半神の守護者

ぴっさま

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第29話 大群と流星

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ジュリアンとジョアンナは日中は同室内に軟禁されていた。
恐らく今日も夜は各自の部屋に閉じ込められてしまうだろう。

「お兄様、これからどうなってしまうのでしょう。リーンともずっと会えないですし…」
ジョアンナが不安そうに話す。

「そうだね…このままだと謀反の共謀者として王都に連行されてしまうところだけど、今はロッドさんの助けを待つしかないね。リーンも無事だと良いんだけど…」
ジュリアンも力無く答える。

「ロッド様………お兄様!あれは何かしら?」
軟禁されている城の最上階のベランダでロッドを想い、沈んだ様子で外を伺っていたジョアンナが、街の外壁辺りを指差して驚いていた。

ジュリアンはジョアンナのただならぬ様子を怪訝に思い、座っていた椅子から立ち上がってジョアンナの方へ行き、同じ場所を眺めた。

辺りは薄暗いが完全に夜ではなくある程度の距離はまだ見通せるようであった。
そこに見えたのは街の外壁に取り付く多くの魔物だった。

門付近が一番多いが、外壁に隈なく魔物が取り付いているようであった。外壁の上で警備兵や騎士団が魔物と戦っているのが見える。

「魔物だ!魔物の大群が街を襲っている!」
ジュリアンは驚愕して叫んだ。

城の最上階から見る街は一部の魔物も街に侵入しているのか、民衆がパニックとなっているのが分かった。
あちこちで煙が上がり、戦闘も起こっている様子だった。

ジュリアンは居ても立っても居られなくなったが、軟禁されている状態では何も出来ない。

「くそっ!領民を助けたいのに!僕に力があれば!」
「お兄様…」
ジュリアンは今の境遇に苛立ちを覚え激昂し、ジョアンナは兄に寄り添った。

その時、いきなり部屋の扉が開かれ、黒ずくめの男達数人が部屋に入って来た。
ジュリアンとジョアンナはいきなりの侵入者に警戒しベランダで身を寄せ合う。

ベランダの2人に気付いた男達はゆっくりと歩みながら確認するように話した。
「ジュリアン様とジョアンナ様ですな。そのお命頂戴いたします!」

黒ずくめの男達のひとりがそう言うと、刃物を構えてジュリアン達に襲いかかって来る。

ジュリアンは刹那の間に考える。

男達はその出で立ちから暗殺者のようである。
この混乱に乗じて自分を殺しにきたのであろう。

今ここには自分達を守ってくれる存在はいない。
自分は恐らくこの男達に殺されて死ぬのだろう。

最後にロッドさんにもう一度会ってお礼とお詫びをしたかった。
リーンも無事でいてほしい。

自分は死ぬとしてもせめて妹だけは生き延びてほしい。

ジュリアンはジョアンナをベランダの奥にしゃがませるとその前に両手を広げ庇うように立った。
そして目を瞑り自分を貫く痛みが襲うのを待つのであった。

その時、上空からジュリアン達に向け高速で飛来する物があった。
その何かは黒ずくめの男達の方に急に向きを変えると、更に速度を上げる。

そして音速を超えて飛来した何かが、刃物を持った黒ずくめの男達全員を一撃で吹き飛ばしたのだ。
男達は全員が例外なく上半身と下半身が別れた状態となって倒れるのであった。

超音速が生み出すソニックブームの物凄い爆音でジュリアンが恐る恐る目を開けると、そこには全員体が半分になって死んでいる黒ずくめの男達と、先ほどまで想っていた人物が大事にしている、ペットのピーちゃんがいるのであった。


ーーーーー

冒険者ギルド周辺にも漏れ出した各種の魔物が押し寄せていた。
支部長のカーラは冒険者の先頭に立って戦っていた。

これでも昔は白金級プラチナランクパーティーのA級冒険者だったのだ。
カーラの肉体は全盛時よりかなり衰えたが魔法の力は健在である。

ギルドメンバーが老婆であるカーラに従うのも立場的な物も確かにあるが、潜在的にカーラの魔法の力を恐れているからでもあった。

前衛に守られていたカーラが呪文の詠唱を終え、手を翳し魔法を発動する。

迸る稲妻ライトニング

「ギャアア!」「ガアア!」「キュウウウ!」
雷の魔法がカーラの手から15mほど伸び、魔物を次々と貫通してダメージを与えていく。中には耐久属性が低く、黒焦げになって即死している魔物もいた。

絡み合う蜘蛛糸スパイダーウェブ

カーラの次の魔法で広範囲の魔物に蜘蛛の巣のような物がまとわりつき、魔物の動作速度を大幅に低下させた。

「前衛は今のうちに速度が鈍った魔物を叩いておくれ!後衛は空を飛ぶ魔物を中心に迎撃するように!魔法使いは味方を巻き込むんじゃないよ!攻撃魔法が苦手な者は支援魔法に徹するように!回復魔法が使える者はあまり前に出るんじゃないよ!」
戦いながらも皆に指示を出していくカーラ。

次々と冒険者ギルドに逃げ込んでくる民衆を助けながら、冒険者ギルドの奮闘は続くのであった。


ーーーーー

数百の大蝙蝠ジャイアント・バットが何かを紐で吊りながら領都アステルまでやって来た。
正門の200m程手前で停止した蝙蝠達は次々と変身ポリモーフを解いて吸血鬼ヴァンパイアの姿を表した。

続いて吸血鬼ヴァンパイア達は4人一組になり、計5つの棺を皆の前に運んで来くる。その内の一つは物凄く豪華な棺である。

まず、4つの棺が開かれ、中からは上位種である吸血鬼の貴人ヴァンパイアノービリティが現れた。通常の吸血鬼ヴァンパイアよりも能力属性値が高く幹部となる者達である。

そして今度は吸血鬼の貴人ヴァンパイアノービリティ達が最後に残った豪華な棺を開けて、跪く。

男は地上に降り立った。
男は周囲に重厚な威圧を放ちその存在を知らしめる。

男は闇を統べる者、吸血鬼の君主ヴァンパイアロードであった。

男は人間に一族の者の復讐をすると闇の女神ベラドナに誓ったのだ。
「皆の者、ご苦労。首尾はどうか?」

執事のような格好の吸血鬼ヴァンパイアが近くに寄って報告する。
「はっ。滅ぼされた若者達の跡を辿ったところ、ここから少し離れた盆地で足取りが途絶えました。そこには魔法など戦闘の形跡があった為、残念ながらそこで滅ぼされてしまったと考えられます。そしてその場に居た人間達の血の匂いを辿るとこの街に着きました。今は配下や召喚した魔物で街を囲い逃げられないようにしており、夜を待って街への攻撃を開始したところです」

「そうか。では我が少し手助けしてやろうぞ」
男は軽くそう言うと、呪文を唱え魔法を発動した。

流星群の衝撃メテオスォーム・インパクト

上空に幾つもの巨大な小天体=高密度の岩石が現れ、落下により速度を増しながら指定されたターゲットに向かい、やがて白熱化しながら外壁の正門周辺に降り落ちた。

正門付近は落下の衝撃により崩壊し、直径100m程の歪な形のクレーターを生成した。
当然その範囲内にいる人間や魔物に生存者はいなかった。

男は一旦満足し、いつの間にか用意されていた玉座のような椅子に当然のように優雅に足を組んで座った。
椅子は持ち上げられるような構造をしており、何人かの吸血鬼ヴァンパイアが競って持ち上げる役についた。
これは彼ら吸血鬼ヴァンパイア達にとっては非常に名誉な仕事であった。


ーーーーー

ピーちゃんと再会したジュリアンとジョアンナは刺客の襲撃から九死に一生を得て、再会を喜びあった。

そして2人は星が落ちて外壁の門が破壊されるのを目撃した。
「そんな!まだ戦っている兵士さん達がたくさんいたのに…」
「くっ!なんて強大な魔法なんだ…」
ジョアンナは死んだ兵士を想って涙を流し、ジュリアンはあまりにも絶大な力にこの領都が襲われている事に絶句する。

沈黙する2人にピーちゃんが話しかける。
「イソギマショウ ゴシュジンサマガ マッテイマス デス」

「え!ピーちゃん喋れるの?」
「まあ!」
ピーちゃんがいきなり喋った事に2人は心底驚いて目が丸くなった。

「ハイデス。 セナカニノッテクダサイ トビマス デス」
ピーちゃんはそう言うと淡く青い光に包まれて徐々に身体が大きくなった。4m程の大きさになると、2人に向けて背中を差し出した。

コクコク頷いて恐る恐る背中にしがみつく2人を乗せ、夜空に羽ばたくピーちゃんであった

ーー

冒険者ギルドの支部長カーラは夜空に流星が降り注ぎ、外壁が破壊されるのを見ていた。星が降り注ぐ…おとぎ話にある極大魔法のようじゃないかと思う。カーラが知る限り人間で極大魔法を使える者は聞いた事が無かった。

それこそ物語の中しか。

この世は魔法を使える人間の割合が少なく、使える者でもほとんどの人が中級ぐらいまでで人生を終え、ほんの一握りの人間しか上級魔法を扱えるようになれないのだ。

しかも上級魔法だと魔力の消費が激しく、多くても1日4,5回しか使えないであろう。
カーラ自身も上級魔法は使えるが回数はそんな物である。

人外。
もしこの流星の魔法が人外の魔物、それも上位の何者かであるとするならこの街は恐らく全滅となるだろう。

カーラはもう老齢である。自分が死ぬのはかまわない。
だがこの街にいる子供や若者の命は守らなければならない。

カーラは自分を奮い立たせ、呪文を唱え魔法を発動する。

上級魔法〚猛炎の打撃フィアスフレイムストライク

城壁が壊された為に魔物が増えており、新たにこちらにやって来そうな一団に向け、カーラが持つ上級魔法の一つを放った。この魔法は炎の範囲攻撃であるが範囲内で小爆発を繰り返しその連鎖する爆発で追加の打撃ダメージを与える魔法である。

流石に上級魔法ともなれば、およそ直径15mぐらいの範囲内にいた魔物はほぼ全滅したが、その猛炎の中から数人の人影が余裕を持って現れた。

「ほう。人間の魔法にしては強力だな」
「ふふっ。本当にそうね。殺しがいがありそう」
「まあ我等の再生能力以下の威力だがな」

平然と会話しながら現れたのは、人間のようで人間ではなく、目は赤く充血し、肌は青白く、口には犬歯がそのまま伸びたように長い牙があった。
そして綺羅びやかなドレスのような出で立ちである。

カーラは長年の経験と知識からすぐにその者達の正体を悟った。
「お前達は吸血鬼ヴァンパイアだね!」

「ひっ!」「なにっ!」「ええ!」
吸血鬼ヴァンパイアを知っている冒険者はそれを聞いて後ずさった。

難度Aの吸血鬼ヴァンパイアは1体でも金級ゴールドランク冒険者パーティーでやっと互角と言われている。
それが3人も。

今この街に金級ゴールドランクパーティーはいるのだが、主要メンバーが大怪我とかでこの戦闘には参加していなかった。

そして絶望的な事に、他にも後から続々と吸血鬼ヴァンパイア達がやって来る。
数は…数えても意味が無いほどいた。

「ははは。こりゃあ、もう駄目だねえ。死ぬしかないよ」

カーラを含め冒険者達は全員が絶望し、自分達を殺そうと続々と集まって来る吸血鬼ヴァンパイア達を放心して眺めるのであった。
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