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一条浩市(祖父)
第10話 後継者問題
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ワシの名前は一条浩市。
一条グループを束ねる一条家の総帥じゃ。
一条家は旧財閥の流れを組む家柄で戦後GHQに一度は解体されてしまったが、その後、ワシの父やワシの時代で主に金融分野でメキメキ業績を上げ、今や金融業を柱とする巨大グループを創り上げていた。
ワシには妻との間に二人の子供がいた。
長男の一浩と次男の浩二だ。
いずれは、この二人のどちらかが当主となって一条家を継ぐ事になる。
基本的には長男が跡を継ぐ事になるが、困った事に長男の一浩は幼少期から病弱で伏せる事が多く、それが故に人を寄せ付けない様になってしまい当主には向いていなかった。
片や次男の浩二は全くの健康、活発で頭も良く、人当たりも良かったので人望もあった。
それでも家は長男が継ぐものとの声もまだ多く、グループ内は一浩派と浩二派が自然に発生し、不和が生まれつつ合った。
このままではグループが分裂してしまうという危機感を抱いたワシは、とうとう二人を呼び出して、後継者問題に話しをつける事にした。
ーーーーー
「浩二、ワシはお前に一条グループの後継者になって欲しいと思っておる。一浩にはグループ会社の一つを任せたい。異論があるなら聞こう」
「僕は長男である兄さんが、家を継ぐべきだと思います!」
「浩二お前……」
浩二が後継者を一浩にしてくれと言い、一浩はそれを聞いて絶句する。
「浩二よ。なぜじゃ?」
「僕が後継者になれば、必ずまたグループ内に不和が生まれます。少なくない血が流れるでしょう。僕は誰にも不幸になって欲しくないんです」
「じゃが一浩は当主の激務に耐えられないかも知れん!」
「父さん……」
「いえ、今の医療は凄いですよ。兄さんの身体もきっと良くなります。もう当主が身を削って働く時代じゃありませんからね。ある程度の問題なら優秀な部下を付ければ解決するでしょう」
「ふうむ。ワシの命令ならどうじゃ?」
「聞けません」
「どうしてもと言ったら?」
「……その時は家を出ます!」
「ふん! 不愉快じゃ! 勝手にせい!」
「父さん……浩二……」
ーーーーー
一年後
「旦那様! 浩二坊っちゃんの書き置きが!」
「なんだとっ! 寄こせ!」
『父さん、母さん、そして兄さん
僕はこの家を、一条家を出て行きます。
きっと父さんは僕の言う通りにはしてくれないでしょうから。
みんな同じ会社の、グループの仲間なのに派閥同士で争うなんて馬鹿げてる。
僕さえ居なければ、きっとグループはうまく纏まるはずです。
だから大学卒業と同時に家を出る事にしました。
僕の事は探さないで下さい。
探そうとしても僕の特技は〈隠れんぼ〉だから見つかりはしませんけどね。
もし僕に子供が出来た場合、名前だけは連絡する事にします。
兄さんも無理をしない様に身体を労りながら事を進めて下さいね。
父さん、母さんも、お身体を大切にして下さい。
22年間お世話になり、本当にありがとうございました。
浩二』
ワシはその手紙を読んで涙し、深く後悔した。
恐らく浩二の言う通りなんじゃろう。
ワシはなんという愚か者なんじゃ!
こんなに心優しい浩二を、家を出る状況まで追い込んでしまっていたとは……
一条グループを束ねる一条家の総帥じゃ。
一条家は旧財閥の流れを組む家柄で戦後GHQに一度は解体されてしまったが、その後、ワシの父やワシの時代で主に金融分野でメキメキ業績を上げ、今や金融業を柱とする巨大グループを創り上げていた。
ワシには妻との間に二人の子供がいた。
長男の一浩と次男の浩二だ。
いずれは、この二人のどちらかが当主となって一条家を継ぐ事になる。
基本的には長男が跡を継ぐ事になるが、困った事に長男の一浩は幼少期から病弱で伏せる事が多く、それが故に人を寄せ付けない様になってしまい当主には向いていなかった。
片や次男の浩二は全くの健康、活発で頭も良く、人当たりも良かったので人望もあった。
それでも家は長男が継ぐものとの声もまだ多く、グループ内は一浩派と浩二派が自然に発生し、不和が生まれつつ合った。
このままではグループが分裂してしまうという危機感を抱いたワシは、とうとう二人を呼び出して、後継者問題に話しをつける事にした。
ーーーーー
「浩二、ワシはお前に一条グループの後継者になって欲しいと思っておる。一浩にはグループ会社の一つを任せたい。異論があるなら聞こう」
「僕は長男である兄さんが、家を継ぐべきだと思います!」
「浩二お前……」
浩二が後継者を一浩にしてくれと言い、一浩はそれを聞いて絶句する。
「浩二よ。なぜじゃ?」
「僕が後継者になれば、必ずまたグループ内に不和が生まれます。少なくない血が流れるでしょう。僕は誰にも不幸になって欲しくないんです」
「じゃが一浩は当主の激務に耐えられないかも知れん!」
「父さん……」
「いえ、今の医療は凄いですよ。兄さんの身体もきっと良くなります。もう当主が身を削って働く時代じゃありませんからね。ある程度の問題なら優秀な部下を付ければ解決するでしょう」
「ふうむ。ワシの命令ならどうじゃ?」
「聞けません」
「どうしてもと言ったら?」
「……その時は家を出ます!」
「ふん! 不愉快じゃ! 勝手にせい!」
「父さん……浩二……」
ーーーーー
一年後
「旦那様! 浩二坊っちゃんの書き置きが!」
「なんだとっ! 寄こせ!」
『父さん、母さん、そして兄さん
僕はこの家を、一条家を出て行きます。
きっと父さんは僕の言う通りにはしてくれないでしょうから。
みんな同じ会社の、グループの仲間なのに派閥同士で争うなんて馬鹿げてる。
僕さえ居なければ、きっとグループはうまく纏まるはずです。
だから大学卒業と同時に家を出る事にしました。
僕の事は探さないで下さい。
探そうとしても僕の特技は〈隠れんぼ〉だから見つかりはしませんけどね。
もし僕に子供が出来た場合、名前だけは連絡する事にします。
兄さんも無理をしない様に身体を労りながら事を進めて下さいね。
父さん、母さんも、お身体を大切にして下さい。
22年間お世話になり、本当にありがとうございました。
浩二』
ワシはその手紙を読んで涙し、深く後悔した。
恐らく浩二の言う通りなんじゃろう。
ワシはなんという愚か者なんじゃ!
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