上 下
194 / 319

シルヴァン殿の私室へ!?

しおりを挟む

 本当に久々でございました。私は殿下に招かれていました。昼下がりの城内の散策から、こうして夕食時まで。今は食後のお茶会となっております。
 応接間で殿下と二人きり。シルヴァン殿は不在でした。

「そわそわ……」
「……」

 ええ、殿下と私だけ。その殿下が何か言っています。ええ、口で。そわそわと。

「殿下、本日はありがとうございました」

 久々の逢瀬でございました。その間も殿下は気がそぞろでしたが、誘ってくださったのですもの。善き時間を過ごせたと思っておりましたが。

「あ、うん」
「……」
「……」
「……」

 私たちに沈黙が訪れました。それもそう、殿下は思いを馳せているようですから。私どころではないのでしょう。
 殿下またしても、ですわ。もうすっかりブリジット嬢に夢中のようです。それでも私の為に時間を割いたのは外聞もあってかしら。

「……」
「……」

 私は時間をかけて紅茶を飲む。間がもたなくなってきましたわ。いえ、なんとしても殿下に楽しんでいただかないと。それか……沈黙を楽しめるかのような。

「ああ……ここにブリジットがいたらなぁ」
「……」

 ……殿下? そう仰るならこちらだって――。

「――あー、せめてシルヴァンがいればなぁ」
「!」 

 私は驚きをするも、それを隠します。何事もなかったかのように微笑みます。殿下、それはあなたの心からの思いでしょう? 私の心を代弁することなんて――。

「そうだっ! アリアンヌ、あいつの部屋に遊びに行くか!」 
「殿下? 遊びに行くとは……」

 シルヴァン殿は部屋で仕事をなさっているのでしょうか。それを遊びに行くというのは。

「なーに、差し入れだよ。ここで不毛な時間を過ごしているよりいいだろっ?」 

 不毛、ですって? っと、いけませんわね。

「殿下? 私にとってはかけがえのない時間でしてよ――」
「うん、ありがとなー。でもそう決めたからっ!」 

 殿下は強引に私を連れ出すことにしました。差し入れにと茶菓子も数点手にしています。ああ、突然の訪問になってしまいましたわね。


 同じフロアの突き当りの部屋。殿下の私室の隣にある控えめな一室。そちらがシルヴァン殿の部屋のようです。

「シルヴァーン――」
「!」
 
 おそらくですが、ノックもせずに入ろうとしていますわ。そうはさせませんわよ。

「シルヴァン殿。エミリアン殿下とアリアンヌです。今、よろしくて?」

 割って入った私の方でノックをさせていただきました。殿下がブーイングをしていますが、私は素知らぬ振りをします。

「……?」 

 物音はしたようですが、ご返答はないようですわね。いるのは確かなようです。

「お、無視か? 開けたれ」
「殿下!?」

 この方は問答無用でした。容赦なくドアを開けて入っていく。

「で、殿下にアリアンヌ様? ……お迎えが遅くなりましたこと、お詫び申し上げます」

 やけに慌てているシルヴァン殿。彼は瞬時に入口までやってきました。

「いいってことよ。入るぞ」
「いえ、殿下っ」

 シルヴァン殿はお困りです。というか、私の方を見ています? やたらと私のことを気にしているような……。

「なんだよー? アリアンヌに見られたくないものでもあるのか?」 
「い、いえ、そのようなことは」

 シルヴァン殿は動揺したままです。声まで裏返っていますわ。

「お、にゃんこ。君のご主人様は怪しいぞー?」 

 殿下は慣れた手つきで、入口近くの棚の上にあった猫の置物を撫でています。私にも見覚えがあるものでした。それは一度だけ出たもの――最初に渡したものでした。

「え……」

 売ったのではありませんでしたの? 酒瓶のように、気にいったからというのもあるのでしょうか……。

「どうして……」

 私はシルヴァン殿を見ずにはいられませんでした。彼は即座に顔をそらしました。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生したら乙女ゲームのヒロインの幼馴染で溺愛されてるんだけど…(短編版)

凪ルナ
恋愛
 転生したら乙女ゲームの世界でした。 って、何、そのあるある。  しかも生まれ変わったら美少女って本当に、何、そのあるあるな設定。 美形に転生とか面倒事な予感しかしないよね。  そして、何故か私、三咲はな(みさきはな)は乙女ゲームヒロイン、真中千夏(まなかちなつ)の幼馴染になってました。  (いやいや、何で、そうなるんだよ。私は地味に生きていきたいんだよ!だから、千夏、頼むから攻略対象者引き連れて私のところに来ないで!)  と、主人公が、内心荒ぶりながらも、乙女ゲームヒロイン千夏から溺愛され、そして、攻略対象者となんだかんだで関わっちゃう話、になる予定。 ーーーーー  とりあえず短編で、高校生になってからの話だけ書いてみましたが、小学生くらいからの長編を、短編の評価、まあ、つまりはウケ次第で書いてみようかなっと考え中…  長編を書くなら、主人公のはなちゃんと千夏の出会いくらいから、はなちゃんと千夏の幼馴染(攻略対象者)との出会い、そして、はなちゃんのお兄ちゃん(イケメンだけどシスコンなので残念)とはなちゃんのイチャイチャ(これ需要あるのかな…)とか、中学生になって、はなちゃんがモテ始めて、千夏、攻略対象者な幼馴染、お兄ちゃんが焦って…とかを書きたいな、と思ってます。  もし、読んでみたい!と、思ってくれた方がいるなら、よかったら、感想とか書いてもらって、そこに書いてくれたら…壁|ω・`)チラッ

私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。 「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?

悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます

久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。 その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。 1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。 しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか? 自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと! 自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ? ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ! 他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

不機嫌な悪役令嬢〜王子は最強の悪役令嬢を溺愛する?〜

晴行
恋愛
 乙女ゲームの貴族令嬢リリアーナに転生したわたしは、大きな屋敷の小さな部屋の中で窓のそばに腰掛けてため息ばかり。  見目麗しく深窓の令嬢なんて噂されるほどには容姿が優れているらしいけど、わたしは知っている。  これは主人公であるアリシアの物語。  わたしはその当て馬にされるだけの、悪役令嬢リリアーナでしかない。  窓の外を眺めて、次の転生は鳥になりたいと真剣に考えているの。 「つまらないわ」  わたしはいつも不機嫌。  どんなに努力しても運命が変えられないのなら、わたしがこの世界に転生した意味がない。  あーあ、もうやめた。  なにか他のことをしよう。お料理とか、お裁縫とか、魔法がある世界だからそれを勉強してもいいわ。  このお屋敷にはなんでも揃っていますし、わたしには才能がありますもの。  仕方がないので、ゲームのストーリーが始まるまで悪役令嬢らしく不機嫌に日々を過ごしましょう。  __それもカイル王子に裏切られて婚約を破棄され、大きな屋敷も貴族の称号もすべてを失い終わりなのだけど。  頑張ったことが全部無駄になるなんて、ほんとうにつまらないわ。  の、はずだったのだけれど。  アリシアが現れても、王子は彼女に興味がない様子。  ストーリーがなかなか始まらない。  これじゃ二人の仲を引き裂く悪役令嬢になれないわ。  カイル王子、間違ってます。わたしはアリシアではないですよ。いつもツンとしている?  それは当たり前です。貴方こそなぜわたしの家にやってくるのですか?  わたしの料理が食べたい? そんなのアリシアに作らせればいいでしょう?  毎日つくれ? ふざけるな。  ……カイル王子、そろそろ帰ってくれません?

乙女ゲームに転生した世界でメイドやってます!毎日大変ですが、瓶底メガネ片手に邁進します!

美月一乃
恋愛
 前世で大好きなゲームの世界?に転生した自分の立ち位置はモブ! でも、自分の人生満喫をと仕事を初めたら  偶然にも大好きなライバルキャラに仕えていますが、毎日がちょっと、いえすっごい大変です!  瓶底メガネと縄を片手に、メイド服で邁進してます。    「ちがいますよ、これは邁進してちゃダメな奴なのにー」  と思いながら

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

変な転入生が現れましたので色々ご指摘さしあげたら、悪役令嬢呼ばわりされましたわ

奏音 美都
恋愛
上流階級の貴族子息や令嬢が通うロイヤル学院に、庶民階級からの特待生が転入してきましたの。  スチュワートやロナルド、アリアにジョセフィーンといった名前が並ぶ中……ハルコだなんて、おかしな

えっ、これってバッドエンドですか!?

黄昏くれの
恋愛
ここはプラッツェン王立学園。 卒業パーティというめでたい日に突然王子による婚約破棄が宣言される。 あれ、なんだかこれ見覚えがあるような。もしかしてオレ、乙女ゲームの攻略対象の一人になってる!? しかし悪役令嬢も後ろで庇われている少女もなんだが様子がおかしくて・・・? よくある転生、婚約破棄モノ、単発です。

処理中です...