カミノオトシゴ

大塚一乙

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一章

4話『護衛護衛輸送』

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話を整理するとこの男、犀川志熊は海外から来たと言うよりか日本に帰ってきた特記能力持ちで船での護送中その船が太平洋上にて襲撃され護衛はほぼ全滅。本来は何個かの能力制限が課せられていたらしいが襲撃の有耶無耶で解除され持ち前の特記能力を使用し、その場を脱出。船での護衛輸送は国家秘密で行われていたらしくこの護送自体は現場の護衛、ISAB、そして一応俺ら探偵事務所だけの情報となっていたらしい。

「というかよく襲撃されて船が沈没したのに生きていられたな」

彼を見るに濡れているわけでもないので言っていた通り持ち前の特記能力を使ってここまで来たのだろう。

「そりゃあ、僕の特能は便利だから、感謝してよ、僕の特能がなかったら君胸に穴空いてるんだからね」

「さっきの銃弾が俺に当たらなかったのって...」

「そう、僕のおかげだよ、はい感謝して」

こいつの態度が無ければ命の恩人として大変感謝を申し上げているところなのだがこいつの喋り方、態度を鑑みた上で感謝の言葉を伝えるのは些か腹が立った。横を見ると未だ緊張しているのか未来は膝に手をちょこんとのせたまま口を動かそうとはしなかった。この状況で緊張してない俺も俺なんだろうが脳のメーターが吹っ切ったのかこの犀川という男と普通に喋っている。

「ん?その襲撃から逃げられるほどの特記能力ならわざわざ車で移動する必要はあるのか?」

「もともと能力制限がかかったままISABまだ向かう予定だったから車なんだけど確かに今の状況だったら僕の能力使ったほうが安全だよね、けど僕が能力使ってそのまま行ってたら君たちは今頃銃弾の餌食だよね、だからこうして車で移動してるのはどちらかと言うと君たちの護衛かな?」

思ったより俺らは犀川に感謝しなければいけないらしい。というよりこんな探偵事務所に国家秘密の作戦の一端を任せるとかどうなってるんだ。しかもこんな危険度の高い依頼一万円札一枚じゃ全然釣り合わなくないか。もうどこに文句を言ったらいいのか...

「来たね」

その犀川の無機質な言葉と同時に鳴り響いたのは先ほど聞いたばかりの未だ耳に残っている音だった。しかしその銃声とは裏腹に俺たちが乗っている車体にはなんの影響も及ばされていなかった。一瞬遅れて反応し思わず振り向きそうになる頭は犀川の言葉によって遮られた。

「走れ、ブレーキを踏んだら死ぬと思え」

容赦なく人の生死を語るその口はこの状況では最も意味のある言葉となる。その言葉に従いブレーキを出せる力踏み続けた。鳴り止まない銃声が響く中、一切車体に影響を及ばさないのは不思議でならなかったがこの状況の中その疑問に思う感情は無きに等しかった。

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ISAB日本支部局。最上階局長室にて。

「局長。特記能力No.10輸送中襲撃が確認されましたがNo.10の生命反応またGPS現在地を見る限り自身の能力を使用後、当初の予定通りアルケー探偵事務所と合流後こちらに向かっていると思われます。」

最上階の景色を眺めている局長と呼ばれる男が一人。

「...思われます。か、それはお前の主観の報告か?それとも事実か?」

景色を眺めながら報告に応対する男とは逆に報告をした大柄の男は体格にそぐわず縮みこまった態度ですごく緊張しているように見えた。

「い、いえ、生命反応、GPS現在地を見る限り事実だと思われます」

そして局長と呼ばれている男は初めて報告している男に対し顔を向け小声で何か呟いた後「クビだ」と言った。その言葉はあまりに突発的だったため報告をした男も現状を理解してないようだった。

「聞こえなかったか、クビだ、君は」

二回目の発言は男に言葉の理解を促したが戸惑う素振りを見せているためクビにされた根拠は理解していないのだろう。実際この状況でクビを宣告されたものは類を見ないだろう。その合点がいかないその宣告に男は意を唱えた。

「な、なぜでしょうか?クビにされる理由が...報告をしに来ただけですし」

「君は報告に何故『思われます』を使う。事実なのだろう。しかもその理由を僕は問いかけた。そしたら君は事実であると答えたと思ったらまた『思われます』だ。矛盾しているぞ」

「そ、それは申し訳ありませんでした。金輪際そのようなことは無くしますのでどうかクビだけは」

「日本語まともに扱えない愚人を置いておくということはそれを補えるくらいの利点がお前にはあることでいいな?ならばその利点をまとめてこい、嫌ならここで働くのは諦めることだ、まだここで働きたいというならば今すぐ退出しまとめてこい」

「は、はい!」

「後お前、ここではやらずにまとめるのは家でやれよ、これは仕事じゃない、残業手当を払わせるな」

「も、もちろんです、失礼します」

終始態度の小さい男は命を繋がれた喜びか最後の返事だけは他に比べ威勢がよくすぐさま礼をし退出した。

「ほんとに無能だらけだな」

報告一つで人の人生が狂うシビアな雰囲気を作っている根源は何もなかったかのように身支度を始めた。

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未だ銃声が鳴り響きながら追われる状況を打破できていない三人は追手との消耗戦となっていた。

「まだあいつら弾尽きないのかよ」

この消耗戦を生み出した本人は愚痴をこぼしているが実際弾が尽きるか車が走らなくなるかなのでどちらが負けるかわからない状況であった。どちらにせよ犀川がいなければ死んでいたのでこの状況にも感謝すべきなのだが。

「いい考えがある。あの、これを後ろの車のタイヤに当てれますか?」

運転している俺には無理とわかっているのでしょうがなく犀川に頼む未来だが名前を呼ばなく敬語なあたり喋っているのもだいぶ勇気を振り絞っているのだろう。

「これは?」

「フルオモアンチモン酸です、とにかくあのタイヤに当てることはできますか?」

「ーー、やってみようか」

そして窓を開けて頭を出し後ろをのぞいたと思ったら投げるモーションも無しにタイヤでは無く追手に直接当てたのだった。そのまま追手の車はガードレールにぶつかり追手はいなくなったのだった。

「いやぁ、ナイスだね、未来ちゃんだっけ?」

さすがに追手に直接当たったのがショックだったのか再び黙り込んだ。あの酸がどの程度のものなのか無知な俺には想像もできないが酸とつくのだからさぞかし追手は痛い思いをしているのだろう。

「気にしなくていーよ、もともとあっちも荒くれ者だし、日常茶飯事でしょ」

と再び安全と思われるドライブが始まったと思われたのだが休む暇もなく俺たちはISAB日本支部局に到着するのであった。
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