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第二十六話 ロブウトツネの繁華街や公園に集う不良少年少女達を更生させたい! リベンジ! 

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コリルの通う学校の夏休みも後半になったある日の夕方、コリル宅の玄関チャイムが鳴らされた。
「おーい、哲朗さーん」
 外からは聞き覚えのある声が。
「この声は絶対あいつだな♪」
 哲朗が玄関を開けてみると、そこにいたのは――。
「やはりまっちゃん、じゃなかった。ムマツラさんじゃないっすか。どうしたんすか? 顔に殴られたような痕がありますけど」
「昨日の夜、ロブウトツネの繁華街や公園に集う不良共に注意して、返り討ちにされちゃったんすよ」
「あららら。それは災難でしたね。あの企画またやったんすか」
「いやいや、今回は企画関係無しにおれの意志でやったんすよ。子ども達が夏休みに入ってから、いろんな地方からロブウトツネに集まってくる不良共がますます増えて来まして、健全な市民達に迷惑かけてるのが許せなくてですね」
「さすがムマツラさん、ご立派っすね」
「今日も夜遅くになったら彼らが集まってくると思いますんで、おれはまた注意しに行きますよ」
「昨日と同じように返り討ちに遭っちゃいそうっすけどね」
「おれも昨日と同じやり方をするほどバカじゃないっす。今回はですね、おれと同じように若い女の子達から気味悪がられてる芸人の上位常連、子どもを健全に育成する会員のおば様達から消えて欲しい芸人上位常連でもあるお方を、助っ人に頼んだんすよ」
「それは頼もしいっすね」
「そのお方を使って、不良共を不愉快にさせて追っ払ってやろうという作戦です。哲朗さんも、よければご協力お願いします」」
「お安い御用っすよムマツラさん、どんな奴呼んだのかも気になりますし」
「ありがとうございます!」
 ムマツラさん、目を輝かせ哲朗とがっちり握手。
「ロブウトツネ中心地の公園、夜になるとガラの悪いお兄ちゃんやお姉ちゃん達も集まってくるから、ムッちゃん達が退治してくれたら安心して夜でも遊べるようになるね。ムッちゃんも哲朗おじさんも頑張ってね」
「ロブウトツネ中心地の治安の向上、期待してるわ。でも、二人とも無理はし過ぎないようにね」
 コリルとコスヤさんは期待の眼差しで応援する。
「任せて下さい! あの公園、夜にしか現れない珍しい虫達も多いんで、子ども達にも安心して夜でも散策出来るようにすべく、おれ達は戦いますよ!」
 ムマツラさんは目を大きく見開き、きらきらした目つきで自信満々に宣言した。

 哲朗とムマツラさん、コリル宅から外へ出ると、
 周囲には、ご近所さんや観光客らの姿がいっぱい。
「充電旅のロケで寄らせてもらった家や店や旅館の周りみたいになってるじゃないっすか」
 哲朗は上機嫌だ。
「哲朗さん超人気者っすね」
 ムマツラさんは朗らかに呟く。
「いやぁ、ムマツラさん目当ての人も大勢いると思いますよ」
 哲朗は突っ込む。
「哲朗もむっちゃんも頑張って!」
「雑誌で特集されるの楽しみに待ってるよ」
 そんな声援も受け、
「では、ロブウトツネに集う悪い子達を退治して来ます!」
 ムマツラさんと、
「んじゃ、行ってきまーす」
 哲朗、ドラゴンに乗って市民憩いの公園へ。
 まだ、小さい子どものいる家族連れも多い夕暮れ時だ。
入口入ってすぐの芝生上に降り立つと、        
「予定通り、強力な助っ人を連れて来ましたよ。あちらに」
 ムマツラさんは自信満々に伝える。
ほどなく付近の木の陰から見るからに怪しい上半身裸で黒のスパッツ姿、エルフ耳、額側が剝げたおっさんがひょっこり現れた。
「おううう! エガちゃんじゃないっすか!」
 哲朗は嬉しそうに微笑みながらそいつのもとへ駆け寄っていく。
「ガエちゃんだよ。フル芸名はガエラシ5時50分だよ」
そのお方は陽気な笑顔で即訂正。
「そうでございましたか。俺のいた世界にも、あなたみたいな感じの芸人仲間がおりまして」
「そうなんだ。どんな奴なのか会ってみたいねぇ」
 ガエちゃんはにやけた表情で言う。 
「ガエちゃんだぁっ!」
「哲朗もムマツラもいるぅ!」
「ヤバいよヤバいよ」
「下品芸人三人トリオだぁ!」
 近くにいた子ども達や、
「「「マジキモ~い」」」
若い女の子達からも騒がれる。
「こらっ、あんなお下品な芸人のとこへ近寄っちゃダメ!」
 とお母さんから注意されてしまう子どもも。
「俺ら大人気っすねぇ~」
 哲朗は楽しそうに微笑む。
「戦いの前に、パワーの付く飯を食いに行きましょう!」
 ムマツラさんは誘う。
 この三名で園内の瀟洒な煉瓦造りの高級レストランへ。
「エガちゃんみたいなガエちゃん、今まで一体どういった芸をされて来たんすか?」
「口から炎を吹くドラゴンに対抗して、尻から炎を出してみたり」
「俺のいた世界のエガちゃんに負けず劣らずの下品さっすね」
「おれもこの人には敵わないなって思ってます。おれも王族や偉い政治家の家にアポなし突撃訪問して、う〇こをさせてもらう芸をやらされたことありますけどね」
「俺のいた世界のまっちゃんも若い頃電〇少年で同じようなことやらされてましたよ」
 魔物肉メインの料理に舌鼓を打ちながら、会話を弾ませていると、
「ちょっとあなた達、お下品な会話はおやめなさいよ!」
「ここはあなた達の不健全な芸人共が来るようなお店じゃないざます!」
「じつに目障りですこと。シッシ!」
 ゴージャスな衣装のおば様達に注意されてしまった。
「どうもどうもすみません。静かに過ごします」
 ムマツラさん、怯えているかのように即謝罪。
「あなた達、いるだけで非常に不愉快ざます。店員さん、このお下品な方達を今すぐに追い出してちょうだい」
「この店の品位が落ちてしまうざます!」
 おば様達、こんな要求をしてくる。
「すみませんムマツラさん達、子どもを健全に育成する会の方々がこうおっしゃってますので、お代は結構ですので速やかにご退出して下さいませ」
 猫耳の付いた女性店員さんは、苦笑いで申し訳なさそうにお願いした。
「あの会の方々の要求なら仕方ないっすね。哲朗さん、ガエちゃん、ここから出ましょう」
 こうして哲朗、ムマツラさん、ガエちゃん、強引に退出させられたのであった。
         ☆
「あの会の方々のヤバさが伝わって来ますね。デ〇ィ夫人みたいな風貌のお方もいらっしゃったし」
 哲朗、苦笑いを浮かべるもどこか嬉しそう。
「そりゃあ王族よりも政治家よりも権力はずっと上っすから。あの組織に逆らえる人はいませんよ」
 ムマツラさんはどや顔できっぱりと言う。
「オレ、子どもを健全に育成する会のおば様達から、消えて欲しい芸人ランキング九年連続一位に輝いてます」
 ガエちゃんは自慢げに伝える。
「さすがっすね、俺のいた世界のエガちゃんに会わせてみたいよ」
「あの会の方々、オレのことを嫌ってる人ばかりなんですが、哲朗さんが居候してるおウチのコスヤさんというお方は、娘さんのコリルちゃんと共にオレを応援してくれる極めて数少ないお方なんです。たとえ九九九九人に嫌われたって、一人が応援してくれたらそれじゃいいじゃねえかって気分ですよ♪」
「コスヤさんはマジで良い人っすよね。いきなり訪れた見るからに怪しい俺なんかを快く長期間居候させて下さって、女神様のような方っすね」
「おれなんか子どもの頃からコキアダワさんに数え切れえないほど御無礼を働いてますから、コスヤさんがいなかったらとっくに殺されてますよ」
三人で楽しそうに会話しながら公園内、噴水広場付近を散策していると、
「やはりいましたね。さっそく注意しに行かねば」
 髪をカラフルに染め、髑髏柄のピアスなんかを身に着けたガラの悪そうな少年少女達の姿を発見!
「こらっ! きみたち。そこは通路だろ。そんな所で駄弁ってたら通行の邪魔、邪魔」
ムマツラさんは胸を張って堂々と、たむろする彼らのもとへとズカズカ歩み寄っていく。
「うわぁ、やっぱまた来たよ」
「ムマツラ超うぜぇ~、汗くせぇ~」
「帰れ!」
 不良少年少女達、やはり迷惑そうだ。
「今回はきみ達を成敗すべく、強力な助っ人も呼んでるからね」
 ムマツラさんがどや顔でそう言うと、
「おい、おまえら! 善良な市民に迷惑かけちゃダメだろ!」
 ガエちゃん颯爽と登場。
「ガエちゃんだ!」
「きもぉい」
「おまえの芸超つまんねぇよ」
「てめえの格好の方が市民に迷惑だろ」
「そうだ、そうだ。公然わいせつぅ~」
 不良少年少女達にうざがられるも、ガエちゃんは慣れっこだ。
「笑ってくれてる子もいるじゃねぇか。九九人があきれても、一人が笑うならオレ達の勝ちじゃねぇか。くらえ! 必殺、尻聖剣!」
「きゃあああっ!」
「ぃやぁぁ~ん」
「やめてぇ~」
「汚ぁい」
 尻に剣の先を突き刺したガエちゃんにくねくね歩み寄られ、不良少女達、逃げ惑う。
「生ガエちゃんの芸やべぇ~」
 楽しんでいる子達も中にはいたが。
「哲朗もいるじゃん!」
「マジだ」
「嫌われ芸人大集合!」
「ヤバいよヤバいよ言ってくれよ哲朗」
 不良少年少女達、哲朗にも絡んで来て、
「まさにこの状況がヤバいヤバいよだよ。おまえら」
 哲朗は苦笑いで応じる。
「生ヤバいよヤバいよ聞けたぁ~」
「上ロブして良かったぁ~」
「哲朗最高!」
 不良少年少女達、大声ではしゃぎまくる。
そんな中、
「ほらきみ達、騎士団の方々も集まって来ましたよ」
 ムマツラさんはにやけ顔で勝ち誇ったように楽しげに告げる。
 周囲にはいつのまにか、銀の鎧と槍を身に纏った騎士団と呼ばれる方々が――。
 騎士団の方々、不良少年少女達のもとへ。
「ちょっとちょっと。逮捕するのは彼らの方ですよ」
向かうのではなかった。ガエちゃんの方が捕らえられてしまった。
ガエちゃん、焦り顔で主張する。
「ガエちゃんの方がよっぽど公序良俗に反する行為でございます!」
 猫耳な若い女性騎士団員は頬をほんのり赤らめ、厳しい目つきできっぱりと言い張る。
 いつの間にか全裸になっていたのだ。
 ガエちゃん、そのお方によって全裸のまま警備用ドラゴンに乗せられ、連行されてしまったのだった。
「あららら」
 哲朗、苦笑いで見送る。
「ガエちゃん、やはり暴走して全裸になっちゃいましたね。いつものことっすけど」
 ムマツラさんは苦笑いで呟く。
「ガエちゃんだせぇ~」
「おれら今日は何も悪いことしてねえもんな」
 不良少年少女達、嘲笑う。

こうして、ロブウトツネの繁華街や公園に集う不良少年少女達更生計画は、またしても失敗に終わったのだった。

ちなみにガエちゃん、あのあとマネージャーさんからの説得により、すぐに釈放されたとのこと。
 しょっちゅうあることらしい。

            ☆

 翌日夕方。
「おい哲朗、昨日あれから考えて、あの子達を更生させる画期的な方法を思い付いたぞ」
 ガエちゃんが昨日と同じ格好でコリル宅を訪れて来た。
「エガちゃん、じゃなくてガエちゃん、自信満々じゃないっすか」
 哲朗は朗らかに笑う。
「あの子達。ガチの悪い子も中にはいますが、大半はただ悪ぶりたいだけの根は良い子達なんだよ。なんてったって地方から王都ロブウトツネに集ってくる子達ですから、この街に憧れを持ってるわけでね」
ガエちゃんは真剣な眼差しで強く主張した。

 ――ってなわけで、哲朗、ムマツラさん、ガエちゃん、三人揃って市民憩いの公園へ。
 昨夜とほぼ同じ場所で不良少年少女達を発見し、ガエちゃん、彼らのもとへ。
 そして、
「おまえらに、夢はあるかーっ?」
 開口一番、不良少年少女達に大声でこう問いかける。
 すると、
「ダンサー」
「歌手になりてぇ~」
「芸人!」
「漫画家」
「菓子職人」
「ファッションデザイナー」
 不良少年少女達の、何人かがそう答えてくれた。
「みんな、いい夢持ってるじゃねえか! おまえらは、夢があるからこそ地方からロブウトツネに集まって来たんだろ?」
 ガエちゃんがそう問いかけると、
「そりゃぁこの街だと簡単に夢が叶いそうだし」
「田舎じゃパフォーマンス出来る場所無いもんね」
「上ロブしたら何でも出来る気がする」
「ロブウトツネなら同じ夢抱いてる仲間にも出会いやすいじゃん」
 不良少年少女達の多くが反応してくれた。
「そうか! その考え、オレの若い頃にそっくりだ。オレも大学一週間で中退して芸人目指して田舎から上ロブして来たからな。おまえら、今からオレの話をよぉく聞けよ。何があっても、諦めるなよ。夢を追いかけてたら、必ず壁にぶち当たります。上手くいかなくて悔しい思いをしたり、恥ずかしい思いをしたり、どうしていいか分からなくなったり。でもそれは当たり前です。だっておまえらが追いかけているのは、夢なんだから。簡単に手に入らないから夢なんです。それに打ち勝って進むのが夢なんです。やりたいと思わないならやらなくていい。でもやりたいと思ったら諦めずにやって下さい! 真剣にやってみて下さい! オレはどんな仕事でも真剣です。お尻からドラゴンみたいに炎を出す。これ普通だったらただの変態です。でもなりふり構わず、真剣にやっていると誰かが笑ってくれる。真剣にやるのは若いきみ達にとって恥ずかしいことかもしれません。馬鹿にしてくるやつもいます。でも、九九人が馬鹿にしても、一人が応援してくれたらそれでいいじゃねぇか! 一人が笑ってくれたらそれでいいじゃねぇか! それでももし辛いこと、嫌なことがあったらオレを見ろ! そして笑え! 悩むのがバカバカしくなるから」
 ガエちゃんは真剣な眼差しで熱く熱くそう言い放ち、ここから走り去っていった。

 パチパチパチパチパチッ!
「ガエちゃん、いいことも言うじゃん!」
「感動した!」
「ガエちゃん最高!」
 不良少年少女達や、付近にいた一般市民達からも拍手喝采! 
「エガちゃん、じゃなくてガエちゃん、素晴らしいアドバイスじゃないっすか!」
 哲朗も絶賛する。
「ガエちゃん、ごく稀に心に響く名言言うんすよ。ガエちゃん語録って呼ばれてて」
 ムマツラさんは朗らかな表情で言う。
          ☆
 ガエちゃんの不良少年少女達に向けた魂が込められた熱いメッセージは、翌朝の新聞や後日発売の雑誌でも取り上げられたのだった。
 ただし、ガエちゃんの若い女の子達や、子どもを健全に育てる会のおば様達からの好感度は、上がることはなかったという。

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