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15.王国騎士団団長 *騎士団長視点

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私とエレノアは、所謂幼馴染だった。
 幼少の頃から彼女は身体が弱く、良く熱を出しては寝込んでいた。

 私はしがない男爵家の次男坊で侯爵家嫡子の彼女とは身分の差がありすぎた。
 彼女との婚約は諦めていたが、せめて側に居たかった。

 幸いにも武芸の才があったので、
 必死に鍛錬を積み王国主催の剣術大会で優勝する事が出来た。

 優勝者は、王国騎士団に入隊できる資格を得るが、
 俺は全く興味が無かった。

 優勝を手土産にエレノアの両親と交渉して、
 リシュール家というかエレノアの専属護衛騎士になった。

『絶対王国騎士団にいくべきよ』
『良いんだよ、俺は教養も作法も得意じゃないから、
 地元で就職出来ておお喜びさ』
『しょうがない人ね、私が当主になったらお給金上げてあげるね』
『ああ、それは楽しみだ』

 あの頃が人生で一番幸せだった。

『あのね、私結婚する事になったの』
『結婚?そんな素振りも無かったじゃないか』
『私も先日一度会ったばかりだから』
『......政略結婚か』
『よく分からないけど、分家が色々絡んできたみたい』
『相手の男は?』
『うーーんってかんじかしら、
 まあ当主は私のままで入婿だから多少残念でもね』
『断れないのか?』
『無理かな、でも守ってくれるんでしょ?』
『......ああ、そうだな、給金を上げてもらわないといけないからな』
『うふふ、まかせて頂戴』

 その男は見るからにぱっとしない男だった。
 卑屈でその割にプライドばかり高そうな男。
 悪意で選ばれたとしか思えない。

 自分がエレノアを守らなければ。
 俺もその年に結婚した、辺境の令嬢で気さくな女性だった。
 子供もエレノアの子供と同じ年に生まれた。

 エレノアは、お互いの子供どうしで仲良くさせたがっていたが、
 俺は何だかんだ言い訳をして断った。

 エレノアの子供は、エレノアそっくりの女の子だったからだ。
 そして俺に似た息子、きっと息子も同じ道を辿ってしまう。
 同じ思いはさせたく無かった。

 だが、運命だったのだろう。
 息子は隠れて俺の仕事場に遊びに来て、
 いつの間にかエレノアの子供と仲良くなってしまったのだ。

 親の心子知らずとは、正にこういう事を言うのかと思った。

 お互い子供が生まれて数年後、エレノアは流行り病で呆気なく逝ってしまった。
 まだ幼い子供を残して。

 彼女が亡くなって一年もしない内にあの男は再婚した。
 母親を無くしたばかりの娘の気持ちを全く考えていない。
 だが所詮自分は雇われの身でどんなに意見しようとも無駄だった。

 力をつけよう。
 権力に抗う力を。

 侯爵家の専属護衛騎士を辞めて騎士団に入団した。
 入団するにはいい歳だったが、エレノアが生前に団長に話をつけておいてくれたらしい。
 そこから死に物狂いで努力した。
 功績を上げるために一番危険な戦場を自ら志願する私を皆は、
 死にたがりの騎士と噂した。
 そして副団長から団長にと僅かなあいだで出世していった。

 戦場での功績もあるが辺境騎士とは妻の故郷で付き合いがあったので、
 とかく中の悪い中央騎士と辺境騎士の両方のパイプ役として評価された為だ。

 国王でももう俺の意見を蔑ろに出来ない。
 やっと彼女の娘を救ってやれる時が来たのだ。

 そんな時にあの男から息子へ、アイリーンのお茶会の招待状が届いた。
 普通なら断る所だが、最近アイリーンがお茶会に来なくなったらしいと聞いていた。
 先ずは無事の確認をするのが先決だ。
 息子には辛い思いをさせてしまうが、交渉するにも材料が必要なのだ。
 自分は剣術の世界は得意だが、社交界とかは酷く苦手だ、交渉も得意とは言えない。

 だがひと目見て虐待されているなら、
 未成年保護の理由で助ける事も可能だ。

 すぐにでも息子に話をしなければならない。
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