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第二十七話 夏もまもなく終わり、日本でいう台風的な嵐のシーズン到来。自然の怖さを伝えるためにいろいろ危険なことやらされてヤバいよヤバいよ

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「今朝はなんか寒いっすね。長袖でちょうどいいっすね」
 コリルの通う学校の夏休みもあと数日に迫ったある日、昨日までよりひんやりとした朝を迎え、哲朗はそんな感想を伝える。
「夏ももう終わりに近づいてるからね、まだまだ昼間は暑いけど。帰省シーズンが過ぎると秋めいてくるよ」
 コリルも長袖姿だった。
「真夏は過ぎたってことっすか。真夏でも東京ほどは蒸し暑くなかったから、快適な夏でしたね。北海道の夏って感じで」
「一番暑い時期が過ぎて涼しくなるのはいいけど、今度は嵐が心配になるわ」
 コスヤさんは苦笑いで伝える。
「夏が終わると嵐が来やすくなるって科学館で博士も言ってましたね。日本も秋になると台風来やすくなるんすよ。台風といえば昔、お笑いウルトラクイズでダチョウ倶楽部達が乗ってるバスがクレーンで吊り上げられて、台風が近づいて荒れてる海の中に沈められてたのを思い出しますよ」
「哲朗おじさんのライバルも危険な芸なら負けてないんだね。ロブウトツネにはね、よく当たると評判の天気予報の面白いおじさんがいるんだ。大人からも子どもからも大人気でいつもジビレテフの館の前で天気予報やってるよ。時々いろんな地域にも行ってるけど。吹雪の日や嵐の日もお外で天気予報を伝えて、真夏の砂漠や真冬の雪山なんかにも行って体を張って天気予報を伝えることもあるから、リアクション気象予報士って呼ばれてるんだ。ちょうど今日、ジビレテフの館のイベントがあって、そのおじさんもゲストに呼ばれるんだ」
「そうなんっすか。観に行ってみようかな」
「他にもいろいろ面白いイベントもやってるからちょうどいいよ。そのおじさん、天(あめ)の様子を伝えるアメタツって名前からして面白いの。よく出来た名前だけど芸名じゃなくて本名なんだって。あめっていうのは雨だけじゃなくて空、天の様子っていう意味もあるんだよ」
「日本語のあめも同じような意味だな」
「そうなんだ! 共通の語源もあるんだね。アメタツさんはわたしの通ってる学校にも出前授業で来てくれたことがあって、この名前を付けてくれたご両親に感謝の意を込めて、お天気を正しく伝える使命があるって言ってたよ」
「気象学も年々発展して来て、二〇年くらい前からは気象学を専門的に学んだアメタツさんみたいな人も天気予報をやるようになって、気象予報士って呼ばれるようになったの。もっと昔からやってる占い師さんや漁師さんと予報の精度を競ってるわ」
「アメタツさんと漁師さんの予報はよく当たるけど、占い師さんの予報はほとんど当たらないよ」
「俺のいた世界にはひまわりっていう人工衛星があって、天気予報はけっこう当たるけど外すこともまだ多いけどな」
哲朗、コリル、コスヤさんの三人で、シビレテフの館のイベント会場へ。
 子ども達を中心に大賑わいだった。
 各ブースで魔物ショー、芸人のコントなども行われていた。
「「アンフィスバエナ。はい、シャンカシャンカシャンカシャンカ」」
「キモ~い」
「つまんねえ」
「帰れ!」
「おまえら芸人向いてないよ」
 観客達にやじられる、背の高いやせ型芸人二人組のコントを、
「ア〇ガールズみたいな奴らもいるんだな」
 哲朗は朗らかに観覧する。
「アガンスールっていうコンビ名のお笑い芸人さんで、ムッちゃんやガエちゃんほどじゃないけど若い女の人から嫌われてる芸人の上位常連だよ。わたしはあのクネクネした動き好きだけど」
 コリルは楽しそうに伝えた。

「俺のいた世界では、天達さんの他にも充電バイク旅に何度かゲストで参加してくれた石原良純さんや、蓬莱大介さんとか、森朗さんとかも人気の気象予報士なんっすよ」
「へぇ~。いろいろいるんだね」
 アメタツさんのお天気イベントが行われるブースに辿り着くと、哲朗、コリル、コスヤさん三人並んで座席に座り、開始時刻を待つ。
 観客は赤ちゃんから若者、ご年配の方々まで大勢いて、コリルの言っていた通り老若男女問わず大人気のお方のようだ。
「みんなーっ、お待ちかねのお天気コーナーの時間だよ。みんなであの有名な天気予報のおじさんを呼んでみましょう」
 ネコ耳な司会のお姉さんがそう言うと、
「「「「「「「「「「「アメタツゥ~」」」」」」」」」」」
 観客の子ども達も大人も一斉に大きな声で叫ぶ。
 すると、
「はい、は~い、みんな。お待たせーっ♪」
 舞台裏から噂のおじさんがご登場。
 額は少し剥げてはいるが、陽気で爽やかな感じだった。
「天達さんによく似てますね。人気者なわけっすね」
 哲朗は朗らかに微笑む。
「みなさんに警告しておきます。明後日の夜からは、ロブウトツネに嵐がやって来ますよ。良い子のみんなは嵐の時、どうすればいいか知ってるよね?」
 アメタツさんが予報したあと、そう問いかけると、
「お外に絶対出ちゃダメ」
「川や海、池や湖へも近寄らない」
「飛びやすいものはおウチの中にしまっておく」
 観客の子ども達は、次々に答えていく。
「さすがっ! みんなよく分かってるね」
 アメタツさん、爽やか笑顔でお褒めの言葉。
 その矢先、
「でもアメタツさんはお外へ出るんでしょ」
 観客の子どもの一人からこんな突っ込みが。
 アハハハハハハハッ!
 観客席から笑いが起きる。
「おじさんはお仕事だから。自然の恐ろしさを体を張って伝える使命があるからね」 
 アメタツさんは爽やかな笑顔で伝えた。
 パチパチパチパチパチッ!
 今度は子ども達やその他観客から大きな拍手が。

 他にも雲の仕組みや雨にまつわる魔物などの解説なんかをされて、アメタツさんのお天気コーナーは大盛況で終わり、哲朗達は帰路に就いたのだった。

            ☆

 翌々日の昼下がり、
 哲朗とコリル、コスヤさんとでお庭に飾られた植木鉢なんかを家の中に移動させたりして嵐が来る前の準備をしている最中、玄関チャイムが鳴らされ、
「こんばんは哲朗さん、哲朗さんにも自然の恐ろしさを伝えるために、外で実況して欲しいと依頼がありまして」
 アメタツさんが訪れて来た。爽やかな表情で用件を伝えてくる。
「向こうでもいろいろ危険なことやらされ慣れてますんで、全然問題ないっす。ありがたく引き受けますよ」
 哲朗は快く承諾し、風が強くなり始めたお外へ。
「ロブウトツネを襲う嵐ですが、毎年必ず来るというわけでもなく、一度も来ない年もありますし、年に五、六回以上来る年もあります。平均的には二、三回程度ですね。ほとんどが夏の終わりから初秋にかけてですが、稀に初夏に来たり、晩秋に来たりすることもありますよ」
「俺のいた世界の本州に来る台風とそっくりっすね」
アメタツさんと共に街の中心地の大通りを歩いていると、前方に見慣れた大柄な男の姿が。
「あっ、ボビー、じゃなかった。ビーボさんじゃないっすか。ビーボ、おまえも体を張って自然の恐ろしさを体験しに来たんだな」
「違うよ! オレ、本当は嵐の日なんかに外出たくねぇよ。他の先生達から子ども達が外で遊んでないか見回りを無理やり頼まれちまったんだよ、本当は家で読書や料理をして静かに過ごしたいんだよ」
 ビーボさんは悲しげな表情を浮かべて嘆く。
「ビーボ、それだけ皆から頼りにされてるってことっすから、誇りに思って下さいよ」
 哲朗は朗らかな笑顔で励ますも、
「思いたくねぇよ」
 ビーボさん、ますます気落ちしてしまう。
 ともあれ、哲朗はビーボさんとこの辺りを散策することに。
「騎士団の方々も見回りしてますね。お勤めご苦労様です」
 白や銀色の鎧を身に纏ったその集団の姿を見かけると、哲朗はびしっと敬礼。
 騎士団の方々も返してくれた。
「自然災害が起きてしまった時に、速やかに人命救助、復旧活動をして下さるとてもありがたい方々でございます」
 アメタツさんは爽やかな表情で伝える。
「俺のいた世界でいう自衛隊みたいな感じなんすね」
 哲朗は朗らかな表情で呟く。
「犯罪人の逮捕に努める警察官と共に、ワガデ王国の救世主として子ども達の憧れの職業として親しまれてますよ。状況に応じて警察官が人命救助、災害復旧を担ったり、騎士団の方々が犯人逮捕を担う場合もございます」
 アメタツさんが加えて伝えると、
「モスの一件のせいで、騎士団や警察官は今でも恐ろしいよ」
 ビーボさんは苦い表情で呟くのであった。
「騎士団や警察官の方々は、他にも街中や民家付近に人命を脅かす危険な魔物が現れた場合、魔物ハンターの方々と協力して退治してくれたりもしますよ。ロブウトツネでは、ワガデ王国一の大都市ということもあり、なによりコキアダワさんがお住まいになられているので、人が行き交う場所で危険な魔物と遭遇してしまう心配はありませんが」
「コキアダワさん、そんな力も持たれてるんっすね。ヤバ過ぎだよ」
 この三人はその後もしばらく周辺を散策。
「外で遊んでる子どもの姿は一人も見かけませんね。この街の子ども達、みんな良い子達じゃないっすか」
 哲朗が朗らかな表情で突っ込むと、
「子ども達は大人しく家にいる良い子ばかりなんだけど、いい年した大人の方が嵐の中遊んでる命知らずのバカなやつらがいっぱいいるんだよ。特に海辺に」
「そうなのか。ちょっと見に行ってみるか」
「見るだけにしろよ。絶対バカなあいつらのマネするんじゃねえぞ」
 ビーボさんはお得意というか癖で出てしまう素っ頓狂な表情で忠告する。
 こうして、哲朗はビーボさんとここで別れ、わくわく気分で海辺の方へ。
「その手の陽気な方々は、わたくし達気象予報士の警告も無視するので、困ったものでございます」
 苦笑いを浮かべたアメタツさんも同行することに。

         ☆

「ビーボの言ってた通りだな」
海辺には、ビーボさんのおっしゃっていた通り、大人達の大勢の人だかりが。
新聞や雑誌の記者らしき方々も何名かいた。
「おう! ビートたけしさん、じゃなかった微糖ケタシさんでしたっけ?」
 哲朗は何かの魔物の着ぐるみを身に纏ったそのお方のもとへ。
「その通り。哲朗さん、今からクイズに参加してみませんか?」
「クイズかぁ。面白そうじゃん。参加しますよ。でもこれから嵐になるみたいっすけど」
 哲朗が高波の舞う海を眺めながら呟いていると、
「嵐が近づいた日限定、微糖ケタシ主宰の馬車吊り下げアップダウンクイズ。一般人でも芸人達と触れ合える楽しい楽しいイベントなんだ」
「度胸試しにもなるぜ」
「ビーボも誘ったんだけど、予想通り断られたぜ」
「微糖ケタシさんが、売れない芸人やこれから芸人になりたい奴らのために、活躍の舞台を与えて下さるんだ。このチャンスを利用しないわけにはいかないからな」
 やる気満々な参加者達が彼のもとへ近寄ってくる。
「俺のいた世界のお笑いウルトラクイズでやってた、バス吊り下げアップダウンクイズと同じような感じのをやるんっすね。俺はあれには参加してなかったから、めっちゃ楽しみ♪ あっ、小峠、小峠もいるじゃん。久し振りだな」
「小峠じゃねえって! トコウゲだっ!」
 トコウゲは険しい表情で主張する。
「あっ、そうだった。トコウゲだ。おまえ、海賊やめて芸人に転職したんだな」
「海賊はやめてねえよ。今回参加しに来たのは金がたくさん貰えるからだ。船の修理費稼がなきゃダメだし、子分どもに毎月安定した給料支払わねえといけねえし」
「小峠、じゃなくてトコウゲ。もう海賊なんかやめて、芸人になりなさいよ」
「やめるわけねぇだろ。海賊はオレ様の誇りの身分なんだ」
「小峠、絶対芸人の方が向いてるって」
「だからトコウゲだって!」
「あっ、そうでした、失礼。スビエさんは、参加されてないみたっすね」
 哲朗が周囲を見渡しながら呟くと、
「スビエは今、ワガタさんと馬車&ドラゴン乗り継ぎ対決旅に駆り出されてるからな」
 他の参加者が伝えてくれた。
「そうでしたか。俺のいた世界の蛭子さんは乗り物対決旅とっくに引退しちゃってますから、スビエさんにはこれからも末永くご活躍して欲しいっすね。おう! 上島もいるじゃん! 数日振り!」
「上島じゃねえ、ウユリーヘだって何百回も言ってるだろ!」
 ウユリーヘは呆れ顔。
「おまえもこれに参加するんだな」
「当然だろ」
「上島も昔、ダチョウ倶楽部の寺門と肥後ちゃんと共にバス吊り下げアップダウンクイズに出てたんすよ。ウユリーヘはどんなリアクションするかめっちゃ楽しみっすね」
「おまえよりも面白いリアクションとって人気逆転してやるからなっ!」
「てめえには負けねえよ」
「なんだと哲朗、おれにケンカ売ってんのか?」
「ああ、売ってるとも」
「何ララシャで売ってんだよ?」
「百億ララシャだ」
「高過ぎだろ。もっとマケろよ」
 哲朗とウユリーヘ、睨み合い、顔がだんだん近づき、

 チュッ♪

 とキス。

「哲朗、おれと出会う度にキスして来やがって!」
「てめえが顔近づけて来たからだろ」
「哲朗の方が近づけて来ただろ」
「いやおまえの方だろ」
「いやいや哲朗だ」
「いやおまえだろ」
 哲朗とウユリーヘ、尚も続く小競り合い。
 パチパチパチパチパチッ!
「この掛け合い、初めて生で見れて嬉しいぜ」
「最高!」
 他の参加者や観客達、拍手喝采だ。
「今から〇×クイズに答えてもらって、正解だと思う方の馬車に乗ってもらいます。間違った方を選んだ場合、おいらが常連で通ってる飲み屋街のお姉ちゃん達が手懐けたバハムート達が、馬車を巨大な爪で掴み上げて海に沈めます」
 微糖ケタシさんが真顔でそうおっしゃると、
「「「うおううううう!」」」
「さっすがケタシ、容赦ねぇ!」
 参加者達、拍手喝采まじりの大絶賛。
 付近にいる全長三メートル以上はある数羽のバハムート達がギャース、ギャース、ギャウォォォ~っと不穏な雄たけびを上げていた。
その横には、〇と書かれた紙が車体に貼られたピカピカで新品の馬車と、×が貼られた長年使われて来ただろうオンボロの馬車が用意されていた。
「これは、あのお約束っすね。クレーンじゃなくて、あのヤバそうな魔物が吊り上げるのかぁ。クレーンより遥かにスリルありそうだな。それに、さすがに波ヤバ過ぎない?」
 危険なリアクション経験豊富な哲朗も、海面を眺めて苦笑い。
「今日は地元の漁師も敬遠するくらいの波だからな」
「漁を休むくらいの海の荒れ方でも、クイズ大会を強行するのがケタシさんだぜ」
 一般参加者の一人が楽し気に伝える。

 ともあれ、馬車吊り下げアップダウンクイズ開始。
「第一問、今年の秋に行われるワガデ王国芸術音楽祭で、オーケストラの指揮者に選ばれたのは、ニャパディッポさんである。〇か×か?」
 司会の犬耳なお姉さんがノリノリで問題文を読み上げると、
「分からねえ」
「×だろ」
「むず過ぎ」
「哲朗、分かるか?」
「分かるわけないっすよ。この世界の常識も有名人もまだほとんど知らないし」
参加者達、全員が×、つまりオンボロの馬車の方へ。
いや、一人だけ、〇の馬車の方へ。
「おーい、アメタツゥ~。臆病者だな」
「これ正解は〇なんですよ」
「そんなことはおれも知ってるよ。だがこれはクイズとは名ばかりのお笑い芸お披露目会なんだ」
「わたくしは、お笑い芸人ではないので、ご勘弁を」
 一般参加者の方から突っ込まれ、アメタツさんは苦い表情で主張するも、
「まあまあそう言わずに」
「おまえも乗ってくれれば勇敢な気象予報士としてますます人気が上がるぞ」
「やめて下さ~い」
 強引に×のオンボロ馬車の方に乗せられてしまったのだった。
「おれも参加しますよっ!」
「うわっ、おまえまで乗ったらバハムートが疲れるの早くなって事故る率上がっちまうよ」
 ふくよかな体型の芸人も乗り込んで来て、一般参加者達少しどよめく。
 ムマツラさんだった。海パン一枚姿だった。
「ムマツラさん、数日振りっすね」
「おう、哲朗さんも初参加されるんっすね♪」
「ムマツラさん、海水浴の格好して、気合じゅうぶんじゃないっすか」
「どうぜずぶ濡れになっちゃいますんでね」
            ☆
「皆さん乗車完了ですね。正解は、〇でしたぁ! 皆さん不正解! よって全員、バハムートちゃん達に吊り上げられちゃいまーす♪ 皆さん、行ってらっしゃーい」
 司会のお姉さんはとっても楽しそうだ。
「揺れる、揺れる」
「聞いてないよぉ~」
「落とされそうでヤバいよヤバいよ。俺達が乗った馬車を軽々持ち上げるなんて、あの魔物凄い力っすね」
 バハムート達は、馬車の屋根を爪で掴み上げると、海面上へ。
「はーい、そこでストップしてね」
 司会のお姉さんのこの指示で、バハムート達、動きを止める。
 馬車は車輪の下側でもまだ海に浸かってない位置に。
 海面から、数十センチくらいの高さであった。
「まだまだ余裕だな」
「あと何問か間違っても大丈夫じゃね?」 
 参加者達、楽しげな表情だ。
「波が高いので、大変危険ですよ。それに、あの魔物が疲れたら命令に関わらず海へドボンされちゃいますよ」
 ただ一人、アメタツさんを除いて。
「おいらもオーガじゃありません。次は簡単なサービス問題を出します。正解すれば、もっと上まで引き上げさせますよ」
 微糖ケタシさんのその発言に、アメタツさんは安堵の表情を浮かべる。
「さて、問題です」
 微糖ケタシさんはにやけ顔で呟き、
「作家、ポニャメラさんのお父さんは誰でしょう?」
 司会のお姉さんが楽しそうに問題文を読み上げる。
「知らねえ、マイナー過ぎるだろ」
「ロブ大王クイズレベルの難易度だろ、これ」
「文学部出の奴なら余裕なんじゃねえ? 知らんけど」
「分かった。あいつだ。ピュロコンテ」
 参加者の一人がこんな解答をすると、
「違いまーす。不正解でーす。正解は、ムサシマルシェーヌさんでした」
 司会の姉さんは誇らしげに正答を伝えた。
「おれ知ってたんだけど」
「おまえわざと間違えただろ?」
「いや、あの人だと思ってたって。リアルガチで」
「俺の口癖使ってくれて嬉しいぞ。おまえ」
「光栄です! 哲朗さん」
 参加者達の反応をよそに、バハムート達、さらに下降し馬車を押し下げる。
「おーい、窓から海水入って来出したぞ」
「もう一問間違えたら完全に水没だよ」
「「「ヤバいよヤバいよ」」」
 哲朗のみならず、他の参加者達も彼の口癖を叫ぶ。
 予想以上の下げ方だったのか、焦り気味な参加者達も出て来た。
 そんなことはお構いなしに、
「さて、問題です」
 微糖ケタシさんは続行する。
「まだやるのかよ」
「マジヤバいぞ」
 参加者達の声を聞き、
「みんな、腹を空かせたワイバーンのような目でおいらを睨むなよ。おいらもオーガじゃありません」
「もうじゅうぶんオーガでーす♪」
 にやけ顔な微糖ケタシさんの呟きに、司会のお姉さんは爽やか笑顔で突っ込み、
「問題、せっかくグルメショーでも大人気なラヒムのキュウちゃんですが、一番好きな食べ物は何でしょう?」
 楽しそうに問題文を読み上げる。

「ボコボコだろ」
 芸人の一人がそう答えると、
「残念、不正解です。バハムートちゃんちゃん、馬車を放しちゃって」
 ギャース、ギャース。
 バハムート達、司会のお姉さんの指示通り馬車を手放し空高く舞い上がっていった。
 馬車、バシャーンッと海中へ。
ほどなく屋根の部分だけが海面に浮かび、客席空間は完全水没。
 乗っていた参加者達全員、窓から海中に投げ出される。
「さすがケタシ、容赦ねえ」
「ヤバいよヤバいよ」
「早く安全な場所へ」
「ムマツラを踏み台にして上がろうぜ」
「やっぱデブは浮きやすいよな」
「ちょっと、ちょっと。おれは浮き輪じゃないっすよ。ぐへっ!」
 慌てる参加者達、
「もう勘弁して下さい」
 海に浮かんだ車体上に真っ先によじ登ったのは、アメタツさんだ。
 他の参加達も次々と車体上に上っていく。
「お~い、おまえら。オレ様を助けろよ。泳げねぇんだよ」
「トコウゲ、海賊のくせに泳げねえのかよ」
「情けねぇ~」
「笑うんじゃねぇ!」
「トコウゲ、海賊やめて芸人なれよ」
「芸人になったら芸名は小峠だな」
「オレは芸人なんかにはならねえって言ってんだろ」
 トコウゲとその周りにいた一般人やあまり売れてない芸人達、こんな会話が繰り広げられる。
「焦ったぁ~。俺、こんなに上手く泳げたっけ? こっちの世界でもいろいろ無茶してるうちにいつの間にか身体能力鍛えられたみたいだな」
 無事、車体の上によじ登ることが出来た哲朗、
「おい上島ぁ、俺の手を掴めっ!」
「哲朗、なにオレを助けようとしてくれてんだよ。それより上島じゃねえって。ウユリーヘだって! もう何百回も言ってんだろ」
 ウユリーヘに手を差し伸べて、車体の上へ引き上げてあげた。
「俺のいた世界の上島は自殺しやがったから、こっちの世界の上島みたいなてめえは、絶対死なせたくねえからな」
「なに何気に良いこと言ってくれてんだよ。嬉しくなんかねえよ」
「本当は嬉しいくせに」
「嬉しくねえから」
「いや喜んでんだろ」
 哲朗とウユリーヘ、そう言い合いながらぺちぺちぺちぺち叩き合う。
 そして、
 ムチュ♪
 とキス。
「おぉい! 何またキスしてんだよ」
「てめえが顔を近づけて来たからだよ」
「おまえの方が勝手に近づけて来たんだろ」
「いやてめえの方だ」
 パチパチパチパチパチッ!
「「「「「いいぞぉーっ! もっとやれーっ」」」」」
「「「「「ウユリーヘ!」」」」」
「「「「「「「哲朗!」」」」」」」
 他の参加者や、陸地からの見物人も拍手喝采。
「1,2,3,4,5,6、7,8.9,10,11,12,あれ? 二人足んないよ。二人足んなーい。1,2,3,4,5。あっ、いたいた。よかった」
 司会のお姉さん、微笑みながら一瞬焦るも再確認後、ホッと一息。
 だが、その矢先にまた何人か滑り落ちてしまう。
「落としやがったな。危ねえだろ」
「落としてねえって。おめえが勝手に滑っただけだろ」
「なんて日だ!」
「おーい、沖合見てみろ。クラーケンがいるぞ。こっちに近づいて来たらシャレにならねえ」
「そうなったらおまえが囮な」
「いやおまえがなれよっていうかここにいる全員ヤバいだろ」
 参加者達のうち何名か、落とし合ったりして小競り合い。
「皆さん殺伐としてますね。今から皆さんに、ちょっと殺し合いをしてもらいます。なんちゃって」
 微糖ケタシさんは真顔のようなにやけ顔のような笑みを浮かべてそう締めたのであった。

 ちなみに参加達は、秘かに待機していた、手懐けられたアーケロンの背中に乗せられて無事全員救出された。
 この企画イベント終了後、ほどなく本格的に雨風が強くなって来たので、
「これから飲みに行きたいとこだけど、今日はさすがに臨時休業だよな」
「馬車も運休だし、ドラゴンもこんな天気じゃ乗せるの断られるだろうし、歩いて帰るしかねえか」
参加者達は報酬を貰うと急いで家路に就いたり、宿屋に向かったりしたのであった。
「俺のいた世界じゃ今じゃあの手のパフォーマンスのやり方は絶対出来ないし、アーケロンにも乗せてもらったし、貴重な体験が出来てなかなか楽しかったっすね」
 哲朗も満足げに家路に就こうとしたところ、
「お待ち下さい。哲朗さんはこれからが本番ですよ」
 アメタツさんに引き留められてしまう。
「そういやそうでしたね。本来の目的は」
 ――ってなわけで哲朗は、嵐の中アメタツさんと共に日も暮れて真っ暗になった街中を歩かされ、新聞や雑誌の記者達からレポートを求められるのであった。
「息苦しいくらい雨降ってるし、傘は全く役に立たないしヤバいよヤバいよ。東京じゃこんなレベルの台風滅多に来ないっすよ」
「今回の嵐は、ロブウトツネに来る嵐としては、穏やかな方でございます」
「そうなんすか。ロブウトツネの気候過酷でヤバいよヤバいよ。こんな中でバイク乗ったら一瞬で転倒して吹っ飛ばされるぞ。うわっ、また突風来た。全力で踏ん張ってないとヤバいよヤバいよ」
「ナバンマナ諸島に年に何度か襲って来る嵐は、ドレッドノータスクラスの超重量魔物でも吹き飛ばされるそうですよ」

           ☆
 
ともあれ、哲朗はなんとか家に帰り着いたあと、
「おかえり哲朗ちゃん、お疲れ様」
「無事帰って来てくれてよかった♪」
「リアルに何メートルか吹き飛ばされましたけど、貴重な体験が出来て、最高でしたよ」
 コリルとコスヤさんの温かい手料理を振舞ってもらったのであった。

               ☆

 翌朝、
「台風一過って感じ。この世界でも共通っすね」
哲朗が寝室の窓から雲一つない青空を眺めていると、
「哲朗ちゃん、とってもいいニュースがあるわよ。昨日、ビーボさんが川でおぼれた女性を助けて人命救助をしたんですって。午後から市民憩いの広場で警察から感謝状が贈られるそうよ」
 コスヤさんからこんなことが伝えられた。
「さすがビーボだな」
 哲朗も称賛する。
 そんなわけで、哲朗、コリル、コスヤさんの三人は午後から授与式会場へ。

 市民憩いの公園内の授与式会場には、大勢の人だかりが。
「ビーボさん、あなたはロブウトツネ市ヨナスオ橋付近において、身の危険を顧みず人命を救助されました。ここに感謝の意を表します」
 ロブウトツネ警察著長から、表彰状を授与されると、
「びっくりロブウトツネ警察! すげぇ、おめでとうございます。見回り終えて、家に帰る途中に「助けて」という声を聞いて。でかい川だから、人泳いでるようなところじゃないの。で、その「助けて」の声だけで身体が反応してた。首くらい……もっと深いかな? 飛び込んで、上にそのまま持ち上げて、ある程度ケアして。ロブウトツネ警察から表彰されるの、本当に夢にも思ってなかったから。だってモス事件で囲まれたところだよ。もう聞くだけでも震えるぐらいだ。本当にこれはあのう、光栄に思ってますし、これからも困った人がいれば、一生懸命助けに行きたいと思っていますので、これからもよろしくお願いします」
 ビーボさんがかなり緊張気味に、時おりつい癖で出てしまう目を大きく見開いた素っ頓狂な表情を見せながら記者会見に臨むと、
 パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチッ!
「おめでとうビーボォ♪」
「さすがおれたちのビーボだぜ」
「ビーボはワガデ王国一のヒーローだ!」
 観客達から拍手喝采大絶賛。
「じゃぁ、これで失礼します」
 ビーボさんは照れくさいのか、雑誌や新聞の記者達を振り切るようにこの場から走り去っていったのだった。
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