぁ、の……が、頑張って……っ」
「任せろ」

 そう言って得意気に唇の端を吊り上げる晴臣はカッコ良かった。





 だがしかし、晴臣の頑張りは失敗に終わってしまった。ゲーム全般が本当に苦手なようで、はじめてという事を差し引いてもあまりに下手だった。本人は真剣そのもので、どうにか彼にぬいぐるみを取らせてあげたいと心から願ったのだが、友也にはどうする事もできなかった。
 彼はすっかり落ち込んで、どんよりと暗い空気を纏っている。
 友也は全く気にしていないのだが、晴臣はぬいぐるみが取れなかった事を申し訳ないと思っているようだ。
 友也としては、彼の失敗しても果敢に挑むカッコいい姿や慣れないゲームに一生懸命な可愛い姿が見れただけで充分なのだが。

「げ、元気出してよ、桧山くん」
「励まさなくてもいいぜ、別に。カッコ悪ぃって思ってんだろ」
「そんなわけないよ! 嬉しかったよ、僕、本当に。桧山くんが、僕の為に頑張ってくれて」
「けど、取れなかったし……」
「取れなくても、桧山くんの気持ちが嬉しいから。だから、気にしないで」

 それは友也の本心だ。そもそも、彼には悪いけれどぬいぐるみが欲しかったわけでもない。もちろん、取ってくれたら受け取ったけれど。

「…………でも、お前に喜んでほしかったのに」

 しゅんと肩を落とし、しょぼくれたように言う晴臣にきゅーんっと胸がときめく。
 友也は衝動のままに彼の腕に抱きついていた。

「っわ、ど、どうした、急に……!?」

 晴臣はカッと頬を紅潮させ、狼狽する。
 我に返った友也は慌てて彼から離れた。ここは人の目のある往来だ。衝動に突き動かされ、なんて大胆な事をしてしまったのだと友也も赤面する。

「あっ、ご、ごめん! なんかその、桧山くんに、ぎゅってしたくなって……」
「っ……」

 はにかみながら言い訳すれば、晴臣は更に顔を赤くして言葉を詰まらせた。そして無言で友也の手首を掴み、ずんずんと進んでいく。

「えっ……桧山く、どうしたの……?」

 彼は友也を連れ、人のいない路地裏へと入っていく。完全に人目がなくなったところで足を止めた。
 くるりと振り返り、晴臣は友也と向かい合う。

「桧山、く……んっ?」

 いきなりぎゅっと抱き締められ、戸惑いと喜びが胸に湧き上がる。

「えっ、あ……桧山、くん……んんっ」

 晴臣は友也を抱き締めたまま、深く唇を重ねてきた。

「んっ? ぁ、んっんっ、んーっ……」

 急にどうして……と困惑しつつも、キスしてもらえて心が浮き立つ。
 ちゅっ、ちゅっ、と晴臣は啄むようなキスを繰り返す。

「んぁっ……桧山、く……ここ、外、なのに……」
「お前が悪いんだろ。可愛い事、言うから……」

 怒った顔で言って、友也の唇に甘く噛みついてくる。

「可愛い、こと、なんて……。桧山くんの方が、いつも可愛い事、してるし、言ってるよ……」
「ああ? 俺が可愛いワケねーだろ。可愛いのはお前だっ」
「んんんっ」

 ぶつかるような勢いで唇を唇で塞がれる。

「んっ、ふっ……」

 入り込んできた舌に口の中をねぶられ、友也は瞳をとろんとさせた。肉厚の彼の舌で、余すところなく口腔内を舐め回される。
 嬉しくて、友也も夢中で彼の舌に舌を絡ませ、ちゅうちゅうと吸い付く。

「ぁっ……んっ……ふぁっ……」
「んっ……はっ……宮瀬……」
「桧山く、もっと……ぁんんっ」

 ここが外である事も気にならず、ただ彼とのキスを堪能する。
 彼に舌をしゃぶられて、背中がぞくぞくっと震えた。晴臣にしがみつき、震える脚を支える。
 結局キスをする事になるのなら、今日も彼の家に行っておけばよかった。
 いや、でも、こうして放課後デートしたからこそ、カッコいい晴臣や可愛い晴臣がいっぱい見られたのだ。だから、やっぱりデートして良かった。
 貪るような彼のキスに応えながら、またデートしてもらおう……と友也は思った。





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