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第二十三話 コリルちゃんの祖父母宅のある村で、名物の危険な猛獣ショーに参加させられてヤバいよヤバいよ。

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翌朝、哲朗達はお土産類を抱えて、コリルの祖父母に当たるコスヤさんの両親宅へと出発。
 グォォォッ!
「でかいしめっちゃ強そうっすね。RPGのボス感ありまくりっすよ」
普段利用しているドラゴンとは違い、長距離用のドラゴンに乗り込んだ。
 荷物もたっぷり乗せられて、移動速度も速めだ。
「飛行機よりも新幹線よりも遅いけど、速過ぎるとふっ飛ばされちゃうだろうからこれくらいがちょうどいいっすね」
「ビーボさん達が使ってる、専用のドラゴン飛行場から出る外国へ行く国際ドラゴンは、もっと凄いスピードが出るけど快適な乗り心地よ」
「コスヤさんコリルちゃんも、外国へ行ったことあるんすね」
「うん、今クシフ君も旅行中のワガデ王国の人に大人気の南国のナバンマナ諸島は凄く楽しかったよ。野生のラヒムの背中に乗って泳いだり、珍しい動物や植物を見たりフルーツ狩りしたり」
 コリルは満面の笑みで楽しそうに伝えた。
「日本人からするハワイ的な場所みたいっすね」
「スビエさんは、そこ行った時もカジノに入り浸りだったけどね。海水浴や水族館巡り、ショッピング、ジャングル探検がメインの観光地なんだけど」
 コスヤさんは苦笑いで伝えた。
「だからスビエさんなんか放っておいて、ママと二人きりでナバンマナ諸島旅行楽しんだよ」
 コリルはくわえて伝えた。
「どこ行ってもギャンブルなのは、スビエさんらしいっすね。俺、あっちの世界じゃ日本全国どころか世界中のありとあらゆる国訪れたことあるけど、こっちの世界じゃロブウトツネから出るのも初めてだから楽しみ過ぎてヤバいよヤバいよだよ。近郊の山までしか行ったことなかったし」
「生まれ故郷のキセマ村はかなり田舎だけど、高原リゾートにもなってるから観光客も多い所よ。ドラゴン君の気分にもよるけど、四時間から五時間くらいで到着するわ」
「ロブウトツネを東京としたら、白馬村的な所みたいっすね」
「わたくしがそこにいたのはエコール・プリメールを卒業するまでで、十二歳でギムナジウムに入学してからは親元を離れてずっとロブウトツネ住まいよ」
「そうなんすか。十二歳で親元離れるのは早いっすね。いや、この国じゃ普通なんすかね」
「田舎だと普通よ。エコール・プリメール入学時から寄宿舎生活って子も珍しくないわ。『田舎のかわいい子には上ロブさせよ』っていうことわざもあるし。田舎の子どもはお山の騎士にならないように、子どものうちにロブウトツネのような大都会でいろんな人々と出会い、経験を積ませるべきっていう意味の」
「日本にも『可愛い子には旅をさせよ』ってことわざがありますが、同じようなことわざがこの国にもあるんすね」
「逆の『ロブウトツネの子には田舎を見させよ』ってことわざもあるわよ。ロブウトツネのような大都会生まれの子には田舎の大自然にも触れさせ、都市部にはいない獰猛な魔物の恐ろしさも体感させるべきだって意味の。それでロブウトツネとかの大都会には、自分の子どもをキセマ村などの田舎の学校へ通わせるって方針のご家庭もあるわ」
「日本にも山村留学ってのがありますが、似たような感じのもこの国にもあるんすね」
「わたくしも寄宿舎生活は不安だったけど、コキアちゃんにいろいろお世話になったわ」
「あのお方、アッ〇さん以上に強面ですが、めっちゃ頼りがいがある感じですもんね。お母さん、影響されて不良にならなくて良かったっすね」
「コキアちゃんから禁止されてたことはよくやってたけどね。見つからないようにこっそり芸人さんのショーを見に行ったり。バレたらめちゃくちゃ叱られて反省文も書かされたけど、それでも危険を冒してでもまた見に行きたくなっちゃう魅力があったわ」
「ママは芸人さん大好きだもんね。わたしもだけど」
「あのお方、その頃から芸人嫌いだったんすね。ところで、スビエさんとの離婚前は、スビエさんのご両親宅にも訪れてたんすか?」
「行ってたけど、スビエさんの方のお祖父ちゃんお祖母ちゃんちは、あまり行きたくないなって思ったよ。お小遣いくれるんじゃなくて逆にお金をたかられるだけだもんね。ギャンブルに使う」
 コリルは苦笑い。
「そっか。スビエさんのギャンブル好きはご両親譲りなんすね」
「スビエさんのご両親、見かけは凄くいい人で、とても申し訳なさそうにお願いしてくるから、断りにくい雰囲気になっちゃうの」
 コスヤさんも苦笑いで伝えた。
「そうなんすか。一度会ってみたいっすね」
「哲朗おじさん、絶対会わない方がいいと思うよ」
 いろいろ会話を弾ませ、途中でお昼ご飯も食べたりして、お昼過ぎにコスヤさんのご両親の住む、高原に佇む小さな村、キセマ村に到着。
 様々な地域からやって来るドラゴン達の降着場にもなっている広場に降り立つと、
「「「「「哲朗だぁ! ヤバいよヤバいよ」」」」」
「本物だぁ!」
「生でついに見れたぁ!」
「イラストそっくりだね」
 子ども達を中心に、多くの人々に迎えられた。
「のどかな雰囲気で、最高じゃないっすか。アルプスの少女ハ〇ジとかもいそうっすね」
 哲朗が眼前に広がる風景を見渡しながら朗らかな気分で呟いていると、
グガァッ! 
と獣の咆哮が山の方から聞こえて来た。
「背後の山には野生のサーベルタイガーがいっぱい棲んでるよ」
 コリルからにっこり笑顔で伝えられ、
「俺のいた世界のとっくの昔に絶滅してる、ヤバい肉食の猛獣がいるんすね」
 哲朗は苦笑い。
「サーベルタイガーショーがこの村の名物だよ。調教師のおじさんが面白いショーを披露してくれるんだ」
「これが目当てでこの村に来る観光客もいっぱいいるよ」
「ちょうどもうすぐ始まるところだよ」
 村人の子ども達が伝えてくる。
「そりゃ楽しみっすね」
 哲朗はわくわく気分でしばし歩き、会場へ。

 すると、
「おう! 体を張ったリアクション芸が大人気だと話題の哲朗さんじゃないですか。はじめまして」
獣耳と尻尾の生えた調教師のおじさんに大喜びされた。
「はじめまして。猛獣扱ってるだけあって、ワイドルな感じっすね。格闘技めっちゃ強そう」
 哲朗も快く挨拶する。
「いやいや、格闘技はからきしダメですよ。哲朗さんも、これからお見せするサーベルタイガーショーを思う存分楽しんで下さい。サーベルタイガーは凶暴な猛獣ってイメージが覆りますよ」
 おじさんは自信たっぷりにそう言って、舞台上へ。
 体長五メートル以上はあるサーベルタイガーがいた。
 哲朗のいた世界でかつて棲息していた推定サイズよりも大柄だ。
「みんな、今日はサーベルタイガーショーを見に来てくれてありがとう。夏休みで帰省シーズンだけあって、普段よりもお客さん賑わってるね」
 司会の猫耳なお姉さんはノリノリだ。

 サーベルタイガーは二本足で立ち上がって玉乗りをしたり、縄跳びをしたり、ジャグリングをしたり、多彩なパフォーマンスをこなしていく。
 パチパチパチパチパチッ!
「すっげえ! 面白過ぎる! ヤバ過ぎるよ感動するよ」
 哲朗も大興奮だ。
「みんな、サーベルタイガーさんが大好きな食べ物は何か知ってるかな?」
 司会のお姉さんが問いかけると、
「「「「「「「蜂蜜」」」」」」」
「「「「「「ボコボコの実」」」」」」
「「「「「「「プテラノドンのお肉」」」」」」」
「「「「「カムラオのお肉」」」」」
「「「メガテリウムのお肉」」」
 子ども達は次々と答えていく。
「どれも正解だよ。魔物の肉も木の実も食べる雑食系だからね。じゃあ、大好物を持ってサーベルタイガーに近づいたら、仲良くなれると思う?」
「「「「「なれなぁい」」」」」
「「「危ない」」」
「サーベルタイガーさんはじゃれてるつもりでも、人間にとってはすごく危険」
 子ども達は次々に答えていく。
「正解。獰猛な魔物さんだからね。良い子のみんなは遠くから眺めるだけにしようね。普通の人にとってはとーっても危険な魔物さんだけど、普通じゃない特別な人、例えば、リアクション芸人の哲朗さんならどうでしょう?」
 司会のお姉さん、こんな質問をすると、
「「「哲朗なら仲良くなれるっ!」」」
「猛獣といっぱい戦った経験あるもんね」
 子ども達、わくわく気分で答えていく。
「哲朗さん、子ども達、そうおっしゃってますよ」
 司会のお姉さんはにやけ顔で言う。
「いやぁ、確かに俺は向こうの世界でもこっちに来てからでも猛獣といっぱい戦って来てはおりますが……」
 哲朗、苦笑い。
「哲朗さん、さっそくですが、こいつとじゃれ合って仲良しになってくれないかい?」
 調教師のおじさん、爽やかな笑顔でお願いしてくる。
「いやいや、ヤバ過ぎるでしょ。めっちゃ鋭い牙を持つ、サーベルタイガーっすよ。しかも俺のいた世界で大昔いたやつよりもさらに狂暴そうな」
 ガゥオッ! 
 哲朗、サーベルタイガーに視線を向けると、吠えられてしまった。
「哲朗の体に蜂蜜をぶっかけるから。そうすればサーベルタイガーは哲朗の体に抱き付いてべったりさ」
「それかなり危険っすよ」
「ムマツラなら大丈夫だった」
「あいつもやったのか。なら俺もやらなきゃダメってことか」
「その通り。もしヤバそうになったらちゃんと止めるから」
 調教師のおじさんは朗らかな表情で伝える。
「本当ですよね?」
「本当、本当。ワガデ王国人嘘つかない」
「信用出来る表情に見えないんすけど」
 困惑する哲朗ではあったが、
「「「「「哲朗、やれーっ!」」」」」
「哲朗対サーベルタイガー、見たい、見たぁい!」
 子ども達からの大声援に押され、
「よぉし、やってやろうじゃないっすか。サーベルタイガーと戦えるなんて、俺のいた世界じゃコンプライアンスも低かった昔でも体験出来ないことだしな。怖いけど、最悪ガブっとされても仕方ないけど」
「さっすが哲朗、噂通りの体を張った芸人さんだね」
「危険度でムマツラに勝てるぞ」
 パチパチパチパチパチッ!
 子ども達、その他観客からも拍手喝采。
 哲朗は意気揚々と服を脱ぎ、パンツ一枚姿に。
「今から哲朗に蜂蜜塗るよ」
 調教師のおじさんはそう言って、哲朗の腹に蜂蜜をたっぷりとぶっかけた。
 蜂蜜塗れになった哲朗、サーベルタイガーに近寄って行こうとすると、
 ガウゴガァ!
 サーベルタイガーの方から猛スピードで向かって来た。
「ヤバいよヤバいよ」
 哲朗、肉球でポンっと押されて押し倒され、仰向けに。
 そして、肉球部分を腹の上に乗っからペロペロ舐められてしまう。
「噛むなよ、噛むなよ。“絶対に”噛むなよ」
 哲朗、そう念を押す。
 グォアッ!
「調教師のおじさん、離れ過ぎ。離れ過ぎだって。なに楽しそうに友人と談笑してるんすか」
 哲朗から三十メートル以上は離れた所へ行ってしまった。
 哲朗、引き続き乗っかられたまま腹をペロペロ舐められまくる。
 アハハハハハハハッ!
 観客達に大ウケだ。
「ムマツラがお腹だったら俺はチューまでしなきゃダメでしょ。サーベルタイガーくん、俺にキスしてくれよ」
 哲朗がそう命令すると、サーベルターガーは理解したのか自身の口を哲朗の口元に近づけて、接触させた。
「「「「「「「おううううううううううう!」」」」」」」」」」」
「チュ~したぁ!」
 パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチッ! 
 観客達から拍手喝采。
 だが、それからほどなく、
 グゴァッ!
「サーベルタイガーくん、なんか機嫌悪くなってない? ヤバいよヤバいよ」
 サーベルタイガー、哲朗の体にべっとりまとわりついた蜂蜜を全て舐めつくしてしまったのか、鋭い牙を剥き出しにして哲朗を睨みつけて来た。
 グゴォ~ッ!
 そして牙を哲朗のお腹に近づけてくる。
「ヤバいよヤバいよ。俺リアルガチで食われるぞ」
 哲朗が焦り顔で呟いたその時、
「ストップ、ストップ!」
 調教師のおじさんが朗らかな声で合図を出してくれた。
 サーベルタイガーは大人しく哲朗の体から離れて、調教師のおじさんのもとへ。
「焦ったぁ~」
 哲朗、安堵の表情。
「哲朗さん、ムマツラさん以上に危険なパフォーマンス、ありがとうございました」
 司会のお姉さんは爽やかな笑顔で感謝の言葉を述べる。
 パチパチパチパチパチパチパチパチパチパチッ!
「哲朗、よくやった!」
「さすが哲朗!」
「哲朗すごぉ~い」
「ムマツラを完全に超えた!」
「ワガデ王国一のリアクション芸人だ!」
 観客からは盛大な拍手喝采。
「マジでヤバかったっすよ。熊の時以上に」
 哲朗のお腹は傷だらけだ。
 服を着込んで、舞台から降りようとしたところ、
「いやぁ、とても面白いものを見せてもらいました。哲朗さん、噂通りのリアクション芸人ですね」
 近くからこんな声が。
 視線を向けるとそこには、サングラスをかけた陽気な感じのおっさんがいた。
「タッ、タモリさんじゃないっすか! 少し若い頃にそっくり」
 哲朗は興奮気味に近寄っていく。
「いや、おれの名前はモタリですが」
 そのおじさんはそう言ってハハッと笑う。
「「「「「モタリだ!」」」」」
「「「モタリさ~ん」」」
「サングラス取ってぇ~」
 子ども達も大喜び。
 モタリさんの周りには、記者らしきお方と、警護役と思われる鋼鉄の鎧を身に纏った騎士達も数名いた。
「モタリさんも、ここで何かイベントがあるんすね」
「今日はブラモタリの取材で来たのさ。この辺、歴史もあって地形も独特だからね。みんな、ここは避暑地なのに今日は暑いですね」
 モタリさんが周囲の人々にそう問いかけると、
「「「「「「「「「「「そーですね」」」」」」」」」」」
 子ども達、大人もまじって一斉に同じ言葉で反応する。
「でも夕方からは急に涼しくなるそうですよ」
「「「「「「「「「「「そーですね」」」」」」」」」」」
 さらにもう一度。
「あのやり取りも、いいとも時代のタモリさんにそっくりじゃないっすか。いやぁ、懐かしい」
 哲朗は感慨にふける。
「ブラモタリの取材、いっしょに行きたい人はついて来てね」
 モタリさんがそう伝えると、コリル含む大勢の子ども達や、コスヤさん含む大人もついて来た。
「俺も同行しますよ」
 哲朗も。
 哲朗のいた世界のタモリさん同様、老若男女問わず大人気なようだ。
 
「モタリさんの芸はパンツ一枚でイグアナのモノマネやったり下品で嫌いって言ってる子どもを健全に育てる会のおばちゃん達も、ブラモタリだけはけっこう絶賛してるよ。地歴や地学の勉強になるからって」
 コリルが伝える。
「そこもブラタモリそっくりすね。ブラタモリといえば俺の充電バイクの旅の裏番組で、レギュラー放送始まった時タモリさんをぶっ倒す宣戦布告して即撤回したなぁ」
 モタリさん他一行は、森の中へ。
「この森には、凶暴なイグアナも生息してるんですよ」
「それで騎士の方々が警護されてるんすね」
 哲朗が反応すると、
「いやいや。そうじゃないんです」
 モタリさんはそう言ってふふっと微笑む。
 その矢先、
「こらこら、ダメだよ坊や達」
 騎士の方々が子ども達を注意する光景が見られた。
「あーっ、惜しい。もうちょっとだったのに」
「騎士団相手じゃこっそり近づいてもすぐ気付かれちゃうね」
 子ども達、残念がる。
「サングラスを外されように護ってるんすね」
 哲朗は朗らかに微笑む。
「モタリさんの目を見たら石にされるんだよ」
「目から光線も打てるの」
 とか言う子ども達もいた。
「そんなの嘘に決まってるって」
「マンガの見過ぎ」
 と笑う子ども達も。
「モタリさん、いろいろ噂されてますね。真相はどうなんすか?」
 哲朗がにやけ顔で問いかけると、
「いやぁ、どうなんだろうね」
 モタリさんはそう答えてハハッと笑う。
 
 引き続き森を歩き進んでいると、
 赤い体をした、イグアナらしき魔物がご登場した。
「これもファンタジーって感じだな。火を吹いたりして」
 哲朗は興奮気味に観察する。
「哲朗さん、おっしゃる通り火も吹くので近づくと危険です。レッドイグアナは凶暴ですが、この木の実をあげると懐きますよ。ご機嫌斜めな時でもね」
 モタリさんはそう言って、黄緑色の木の実をそいつの口に近づける。
 すると、そのイグアナは鋭い牙をむき出しにして、ガブリと齧り付いた。
「噛み切った?」
 モタリさんは朗らかな表情でそう話しかけ、もう一個差し出す。餌付けは手慣れた様子だ。
「モタリさぁ~ん、イグアナのモノマネやって下さい」
「ぼくも見たい、見たい」
 子ども達からはそんな要求をされるも、
「ごめんね。ブラモタリの取材の場でそれをすると、あとで子どもを健全に育てる会の方々からお叱りを受けてしまいますので、ここでは勘弁して下さい」
 モタリさんは苦笑いで丁重にお断りした。 
「「「は~い」」」
「それは仕方ないね。あの会のおばちゃん達、お行儀の良い子にはとっても優しいけど、怒ったらめちゃくちゃ怖いもんね」
 子ども達は残念がるも、納得は出来たようだ。
「モタリさんもラムンケシ王子と同じく、あのヤバい方々には逆らえないわけっすか」
 哲朗は楽しげに笑う。
 わたくしも一応あの会のおばちゃんだけど、芸人さんの下品な芸も大歓迎よ。
 コスヤさんは心の中でそう思うのであった。

 さらに歩き進んでいると、モタリさんの周りに蝶々や小鳥、リスっぽい生き物なんかも近寄ってくる。
「タモリさん、じゃなくてモタリさん、魔物とも仲がいいんすね」
「おれだけじゃなく、この世界の人間は魔物とも友達だよ。人間も魔物もみな友達だ。世界に広げよう友達の輪! って感じだね」
 モタリさんは小鳥を頭に乗せたまま朗らかに言う。
「良いことおっしゃいますね」
 哲朗は褒め称える。
「この地域、ジャック山脈にしかいない固有種もいるので、ひょっとしたら出会えるかもしれませんよ」
 モタリさんがそうおっしゃって、しばらく歩き進んだのち、
「おう! 鼻が花の形してる変な魔物もいるじゃん!」
 哲朗はその魔物を見つけるとくすくす笑う。
「天敵に襲われないように花に擬態してるわけですね。こいつはジャック山脈固有種の『ハナモゲラ』っていう魔物です。モグラに似ててハナモグラと名付けたくなるところですが、ボキャブってモゲラになってます。擬態をしてても見抜かれて天敵に襲われることはあって、その時は必殺技で鼻がもげそうなくらい臭い体液を飛ばして来る習性から名付けられたみたいですよ」
 蘊蓄を伝えるモタリさんはとても楽しげだ。
「こんな面白い魔物いるんすね。この世界まだまだ知らないことだらけだよ」
 哲朗も童心に帰った気分にもなって楽しむ。

 どんどん森を歩き進んでいくと、開けた場所になり、
「立派なお城じゃないっすか! ノイシュヴァンシュタイン城よりも凄いかも」
ヨーロッパ風の巨大なお城がまみえた。哲朗は大興奮。
「ナンウン城はワガデ王国ではわりと有名なお城だよ」
 コリルは伝える。
「とってもおしゃれで住みたくなってくるよ」
「幽霊が出るって噂もあるけどね」
 他の子ども達もいろいろ伝えてくれた。
 みんなで城内へと入り、
「このお城は昔……」
モタリさんは楽しそうに城の歴史を解説していく。
 この取材を終えて、
「この取材の特集号、みんな買ってくれるかな?」
 こんな問いかけをすると、
「「「「「「「「「「「いいとも!」」」」」」」」」」」
 子ども達や、哲朗も、お決まりの返事を叫ぶ。

 こうして、ブラモタリの取材を終えたモタリさんは、同行の記者や騎士団と共にドラゴンに乗って飛び立っていったのだった。

 その頃には夕方、哲朗達は、いよいよコスヤさんのご実家へ。
「素敵なおウチじゃないっすか」
 おしゃれな丸太小屋であった。
「芸人の哲朗さん、遠い所へようこそ」
 コリルの祖母、
「ヤバいヤバいよの人、初めましてじゃな」
 祖父、
 共に温かく迎えてくれた。
「初めまして、この世界でも芸人で稼がせてもらってます哲朗です」
 哲朗も朗らかな気分だ。
 歓迎の豪華な夕食も振舞ってくれた。
 哲朗が今まで見たこともない果物や魔物肉もあった。
「このでかい豆、めっちゃ美味いっすね」
「ジャック山脈は巨大豆のワガデ王国一の産地だからね。ジャックの豆の木っていう木に実が出来るの」
 コリルは楽しそうに伝える。
「この辺の子ども達は、ジャックの豆の木に登ったり、滑り台にして遊んだりしてるよ」
 お祖母さんが加えて伝えた。
「わたくしも、子どもの頃よく遊んだわ」
 コスヤさんは懐かしむ。
「俺のいた世界では、ジャックの豆の木は童話の中の世界なんですが、この世界ではリアルにあるんすね。明日見に行って俺も遊んでみますよ」
 哲朗、わくわく気分急上昇だ。
「ジャックの豆の木にはハナモゲラが潜んでることがあるから、臭い体液かけられんようにな」
 コリルのお祖父さんは微笑み顔で注意を促した。
「そりゃ気を付けないとヤバいっすね」
「この近くには、村の人々だけじゃなく、観光客も多く訪れる温泉がありますよ」
 お祖母さんが教えてくれる。
「その温泉も、当然のように熱湯風呂っすよね?」
「いやいや、ちょうどいい湯加減じゃよ」
 お祖父さんは朗らかな表情でそうおっしゃる。
「じゃあ俺にとっては熱湯風呂じゃないっすか。まあでも、楽しみっすね」

             ☆
 夕食後、
「ロブウトツネも夜は東京の夏より涼しいですが、ここはより涼しいというか寒いくらいっすね。温泉ますます楽しみっすね」
哲朗が噂の露天風呂温泉へ訪れてみると、
 そこには、
「哲朗、キセマ村へようこそ!」
「本物だぁっ!」
「ヤバいよヤバいよのおじさんだ」
「哲朗、熱湯風呂芸やってくれよ」
 ご近所さんや、観光客も大勢集まって来た。
「皆さん、俺の鉄板芸、お見せします」
 哲朗はタオル一枚になるとさっそく、
「押すなよ、押すなよ、“絶対に”押すなよ」
 湯船の前で四つん這いになり湯面をじーっと眺めながらそう命じる。
「それそれ!」
「そりゃぁ」
「えいっ」
 何人かから尻を押されたり、蹴られたりもして、
「ぅわっととと」
 哲朗はバランスを崩し、湯船にダイブ。
「あちちちちちちちっ! ヤバいよヤバいよ」
 そして反射的に飛び出る。
 アハハハハハハハハハハハハハハハッ!
「哲朗最高!」
「ウユリーヘよりリアクション面白い」
 観客から大爆笑。
「こらぁ! 少年少女達、押すなって言ったじゃないかぁ」
 哲朗は優しく注意。
「もう一回やって~」
 観客達から頼まれると、
「押すなよ、押すなよ、“絶対に”押すなよ」
 哲朗は快く引き受けた。
「ぅわっととと、なんかさっき動物の爪っぽいのに押されたような」
 バランスを崩し、湯船にドボォォォンとダイブ。
「あっちちちちち! さっき押した奴は誰だ?」
 振り返ってみると、そこには、
 グガァァァ~。
 鳥の魔物が。間抜けな鳴き声を上げていた。
「ダチョウじゃないっすか! この芸で魔物に突っ込まれたのは初体験っすよ」
 哲朗、思わず笑ってしまう。
アハハハハハハハハハハハハハハハッ!
観客も大爆笑。
「こいつはジャックダチョウっていうこの辺にしかいないダチョウだよ」
「肉も卵もすごく美味しいよ」
 こんなことも教えてくれた。
「俺のいた世界じゃ、熱湯風呂芸の先駆者はダチョウ倶楽部だから、なんか嬉しく思いますね。それにこのダチョウ、なんとなくメンバーの肥後克広に似てるよ。肥後ちゃんって呼んでいいか?」
 グガグガ♪
「喜んでくれてるみたいっすね。よろしくな、肥後ちゃん」
 朗らかな気分な哲朗。
「哲朗、もう一回!」
「もうカンベンしてくださいよー!」
 と言いつつも、あのあとも何度もあの芸を披露してあげたのだった。
         ☆
「最高っじゃないすか。美味過ぎてヤバいよヤバいよ」
 売店で売られていたキセマ村名物、ジャックダチョウの温泉卵もいただき、温泉を満喫してコリルの祖父母宅へ戻った哲朗、
「素敵なお部屋じゃないっすか!」
 昼間は周囲の山々が一望出来るという寝室へ案内してもらい、ゆったりくつろぐ。
           ☆
 その頃、リジェアイナ王国にあるビーボさんのご実家では、こんなやり取りが繰り広げられていた。
「だっ、誰だオマエラ!」
「ビーボおじさん、はじめまして。ぼく、キャラカムツタです」
「ワタシ、ミソギです」
「ライジンだよ。噂通り、面白いおじさんだね」
「ビーボはワガデ王国で大人気の芸人だからな」
「親父、芸人じゃねえよ、幼稚園の先生だよ。それよりまた新しい家族増やしたのかよ。ますます覚え切れねえだろ」
「ビーボ、家族が増えるのはいいことだぞ。人類皆兄弟だ」
 知らない親戚がまたまた増えて、ビーボさんは目を大きく見開いた素っ頓狂な表情で突っ込んだのだった。
(このやり取りはリジェアイナ王国の言語で交わされている)
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