EDEN ―孕ませ―

豆たん

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「最初は本当に、君の素質と才能にしか興味がなかった。半分魅入られていたと言った方が正しいかも知れないな。人と為りを無視してそれだけに注目しても余り有るほど、その能力は興味深いものだったし、どうせ他の男子と同じように、君も僕達を恨んで人生を呪いながら生きていくんだろうと高を括っていたから、君の心に関知する気がまったくなかったんだ。でも、恨むどころか、いつまで経っても君は信じられないほど純粋で素直で――気が付いたら、才能だけじゃなく、僕にとって君自身が特別な存在になっていたんだよ」

 このまま一つになりたいと言うように、身体を一層真柴に近付ける優輝。二の腕に添えられた真柴の手が、柔らかな彼の肌を滑った。


「――優輝くん。…抱いてあげようか…?」

「……え?」


 突然のひと言は、驚きの余りよく聞き取れなかった。今、彼は何と言った?

「…僕が欲しい、とは…思ってないかな…? 僕は君が欲しいよ。だから、犯すというより…抱きたい……」

 降ってきた夢のようなセリフに優輝は耳を疑う。身を起こし、自分の聞き間違いだろうかと相手の面を凝視した。

「…で、でも、それは出来ないって……」

「挿入しても、切羽詰まる前に対処するから大丈夫だよ。中出しは出来ないけど、君が望むなら夜が明けるまで幾らでも可愛がってあげる」

 途端、ガバッと優輝に抱き付かれて目をしばたかせる真柴。すぐに笑みを浮かべると、胸にしがみ付いたままの彼をゆっくりベッドへ横たえていく。「ちょっとだけごめんね」と優輝の腕を離させて、ネクタイを外しワイシャツの前をはだけた。
 優輝は、目の前に現れたスリムだが均整の取れた胸筋と腹筋にそっと触れてみる。伸ばした手の先に彼の体温を感じ取れることが嬉しくて堪らない。高まる気分に後押しされ、もう一つ、出来れば叶えて欲しい望みを口にしてみた。

「あの……、真柴さん…」

「何だい?」

「……下の名前を…教えてくれませんか…?」

 遠慮がちの小声を聴き取った真柴が、ふわりと笑って答えてくれた。

颯人はやとだよ。母親が付けたものじゃなく、家出した後に自分で考えた名前だ。何事にも颯爽と対応出来る自由な人間でいたいと思ってね」

 知った名を頭の中で何度も反芻してみる。爽やかさと同時に雄の勇も感じる彼にぴったりだと思った。

「…え、と……颯人さん、って…呼んでも、いいですか…?」

 おずおずと尋ねたその言葉に真柴は動きを止める。不思議そうに首を傾げた優輝に見上げられ、ふっと我に返った。一瞬の自失を取り繕うように返事を返す。

「…っあ、も、勿論。君からそう言ってくれるなんて、とっても嬉しいよ」

 そう言う真柴の顔に優輝の目が釘付けになる。口角を上げ笑んでいる筈の頬に、つつっと流れたものが光の筋を残していた。

「……颯人さん、涙が……」

「……え? 涙…? 僕は、泣いたことなんて…今まで一度も――」

 目元を擦ると、手の甲に僅かだが水分が付着していた。それが乾いていくのを暫し見詰めて、感慨に耽る真柴が呟く。

「――これが、泣くっていうことなのか…。ビジネスでもそれ以前の生活でも必要なのは苗字だけだったから、誰かに名前を呼ばれるなんて初めてで――。なんだか…胸の中が温かいな……」

「……颯人さん……」

 己の手に目を落し続ける真柴に、優輝は切なげな眼差しを注ぐ。古傷を含め、彼の抱えるものを全て包み込んで癒してあげたい衝動に駆られた。その首に腕を回し、ぎゅっと彼を抱き締める。

「優輝くん……」

 優輝の気持ちを汲み取った真柴も、ゆったりと身体を重ねてきた。触れ合った肌を通して直に伝わる彼の鼓動に、この上無い幸せを感じる。

「――実を言うとね、他の男子には『社長』としか呼ばせてないんだ。僕にとって君は、本当に特別なんだよ」

 囁きながら下りてくる真柴の面。唇を軽く啄まれたかと思うと深く深く重ねられ、侵入してきた熱い舌が自分のそれにきつく絡んでくる。流し込まれる彼の唾液に、優輝は身の内が震えるのを感じた。

「…っん、ふ…っ、颯人…さん…っ」

 同じ体液であっても、唾液や涙には精液のような依存性が無いのだろう。それでも強い特性を持つが故なのか、それとも愛しい人のものだからなのかは分からないが、温い湿しとりが喉を下る度に、全身がどんどん甘く痺れていくような気がした。
 強く吸い上げてから顔を離す真柴。口付けに酔いうっとりと目を細めた優輝の喉元や胸を、改めてじっくりと見る。

「なんだか、肌つやも前より良くなってるみたいだ。やっぱり君は、日を追うごとに成熟していくんだね。とっても綺麗だよ」

 首筋にキスをして、そのまま鎖骨へと口唇を這わせる。舐め下り辿り着いた乳首をクリクリと舌で転がした。

「っあ……やっ…っっ」

 悩ましく眉を寄せる優輝。真柴は口に含んだそれをちゅくちゅくと吸い、喉を鳴らして優輝の母乳を飲んでいく。当初よりも格段に量の増えたミルクをたっぷりと味わって、満足そうに身体を起こした。

「…本当に君のお乳は美味しいね。初産の時はひと滴だけしか口に出来なかったけど、今はこんなに飲んでもまだ余裕がある。飲んだだけでこれほど幸せになれる飲み物なんて他にはないな。――君自身も凄く美味しいって、雄くん達から報告を受けてるよ。お客様も絶賛する君を、僕にも食べさせて……」

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