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第二八話 この世界の日〇第二みたいな不良更生学校、島内は毒沼に猛毒植物に凶悪な魔物巣食う森でリアルに脱走不可能過ぎてヤバいよヤバいよ(後編)

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 夕暮れ時。哲朗達一行は、学園が立地している離島内の、鬱蒼と茂る森の中に佇むセイッニ学園正門前に降り立った。
「木の形からしてヤバいよヤバいよ。近づいたらグワァッて襲って来て食われそうだよ。ここ完全に魔界だよ」
 異様な雰囲気に圧倒されてしまっていた。
「建物の雰囲気もまさに監獄って感じでかなりヤバそうじゃないっすか」
「皆さん、早く中へ入りましょう! ここに留まってたら大変危険です。外は暗くなるとより獰猛な魔物達が徘徊するそうですから」
そしていよいよ構内へ。
入るや否や、
「皆様、こちらへどうぞ。わたくしが学園長でございます。大人気芸人だという哲朗さんにムマツラさん、こんな絶海の地に来て下さり、誠にありがとうございました」
 いかつい表情屈強な体つきのお爺さんがご登場。穏やかな口調で出迎えてくれた。
「いえいえ、ドラゴン様が運んでくれたので、リアルガチで快適な旅でしたよ」
「まさに、ドラゴン様のおかげでございました」
 哲朗とムマツラさん、このお方のオーラに圧倒されてしまう。
「ムマツラさんに哲朗さん、他取材班の皆様、生徒達の学園生活を余すことなくお見せしますので、明日の早朝三時までに必ずご起床し、講堂へお集り下さい」
「「「「「「「はい、分かりました」」」」」」」
 雰囲気にビビり、哲朗達は真顔で返事。
「生徒達は四時起床ですが、先生達は生徒達の鏡ですから、先んじてやらなければなりませんから」
 学園長は穏やかな表情でおっしゃる。

 こうして、一行は来客用の宿舎内の一室に案内されるのだった。
「寝坊したら絶対ヤバいことになるやつだろ、ヤバいよヤバいよヤバ過ぎるよ」
「一秒でも寝坊したら、リンチ確定っすね」
「なんか外にヤバい形相のでかい蝙蝠が、いらっしゃったんっすけど……」
「おれら、外出た瞬間即魔物達の餌食にされちゃいそうっすね。魔物の鳴き声も聞こえますね」
 窓から見えてしまった光景に、哲朗とムマツラさんは思わず苦笑い。
 ギャァァァス!
 ゴガァァァツ!
 と恐竜らしき呻き声も聞こえてくる。
「窓の横、危険! 開放厳禁って注意書きがありますね」
一行は速やかに布団に入り、眠りつこうとするも、やはり緊張でなかなか寝付けなかったのだった。

      ☆

 翌早朝、二時半頃。
「集合時間までに余裕で間に合いますね」

「魔物までしっぽで箒使って掃除してるよ。新鮮だよ」
 哲朗、魔物に見惚れてしまう。
 すると、
「くぉらあああっ! 哲朗ぉ~!」
 教員からの怒声が。
「すみません、すみません。以後気を付けます」

 教員と魔物達の心行の時間が終わり、
 午前四時。
「「「「「「「起床ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!!」」」」」」」
 今度は上級生達のけたたましい絶叫がこだまする。
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
 直後には生徒達のけたたましい絶叫が。
 ほどなく生徒達が続々と寮内から出て来て、全速力で講堂へと向かっていく。
 男女比は、7対3くらいだろうか?
 種族もより取り見取りだ。
 生徒達の後ろからは、
 ゴガアアアアアッ!
 グゴォォォォォ! 
 何頭かの肉食恐竜が鋭い牙を剝き出しにして、ついて来ていた。
「おまえら、全力で走らんと丸呑みされるぞっ!」
強面な先生の一人が発破を掛ける。
数百名の生徒達全員が講堂に集い終え、
「整列!」 
 生徒の代表者が壇上で叫ぶと、
「「「「「「「「「「「「うおおおおおおおおおおおっ!」」」」」」」」」」」
 その他の生徒達、ぴしっと並ぶ。
 そして、床や窓、マリア像のような銅像を一心不乱に磨いていく。
「生徒達、丸刈りじゃないんすね。その点は日生第二どころか昭和の中学高校より緩いか」
 壇上から眺めていた哲朗は思わず突っ込む。
 生徒達は、掃除のあとは雄たけびを上げながら全力で食堂に移動し、朝食。
私語は慎み、一心不乱に掻っ込んでいく。食べ終えると使った食器類を一心不乱に井戸水で洗い、校舎内へと向かっていく。
 午前八時。普通のギムナジウムと同じように、数学、国語、地歴、科学、哲学、美術などなど教科授業が行われていく。
「予想通りめちゃくちゃ怖そうな先生ばかりでヤバいよヤバいよ。居眠りしたら殺されそうだよ」
「そりゃあ怖い先生じゃないと舐められてしまうでしょうからね。先生方も、教え方にめっちゃ気合入ってますね」
「教師を恐れてか、みんな真面目に授業受けてますね」
 哲朗達一行、各教室を回って視察していくことに。
「こっから出てくるのはなんだぁ!? 接点t!! (a,b)を通るように引いたときのぉ!! 接点t!! だからぁ!! この点とこの点とこの点が出るわけだぁ!! この点は出ねえよぉ~!」
 数学の授業が熱心に行われていた教室を視察したさい、
「三次関数の応用問題かぁ。ハイレベルな授業されてますね。難関大受験にも通用するような。この学校に入ってくるような生徒達にはついていけないじゃ……」
 取材班の一人が呟くと、
「学年ビリだった子達を、国内トップレベルの学力に引き上げる。という教育方針でもありますから。先生方も全力で授業に取り組んでおります。国内最難関のロブ大にも毎年合格者が出てますよ」
 案内係の人は自慢げにおっしゃる。
「へぇ。それは素晴らしい」
 取材班の方も感心していた。
「俺は数学なんて全然分からないけど、この世界の数学は文字も記号の形も俺のいた世界と違うからますます意味不明だよ」
 哲朗は苦笑い。
「数学のノギオ先生は、『魔界への数学』シリーズという難関大志望者向けの学習参考書も出されていて、この学校の生徒以外からの人気も高いですよ」
 案内係の人は加えて伝えた。
「おれだって不良だらけの底辺ギムナジウムから猛勉強して一流大に行けたわけだぁ。ぉーん、だからぁ~、おまえらだって頑張れば絶対一流大へ行ける。親や先生達、ちょっとした進学校へ行った同級生達を見返してやれ!」
 ノギオ先生は、生徒達に向かって熱く語る。
       ☆
「屈強な厳つい先生ばかりかと思いきや、若い頃の金〇先生みたいな感じの方もいらっしゃるんすね」
 ワガデ王国史の授業が行われていた教室前にて、哲朗は突っ込む。 
「このお方は数学や科学は抜群に優れていたが、外国語や社会科やスポーツや音楽、美術は全然ダメで、落第生だった。おまえ達も、何か一つだけでもいい。得意な分野で勉強やり抜け頑張れば、天才的な人となるからな」
 その先生は生徒達に向かって熱く語りかけていた。
 そんな時、
「パンキチ先生、今日もウトカくんとラツマウくんがケンカして暴れてます。なんとかして下さい」
「ま~たあいつらか。あのバカチンがぁ~」
 他のクラスの女子生徒から依頼され、パンキチ先生は、苦い表情で事件現場へと向かっていったのだった。
 次の瞬間、
 代わりの強面教師がご登場。
 生徒達は騒ぐ隙も与えられず。引き続き真面目に授業に取り組んでいく。
「パンキチ先生は優しい先生ですが、厳しい時は厳しいです。生徒にビンタをした回数はこの学園で一番多いそうですよ」
 案内係の人はこう伝える。
 さらに見回っていくと、
「すみません、すみません」
「僕達が悪かったです」
「今なら手を出せんやろ思ったら大間違いやっ!」
 廊下にて、いかにも悪そうな感じの二人の生徒が、いかにも怖そうな教師から土下座させられていた。
「少年、何かヤバいことでもしたのか?」
 哲朗が問いかけると、
「足怪我しとるから今ならちょっかい出しても大丈夫や思ったら松葉づえで殴られてん」
「普通に殴られるよりダメージヤバいわ~」
 二人の少年は土下座したままこう答えた。
「おまえらの根性叩き直したるっ!」
 その教師、松葉づえでさらにどつく。
「やめて下さぁい」
「反省してます」
 涙目な二人の生徒、
「あの、先生、ちょっとやり過ぎなんじゃ……」
 哲朗は助言するも、
「こいつらの指導には、これでもまだ足りんくらいなんじゃっ!」
 そうおっしゃり、引き続きどつき続ける。
 ヤバいよヤバいよ。俺のいた世界で今の時代にやったら大問題だよ。
 哲朗達、その教師の威圧感にビビりながら通りすぎていった。
 調理実習室では、家庭科の授業が行われているようで、
「食材の調達が間に合いませんでした? ふざけんなっ!」
 担当教師からの怒声がこだまする。
「すみません」
 謝る生徒、しかし教師の怒りは収まらず、
「すまんで済むか、アホ。すまんですまん。んなもんっ! 何をさぼってんねん、七日間も。あいつの弱点は火ぃや。今日火ぃ付けて捕まえて来いっ!」
「ですが、巣の近くにアンピプテラが縄張りを張ってしまって、近づけなくて……」
 別の生徒が言い訳すると、
「そいつの弱点も同じく火ぃや。そいつに火ぃ付けて縄張りから立ち退きさせて来い。おまえらで」
教師の怒りはますます上昇。
       ☆
「調理実習の食材調達に危険な魔物を狩らせに行かせるなんて、この学校の家庭科ヤバ過ぎだよ」
 哲朗は苦笑いで呟く。
「あの先生は、漁師一家の生まれで口調は荒っぽいですが、ロブ大教育学部をご卒業されてるエリートんなんです」
 案内係の人はにこやかな表情で説明する。
「俺はこの世界に来てから、講演依頼でいろんな学校回って来ましたが、この学校の先生達は個性的で一生忘れられないインパクトのある先生が特に多いっすね。昭和時代に日本の学校でよく見られた光景みたいで、懐かしさも感じちゃいましたよ」
 哲朗達一同が引き続き廊下を歩き進んでいると、一人の少年と、母親と思わしき方が歩いている姿が見受けられた。
「少年、なんかいきいきとした表情してるな。嬉しいことでもあったのか?」
 哲朗が問いかけると、
「この学校、あまりに厳し過ぎるんで、ぼく、自主退学することにしたんです。月に一回、面会日で親が一度会いに来るんです。そのときに、森の敷地内で親と自由な時間があるんですね。そこで、ケーキを手渡しでもらうんですけど、持ち込めずに処分せなアカンので、山の陰で食べて使って、少し残して付近の魔物を手懐けて、逃げさせてくれるようにお願いして見事、脱走が上手くいきまして、実家に帰ったあと退学しますとお手紙で伝えたら、学園側から手続きが必要やから、一度学校に来て下さいとお手紙が届いて、今日来たわけでして。やっとやめれるんです」
 少年は満面の笑みを浮かべてこう伝えた。
「それはよかったじゃないっすか、少年」
 哲朗は爽やかな笑顔で称賛する。
「はい、ぼくはとても幸せな気分です。こんな隔絶された天外魔境な世界から解放されますからね」
 少年は希望に満ち溢れたいきいきとした表情で、母親といっしょに意気揚々と学園長室へと入っていった。
 その矢先、
 パシーンッ! パシーンッ! パシーンッ!
 と乾いた音が。
「これは、ヤバいことになってそうな……」
 哲朗と、ムマツラさんらは外からこっそり観察。

「お母さん。これからこの子が学校を続けるって言うまで僕はこの子を殴ります」
 そうおっしゃり、いかつい表情の学園長は、少年を杖で何度も何度も容赦なく全力でぶん殴り続ける。
 五、六発食らわした頃だろうか、
「……続けます」
 その子が涙目で、こう呟いてしまった。
 退学失敗である。

「やめるつもりやったのにぃ~」
「ごめんねダマイちゃん、ママ、力になれなくて」
 少年は、入室時とは打って変わって、絶望に打ちひしがれた表情で、母と別れて教室へと向かっていくのであった。
「やっぱそうなっちゃいましたね。この学校、一度入学したら最後、退学は絶対不可能って言われてますからね。辞めたいなんて口にしたら学園長や先生、上級生達から集団リンチに遭いますし。でも、凶暴な魔物を手懐けてまで脱走を成功されたんっすから、あの少年、将来きっと大物になれますよ」
「俺もそう思いますよ。頑張れよ、少年」
 ムマツラさんと哲朗は、温かい目で見送ったのだった。
 一行が校内視察を終えると、
「哲朗さん、これから講堂で生徒達に自慢の芸を披露してやって下さい」
 学園長からこんな依頼が。
「はいっ! 全力で、やらせて、いただきます」
 哲朗、かなり緊張気味に承諾。
 
 放課後、講堂に全校生徒と先生方、魔物も数匹が勢ぞろい。
 舞台上には、風呂桶が用意されていた。
「皆の者、これから、哲朗さんという日本という謎の国からやって来た芸人さんが、芸を披露して下さる。瞬きせずに全力で観覧せよ」
 学園長からの紹介後、
「こんなに人が集まって来るなんてヤバいよヤバいよ。セイッニ学園の皆さん、こんにちはーっ!」
 哲朗が大きな声でご挨拶すると、
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「こんにちはーっ!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
 哲朗に負けないくらい大きな声で、生徒達から返事が来た。
「あの、皆さん。この学校、外部から隔絶された環境みたいですが、俺のこと、知ってる人ってどれくらいいますか?」
 哲朗が問いかけると、半数くらいの生徒達が手を挙げてくれた。
「噂で聞いたことがある」
「親との面会日に知りました」
「ヤバいよヤバいよが口癖の人でしょ」
「実在したのかよ!」
 生徒達から伝えられる。.
「そうで、ございましたか。では、今から皆さんに、俺の自慢の芸をお見せいたします」
 そう言って哲朗はパンツ一枚姿になった。
「じゃあ、入りまーす。押すなよ、押すなよ、“絶対に”押すなよ」
 そして前かがみになり湯面をじーっと眺めながらそう命じると、
「やぁっ!」
 学園長に腰の辺りをドンッと全力で押されてしまった。
「うぉわぁっと!」
 哲朗は顔面から湯船へドボォォン! とダイブ。
「あっ、ちちちちちっ! ヤバいよヤバいよ」
 そしてすぐに湯船から反射的に勢いよく飛び出す。
「こりゃぁ凄いリアクション芸じゃ」
 学園長はホッホッホと笑う。
 アハハハハハッ!
 生徒達のみならず先生方まで大爆笑!
 魔物達も笑ってくれているような気がした。
 パチパチパチパチッと拍手喝采も。
「今日は魔物さんも観覧して下さっているということで、いっしょに芸を楽しみたいと思います」
 そのあと哲朗は、危険な魔物にも躊躇いなく突っ込んでいく。
 グガァァァツ!
 そして吹っ飛ばされ一回転。
 アハハハハハッ!
 またしても笑いが。
 大好評のようだ。
「おれだってやりますよ」
 ムマツラさんも、負けじとパンツ一丁になり魔物に向かってダイブ。
 そして豪快に吹っ飛ばされる。
 アハハハハハハハッ!
「さっすがムマツラ」
 こちらも大好評のようだ。

 講演後、
 生徒達は講堂から退出する際、
 うおおおおおおおおおおおっ!
 と雄たけびを上げながら、一斉に走り出す。
 これからマラソンの時間だそうだ。
「外かなり雨降ってますけど」
 哲朗はこう突っ込むも、
「天気など関係ない」
 学園長は険しい表情でおっしゃる。
「日生第二に負けず劣らずのスパルタっぷりっすね。脱走難易度は日生を遥かに上回っておりますが」
「哲朗さん達ご一行様、今夜生徒達の寮での生活をご覧下さいませ」
 というわけで、その日の夜、哲朗達一行は、学生寮を案内してもらうことに。

 廊下を歩いていると、
「やんのか、おらぁ!」
「オレに勝てると思ってんのか。オレは暴竜族の総長やってんぞ」
 とある部屋から、罵声が聞こえてくる。
「ここでは喧嘩は日常茶飯事です。生徒達の争いごとを制圧するのが、わたくし達教師の使命です」
 案内係の人は苦笑いでおっしゃる。
 数学のノギオ先生が制圧されている、大柄な生徒の姿も。
「おまえこの学園で一番強いからってぇ、どんな奴にでも勝てるとか思うな。所詮、セイッニ学園という小さな箱庭の中でしかぁ、通用しないちっぽけな強さに過ぎないんだ。ぉーん」
「すっ、すみません。調子に乗り過ぎました」
 生徒、涙目で苦しそうに謝罪。
 どこかでガラスが割れる音も。
 それからほどなく、
「誰やさっき窓ガラス割ったんは?」
 家庭科の先生の大声で問い詰める声が。
「知らねえよ」
「勝手に割れちゃったぁ~。キャハハハッ」
 白を切る女子寮生達に、家庭科の先生はますます激高。
「窓ガラスの修理代、損害賠償を個人で負え! おまえらが金積め。おまえら1人ずつ1千ララシャ出せ。ガラスが割れるってどういうことが分かってんのか? 危険な魔物に侵入されんねんぞ。生徒達の命の危険があるねん。窓ガラスでしっかりと守ることがこの寮の安全対策でしょうが」
 その部屋の寮生達に厳しく叱責していた。
「うぜー」
「恫喝だよ。こっわぁ~い」
 けれども生徒達には効いていない様子だ。
 他の場所では、
「きゃあっ!」
 若い女性教師の悲鳴が。
 男子生徒からスカートを捲られたのだ。
「うぇ~い。白だ」
「おれ紫だと思ったんだけどな」
「おまえ五百ララシャ払えよ」
「ま~たおまえらか。このバカチンがぁっ!」
 そう言ってパンキチ先生は、男子生徒二人にビンタする。
 
「ヤバ過ぎるよ、この寮。教師達もかなりご苦労されてますね」
「いえいえ。慣れっこですので」
 哲朗達、憐憫の眼差しで視察。
「哲朗さんだぁ! ヤバいよヤバいよ」
「哲朗さん、サイン下さい!」
「おれ、この学園卒業したら芸人目指します。哲朗さんのような面白いリアクション芸人になりたいです」
 哲朗のもとへ近寄ってくる子達も、
「頑張れよ、少年少女」
 哲朗は快く応じてあげる。
「哲朗さんも、これからも頑張って下さい」
 眼鏡をかけた少年から声を掛けられ、
「この学園、不良だけじゃなくめちゃくちゃ真面目そうな少年もいるんだな。エリート校に行けたんじゃないっすか」
 哲朗はやや驚く。
「僕は自ら志願してこの学園に入学しました。勉強に専念出来る環境が国内最高クラスに整っているので」
「偉いぞ少年、でもこの学園じゃさすがにきつ過ぎないか?」
「僕や僕以外の特待生入学の子達は、早朝の心行など厳しい訓練が一部免除されているので、問題なく充実した学園生活を送れてますよ」
「そんな枠もあったんすね」
「オレは暴竜族のメンバーで、街の住民の皆さんにいろいろ迷惑かけまくったとんでもない悪でバカだったけど、この学園で彼と素晴らしい先生方と出会ったおかげで、難関大にも合格出来るくらいの学力を身に着けることが出来ました」
 別の少年が楽し気に伝える。
「それは入学して良かったっすね。立派に更生出来てるじゃないっすか♪」
 哲朗も嬉しがる。
 そんな中、
「おらっ、ムマツラ。この間おれの親友にちょっかいかけただろ。雑誌で見たぞ」
「調子乗んなっ!」
「それはね、きみたちをちゃんと更生させてあげようとしたんだよ」
 あまり更生は出来ていないような生徒達に、ムマツラさんはボコられてしまっていた。

 ともあれ、学生寮の視察を終えた哲朗達一行は、来客用の宿舎に向かい、二泊目の夜を過ごすのだった。
 
 そして翌朝、昨日と同じように心行、授業視察を行いお昼前。
「哲朗さんにムマツラさん、取材班の皆様。わが校の教育方法をぜひとも参考にして、ロブウトツネなどにたむろする不良達へ、入学をおススメ下さい。立派に更生させてみせます。もちろん品行方正な真面目な子でも大歓迎ですよ」
 学園長からにこやかな表情でそうおっしゃられ、
「「「「「はい、分かりました」」」」」
 哲朗達、ビビり気味に大きな声で返事。
 こうして無事、一同はセイッニ学園をあとにすることが出来たのであった。

 送迎用の屈強なドラゴンを待っている時、
「初めて羽ばたこうとする時、恐怖心に負けてぇ、すぐに地面に足を置いちゃうんだよね。ダメだよぉー。怖がってちゃ。有翼振り切ってこうだ! ぉーん」 
 翼を広げて天空へ初飛行を試みるひな鳥を見守る、ノギオ先生の心優しい姿が哲朗一行を和ませた。

乗り換え地点のヤアマオではちょうど今、魚市場で競りが行われていて、
「あいつ十万ララシャなんか付けやがって。次の鮮魚で落としたるっ!」
 一番欲しかった巨大魚で競り負け、怒りの表情で悔しそうにする家庭科の先生の姿も見受けられた。
 セイッニ学園の教師達は島の外へ外出厳禁な生徒達とは違い、出入り自由なため、普段はこの町やその近辺の町に住んでいらっしゃる方も多いのだとか。
 万が一脱走者が出た場合、より遠くの町へ逃がさないよう監視する意味合いもあるらしい。
哲朗達一行はヤアマオで普通の長距離用ドラゴンに乗り換え、途中夕食を食べるために降り立った街の城の近くで、ワガタさん達の姿を発見した。
「哲朗さん達、あの地獄からご無事で帰還されて何よりです。ちょうどいいタイミングですね。両チームともゴールして、今から旗を数えるとこなんですよ」
 ワガタさんは上機嫌で伝える。
 そして相手チームのリーダーと向かい合い、
「「せーのっ。どん」」
 一本目!
 両チームとも、集めた旗を取り出す。
 スビエさんデザインのイラストが描かれれていた。
 二本目、三本目、四本目、五本目、六本目も両チームとも取り出し、
 七本目、
「「せーのっ。どん」」
 またしても両チームとも取り出して、決着つかず。
「「せーのっ。どん」」
 八本目。
 ワガタさんチーム、取り出す。
 しかし相手チーム、
「あーっ、もう無いよ」
 出すふりをしただけ。これにて決着。
「ぃえーい。勝った勝ったぁ!」
 ワガタさん、子どものように無邪気な表情で大喜び。
「ワガタさんチーム、見事四連勝!」
 アナウンサーの人がそう叫ぶと、
「「「「「「「おおおおおおおっ!」」」」」」」
「さすが馬車旅名人、ワガタ!」
 パチパチパチパチパチッ!
 周りにいた観客達から拍手喝采。
「ワガタさんチームばかり勝利してもつまらないので、次からはスビエさん以外のもう一人も足を引っ張るメンバーにしないと」
 企画した人はにやけ顔で企むも、
「どうぞどうぞ」
 ワガタさんは余裕なようだ。

「楽しいものを見せてもらいました」
 これにてワガタさん達と別れを告げて、哲朗達一行が付近のレストランで夕食中、
「あっ、哲朗とムマツラだぁっ! 何の取材で来てるの?」
 聞き慣れた声が。
「この声は、クシフくん。久し振りだな」
 哲朗は朗らかな表情でご対応。
「今夜からこの街でパパのルクヤトの試合があるんだ。応援しに来いよ」
「セイッニ学園の取材をしに行った帰りなんだよ。クシフ君、いい子にならないとパパにセイッニ学園に放り込まれちゃうぞ」
 ムマツラさんがにやけ顔で脅すも、
「パパがそんな地獄の学校にボクを入れるわけないじゃん♪」
 クシフ君は余裕の笑みで、パパの所へと向かっていった。

 クシフ君とも別れを告げて、哲朗達一行は、ロブウトツネへ。

「噂通りとんでもなく恐ろしくてヤバい学校ではありましたけど、教師はガチで優秀な方が多かったっすよ。食事も最高でした。高級レストランに引けを取らないくらい美味くて。家庭科の先生が暴言発言も日常茶飯事なめちゃくちゃ怖い先生なんですけど、とても生徒思いなお方でして、生徒達の栄養バランスを考えて監修されているようでして、実際薬物やたばこ、飲酒やりまくって不健康な状態で入学して来た子達も、健康を取り戻して元気になられたみたいでして」
「哲朗ちゃん、予想に反して楽しめたようね」
「良い一面もあるみたいだけど、わたしはあんな学校絶対入りたくないなぁ」
 帰宅後、哲朗は満足げに体験談を語ったのであった。

 後日、セイッニ学園についての取材記事は、多くの新聞や雑誌に掲載された。
噂通りの体罰ありのとてつもなく厳しい学校ではあるが、教師の質は非常に高いということで、不良以外の子でも入学したいと思うようになった子もいたのだとか。
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