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第二八話 この世界の日〇第二みたいな不良更生学校、島内は毒沼に猛毒植物に凶悪な魔物巣食う森でリアルに脱走不可能過ぎてヤバいよヤバいよ(前編)
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その日の夕方、勇ましい学校のリーダーズのメンバー達が、コリル宅を訪れて来てしまった。
「哲朗さん、いるんでしょ?」
「ちょっとお話したいことがあるんだけどぉ~」
「哲朗おじさんは、今留守にしてます」
「分かってる。居留守でしょ? さっきこの家に帰っていくの見たんだよねぇ~」
「……」
コリル、眼鏡をかけた一番背の高い子に威圧され縮こまってしまう。
そして、
「はい、はい。何でございましょうか?」
哲朗、やや緊張気味に対応。
「あなた、うちの学校のみならず、ロブウトツネ市内のいろんな学校に呼ばれて、下品な芸のお披露目会を行ってるそうね」
「はい、確かに」
「あれ、今後は一切禁止です! 子ども達の健全な育成に悪影響を及ぼしますからね。学校にも哲朗さん他、芸人を呼ばないように通達しました」
「そうでございましたか」
「では、うちら勇ましい学校のリーダーズのことを、お見知りおきを」
勇ましい学校のリーダーズのリーダーの子は、そう伝えてコリル宅をあとにしたのだった。
「リアルガチに勇ましい感じっすね。あんなのに脅されたら普通の人は委縮しちゃいますよ。将来あの会のヤバいおば様方になっちゃうこと確定的な」
哲朗は苦笑いで第一印象を述べる。
☆
次の休日のお昼頃、哲朗はムマツラさんとロブウトツネ中心地の行きつけの喫茶店で駄弁っていた。
「ムマツラさん、あの勇ましい学校のリーダーズの子達の権力がさらに強くなってしまったら、俺らの芸人活動もヤバいことになっちゃいそうっすね」
「そうっすね。絶対敵に回しちゃいけない存在っすね。ただ、あの子達や、子どもを健全に育成する会のおば様達だって、アイドル系の芸人は大好きって方も多いんっすよ。イベント会場でめっちゃ楽しんでるの見ましたし。あの子達や、子どもを健全に育成する会のおば様方からすると、歌を歌ったり、ダンスしたり、演劇に出てるようなアイドル系の芸人は、芸人のうちに入らないみたいっすよ。おれらみたいな下品な芸で笑いを取るようなタイプの芸人を嫌ってるみたいっすね」
「そうでしたか」
「ただ、自分の娘や息子がアイドル目指そうとすると、烈火のごとくお怒りになられて猛反対しますけどね。好きなのとなるのは全然違うって」
「俺にもその親御さんのお気持ちは、よく分かりますよ」
喫茶店を出た二人、付近の広場では、人気男性アイドルグループのイベントが行われていた。
「「「「「「「バイアくぅぅぅ~ん」」」」」」」
女性の観客達からの声援が飛ぶ。特にこの名前の人気が高いようだ。
「いるじゃないっすか! 勇ましい学校のリーダーズの子達、めっちゃ踊って楽しんでますね」
哲朗は朗らかな表情でその様子を観察する。
「股を広げて座って、はしたないっすね」
ムマツラさんも微笑ましく眺める。
そのアイドルグループが歌やダンスを披露したあとは、握手会も始まった。
勇ましい学校のリーダーズの子達は、意気揚々とその列に並ぶ。
握手してもらったあと、
「バイアくんに生で出会えてめっちゃ嬉しいです。こんな素晴らしい体験をさせていただけるなんて。ほんとに胸がいっぱいいっぱいおっぱいです」
一番背の高い眼鏡の子がこんなことを言い、
「アハッ。どうも、ありがとう」
バイアくん、ちょっぴり焦り気味に苦笑い。
同じ頃、コリル宅では、事件が――。
「コスヤちゃん、これはいったいどういうことなの!?」
コスヤさんが、子どもを健全に育成する会のおば様達に囲まれて厳しく叱責されていたのだ。側には警察官の姿も。
「コリルちゃん、ママがオーディションに応募してたこと、知ってた?」
「いいえ。知りませんでした」
コリル、怯え気味に正直に答える。
「娘をアイドルなんかにさせようとするなんて、しかも内緒でオーディションに応募するなんて、児童虐待よ」
「あの、コリルが、アイドルとして活躍する姿が見たくて……」
コスヤさんは苦笑いを浮かべて、申し訳なさそうに言い訳する。
「あの、みんな、ママを責めないで下さい」
コリルは今にも泣き出しそうな表情で訴える。
「アイドルの世界はね、とっても恐ろしくて危険で汚い所なのよ。ファンだとか言って変なおじさんに付きまとわれたり、ムマツラみたいな気味の悪い芸人やダリーカオジィみたいな気味の悪い魔物に罰ゲームでキスさせられたり、思春期の女の子達に嫌ぁな思いもいっぱいさせられるのよ」
「それは、まあ、知ってますけど……」
「だったらより一層虐待よ、虐待!」
「こんな危ない世界にかわいいコリルちゃんを飛び込ませようとするなんて、親失格よ!」
「……」
コスヤさん、きまり悪そうに目をそらしてしまう。
「ママには悪気は全くありません。わたしを喜ばせようとしたサプライズなんです。お巡りさん、ママを逮捕しないで下さい。ママにまで逮捕歴が出来るのは絶対嫌です。お願いします!」
コリル、涙目で懇願。
「あの、健全育成会のおば様方達、親が無断で子どものアイドルオーディションに応募する行為というのは、法律違反とまではなりませんので、逮捕は出来ないので、だから、コリルちゃんも安心してね」
お巡りさんも苦笑い。
「ありがとうございますぅ」
コリルはホッとして、顔に笑みが浮かぶ。
「警察官も使えないわね」
健全育成会のおば様達は、超不満げ。
これにて無事、コスヤさんは、子どもを健全に育成する会のおば様方から厳重注意を受けたのみで、許されることになったのだった。
お帰りになられたあと、
「ママ、わたしはすごく嬉しかったよ」
「ありがとうコリル、喜んでもらえて嬉しいわ。コリルを愛してるからこそ、活躍させたくて応募したのに、虐待だなんてあの人達の主張はずれてるわ」
こんな会話が交わされたのであった。
「健全育成会のおば様達、大げさ過ぎですね。俺のいた世界のアイドルも、そういう話よく聞きますよ」
帰宅後にこの件を聞かれされた哲朗は、爽やか笑顔でこう突っ込んでおいたのだった。
☆
翌日、哲朗とムマツラさんはロブウトツネ中心地行きつけの喫茶店で駄弁っていた。
「アイドルオーディションに親が勝手に応募で児童虐待とは、滑稽な話っすね。むしろサプライズプレゼントで良い話じゃないですか。今活躍中のアイドルも、お母さんが勝手に応募してて気づいたらデビューしてたっていう子もけっこういますよ。児童虐待っていうのは、我が子をセイッニ学園とかの超スパルタ不良更生学校に送り込もうとする親っすね」
「セイッニ学園ってヤバそうな学校があるんすか?」
「ワガデ王国の西の方に、手に付けられないようなとんでもない不良を更生させる目的で建てられた学校なんっすよ。ロブウトツネの繁華街や公園に集うような不良は、まだ大人しい方っすね。ちょっとした不良の子達なら良い子にしてないとセイッニへ放り込むよって言うと一発で大人しくなっちゃうような。ワガデ王国一厳しい学校と言われてます」
「俺のいた世界にもその昔、筋金入りの不良を更生させるための日生学園第二高等学校っていうのがあって、そこがまた今じゃ考えられないくらいのとんでもないスパルタ式の超厳しい学校でして。早朝から絶叫しながら雑巾がけさせられたり、ランニングさせられたり、トイレを素手で洗わされたり、そうしないと先生からぶん殴られるもんですから。さらに寮生活もめちゃくちゃ厳しかったそうで。俺のいた世界の芸能界じゃ今ちゃんとか、浜ちゃんとかが卒業生なんすけど、その方達から思い出話何度か聞かされましたよ。俺の母校の武相高校も当時かなり厳しかったんですけど、そこほどじゃなかったっすね。日生第二も今は学校名も変わって、だいぶ緩やかになったみたいですけどね」
「そうなんっすか。哲朗さんの世界にも同じようなのが過去にあったんすね。不良更生シリーズやっていくうちにぜひうちの教育方法を参考にして下さいとセイッニ学園側からご依頼がありまして、これから取材しに行くんっすが、哲朗さんもぜひ、同行してくれませんか?」
「この依頼については、正直気が乗らないんっけど、まあ、同行しますよ。この世界の不良更生学校がどんな学校なのか気になりますし」
哲朗は苦笑いを浮かべて、若干いやいやながらも承諾。
そして翌朝。
「哲朗ちゃん、今までで一番過酷な取材になると思うけど、健闘を祈るわ」
「無事帰って来て、体験談聞かせてね」
「任せて下さい。昔の元いた世界のオーストラリアのゲイバーのロケよりはマシだと思いますんで。それじゃ行って来まーす」
哲朗とムマツラさん他取材班はコスヤさんとコリルに見送られ、長距離用のドラゴンでロブウトツネを出発。
途中、昼食休憩を挟みつつ、七時間ほどの長旅を経て、
「ここで乗り換えです。ここはヤアマオという、学園最寄りの町です。最寄りとはいっても、ここからまだ海を越えて数十キロ。結構かかりますよ。ここから先は学園が手配した特別に鍛えられた魔物じゃないと、通過するのは無理だそうです」
取材班の一人から伝えられる。
哲朗とムマツラさん他取材班達一行が降り立ったのは、風光明媚な田舎の港町。
「雰囲気で分かりますよ、これは。海ヤバいくらいめっちゃ荒れてるじゃないですか」
「馬車水没クイズも、ここまで荒れてたらさすがに無理っすね」
哲朗とムマツラさんは楽し気に眺める。
「この辺りの海は、ほぼ年中荒れ狂ってるので、ここでの漁は漁師が船に乗って行うのでなく、手懐けられた魔物が担っておりますよ」
取材班の一人が伝えた矢先、ドラゴン系の魔物が巨大な魚が多数入った網を爪に引っ掛けて、市場の方へ向かって飛んでいく様子が見受けられた。
「新鮮な光景っすね。確かに漁船一隻も見かけないっすね」
「ヤアマオ産の魚介類は、荒波に揉まれて身が引き締まってめっちゃ美味いんっすよ。まだ早いですが、夕食食べに行きましょう」
ムマツラさんは誘う。
そんなわけで、付近の観光客にも人気なレストランへ。
名物の海鮮料理セットを注文した。
「確かに、ロブウトツネ産の魚より美味いっすね♪」
哲朗はご満悦。
「この町の住民、学園から脱走して来た子達に助けを求められることもあるようです。ただ最近は警備がかなり厳重になってしまい、脱走すらも不可能になってるみたいですが」
そんな話も取材班から伝えられた。
一行が夕食を食べ終え、哲朗が出口へ向かっていく途中、顔見知りの芸人を見つけ、近寄っていく。
「あっ、太川さん、じゃないや、ワガタさんに、スビエさんも。馬車ドラゴンの乗り継ぎ対決旅のロケっすか?」
「その通りです。今回のシリーズは対戦相手も共に馬車もドラゴンも両方利用可能な陣取り合戦ですが。どちらも捕まらなくて長距離歩く羽目になることもよくあるんですよ。今、一日目で三番目のチェックポイントです。このレストランの人気メニュー十傑、二番目に高い料理を完食せよというミッションに挑んでる最中なんですよ。間違えたらその料理も完食しなきゃならないんで、けっこうきついですね。今四品目目でけっこうおなか一杯になって来てしまって。次こそ当てないと」
ワガタさんは苦笑いで伝える。
そんな時、哲朗の元いた世界でいう九官鳥のような小鳥が店内に入って来て、
「ヤアマオサンノゼッケイ、ドクソウバタケノイラストヲビョウシャセヨ、ジントラレマシタヨ」
と人語で伝えてくる。
「あっちゃぁ~。その場所取られちゃいましたか。漫画家のスビエさんという強い味方がいるから狙ってたんだけどね。向こうのチーム絵が上手い人いないと思うんだけど合格させちゃったかぁ」
ワガタさん、苦い表情で嘆く。
「相手チームの状況、俺のいた世界のローカル路線バス乗り継ぎ旅陣取り合戦だとスマホの通知機能で伝えられるんっすが、こういうやり方もあるんっすね」
哲朗は感心する。
「ちなみにオレの声で覚えさせてます。オレの声に似てるでしょ?」
スビエさんは自慢げに言う。
その小鳥は、ワガタさん達が今挑戦中のミッションの行方を見守る。
「アー。ケイバヤリテェ」
こんな言葉も呟きながら。
「スビエさん、この子に変な言葉覚えさせないで下さいね」
もう一人の女性参加者からやんわりと注意されてしまう。
「ところで、哲朗さん達がこの町にいるってことは、ひょっとして、あの学園の取材ですか?」
「その通りです、ワガタさん」
「うっわぁ~。そりゃ過酷だ。哲朗さん達がこれから向かう場所の取材に比べたら、我々のロケがきついだなんて言ってられませんね」
ワガタさん、憐れむような表情を浮かべて苦笑い。
「そんなヤバい場所なんっすね」
哲朗も苦笑い。
ワガタさん達と別れた哲朗達一行は、
「あの学園の誘致、わたしは最初は大反対だったんだけど、実態を知ってからあの学園の子達が可哀そうに思えて来たよ。あれはやり過ぎだなって」
「おらも脱走して来た子にお菓子をあげたことあるよ」
「不良だけじゃなく、案外普通の子もいるんだよ」
地元住民からそんな話などを聞かされたりしたのち、海の傍で少し待っていると、赤色で筋骨隆々な大型ドラゴンが彼らの傍に降り立った。
「この世界に来てから見たドラゴンの中でも、別格の最強って風格してますね。しかも頭に鉢巻巻いてるよ」
哲朗は感心気味に眺める。
「全力って書かれたやつっすね。あの学校、全力が三度のメシより好きみたいでして、生徒のみならず先生や学園で飼われてる魔物にも常に全力が求められるみたいなんっすよ」
ムマツラさんから聞かされる。
「全力が校風って、日生ともそっくりじゃないっすか。俺のいた世界では、魔物には全力は求められていませんでしたけど」
「皆さん、乗ったら全力で捕まってて下さいね」
一行はこの国の文字でそう書かれた鉢巻を締めた筋骨隆々な大型ドラゴンに乗り、海を渡って学園へと向かっていった。
一方、無事ミッションを成功させたワガタさん一行。
「昔この町に来た時は、この近くにカジノがあったんだけどな」
スビエさんの残念そうな呟きに、
「セイッニ学園から脱走した子達が、この町の住民の家に玄関扉をノコギリで切って押し入ってお金を奪って、カジノで豪遊されてしまったことから、治安を守るために数年前に閉鎖されたんですよ」
同行スタッフはこう伝えておいた。
「だから不良は嫌いなんだよな」
スビエさんは学生時代の嫌な思い出が脳裏に浮かび、不満げに呟くのだった。
☆
「雲もヤバいし、海大荒れだし、ヤバいよヤバいよ」
「常に荒れてるこの海域にある離島は、立地に絶好の場所だと学園長のお気に入りのようですよ。海も全力で荒れ狂ってくれているからと」
「そりゃぁ逃げられないですもんね」
「学園の周りは森になっておりまして、極級の獰猛な魔物が棲息し、猛毒植物地帯と毒沼にも囲まれた場所に立地しております」
「周りが荒れる海ってだけでヤバいのに、島の中も毒沼に猛毒植物地帯に、獰猛な魔物って、ますますリアルに逃げられない環境じゃないっすか。日生学園もびっくりの地獄っぷりっすね」
哲朗達、いよいよ学園本部へ。彼らの運命やいかに? 後編へ、続く。
「哲朗さん、いるんでしょ?」
「ちょっとお話したいことがあるんだけどぉ~」
「哲朗おじさんは、今留守にしてます」
「分かってる。居留守でしょ? さっきこの家に帰っていくの見たんだよねぇ~」
「……」
コリル、眼鏡をかけた一番背の高い子に威圧され縮こまってしまう。
そして、
「はい、はい。何でございましょうか?」
哲朗、やや緊張気味に対応。
「あなた、うちの学校のみならず、ロブウトツネ市内のいろんな学校に呼ばれて、下品な芸のお披露目会を行ってるそうね」
「はい、確かに」
「あれ、今後は一切禁止です! 子ども達の健全な育成に悪影響を及ぼしますからね。学校にも哲朗さん他、芸人を呼ばないように通達しました」
「そうでございましたか」
「では、うちら勇ましい学校のリーダーズのことを、お見知りおきを」
勇ましい学校のリーダーズのリーダーの子は、そう伝えてコリル宅をあとにしたのだった。
「リアルガチに勇ましい感じっすね。あんなのに脅されたら普通の人は委縮しちゃいますよ。将来あの会のヤバいおば様方になっちゃうこと確定的な」
哲朗は苦笑いで第一印象を述べる。
☆
次の休日のお昼頃、哲朗はムマツラさんとロブウトツネ中心地の行きつけの喫茶店で駄弁っていた。
「ムマツラさん、あの勇ましい学校のリーダーズの子達の権力がさらに強くなってしまったら、俺らの芸人活動もヤバいことになっちゃいそうっすね」
「そうっすね。絶対敵に回しちゃいけない存在っすね。ただ、あの子達や、子どもを健全に育成する会のおば様達だって、アイドル系の芸人は大好きって方も多いんっすよ。イベント会場でめっちゃ楽しんでるの見ましたし。あの子達や、子どもを健全に育成する会のおば様方からすると、歌を歌ったり、ダンスしたり、演劇に出てるようなアイドル系の芸人は、芸人のうちに入らないみたいっすよ。おれらみたいな下品な芸で笑いを取るようなタイプの芸人を嫌ってるみたいっすね」
「そうでしたか」
「ただ、自分の娘や息子がアイドル目指そうとすると、烈火のごとくお怒りになられて猛反対しますけどね。好きなのとなるのは全然違うって」
「俺にもその親御さんのお気持ちは、よく分かりますよ」
喫茶店を出た二人、付近の広場では、人気男性アイドルグループのイベントが行われていた。
「「「「「「「バイアくぅぅぅ~ん」」」」」」」
女性の観客達からの声援が飛ぶ。特にこの名前の人気が高いようだ。
「いるじゃないっすか! 勇ましい学校のリーダーズの子達、めっちゃ踊って楽しんでますね」
哲朗は朗らかな表情でその様子を観察する。
「股を広げて座って、はしたないっすね」
ムマツラさんも微笑ましく眺める。
そのアイドルグループが歌やダンスを披露したあとは、握手会も始まった。
勇ましい学校のリーダーズの子達は、意気揚々とその列に並ぶ。
握手してもらったあと、
「バイアくんに生で出会えてめっちゃ嬉しいです。こんな素晴らしい体験をさせていただけるなんて。ほんとに胸がいっぱいいっぱいおっぱいです」
一番背の高い眼鏡の子がこんなことを言い、
「アハッ。どうも、ありがとう」
バイアくん、ちょっぴり焦り気味に苦笑い。
同じ頃、コリル宅では、事件が――。
「コスヤちゃん、これはいったいどういうことなの!?」
コスヤさんが、子どもを健全に育成する会のおば様達に囲まれて厳しく叱責されていたのだ。側には警察官の姿も。
「コリルちゃん、ママがオーディションに応募してたこと、知ってた?」
「いいえ。知りませんでした」
コリル、怯え気味に正直に答える。
「娘をアイドルなんかにさせようとするなんて、しかも内緒でオーディションに応募するなんて、児童虐待よ」
「あの、コリルが、アイドルとして活躍する姿が見たくて……」
コスヤさんは苦笑いを浮かべて、申し訳なさそうに言い訳する。
「あの、みんな、ママを責めないで下さい」
コリルは今にも泣き出しそうな表情で訴える。
「アイドルの世界はね、とっても恐ろしくて危険で汚い所なのよ。ファンだとか言って変なおじさんに付きまとわれたり、ムマツラみたいな気味の悪い芸人やダリーカオジィみたいな気味の悪い魔物に罰ゲームでキスさせられたり、思春期の女の子達に嫌ぁな思いもいっぱいさせられるのよ」
「それは、まあ、知ってますけど……」
「だったらより一層虐待よ、虐待!」
「こんな危ない世界にかわいいコリルちゃんを飛び込ませようとするなんて、親失格よ!」
「……」
コスヤさん、きまり悪そうに目をそらしてしまう。
「ママには悪気は全くありません。わたしを喜ばせようとしたサプライズなんです。お巡りさん、ママを逮捕しないで下さい。ママにまで逮捕歴が出来るのは絶対嫌です。お願いします!」
コリル、涙目で懇願。
「あの、健全育成会のおば様方達、親が無断で子どものアイドルオーディションに応募する行為というのは、法律違反とまではなりませんので、逮捕は出来ないので、だから、コリルちゃんも安心してね」
お巡りさんも苦笑い。
「ありがとうございますぅ」
コリルはホッとして、顔に笑みが浮かぶ。
「警察官も使えないわね」
健全育成会のおば様達は、超不満げ。
これにて無事、コスヤさんは、子どもを健全に育成する会のおば様方から厳重注意を受けたのみで、許されることになったのだった。
お帰りになられたあと、
「ママ、わたしはすごく嬉しかったよ」
「ありがとうコリル、喜んでもらえて嬉しいわ。コリルを愛してるからこそ、活躍させたくて応募したのに、虐待だなんてあの人達の主張はずれてるわ」
こんな会話が交わされたのであった。
「健全育成会のおば様達、大げさ過ぎですね。俺のいた世界のアイドルも、そういう話よく聞きますよ」
帰宅後にこの件を聞かれされた哲朗は、爽やか笑顔でこう突っ込んでおいたのだった。
☆
翌日、哲朗とムマツラさんはロブウトツネ中心地行きつけの喫茶店で駄弁っていた。
「アイドルオーディションに親が勝手に応募で児童虐待とは、滑稽な話っすね。むしろサプライズプレゼントで良い話じゃないですか。今活躍中のアイドルも、お母さんが勝手に応募してて気づいたらデビューしてたっていう子もけっこういますよ。児童虐待っていうのは、我が子をセイッニ学園とかの超スパルタ不良更生学校に送り込もうとする親っすね」
「セイッニ学園ってヤバそうな学校があるんすか?」
「ワガデ王国の西の方に、手に付けられないようなとんでもない不良を更生させる目的で建てられた学校なんっすよ。ロブウトツネの繁華街や公園に集うような不良は、まだ大人しい方っすね。ちょっとした不良の子達なら良い子にしてないとセイッニへ放り込むよって言うと一発で大人しくなっちゃうような。ワガデ王国一厳しい学校と言われてます」
「俺のいた世界にもその昔、筋金入りの不良を更生させるための日生学園第二高等学校っていうのがあって、そこがまた今じゃ考えられないくらいのとんでもないスパルタ式の超厳しい学校でして。早朝から絶叫しながら雑巾がけさせられたり、ランニングさせられたり、トイレを素手で洗わされたり、そうしないと先生からぶん殴られるもんですから。さらに寮生活もめちゃくちゃ厳しかったそうで。俺のいた世界の芸能界じゃ今ちゃんとか、浜ちゃんとかが卒業生なんすけど、その方達から思い出話何度か聞かされましたよ。俺の母校の武相高校も当時かなり厳しかったんですけど、そこほどじゃなかったっすね。日生第二も今は学校名も変わって、だいぶ緩やかになったみたいですけどね」
「そうなんっすか。哲朗さんの世界にも同じようなのが過去にあったんすね。不良更生シリーズやっていくうちにぜひうちの教育方法を参考にして下さいとセイッニ学園側からご依頼がありまして、これから取材しに行くんっすが、哲朗さんもぜひ、同行してくれませんか?」
「この依頼については、正直気が乗らないんっけど、まあ、同行しますよ。この世界の不良更生学校がどんな学校なのか気になりますし」
哲朗は苦笑いを浮かべて、若干いやいやながらも承諾。
そして翌朝。
「哲朗ちゃん、今までで一番過酷な取材になると思うけど、健闘を祈るわ」
「無事帰って来て、体験談聞かせてね」
「任せて下さい。昔の元いた世界のオーストラリアのゲイバーのロケよりはマシだと思いますんで。それじゃ行って来まーす」
哲朗とムマツラさん他取材班はコスヤさんとコリルに見送られ、長距離用のドラゴンでロブウトツネを出発。
途中、昼食休憩を挟みつつ、七時間ほどの長旅を経て、
「ここで乗り換えです。ここはヤアマオという、学園最寄りの町です。最寄りとはいっても、ここからまだ海を越えて数十キロ。結構かかりますよ。ここから先は学園が手配した特別に鍛えられた魔物じゃないと、通過するのは無理だそうです」
取材班の一人から伝えられる。
哲朗とムマツラさん他取材班達一行が降り立ったのは、風光明媚な田舎の港町。
「雰囲気で分かりますよ、これは。海ヤバいくらいめっちゃ荒れてるじゃないですか」
「馬車水没クイズも、ここまで荒れてたらさすがに無理っすね」
哲朗とムマツラさんは楽し気に眺める。
「この辺りの海は、ほぼ年中荒れ狂ってるので、ここでの漁は漁師が船に乗って行うのでなく、手懐けられた魔物が担っておりますよ」
取材班の一人が伝えた矢先、ドラゴン系の魔物が巨大な魚が多数入った網を爪に引っ掛けて、市場の方へ向かって飛んでいく様子が見受けられた。
「新鮮な光景っすね。確かに漁船一隻も見かけないっすね」
「ヤアマオ産の魚介類は、荒波に揉まれて身が引き締まってめっちゃ美味いんっすよ。まだ早いですが、夕食食べに行きましょう」
ムマツラさんは誘う。
そんなわけで、付近の観光客にも人気なレストランへ。
名物の海鮮料理セットを注文した。
「確かに、ロブウトツネ産の魚より美味いっすね♪」
哲朗はご満悦。
「この町の住民、学園から脱走して来た子達に助けを求められることもあるようです。ただ最近は警備がかなり厳重になってしまい、脱走すらも不可能になってるみたいですが」
そんな話も取材班から伝えられた。
一行が夕食を食べ終え、哲朗が出口へ向かっていく途中、顔見知りの芸人を見つけ、近寄っていく。
「あっ、太川さん、じゃないや、ワガタさんに、スビエさんも。馬車ドラゴンの乗り継ぎ対決旅のロケっすか?」
「その通りです。今回のシリーズは対戦相手も共に馬車もドラゴンも両方利用可能な陣取り合戦ですが。どちらも捕まらなくて長距離歩く羽目になることもよくあるんですよ。今、一日目で三番目のチェックポイントです。このレストランの人気メニュー十傑、二番目に高い料理を完食せよというミッションに挑んでる最中なんですよ。間違えたらその料理も完食しなきゃならないんで、けっこうきついですね。今四品目目でけっこうおなか一杯になって来てしまって。次こそ当てないと」
ワガタさんは苦笑いで伝える。
そんな時、哲朗の元いた世界でいう九官鳥のような小鳥が店内に入って来て、
「ヤアマオサンノゼッケイ、ドクソウバタケノイラストヲビョウシャセヨ、ジントラレマシタヨ」
と人語で伝えてくる。
「あっちゃぁ~。その場所取られちゃいましたか。漫画家のスビエさんという強い味方がいるから狙ってたんだけどね。向こうのチーム絵が上手い人いないと思うんだけど合格させちゃったかぁ」
ワガタさん、苦い表情で嘆く。
「相手チームの状況、俺のいた世界のローカル路線バス乗り継ぎ旅陣取り合戦だとスマホの通知機能で伝えられるんっすが、こういうやり方もあるんっすね」
哲朗は感心する。
「ちなみにオレの声で覚えさせてます。オレの声に似てるでしょ?」
スビエさんは自慢げに言う。
その小鳥は、ワガタさん達が今挑戦中のミッションの行方を見守る。
「アー。ケイバヤリテェ」
こんな言葉も呟きながら。
「スビエさん、この子に変な言葉覚えさせないで下さいね」
もう一人の女性参加者からやんわりと注意されてしまう。
「ところで、哲朗さん達がこの町にいるってことは、ひょっとして、あの学園の取材ですか?」
「その通りです、ワガタさん」
「うっわぁ~。そりゃ過酷だ。哲朗さん達がこれから向かう場所の取材に比べたら、我々のロケがきついだなんて言ってられませんね」
ワガタさん、憐れむような表情を浮かべて苦笑い。
「そんなヤバい場所なんっすね」
哲朗も苦笑い。
ワガタさん達と別れた哲朗達一行は、
「あの学園の誘致、わたしは最初は大反対だったんだけど、実態を知ってからあの学園の子達が可哀そうに思えて来たよ。あれはやり過ぎだなって」
「おらも脱走して来た子にお菓子をあげたことあるよ」
「不良だけじゃなく、案外普通の子もいるんだよ」
地元住民からそんな話などを聞かされたりしたのち、海の傍で少し待っていると、赤色で筋骨隆々な大型ドラゴンが彼らの傍に降り立った。
「この世界に来てから見たドラゴンの中でも、別格の最強って風格してますね。しかも頭に鉢巻巻いてるよ」
哲朗は感心気味に眺める。
「全力って書かれたやつっすね。あの学校、全力が三度のメシより好きみたいでして、生徒のみならず先生や学園で飼われてる魔物にも常に全力が求められるみたいなんっすよ」
ムマツラさんから聞かされる。
「全力が校風って、日生ともそっくりじゃないっすか。俺のいた世界では、魔物には全力は求められていませんでしたけど」
「皆さん、乗ったら全力で捕まってて下さいね」
一行はこの国の文字でそう書かれた鉢巻を締めた筋骨隆々な大型ドラゴンに乗り、海を渡って学園へと向かっていった。
一方、無事ミッションを成功させたワガタさん一行。
「昔この町に来た時は、この近くにカジノがあったんだけどな」
スビエさんの残念そうな呟きに、
「セイッニ学園から脱走した子達が、この町の住民の家に玄関扉をノコギリで切って押し入ってお金を奪って、カジノで豪遊されてしまったことから、治安を守るために数年前に閉鎖されたんですよ」
同行スタッフはこう伝えておいた。
「だから不良は嫌いなんだよな」
スビエさんは学生時代の嫌な思い出が脳裏に浮かび、不満げに呟くのだった。
☆
「雲もヤバいし、海大荒れだし、ヤバいよヤバいよ」
「常に荒れてるこの海域にある離島は、立地に絶好の場所だと学園長のお気に入りのようですよ。海も全力で荒れ狂ってくれているからと」
「そりゃぁ逃げられないですもんね」
「学園の周りは森になっておりまして、極級の獰猛な魔物が棲息し、猛毒植物地帯と毒沼にも囲まれた場所に立地しております」
「周りが荒れる海ってだけでヤバいのに、島の中も毒沼に猛毒植物地帯に、獰猛な魔物って、ますますリアルに逃げられない環境じゃないっすか。日生学園もびっくりの地獄っぷりっすね」
哲朗達、いよいよ学園本部へ。彼らの運命やいかに? 後編へ、続く。
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