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第二十五話 家に帰ったら、ちょっとした異変があったけどコスヤさんは慣れてたよヤバくないよ

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 翌日。

 グガグゴォ!
「ヤバいよヤバいよ。熱いよ熱いよ」
「どうだ哲朗、スリルがあってめちゃくちゃ楽しいだろ?」
「ちょっと、ちょっと、お兄さん。卵獲りのベテランのくせに俺より先に逃げないで下さいよ。あっちっちっち! 俺の方が料理されそうだよ」
 哲朗は地元の方といっしょに付近の洞窟を訪れ、そこに巣食う卵が美味いという恐竜から卵を貰おうとして追いかけられたり炎を吹きかけられたりして楽しみ、お昼過ぎ。
「哲朗、また来てね」
「冬も楽しめるから、絶対来いよ。めっちゃ寒いけどな」
「雪と氷のお祭も見に来てね♪」
「では皆さん、機会があればまた来ますんで。お元気で」
哲朗達はお土産類をたくさん抱え、村人や観光客らに別れを告げてドラゴン乗り込み、ロブウトツネの家へと向かったのだった。

    ☆

 予定通り、夕方に到着したが……。
「何かあったんすかね?」
 哲朗は不思議そうに見つめる。コリル宅の周りに人だかりがあったのだ。
「新聞や雑誌記者の方達ね。たまーにあることよ」
「また何かのインタビューだね」
 コリルとコスヤさんは慣れた様子だった。
「帰って来ました! 長旅お疲れの所申し訳ないんですが、ちょっとインタビューさせてもらっていいかな?」
「今日、スビエさんが違法賭博やって逮捕されちゃったんだけど、娘さんや元妻さんとして、どう思ってるか聞かせて欲しいな?」
 若い男性記者さんは楽し気に問いかけてくる。
「違法賭博で逮捕って、蛭子さんとそっくりっすね」
 哲朗はくすくす笑う。
「絶対いつかやるだろうって思ってたよ。全然不思議じゃないね」
「わたくしも、同意見よ」
 コリルとコスヤさんはきっぱりと答えた。
「あらら、スビエさんのことが心配だとか、そういうお気持ちは?」
 女性記者さんは苦笑い。
「全然。むしろざまあみろって感じだよ。牢屋で反省して欲しいね。まあしないだろうけど」
 コリルは微笑み顔で言う。
「あららら、そうでしたか。哲朗さんもこの件に関して何かご意見は?」
「あの人らしいなっと」
 哲朗は爽やかな表情で答えた。
「インタビュー、ありがとうございました。ちなみにスビエさんはワガタさんの説得のおかげですぐに釈放されましたよ。今夜七時から、市民憩いの公園の広場でスビエさんの謝罪会見があるんだけど、もしよかったら皆さんで見に来て下さいね」
 女性記者さんはそう言い残し、他の同業者と共にドラゴンに乗って去っていった。
「めっちゃ楽しみだな♪」
 哲朗はわくわく気分。
「ワガタさんはスビエさんにすごく甘いもんね。わたしはべつに見に行かなくてもいいや」
「どんな発言するか予想出来るものね」
「お二人はいいんっすか。俺はめっちゃ見に行きたいんっすけど」
 というわけで、哲朗一人で見に行くことに。
           ☆
 広場の前には、スビエさんを見に来たらしき大勢の人だかりが。
「オレ、スビエは全然反省してない方に賭けるわ~」
「そんなの予想が簡単過ぎて賭けの対象にもならねえよ」
「ぼく、スビエさんにサイン貰うんだ」
 みんな楽しみに開始時刻を待っているようだった。

午後七時。
謝罪会見の予定開始時刻になったが、スビエさん一向に現れず。
「スビエさん、約束した時間に現れませんね」 
 記者らしき方が爽やか笑顔で呟く。
「さっすがスビエ。予想通りだ!」
「そう来ると思ったよ」
「あの人が時間を守るわけねえ」
 観客達は、朗らかな雰囲気だ。
それから数分後、スビエさんはマネージャーさんらしき方といっしょに現れた。
「「「「「「「スッビッエ、スッビッエ!」」」」」」」
「「「「「「おううううううう」」」」」
パチパチパチパチパチッ!
観客達、拍手喝采。
「すっかり忘れてました。というより、記者の方が勝手に企画したことなんで、冗談かと思ってました」
 スビエさんが悪びれることなく言い張ると、
「「「「「「おううううううう」」」」」
 パチパチパチパチパチッ!
 またも大勢の観客達から拍手喝采。
「スビエさん、皆さんに謝罪の言葉をどうぞ」
 マネージャーさんらしき方からそう言われると、
 スビエさんはにやけ顔で、

「もうギャンブルは二度とやりません。賭けてもいいです」
 
 こうはっきりと言い張った。
パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチッ!
「さっすがスビエ!」
「名言だぁ!」
「全然反省してねえ~」
 観客達から拍手喝采。
 こうして大盛況で謝罪会見は幕を閉じたのだった。

           ☆

「スビエさんの謝罪会見、めっちゃ良かったっすよ♪」
 哲朗が大満足で帰宅し、報告すると、
「全然悪いことしたと思ってないよ。あの人」
「予想通りのクズ発言ね」
 コリルとコスヤさんは呆れ気味にこう呟いたのだった。

         ※

 翌日の夜、コリル宅にビーボさんご夫妻が訪れて来た。
「これ、オレの生まれ故郷のお土産。『モス』っていうお菓子で、すげえ美味いぞ」
「サンキュー、ビーボ。チョコレート菓子っぽいな」
「いろんなフルーツをチョコレートで包んだお菓子なんだ。大学時代、ワガデ王国に留学して、故郷が恋しくなった時にモスが食べたくなって、街のど真ん中でモスッ! って大声で叫んじまったんだよ。そうしたら警察や騎士団の方々が集まって来て、恐ろしい思いをしたよ」
 ビーボさんは照れ臭そうに打ち明ける。
「その光景、今でもよく覚えてるわ」
 奥様は朗らかに微笑む。
「じゃあ、哲朗、コリルちゃんにコスヤさん。夏休みの残りも、お元気で過ごして下さい」
 ビーボさんは照れ臭そうに別れの挨拶をして、お暇したのだった。
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