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シルヴァン殿の私室へ!?
しおりを挟む本当に久々でございました。私は殿下に招かれていました。昼下がりの城内の散策から、こうして夕食時まで。今は食後のお茶会となっております。
応接間で殿下と二人きり。シルヴァン殿は不在でした。
「そわそわ……」
「……」
ええ、殿下と私だけ。その殿下が何か言っています。ええ、口で。そわそわと。
「殿下、本日はありがとうございました」
久々の逢瀬でございました。その間も殿下は気がそぞろでしたが、誘ってくださったのですもの。善き時間を過ごせたと思っておりましたが。
「あ、うん」
「……」
「……」
「……」
私たちに沈黙が訪れました。それもそう、殿下は思いを馳せているようですから。私どころではないのでしょう。
殿下またしても、ですわ。もうすっかりブリジット嬢に夢中のようです。それでも私の為に時間を割いたのは外聞もあってかしら。
「……」
「……」
私は時間をかけて紅茶を飲む。間がもたなくなってきましたわ。いえ、なんとしても殿下に楽しんでいただかないと。それか……沈黙を楽しめるかのような。
「ああ……ここにブリジットがいたらなぁ」
「……」
……殿下? そう仰るならこちらだって――。
「――あー、せめてシルヴァンがいればなぁ」
「!」
私は驚きをするも、それを隠します。何事もなかったかのように微笑みます。殿下、それはあなたの心からの思いでしょう? 私の心を代弁することなんて――。
「そうだっ! アリアンヌ、あいつの部屋に遊びに行くか!」
「殿下? 遊びに行くとは……」
シルヴァン殿は部屋で仕事をなさっているのでしょうか。それを遊びに行くというのは。
「なーに、差し入れだよ。ここで不毛な時間を過ごしているよりいいだろっ?」
不毛、ですって? っと、いけませんわね。
「殿下? 私にとってはかけがえのない時間でしてよ――」
「うん、ありがとなー。でもそう決めたからっ!」
殿下は強引に私を連れ出すことにしました。差し入れにと茶菓子も数点手にしています。ああ、突然の訪問になってしまいましたわね。
同じフロアの突き当りの部屋。殿下の私室の隣にある控えめな一室。そちらがシルヴァン殿の部屋のようです。
「シルヴァーン――」
「!」
おそらくですが、ノックもせずに入ろうとしていますわ。そうはさせませんわよ。
「シルヴァン殿。エミリアン殿下とアリアンヌです。今、よろしくて?」
割って入った私の方でノックをさせていただきました。殿下がブーイングをしていますが、私は素知らぬ振りをします。
「……?」
物音はしたようですが、ご返答はないようですわね。いるのは確かなようです。
「お、無視か? 開けたれ」
「殿下!?」
この方は問答無用でした。容赦なくドアを開けて入っていく。
「で、殿下にアリアンヌ様? ……お迎えが遅くなりましたこと、お詫び申し上げます」
やけに慌てているシルヴァン殿。彼は瞬時に入口までやってきました。
「いいってことよ。入るぞ」
「いえ、殿下っ」
シルヴァン殿はお困りです。というか、私の方を見ています? やたらと私のことを気にしているような……。
「なんだよー? アリアンヌに見られたくないものでもあるのか?」
「い、いえ、そのようなことは」
シルヴァン殿は動揺したままです。声まで裏返っていますわ。
「お、にゃんこ。君のご主人様は怪しいぞー?」
殿下は慣れた手つきで、入口近くの棚の上にあった猫の置物を撫でています。私にも見覚えがあるものでした。それは一度だけ出たもの――最初に渡したものでした。
「え……」
売ったのではありませんでしたの? 酒瓶のように、気にいったからというのもあるのでしょうか……。
「どうして……」
私はシルヴァン殿を見ずにはいられませんでした。彼は即座に顔をそらしました。
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